まだクラシック級の8月です。
---EX2---
「悪気はないんだけどね。インシーはさ、どうしてここまでして勝ちたいって思うの?」
今、フレイムクレセントのスマホで再生されたジャパンダートダービーの動画をよく見ると。
再生数、コメント、ウマいね!の数、どれも日本ダービーに比べ3分の1にすら達していない。
フレイムクレセント自身だって、インシルカスラムと話す機会がなければダートなど気にも留めなかっただろう。
きっと名声だけが理由ではないはずだ。
「--"アタシでもやれるんだ"って言いたくて」
インシルカスラムは幼少期、病気がちで外に出ることを禁じられた日が少なからずあった。
ちょっとぶつけた、コケただけで大ケガして、そのたびに保健室や病院に運ばれることもあった。
トレセン学園でインシルカスラムは元気に日常生活を送れているように見えるが、その虚弱体質は治ったわけじゃない。
そんなアタシだってウマ娘だ。走ってやる。レースして勝ってやる。
アタシのことを「かわいそう」じゃなくて「すごい」って思わせてやる!
それが、インシルカスラムがここまでして勝ちたいって思う理由だった。
「なるほど~……」
フレイムクレセントはその答えに腕を組んで悩みだす。
そんな理由で無茶を続けていれば、いつか取り返しのつかないことになる。
仮に成功したとしても、似た境遇の誰かがインシルカスラムに憧れて無茶をすれば、そう遠くないうちに悲劇が起こるかもしれない。
指導者としてはその理由で走るインシルカスラムを「これ以上は止めなさい!」と止めなければならない。
だが、フレイムクレセントは空を見上げ、自分自身がクラシック級にいたころを思い出した。
まだ、勝利への情熱を失っていなかったあの頃。
随分遠い記憶だが、その時に「これ以上は止めなさい!」と言われれば素直に従えただろうか。
フレイムクレセントもかつては第一線で戦ったウマ娘だからこそ。
競技者としての道を強制的に閉ざすその言葉を軽々しく口にすることはできない。
それに、フレイムクレセントにはそう言えないもう1つの理由があった。
「(私に……止める資格なんか)」
フレイムクレセントというウマ娘は、走る理由を見失ってレースの世界を去った。
そうやって早々に降りた自分が、今、命懸けで勝とうとしている現役ウマ娘に「これ以上は止めなさい!」などと。
どの口が言える?
「……そうだね。キミはジャパンダートダービーでやれた!これからもやれるよ!」
少し残る迷いを隠しつつ、フレイムクレセントはインシルカスラムに頷いた。
「だよな!アタシでも聞いたことあるよ。クレセントはさ、すっごい有名なウマ娘だったんでしょ?」
「ずいぶん昔の話だけどねえ」
「今も名前が残ってるんだよ!そんなアンタが言うならお墨付きってことでしょ!」
名を遺す一流コーチに認められたと感じたインシルカスラムは自信ありげに立ち上がり、また練習に戻っていく。
「--がんばって、インシー。お姉さんを感動で泣かせるくらい、走り続けてよね」
フレイムクレセントは、祈るような独り言を小さくつぶやいて、インシルカスラムを見送った。
コラボの途中ではありますが、この「これ以上は止めなさい!」と止めるべきか?というのはブラス・トレーサーの今後の大きなテーマとなっていきます。
お楽しみに。