---EX4---
500m……
1000m……
そして1500mを過ぎても、インシルカスラムはオーブアリザリンとの差を突き放し続けていた。
その差はすでに誰が見ても大差と呼ぶだろう。
「(まずくないか……?追込ウマ娘だとしても、離れすぎている)」
その差に森内トレーナーですらも違和感を覚える。
逃げウマ娘のインシルカスラムにとっては追込ウマ娘なんぞ自分の後ろにさえいればどうでもいいが。
追込ウマ娘側のオーブアリザリンからすると、先頭との差は常に気を払わなくてはいけない。
自分の能力だけでなく、レースごとに、また走っている状況によって適切なスパートタイミングを見極めなければならない。
ゆえに、最後方からバシッと追い込みを決めて勝った時の、格別の達成感に惹かれるファンやウマ娘が数多くいる。
裏を返せば……スパートタイミングをわずかでも間違えると追込ウマ娘はなす術なく大敗する。
森内トレーナーも追込ウマ娘については何人も研究を重ねてきたが。
その中から導き出した常識で測ったとしたら、今のオーブアリザリンは、スパートタイミングが遅すぎる。
つまり、すでに手遅れのようにさえ見えた。
1800m。
残りはたった600m、4分の1というときに。
「--ここです!!」
オーブアリザリンが動いた。
……いや、"オーラが変わった。"
ようやくスパートとしてスピードを上げ始めたオーブアリザリン。
彼女の速度の上げ方は中盤くらいから長い時間をかけ、徐々に徐々にスピードを上げていって最高速に到達する。
追込ウマ娘が得意とするいわゆるロングスパートというやつだ。
しかし、残り4分の1はすでに終盤だ。
今ロングスパートをかけても最高速に到達しきる前にゴールが来てしまう。
はずだったが。
「なんだあの加速は……!本当にロングスパートか!?」
数々の追込ウマ娘を見てきたはずの森内トレーナーでも思わず息をのんで見入ってしまった。
信じられないほどの急加速で、オーブアリザリンは大差がついているインシルカスラムを急激に追いかけ始めた。
確か、序盤はゆったりと温存して走るオーブアリザリンに対してインシルカスラムは「歩いてんのか!?」とキレたはずだ。
だが、残り600mで、その立場は完全に逆転している。
オーブアリザリンの速度と比べたら、インシルカスラムのほうが歩いているようにさえ見える。
「どれだけ離されたって……!!私は諦めない!!」
レース前のオーブアリザリンの気弱そうな表情はどこへ行ったのか。
今や何としてでもインシルカスラムを仕留めようとする本気の表情へと変わっている。
「危険だ!逃げろインシー!」
まるで対処しようがない怪物を相手にしているかのような声で、森内トレーナーはインシルカスラムに警告する。
「え、なん……っでこんな近くに……!!」
そこで初めてインシルカスラムは、オーブアリザリンに対する"恐怖"を感じた。
インシルカスラムだったらたとえ首筋にナイフや銃を突き付けられたって強がるイメージがある。
そんなインシルカスラムが恐怖を感じるなんてよっぽどのことだ。
……と、インシルカスラムがオーブアリザリンを怖がっているうちに。
大差ほど離れていたはずのオーブアリザリンは、インシルカスラムを追い抜いて2400m地点を通過した。
もう1話だけ続くんじゃ。