第21話
インシルカスラムは3戦3勝の完璧な結果でクラシック級へと向かう。
年が明けて1月1日。
「あけましておめでとう、インシーとそのトレーナーさん。お邪魔するわね」
相変わらずバーンと扉を開け、トレーナー室に入ってきたのはフルセイルサルート。
中にいた森内トレーナーとインシルカスラムはちょうどお雑煮を食べていたところだった。
2人は露骨に「またかよ!」という表情をする。
「サルートあけおめ!帰れ!」
「この前12月30日に年越しそばを食べに来たばっかりじゃないか。ということは」
少し遅れて藤正トレーナーがニヤニヤしながら入ってくる。
「お二人さん、あけましておめでとうございます」
「いやー、俺は『今度は正月にモチでも食いに行きましょうよ』って冗談のつもりで言ったんですよ?そしたらサルートが乗り気になっちゃいまして」
「ここに来たらタダで食べ放題よ、行くに決まってるでしょう」
絶対冗談ではない。
「はぁ、かつては貧乏暮らしだったのか?それかただ食い意地が張ってるか」
森内トレーナーとインシルカスラムは顔を合わせてため息をつくと、ゴン、と音を立ててやや乱暴にお雑煮をフルセイルサルートと藤正トレーナーに差し出した。
「どっちもよ。いただきます」
フルセイルサルートはあっさりと過去の貧乏暮らしと食い意地を認めて、お椀に汁が跳ねたのも気にせずお雑煮を食べ始めた。
話し方は高飛車な女王様のようだが、案外体裁は気にしないのかもしれない。
「じゃ、せっかくライバルが集まったんです。正月ですが仕事しましょう」
藤正トレーナーは手を叩いてトレーナー室にいる3人を振り向かせる。
今後のレース方針について話し合おう、ということだ。
「ああ。インシーとサルートは今後も勝負するからな」
「リベンジマッチの場所は選ばせてください……と言っても、1個しかありませんがね」
「分かってる。"ジャパンダートダービー(JDD)"だろ?」※
「ええ。クラシック級のダートウマ娘のみが出走できるG1、大井の2000m」
トレーナーたちは未だお雑煮に夢中な2人に振り向く。
「口酸っぱいかもしれんが、ダートに3冠はない」
「つまりは3回も猶予をくれる芝と違ってこのジャパンダートダービー、1チャンスだけです」
「秋からは嫌でもシニアとの無差別階級に放り込まれる。悔いの無いようにな」
口にしつこく残っていた餅を飲み込んだ2人はやれやれ、釈迦に説法だぞと首を振った。
「1チャンスあれば十分よ」
「次もアタシのモンだからな!」
「フッ、聞く必要なかったかもしれん。藤正、ジャパンダートダービーは7月だ。その間のレースは?」
「サルートはG3のマリーンカップに舵を切ってからジャパンダートダービーに向かう予定です。ちょっとばかし、ドサ回りで積み上げてきますよ」
「分かった。インシーはG2の関東オークスを狙ってからにする。ジャパンダートダービーまでかち合うことはなさそうだな」
「成績に土ついてもしょげないでくださいよ?」
「そっちこそ、G3で壁を感じてG1を諦めたりするんじゃないぞ」
トレーナーたちは軽口をたたきながらハイタッチする。
「お、トレーナーたちかっこいいことやってるなー。アタシたちもあんなこと言いながらハイタッチしたい!サルート!」
「おはあり。いまあえうのにいほあひいはらあほえ(おかわり。今食べるのに忙しいから後で。)」
「コイツ人のお雑煮食べつくす気か!?ったく、その食欲、誰に似たんだか……」
「ごくん。あらインシー、オグリ先輩みたいだなんて嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「褒めてねーよ」
※2024年より「ジャパンダートクラシック」に名称変更され、開催月が10月に変更されていますが、今回はアプリ版で実装されている7月開催の「ジャパンダートダービー」として扱います。
この辺りは芝とダートでの差が一番大きいところなんじゃないかなと思います。