ゴールインしたテンカバスターはこちらをちらっと見る。
おそらく、視線は小原トレーナーだろうか。
テンカバスターはすぐに視線を戻すと。
ぐっと小さくガッツポーズをした。
両手を上げて大はしゃぎで喜びをあらわにするインシルカスラムに比べてとても控えめな表現だ。
「なんか嬉しそうじゃないな。もっとやったーって喜んだらいいのに……」
「これくらい大したことじゃないって言ってるのか?」
「お前らに気を使ってるだけだ。ようし!完璧なレースだったぞテンカ!」
小原トレーナーはこちらに向かってくるテンカバスターに野太い歓喜の声を上げる。
「みんなも強かった。今回も何とか勝てたってところ」
テンカバスターは顔や服についた砂を払い落としながら答える。
抑揚が少なめでクールそうな印象の声だ。
「もっと自信持て!その何とか勝てた、何回も聞いたぞ?」
本人以上に喜ぶ小原トレーナーを横目に、テンカバスターは視線を森内トレーナーとインシルカスラムに向ける。
「--そちらの2人はトレーナーさんが言ってた?」
「ああ、紹介する。今年クラシック級のインシルカスラムと担当トレーナーの森内。後半はテンカともやり合うぞ」
「そう。よろしくね」
テンカバスターは軽くインシルカスラムにほほ笑む。
「よろしく!一番になるためにテンカを倒さなくちゃならないなら、アタシは容赦なく超えていくからな!」
インシルカスラムはテンカバスターの手を奪うように取り、自分に強引に引き寄せて握手する。
テンカバスターはそれに対して軽く頷いた。
「……あれ、かかってこない」
どうやらインシルカスラムは何か言い返すことを期待していたようだが。
「サルートが荒っぽいだけでその反応が普通だ」
「それじゃあテンカ、小原、今日のレースはいい勉強になった。いずれ再戦することもあるだろう、その時はライバルとしてよろしく頼む」
「一緒になったら覚悟しとけよー!」
「うん。待ってるね」
森内トレーナーとインシルカスラムはテンカバスターと小原トレーナーに手を振ってレース場を去っていく。
テンカバスターは去っていく2人をじーっと値踏みするように眺めていた。
「トレーナー。インシーって子は、強い?」
2人が見えなくなってから、テンカバスターは小原トレーナーに質問した。
まるで"強いか。弱いか。それ以外はどうでもいい"というような、鋭さ、冷たさのある質問。
少なくともテンカバスターの目は、優しくなどなかった。
「--そうだな」
小原トレーナーはベテラントレーナーかつ、テンカバスターの担当歴も長い。
テンカバスターがどう考えているか、何を望んでいるか。
そして、インシルカスラムはテンカバスターのお眼鏡に敵う相手かどうかの分析など朝飯前だった。
「強いぜ。テンカが倒すに相応しい強敵になるはずだ」
「ふふ、それならとっても楽しみ」
テンカバスターは心から嬉しそうに笑う。
その喜び方は、三度の飯より戦いが好きな狂戦士のそれだった。
ブラス・トレーサーって気が強いウマ娘が多いので「普通のウマ娘」は相対的に「とても大人しいウマ娘」になります。
Q.いやでもさ。テンカバスターって、普通のウマ娘じゃなくない……?
A.君のような勘のいい読者は好きだよ。