ウマ娘にとって芝レースの本格的なシーズン開始は3月からだ。
シニアの一流ウマ娘なら大阪杯や高松宮記念に向けて調整を行うだろう。
G2レースやG3レースは存在するが、本番前の慣らしの目的で出走することが多い。
クラシックのウマ娘たちにとってはシーズン開始は皐月賞・桜花賞の4月になるが、3月に行われるトライアルレースに出る者も多い。
出走しないウマ娘の中にはこの1月、2月で実家に帰省する者もいる。
ではダートは?
インシルカスラムやフルセイルサルートたちの現在地点ことクラシックダートのウマ娘はジャパンダートダービーまでG1レースがない。
この間全く出ないというわけにもいかないため、フルセイルサルートはG3のマリーンカップ、インシルカスラムはG2の関東オークスに舵を切ったが、それも4~6月だ。
ではシニアのダートまで絞ればどうだろうか?
それなら大きなレースがある。
2月序盤の川崎記念、2月終盤のフェブラリーステークスはシニアダートのスタートダッシュを切るG1だ。
ダート最強を名乗るからには、どちらか1つを勝たねば信憑性がない。
この日、森内トレーナーとインシルカスラムはフェブラリーステークスが行われるレース場に来ていた。
森内トレーナーが出走表を見ると、そこには"テンカバスター"の名前が。
つまり、関係者席には森内トレーナーが初めてダートに訪れた時に顔を合わせた、テンカバスターのトレーナーこと小原トレーナーがいる。
「久しぶりだな、小原トレーナー」
「フェブラリー見に来たぞー!」
森内トレーナーとインシルカスラムは目の前でゴールの瞬間が見れる関係者席を訪れて、レース場を注視する小原トレーナーに挨拶する。
小原トレーナーは相変わらず不機嫌そうな仏頂面で振り向いた。
「……俺の名前はどうでもいいって言っただろ。来たんならテンカを見ろ」
「もちろん。いずれ相まみえることになるからな」
「それとインシー。全日本ジュニア優駿でサルートを下して1着になったそうだな。やるじゃねえか」
「ふふん♪アタシの力はまだまだこんなもんじゃないって!」
小原トレーナーは素直にインシルカスラムを称賛し、インシルカスラムは単純に気分をよくする。
強面ではあるが、人一倍ウマ娘を想っている名トレーナーのようだ。
「今日はダートの先輩から学ぶとしよう。あの白い子がテンカバスターか?」
森内トレーナーは関係者席からでもひときわ目立つウマ娘を指さした。
髪色は茶髪のミディアムヘア、背は160cm後半と高めか。
「ああ」
勝負服は白いフリルシャツ、白いプリーツスカート。手袋も靴下も右の花の髪飾りも一面白だ。
白いスカートには1本だけ緑色のラインがあるが、ほぼオールホワイトと言っていいだろう。
まるでウエディングドレスを彷彿とさせるが、ハレの日に着る服にしては実用性が高い。
「あの真っ白な勝負服を、今から砂まみれに?」
「俺たちの信念だ。ダートレースはキレイな真っ白い勝負服のままで終わるレースなんかじゃねえ」
「そいつを砂で汚して全力で走り切る覚悟の果てに勝利があるんだ」
「だから、洗濯は気合入れてるらしいぞ」と冗談を付け加えて小原トレーナーは視線をレース場に戻した。
「スタートしました、ハナを切ったのは……」
「テンカバスターは4番手を進みます」
インシルカスラムのように先頭を取って主導権を握ろうとするのではなく、バ群に埋もれないくらいの位置をキープしつつ、テンカバスターは4~5番手を走っていく。
「先行ウマ娘か。手慣れてるな」
全日本ジュニア優駿のように気性の荒さに任せて奇襲を仕掛けたフルセイルサルートに比べると、随分と落ち着いた走りだ。
一見すると地味な走りではあるが、自分がどこを走るのが最適解か分かっている。
「テンカは感覚派だ。あの走り方は何百、何千の練習で培ったモノ」
「アタシにもちょっとわかる気がする。身体が覚えてるって感じ」
フルセイルサルートに理論派と言われたインシルカスラムでも、テンカバスターの走り方には何かピンとくるものがあったようだ。
「最終コーナー回って、最後の直線に入る、先頭変わらず、テンカバスター前を狙っている!」
そう言っているうちにフェブラリーステークスも残り400m。
すると、小原トレーナーはレース場に背を向け、手すりに腕を預けてもたれかかる。
もう見る必要はない、と言わんばかりに。
「レースはペーパーテストじゃねえ。ビデオ見たり本を読むお勉強も大事だが……」
「テンカバスター差を縮める、上がる上がる残り1バ身!」
「結局のところ、土壇場で一番頼れんのは経験からくる……」
「--カン、ってやつだろ?」
そういった瞬間、後ろのゴール板をウマ娘が駆け抜けた。
「テンカバスター抜いたゴールイン!1着テンカバスターです!最後の最後で差し切った!」
小原トレーナーとテンカバスターのペアは地味ながら強いです。覚えていただけば嬉しいです!