という気持ちでこの小説は始まりました。
「ダート?」
話を切り出した藤正トレーナーを、森内トレーナーは怪訝な声で反射するように返した。
2人はこれまで芝のウマ娘しか担当したことがない。
「ダートなんか――」
そう言い出した森内トレーナーを、藤正トレーナーは分かっていたかのようにジェスチャーで遮らせた。
「そういうと思ってました。そんなナメた態度取ってたら、ダートトレーナーさん方に怒られますよ?」
と、言いつつ藤正トレーナーも肩をすくめて、「まあ俺も人のこと言えませんがね」と表現した。
ダートなんか所詮おまけみたいなものだろ。
森内トレーナーはそう言おうとした。
しかし、実際そう思っているウマ娘やトレーナーは多い。いや、大半がそう思っているといっても過言ではないほどだ。
レースの規模や競技人口、そして伝統的にも最も格式高いのは中長距離のクラシック路線。
次いでマイル・中距離のティアラ路線、短距離、マイルのスプリント路線と続く。
ダートは最下位でいることを余儀なくされており、見に来る観客も少なければ、勝ったところで対して注目もされない。
例えば、レースを行うにあたりチームを組む際(チーム競技場)には最大15人が登録できるが。
そのうち、芝は短距離、マイル、中距離、長距離で3人ずつ合計12人登録できるのに対し、ダートは一括りにされ、たった3人しか登録することができない。
しかも、そのダートを走るウマ娘の枠には「芝もダートも両方走れます!」というウマ娘から「ダート走れるのはお前しかいないからダートで走れ」と無理やり引っ張ってくることもしばしばだ。
「私はダート専門で芝は一切走りません」というウマ娘がどれほど少ないか、そしてどれだけ冷遇されているかがこれだけでも分かるだろう。
ダートは「芝が走れないウマ娘が仕方なく行く場所」と思っている者さえおり、その認識はトレセン学園においておかしくはないのだ。
「いや、ダートで頑張るウマ娘がいるのは知っている。だが……」
森内トレーナーは言葉を濁す。
「確かに、俺もほんの数日前までそう思ってました。ダートにとんでもない逸材がいる、と知るまではね」
藤正トレーナーのその言葉に、乗り気でなかった森内トレーナーの表情が少し変わった。
とんでもない逸材、と聞けば反応しないわけにはいかないのがトレーナーの宿命だ。
「ダートにとんでもない逸材?」
「ええ。俺も最近ダートウマ娘とその担当トレーナーたちと縁がありましてね。その子を紹介してもらったんですよ」
「どれくらいの逸材だ?例えられるか?」
「そうですね、根拠はないんですが。もし彼女がティアラに出ていれば、G1どころか、トリプルティアラすら狙え"た"んじゃないかって思います」
た、の部分だけ藤正トレーナーは強調した。
その言葉に森内トレーナーも目を丸くして驚く。
「それほどか!?にわかには信じられん……!」
トリプルティアラの3つのG1のうちたった1つを苦節何年で獲った森内トレーナーからすると半信半疑どころか突拍子もなさすぎる話だった。
秋華賞に加え、1年で桜花賞、オークスの合計3つですべて1着を獲得することで得られる称号、トリプルティアラはここ50年、何万人、何十万人というウマ娘が挑戦してきた中で達成できた者は10人といない。※
「狙え"た"、ですよ。どうやらその子はダートにしか興味がないみたいです。適性の問題でさっさと諦めたんでしょう」
おそらく、この話を普通の芝のトレーナーに話したら「バカ野郎、つくならもっとマシな嘘をつけ!」と一蹴されるだろう。
実際森内トレーナーも、半信半疑どころか、9割9分くらいは疑って話を聞いている。
しかし。
「……その子を俺に担当してほしいと?」
「はい。ダートG1の大半はマイルと中距離です。距離の似ているティアラで実績のある森内さんなら、任せられると思って声を掛けました」
「……その子に会って、お前の突拍子もない話を確かめてみるとしよう」
存在しないスーパーダートウマ娘でホラを吹いてからかっているにしては、藤正トレーナーの態度はあまりにも真面目すぎる。
実際にこの目で見て、走りを見てみるしかない、と森内トレーナーは判断した。
「ああ、そうだ。1つ大事なことを聞き忘れた。その子の名前は?」
「--インシルカスラム(Insilca Slam)、です」
※ブラス・トレーサーの時代ではメジロラモーヌ1人のみです。また2025年時点ではウマ娘化されていない者を含め、現実では7頭です。
この"インシルカスラム"がブラス・トレーサーの主人公となります!
次から登場します!
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