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見下ろす、というより明らかに見下されているインシルカスラムは下からガルディアコダンに目線を合わせて睨みつける。
トレーナー2人からも、インシルカスラムとガルディアコダンの間にすさまじい量の火花がバチバチ飛んでいるイメージが容易に想像できた。
「……インシーだよ!いかにもケンカ売りに来ましたってツラしてんなあ!?」
「それ以外に何の用があるってんだ?来なよチビっ子!オレの怖さをわからせてやるぜ!」
「あ゛!?それはアタシのセリフだろーが、とっととゲート入れ!!」
「とっとと表出ろ!!」のノリでインシルカスラムはゲートを指さし、早速ガルディアコダンも続く。
「すまん打出。いずれこうなると思っていたんだが、出会って0秒でこうなるとは」
森内トレーナーは軽く首を横に振った。
フルセイルサルートとも口が開けば挑発の応酬だったが、今回のガルディアコダンとはそれ以上に喧嘩腰だ。
「熱いライバル関係が出来たようで嬉しい限りです」
一触即発どころか速攻爆発した2人の関係を、打出トレーナーは穏やかな笑顔で見守っていた。
「オレの前に出るんじゃねーよ!バカみたいに逃げやがって!」
「はあー!?バカみたいに逃げて何が悪いんだよアンタだって同じことしてるくせに!」
最速の反応速度でゲートから飛び出したインシルカスラムとガルディアコダンは、双方キレてるのが丸わかりな耳の絞り方で最初から全速力で飛ばす。
駆け引きとか位置取りとかスタミナ管理とかそんなことを全部投げ捨てて、"こいつより前に行く"だけしか考えていないような全力の先頭争いをしていた。
どうやらガルディアコダンの得意な脚質はインシルカスラムと同じ逃げ。
一手目は譲るのが基本戦術の先行ウマ娘であるフルセイルサルートやテンカバスターに比べて"貴様にだけは負けん"という気持ちがお互い強いのだろう。
「予想はしていたが、コダンに焚きつけられてレースの組み立て方を完全に忘れているな……」
「僕も同じ意見です。コダンは本来バカじゃない。でもこの走り方はバカです」
「この勝負の勝った負けたで本番の予想は出来ん。何か方法を考えないとな」
普通のトレーナーなら手に負えないと言いたくなる併走風景を見つつ、森内トレーナーは対ガルディアコダン戦術を考える。
恐らく、打出トレーナーのほうも、対インシルカスラム戦術を頭の中で考えているだろう。
「--時に森内さん。逃げと大逃げだと、どっちが好きですか?」
突如、話題を変えて打出トレーナーが切り出した。
森内トレーナーは打出トレーナーが逃げという脚質に関して並々ならぬこだわりを持っていることを再認識したうえで考える。
「……俺は通常の逃げかな」
「インシーのデータは記憶に入れてます。大逃げで走ったレースはないようですね」
「走らせようと思えばできるとは思う。だが、大逃げはロマンがある一方で実用性には欠ける」
通常の逃げは最初から先頭を取ることが最優先だが、全体のペースに合わせ、最終直線のギリギリでスタミナが切れるように配分することを一応考えている。
対して大逃げは全体のペースや距離を完全無視して全速力を続ける走り方で、間違いなくスタミナを途中で切らして残りは猛烈な勢いでリードを奪われる。
みんながラスト"スパート"をかけているのに逆に減速してしまい、その相対速度からむしろ後ろに走っているんじゃないかと錯覚させるその様が"逆噴射"と呼ばれるのは、大逃げの話題でよく出る話だ。
「--逆噴射は大逃げが得意なウマ娘でもしばしば起こす。あれはみっともないぞ。万が一にもインシーにはさせたくない」
それを打出トレーナーは頷きながら、最後まで聞いていた。
「僕もその意見に概ね同意します。例えるなら、大逃げは決闘において剣を投げつけるような行為、と言えると思います」
つまり、相手の不意を突き、その一撃で仕留められたなら勝ちだが、仕留められなければほとんど負けが確定するようなもの、と打出トレーナーも考えているようだ。
「確かにそうだが、なぜ決闘に?」
「ああ、言ってませんでしたね。これでも僕、決闘とかタイマンの喧嘩とか、一対一で戦うといったシチュエーションが大好きなんですよ」
穏やかな笑顔のまま打出トレーナーは物騒なことを言う。
もちろん、ガルディアコダンも決闘、タイマンは大好物だろう。
「……なるほど。コダンにして打出あり、といったところだな」
「光栄です。インシーと森内さんが見せるケンカのやり方ってやつを、今回の南部杯で見せてもらいますよ」
この話を書くとき、ヤンキー漫画をすごい参考にしました。
あくまでスポ根のウマ娘だから挑発で済んでるけど、世界観違ったら間違いなくこの2人は拳で語り合ってます。