しばらくおっさん同士の会話が続きます。
外にいる後輩トレーナーと思われる人物は扉をノックする。
「どうぞ。話って?」
森内トレーナーはコーヒーを淹れて左手でカップを持ち。
右手でドアを開けながら、左手でさりげなく後輩トレーナーにコーヒーを差し出した。
後輩トレーナーは軽い礼のジェスチャーをしてからコーヒーを受け取り、一口すする。
森内トレーナーよりはやや若い、20代半ばくらいの青年で、やや新しいバッジではあるが完全なる新品、というわけでもない。
こちらは白いインナーシャツに青のスーツジャケットを軽く着崩している。
ネームプレートには"藤正 勝也(ふじまさ かつや)"の名前が。
ようやくウマ娘の育成も板についてきた中堅トレーナー、といった風貌だった。
確か彼も担当ウマ娘が去年卒業し、今年から新しい担当を探している最中だったはず。
「森内さん、今年のティアラの子で目星つけてるのはいます?」
後輩トレーナー、もとい藤正トレーナーは少し気だるそうな声で森内トレーナーに話しかけた。
もし、初対面の人が藤正トレーナーの第一印象を図ったとしたら"やる気がなさそうな昼行灯トレーナー"という印象を抱く人もいるかもしれない。
それを聞いて森内トレーナーは机に置いてあった新入生ウマ娘のデータリストを手に取る。
何人かチェックのリストは入れているが、まだ決めきれていない。
「いや、まだだよ藤正。どうもいけないな、G1獲ったウマ娘を間近で見たらハードルが上がってしまう。悪くはないが、アイツほどじゃないってな」
「そ、れ、を。贅沢な悩みって言うんですよ」
藤正トレーナーは贅沢な悩みを持つ森内トレーナーを鼻で笑いながら、もう一口、コーヒーをすすった。
「それで?俺の担当候補を探りに来たのが本題か?」
「いやいや、ここまでは世間話です」
藤正トレーナーはコーヒーカップを机に置くと。
まるで自分の部屋かのようにウマ娘用のソファーにドカッと座り、森内トレーナーにもどうぞ座って、とジェスチャーを送る。
大人しく森内トレーナーは自分のトレーナーの席に座った。
森内トレーナーは上下関係にうるさいトレーナーではない。
それに、藤正トレーナーの座って、は「これから真面目で、大事な話をします。立ち話で聞き流さず、ちゃんと本腰入れて聞いてくださいね?」という合図。
森内トレーナーもそれは分かっている。
藤正トレーナーはやる気がなさそうに見えるが、トレーナーとしての腕前は決して二流なんかではない。
「森内さん。ダート、行く気はありませんか?」
最後の一文が示す通り、これはダート界の話になります。