ウマ娘 ブラス・トレーサー   作:takapon960

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ブラス・トレーサーの今後のテーマを考えると、なかなか考えさせる経歴を持った子です。


第47話

ーーーEX10ーーー

 

「それだけ、じゃないんです」

 

ドントビーレイジーは今度は自分から森内トレーナーに口を開いた。

 

「私のトレーナー……いえ、"元"トレーナーさんは、弥生賞を勝ってすごく喜んでくれて」

 

「絶対皐月賞でも勝つぞって厳しいトレーニングをやってきました」

 

弥生賞を勝利した時のドントビーレイジーのトレーナーは今は担当から外れているらしい。

 

それを聞いて、森内トレーナーは1つあることを思い出した。

 

5月ごろに一身上の都合、と理由をぼかして退職届を出した若手のトレーナーがいたことを。

 

「私……あの時、ひどいことばっかり言ってしまいました……」

 

どうやら、ドントビーレイジーは怪我をしたとき、当時のトレーナーと大喧嘩をしてしまったようだ。

 

無理もない、一生に1度のクラシックがケガで台無しになったのだ。

 

「……気持ちは分かるさ」

 

その無念の怒りくらい誰かにぶつけたくなる気持ちを、森内トレーナーは責めることはできない。

 

だが、ドントビーレイジーの若手トレーナーは……

 

ただでさえ責任を感じていたところに、担当ウマ娘に責められたことで耐えられなくなったようだ。

 

 

そこまで言うと、ドントビーレイジーは顔を押さえて泣き出した。

 

「トレーナーさんはっ……悪くっ、ないんです……!!」

 

まるで、もう会うことの叶わないトレーナーに対して謝っているようだった。

 

「トレーナーさんは……私に全力でいてくれただけなのに……!」

 

「私、最低だ……なんであんなこと……!!」

 

ドントビーレイジーの悲痛な叫びを聞いて森内トレーナーは眉間を押さえて首を横に振った。

 

お互い、最悪の喧嘩別れをしてしまっている。

 

このままではドントビーレイジーはレースを走るウマ娘としての復帰は絶望的だ。

 

それどころか、今後まともでいられるかどうかも分からないほど心に深い傷を抱えて絶望している。

 

もちろん、森内トレーナーにこの子を放っておくことなどできない。

 

 

「そうだな……レイジー。君にはやることがたくさんある」

 

森内トレーナーにそういわれたドントビーレイジーは頭にハテナマークを浮かべた。

 

練習もできない、レースにも出られない。今後どうすればいいかもわからない。

 

最早することなどないと思っていたのに。

 

「まずは仲直りからだ。トレーナー同士のつながり、舐めないでもらおう」

 

森内トレーナーは、喧嘩別れしてしまったドントビーレイジーの元トレーナーを連れてくるというのだ。

 

恐らく、元トレーナーが嫌だと言っても引きずってくる勢いで。

 

「で、君はまだクラシック級だ。その怪我なら来年には治っているだろう」

 

つまり、森内トレーナーが言いたいのは。

 

クラシック級がダメになったくらいで諦めるな。

 

ドントビーレイジーはシニア級のレースで輝いて見せろ、ということだ。

 

「む、無茶言わないでください……私なんかに……」

 

ドントビーレイジーは恐れるように首を横に振る。

 

怪我なく満足に練習とレースをこなせたウマ娘でも、強豪揃いのシニア級で頭角を現すのは容易ではない。

 

仮に治ったとして大幅なブランクのあるドントビーレイジーが順調にシニア級のレースで勝てなど無茶が過ぎる。

 

「--それが、俺の担当ウマ娘はことごとく無茶をやり抜いてきてるもんでな」

 

森内トレーナーは苦笑いをしながらインシルカスラムの自慢をした。

 

インシルカスラムは子供時代、レースなどとてもできないと思われていた。本人からはそんな話を聞いた。

 

それがどうだ、今やG1を2勝し、クラシック級ダート最強の名をほしいままにしているではないか。

 

インシルカスラムにできてドントビーレイジーにはできないと?

 

少なくともそんな弱気な言葉、インシルカスラムは納得しないだろう。

 

「……できますか?私にも」

 

あまりに自信満々に自らを肯定してくる森内トレーナーにドントビーレイジーの心が少しだけ揺らいだ。

 

「G2は勝てたんだ。今後は無理と決めつけるには、もったいない実力なんじゃないか?」




全てを諦めるのは、全てが終わってからでいい。
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