純粋な実力勝負ではインシルカスラムに分がある。
しかも、フルセイルサルートは対策が裏目に出た。
森内トレーナーは勝利を確信しようとしたが。それはまだ早い、と言い聞かせる。
「インシーは頭を使って走れるウマ娘だった、それだけだ」
「……まだ終わっちゃいませんよ、純粋な実力勝負だと勝ち目は薄いですが、そいつに賭けます」
立場が逆でも、同じことを言っていただろう。
2人のトレーナーはゴール前に視線を移し、担当ウマ娘を信じて待つ。
「最終直線に入ります、先頭はフルセイルサルート、しかしインシルカスラムどんどん差を詰めていく!」
残り400m。ラストスパートに入る。
「--勝負だサルート!!」
ここまで逃げ・先行ウマ娘なら理論派でさえ考え、計算することはない。
あとは己に搭載されているエンジンを、ブッ壊れる寸前まで、ブン回すだけ。
インシルカスラムはだんだんと加速していき、フルセイルサルートを追い詰めて追い詰めて……
前に出る。
「ここで先頭入れ替わる!インシルカスラム!」
まだ残りは200m。
フルセイルサルートの体力は前半で使い切った。もう加速するようなスタミナはない。
これは、やはりインシルカスラムの勝利で決まるか。
「--ナメないで、インシー!!」
フルセイルサルートは、歯を食いしばり、ないはずのスタミナから力を引きずり出して、砂を強く踏みつける。
高飛車な女王様に見える彼女も輝かしい芝ではなく、わざわざ泥臭いダートを選んだウマ娘だ。
サルートには、砂を被る覚悟がある。
サルートには、土壇場の根性がある。
自身の気持ちに鞭を打ち、速度を上げて、インシルカスラムを差し返しにかかる。
「フルセイルサルートもまだ下がらない、差し返しにかかろうとする!」
「--しかし、さらにインシルカスラム飛び出した、なんだこれは!?」
突き放された。
フルセイルサルートは、垂れていない。まだ必死に3位を放して2位の位置をキープしている。
ではなぜ?
……インシルカスラムが、まるで急に飛び出したように、急激に速度を上げたからだ。
もし今の速度をグラフにしたなら、インシルカスラムは一瞬だけ、ほぼ真上に線が伸びるだろう。
効果時間は一瞬だったが。残り200mのラストスパートでは、十分すぎるリードを取った。
「インシルカスラム、そのままゴールイン!1着インシルカスラム!終わってみれば危なげなく勝利です!」
掲示板には9、5と点灯し、その間に2 1/2の着差、そして確定ランプがついた。
「……ありえないでしょ。追い込みですらあんなにスピード急に上げませんよ」
最後を見ていた藤正トレーナーは、乾いた笑いをしかできなかったが、それは森内トレーナーも同じだった。
「俺も初めて見た。あんな走り方、メイクデビューやカトレア賞どころか練習でもしていなかったぞ」
「じゃあわかるわけねえや。担当トレーナーが初めて見るのに、俺が予想できるわけないですね。ツイてない」
藤正トレーナーはやれやれと首を振って、観客席を離れ、フルセイルサルートを迎えに行く。
森内トレーナーもそれに続きつつ、今起こった出来事を冷静に整理する。
インシルカスラムがフルセイルサルートを最後で抜いた瞬間。
まだフルセイルサルートが差し返すチャンスはあっただろう。
だが、インシルカスラムはさらに突き放した。
まるで、自分が道を開く。後続のウマ娘よ、それに続け!と言わんばかりに。
「……"Incy Lead the Way(インシーが道を開く)"か」
森内トレーナーはぱっと思いついたそれを、"固有スキル"の名前とした。
そして、インシルカスラムにとっては初めての。
そして、森内トレーナー自身にとっても数年ぶりになるG1制覇の達成だ。
その喜びが、冷静になるほどだんだんと湧き上がってくる。
「やったな、インシー……!」
そう呟いて、担当ウマ娘を迎えに行った。
固有スキル:【Incy Lead the Way!】
レース後半で1位の位置に着けていると、スタミナを削って一気に突き放す。
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