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数日後。
ミーティング中の森内トレーナーとインシルカスラムのもとにクールな風貌をした青髪のポニーテールのウマ娘がやってきた。
比較的長身だ。小柄なインシルカスラムと比べると20cmくらい差があるか。
「初めまして、ストライクウルフと言います。インシルカスラムさんとそのトレーナーさん。急なお願いで申し訳ありませんが……」
怖いと感じる人もいるであろう印象とは裏腹に、ストライクウルフと名乗ったウマ娘は礼儀正しく頭を下げる。
「私と併走していただけませんか」
思った以上に深々と頭を下げられてインシルカスラムはあっけにとられていたが。
やがて、下からストライクウルフをのぞきこんで目を合わせる。
「イヤとかいうと思った?やろっ!」
これまたあっさりとした承諾にあっけにとられたストライクウルフだったが。
やがて合った目は離さずに、ゆっくりと頭を上げた。
「お願いします」
「トレーナーの俺からも異論はない。ストライクウルフはクラシック志望か?」
「はい。ダートのインシルカスラムさんと適性が違うことは承知の上です」
「ならオールウェザーを使うといい。あれならバ場適性差はあまり出ん」
合宿所にはオールウェザー・トラックと呼ばれる室内の練習場がある。
芝・ダート・天候などの得意不得意差による影響があまり出ず、普段対戦することのないウマ娘たちが実力勝負をするのにうってつけの場所として人気だった。
ストライクウルフとインシルカスラムはコースのスタートラインに立つと、森内トレーナーの笛の合図で一斉に飛び出す。
2人の得意脚質はどちらも逃げ。
最初から出力を全開にしてスピードを上げていく。
「やるなウルフ!アタシが今まで戦ってきた中でもダントツの怖さじゃん!」
「さすがインシルカスラムさん。ここまで競り合える相手と走れるなんてな!」
お互いに本気の競り合いを美徳とする2人にとって、拮抗した逃げ同士の競り合いは願ってもない状況だった。
しかし、それも1000mを通過したあたりまで。
ほぼ横並びだったストライクウルフはだんだんと差を広げられていく。
離される直前のインシルカスラムの目を、ストライクウルフは忘れない。
あのギラついた瞳。
――本気だ、コイツは。
勝つために躊躇なく命を削れる奴だ。
だからこそ。
「負けられるかァ!!」
ストライクウルフは歯を食い縛り、インシルカスラムに迫る……いや、引き離されまいと食らいつく。
「後ろで好きなだけ吠えな負け犬!」
インシルカスラムはストライクウルフを挑発し、さらにストライクウルフを引きちぎろうとして……。
「あー恥ずかしい!あんなに啖呵切っといて負けるなんてー!」
インシルカスラムは終わった後に羞恥心で地面を転がっていた。
最終的には約3000mほど走り、ストライクウルフの勝利に終わった。
「ちょうど2400m、長距離の域に入る地点で抜かれていたな。問題ない。ダートの最長距離は2400mだ。そこまでウルフの前にいたなら上出来だ」
森内トレーナーはまあ予想通り、という風な苦笑いをした。
「煽ってごめんウルフー……」
「いえ、むしろ気合が入りました」
「ウルフのほうも、2400mを過ぎてからも走りが安定していたぞ。本番の長距離でもあんな逃げ切りができたら、君のトレーナーやファンはさぞ気持ちがいいことだろう」
「光栄です」
ストライクウルフは未だに顔を覆って地面を転げまわるインシルカスラムに手を差し出す。
「インシルカスラムさん……いや、インシー。今日はありがとう。おかげで私も何かつかめそうだ」
ストライクウルフは敬語の堅苦しい雰囲気をやめた。
これは、インシルカスラムを本心から尊敬するライバルとして認めた証になる。
インシルカスラムは手をちょっと広げてストライクウルフと目を合わせると、顔を覆うのをやめ、差し出された手を取った。
「……こっちこそ!今日はありがとうな!」
インシルカスラムと固い握手を交わしたストライクウルフは心の中で先ほどのレースを分析する。
2400mまで抜かれていたが、最終的には勝った。
だが、これが中距離戦だったら?
ストライクウルフは最終的に勝ったことを手放しで喜ぶほど愚かではなかった。
「(『後ろで好きなだけ吠えな負け犬』、か。……そうだな。後ろにいたからその通りだ。私もまだまだ修行が必要だな)」
今回はストライクウルフというウマ娘の応募でした。
ありがとうございました!