場所は変わって、ウマ娘の模擬レース場ゲート前。
今回の模擬レースに参加する新入生ダートウマ娘たちに漂う空気は、和気あいあいとしたものではなかった。
ダートレースは華やかさとは無縁の場所だ。
人気者を目指して走るウマ娘の割合は芝と比べてかなり少ない。
では逆に割合が多いのは?
「私は貪欲に勝利を狙うのみ。周りは蹴落とすべき敵だ」そういう信念のウマ娘だろう。
ゼッケンをつけたウマ娘たちに笑顔は少なく、ほかには目もくれずに精神を統一する者、周りを値踏みする者といったウマ娘が目立つ。
「まもなく模擬レースを始めます。ゲートに入ってください!」
係員からの指示に多くのウマ娘は返事やリアクションを返すことなく、ゲートへと向かっていく。
その中にいたインシルカスラムは、笑った表情でゲートへ入る。
その相手は、誰に対してでもない。目線の先にあるのはこれから走るダート1400mの模擬レース場。
また、ニコニコ笑顔かと言われるとそれも少し違う。
インシルカスラムの表情はどちらかと言えばニヤっとした不敵な笑み。
今から走るレースに対して自信満々というのが見て取れた。
「(アタシは一番が好き。先頭が好き。勝つのが好き。なにより……自分しかいないこの景色で、このダートを走り抜けるのが大っ好き!)」
インシルカスラムは心の中でワクワクしながら、スタンディングスタートの構えを取る。
「(さあ、ここから勝ち続けてやる!アタシがダート最強のウマ娘!インシルカスラムだ!)」
「スタートしました。序盤先頭を取ったのは――」
ゲートが開き、各ウマ娘が一斉に飛び出す。
序盤10秒と経たないうちに、先頭争いで数人のウマ娘が飛び出し、レースの主導権を取ろうとする。
「インシルカスラム。2番手から3~4バ身離してペースを作ります」
実況が示す通り、インシルカスラムは迷わず誰よりも飛び出してぐんぐんと加速。早速1番手に躍り出る。
「"逃げ"か。お前はどう見る?」
テンカバスターの担当トレーナーこと小原トレーナーが短く、ガルディアコダンの担当トレーナーこと打出トレーナーに質問する。
ガルディアコダンは逃げを得意とし、テンカバスターは先行を得意とする。逃げウマ娘の分野なら打出トレーナーが一歩上手だ。
打出トレーナーは眼鏡をクイッと上げながら冷静に分析する。
「良い逃げです。"大逃げ"との線引きっていうのは明確な定義がないんですが、彼女自身は普通の逃げに近いでしょう。うちのコダンに早く紹介したいものです」
「インシルカスラムはゲートから出るのが速かった。逃げウマ娘では重要なスタートダッシュ能力はかなり高いぞ」
そこへ森内トレーナーが割って入る。
その発言に小原トレーナーはやるじゃねえか、と高評価な値踏みの視線を送る。
インシルカスラムのスタート能力に加え、スタートダッシュのコンマ数秒を的確に判断し、分析する森内トレーナーの能力は伊達じゃない。
レースは中盤に入る。
中盤以降は細々と順位が入れ替わるが、先頭は引き続きインシルカスラムで変更はない。
リード差も3~4バ身、2位と比べて約8~10m差を維持し続けている。
逃げウマ娘にとってこれくらいのリードを取ればそうそう抜かれることがなく、ひとまず安心と言われる"セーフティリード"の距離だ。
「逃げウマ娘は調子に乗って必要以上にリードを取る者も少なくありませんが……彼女は逃げとして理想的なペース配分です。"賢い"選択ですね。」
「それに誰よりもしっかりと"砂を噛んでる"。ナリが小せえが"パワー"は足りてる証拠だ」
「"スピード"もノってますよ。あの安定感あるリードを見るに、まだ余力残してんじゃないですかね」
藤正トレーナーも間に入って、インシルカスラムの分析を行う。
実績のある3人のトレーナーが、ウマ娘にとって最も基礎的な能力とされる5つの能力の内、スピード、パワー、賢さに太鼓判を押した。
レースは終盤に入る。
そこで、残り2つ、スタミナと根性が見られるだろう。
「もしかしてこの子ってサイレンススズカとかスマートファルコンとかと同類じゃね?」
「頭先頭民族か?」
と思った方。
正解です。
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