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山の頂上の展望台で景色を見下ろしていたフロールレイエス。
よく見ると、フロールレイエスの呼吸は少し荒っぽく、額の汗も乾ききっておらず。
左手には空のスポーツドリンクのペットボトル。右手にはまだ未開封の同じものをもう1本持っていた。
おそらく、フロールレイエスもトレーニングとして先ほどインシルカスラムが上がってきた山道を走ってきたばかりなのだろう。
「ハァ……そうだよ……ハァ……アンタこそ、息上がってんのな!」
インシルカスラムは自分の呼吸が絶え絶えなのを棚に上げてフロールレイエスを指さす。
「お前が言えたことか」
フロールレイエスはそっけなく言い返すが、目線は外さないまま、インシルカスラムを値踏みするようにじっと見る。
自分自身もこの山をトレーニングとして登ったフロールレイエスは、その苦しさが身にしみて分かっていた。
同じくそれをやりきった目の前のインシルカスラムは、意外と根性のある奴だ。
それに気づくと、フロールレイエスは手に持っていた新品のペットボトルをインシルカスラムに投げ渡した。
「やるよ。同期にでもやろうかと思ってたが、アイツならアイスでも買ってやったほうが喜ぶしな」
インシルカスラムはスポーツドリンクを受け取ると、気持ちのいい飲みっぷりで一気に飲み干す。
「っぷはー!アタシは今すっごい喜んでるよ!ありがとう!えーと……」
そこに来て初めて、インシルカスラムは目の前のスポーツドリンクをくれた人の名前を知らないことに気づいてフリーズする。
「フロールレイエス。レイエスでいい。お前は?」
「ありがとうレイエス!アタシはインシルカスラム!インシーって呼んで!」
「インシー、一緒に山を下りないか。お前の走りを見せてもらいたい」
フロールレイエスは上ってきた道を顎で指してインシルカスラムを誘う。
限界まで自分を追い込めるインシルカスラムの走りを間近で見れば、何か掴めるものがあるかもしれない、という判断だ。
「え~?そこまで言うなら~?しょうがないなぁ~!」
当のインシルカスラムはそんなフロールレイエスの意図を分かってるのか分かっていないのか、あからさますぎるドヤ顔で図に乗っている。
「……そこまで言ってる。行くぞ」
勝負でもないし、調子に乗らせておけばいいか、とフロールレイエスはインシルカスラムを適当にあしらって走り出した。
「あ、これ……そこまで思ってはないな?ってか待てー!アタシが前だー!」
インシルカスラムはようやく自分が雑に相手されていたことに気づくと、フロールレイエスを追いかけ始めた。
夏合宿もやがて終わりに近づき、ウマ娘たちの練習は、これまでの成長を確かめるための模擬レースが増えてきた。
その中で今日、オールウェザー・トラックでインシルカスラムと2人で対戦する予定のウマ娘は、私はなぜここまで走れるか、という哲学的なことをを心の中で自問自答していた。
恵まれた体格に、こげ茶色のショートヘア―に青い目と青いイヤーカバーの大きな耳。
名前はシースターテイル。
彼女の走る原動力とは、人々から向けられる感情。
それは憧れや期待、託された夢のようなポジティブなものばかりとは限らない。
シースターテイルの強さには恐れや恨み、嫉妬を抱く者も少なくないだろう。
だが、彼女なら……そんな負の感情すらも自らの力にするのかもしれない。
「本日はよろしくお願いいたします、インシーさん」
シースターテイルはインシルカスラムに向かって丁寧な挨拶をする。
「よろしくシスタ!こっち!下見たらいるよー!」
「はい、見えますよ」
インシルカスラムもまた、元気よく飛び跳ねて背の高いシースターテイルに目線を合わせながら手を振った。
シースターテイルの実力は3冠・世界を狙えるクラス、ということは芝のトレーナーたちに広く知れ渡っている。
周囲にはかなりの数のギャラリーが詰めかけていた。
「(これほどまでに私とインシーさんのレースを見に来てくださるなんて。)」
シースターテイルはあたりを見回した後、スタンディングスタートのポーズを取り、自らに誓う。
「皆さんの期待は、決して裏切らない」
今回はシースターテイルというウマ娘からの応募でした!
ありがとうございました!
1.5話つけてこの3章を締めたいと思います!