ライバルたちは何を思う?
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「(ウソだろ、インシー。お前いつの間にこんなに強く……!」)
ガルディアコダンには分かる。
同じ逃げ勝負で、残り300m強で追い抜かれることがどういうことか。
ガルディアコダンは2位。
もう、どうあがいたって勝てない。
「(ちっくしょう……お前が出てたって勝てる、って証明したかったぜ……)」
去年、東京大賞典を勝利したのはガルディアコダンだ。
だが、「それはインシーが途中でいなくなったから繰り上がってコダンが取ったんだろ」と言われたことは想像に難くない。
そうやって嘲笑う奴らを認めたくなくて。
そんな奴らを見返すつもりで、今日この場に来たつもりだった。
だが、残り100mくらいで負けたならいざ知らず、残り300mで突き放されてしまえば、潔く認めざるを得ないだろう。
「(--なら、ハッキリお前に言ってやらないとな。)」
「……お前の勝ちだぜ!」
それと。
ガルディアコダンにはもう1つ、目の前のインシルカスラムに対して言いたいことがある。
「だから、最後まで走り切れインシー!!」
「(インシー……!待って……!)」
テンカバスターもまた、このままレースが進めばどうなるかが分かっている。
テンカバスターの順位は3位。
ガルディアコダンは追い抜けると自分の勘が告げている。
フルセイルサルートに自分を差しきることはできないと勘が告げている。
だが、インシルカスラムへのお告げは。
もはや勝つ見込みなし、だった。
テンカバスターは帝王賞から半年の間、さらなるトレーニングを積んできた。
半年前よりも成長したつもりだった。
それでも、インシルカスラムの背中には、手を伸ばしても届きそうにない。
インシルカスラムもまた、成長してテンカバスターを突き放していたということか。
全力を出して届かず負けるのなら、テンカバスターにとっては本望だ。
「(なら、私の負けね……)」
それと。
テンカバスターにはもう1つ、目の前のインシルカスラムに対して言いたいことがある。
「だから、走り切って!私に勝ってインシー!!」
「(ありえないわ!なんでこんなに追いつけないの……!)」
そしてフルセイルサルートは、遠くを走るインシルカスラムに動揺を隠せなかった。
フルセイルサルートの順位は5位。
インシルカスラムとフルセイルサルートは同期の、まさにレース人生の始まりからの因縁だった。
全日本ジュニア優駿、ジャパンダートダービー、そしてJBCレディスクラシック。
誰よりもインシルカスラムについて知っているつもりだった。
誰よりもインシルカスラムに勝ちたかった。
それでも、今、なぜこんなにと思うほど遠くにいる。
「(……私は、こんなに強いウマ娘と戦っていたのね)」
結局1度も勝てなかった。
それでも、なんだか誇りに思えた。
これから、G1を7勝する伝説のダートウマ娘と一緒に戦えたことを。
そんなダートウマ娘に、3回も2着で食い下がった自分自身を。
だから、7つ目のG1をちゃんと取ってもらわなきゃ困る。
フルセイルサルートには1つ、目の前のインシルカスラムに対して言いたいことがある。
「最後までちゃんと走り切りなさい、インシー!!」
「もう少しだー!!」
「そのままゴールへ行けー!!」
「頼むっ……最後まで……!!」
観客たちもまた、このまま進めばインシルカスラムの勝利を確信した。
自らの喉が張り裂けるような、あるいは三女神に祈るような想いで。
最後のインシルカスラムの応援をする。
「行っけぇ!!!インシーーー!!!」
東京大賞典のゴール版が消えるかどうかのゴール間際で、インシルカスラムの耳に届いたのは。
感情がぐっちゃぐちゃになっても声を張り上げた、森内トレーナーの声だった。
「インシルカスラム、1着でゴールイン!!」
自分で切り開いたゴール。