インシルカスラム「大丈夫でしょ。タキオンの薬飲んで死んだことはないよ」
7月初旬になると、トレセン学園には何十台もの大量のバスが並ぶ。
夏合宿の時期だ。
クラシック級・シニア級のほぼ全員のウマ娘がビーチのある合宿所でトレーニングを行う。
最新の設備で四六時中トレーニングに打ち込む夏合宿は、終えたころには見違えるほど成長するウマ娘も多い。
トレーナーにとってはどれだけ担当ウマ娘を成長させられるか、手腕が問われる場面でもあるだろう。
森内トレーナーとインシルカスラムも一緒にどのバスに乗ればいいかを探していたところ……
「あぁ、やっぱり探してる。森内さん、インシー、バスそれじゃないですよ!」
藤正トレーナーが遠くで手招きしていた。
よく見ると、藤正トレーナーの近くにあるバスは1台だけデザインが違う。
運転席の行先表を見ると、【大井レース場行き】と書いてあった。
「感謝する。この時期はどのバスに乗ればいいかいつも迷うんだよな……」
「トレーナー、大井レース場って合宿所と近かったっけ?」
「まあ乗ってください。最高で最悪の旅のスタートですよ」
やや自虐的に藤正トレーナーに連れられ、森内トレーナーとインシルカスラムはようやくバスに乗ることができた。
全員が乗った後、大井レース場行きのバスが発車する。
早速、合宿所に列をなして向かっていく何十台ものバスとは違う方向に走って行った。
「藤正、合宿所に向かうはずだろ、どうなってる?」
「森内さん、予定表照らし合わせてみてください」
森内トレーナーは首をかしげて、学園の予定表とレースローテーションを見比べてみる。
しまった、と気づくのに時間はかからなかった。
「なんてことだ……合宿の始まりがちょうど"ジャパンダートダービー"だったのか」
「名トレーナーの森内さんらしくないうっかりですね」
「夏合宿なんて当然のようにあるものだと思っていたからな……迂闊だった」
といいつつ、藤正トレーナーも気づいた時には冷や汗をかいたことは内緒にした。
そう、夏合宿とほぼ同時にジャパンダートダービーは発走される。
つまり、出走者は合宿に向かわず、直接大井レース場に向かって現地調整を行い、そのまま出走だ。
クラシック級のダートを走るウマ娘とそのトレーナーのみがスケジュールに影響される。
芝を走るウマ娘やトレーナーにとっては全く関係のない出来事のため、芝からダートに来たトレーナーがうっかり忘れるのはあるあるだった。
心なしか、バス内の他の何人かのトレーナーもギクッとした気がする。
インシルカスラムも予定表をのぞき見してようやく気付く。
「ホントだ、じゃあアタシたちは……」
「合宿には大遅刻ってわけです。いやあトレセン学園が憎いですね」
つまり、クラシック級のダートウマ娘は実質1週間分の夏合宿練習ができない状態になる。
それに対してURAからの埋め合わせや合宿延長はない。
藤正トレーナーが自虐気味に言っていた最高で最悪の旅とはこのことだったか。
嘆いても仕方ない、条件はみな同じだ、と森内トレーナーは頭を切り替えた。
「そうだ、シー。静かに」
藤正トレーナーは口に人差し指を当てながら隣の窓側の席を指さす。
座っていたのは勝負服のパイレーツハットを顔にかぶせて寝ているフルセイルサルートだった。
ご丁寧にウマ娘用イヤホンまでつけて爆睡している。
「やけに静かだと思ったら……そうだよな、起きてたらアタシを煽ってくるもんな」
口喧嘩しなかったらしなかったでつまらなさそうなインシーが呆れつつも、リクライニングシートで倒してあげる。
フルセイルサルートが起きる気配は一切なかった。
これ思ったのはたかぽんだけではないはず。
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