お嬢と同世代ということは必然的にこいつとも同世代です。
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ダイタクヘリオスとインシルカスラムは肩を組み、マグカップに入れた紅茶をジョッキの如く豪快に乾杯する。
「インシーも爆逃げってウチら息ぴったしか!?じゃ、うちらこれからズッ友ー!ベストフレンドー!」
「ヘリオスも逃げだなんて息が合うなアタシたち!ズッ友ー!ベストフレンドー!」
奇遇にも同時期デビューの、逃げ同士という接点があったことでインシルカスラムとダイタクヘリオスはあっさりと意気投合。
紅茶を一緒に一気飲みする2人の様はお茶会というより居酒屋のソレだった。
「でさ、ヘリオス。さっきルビーと話してたんだけどさ」
「ウチも聞こえた!お嬢と何話してたん?」
「スプリント行きたいってさ!」
それを聞いてダイタクヘリオスはガッツポーズを決める。
「マ!?テンション鬼上がりなんだけど!」
「ヘリオスもスプリント?」
「そ!バトるのもうだめぽ、とか思ってたケド!これ気合入れるしかないっしょ!」
「入れてけ!応援してるからな!」
ダイタクヘリオスとインシルカスラムは空になったマグカップをもう一度豪快に乾杯し、もう片方の手でお互いの手を握った。
時は過ぎて10月。
森内トレーナーとインシルカスラムは今度は本番の南部杯に挑むべく、盛岡レース場の控室にいた。
「ガルディアコダンはインシーを崩すペースを作る可能性も高い。ケンカを売られても安易についていかないほうが賢明だ」
森内トレーナーの作戦は、ガルディアコダンと張り合わない、に決定した。
ガルディアコダンはシニア級を繰り返しているベテランウマ娘だ。
同じ逃げウマ娘との駆け引きの練度は相当だろう。
対応方法で一番無難なのは、自分の走りを見失わないことだ。
「うー……分かってる……分かってるんだけどさあ!」
しかし、インシルカスラムはガルディアコダンの逃げに付き合わないという作戦の効果は分かっていながら納得はいっていなかった。
やはり先頭民族たるもの、逃げ勝負に自分から退くことはプライドが許さない。
「目を少し閉じるか逸らすか……とにかく駆け引きで負けないようにするんだ。純粋な実力勝負に持っていければインシーは勝てる」
それに対してインシルカスラムは自らの頬を叩いて、頷いた。
「4枠7番インシルカスラム、ここまで5戦5勝の無敗2冠ウマ娘がついに南部杯にやってきました!クラシック・シニア混合のこの1戦、無敗伝説を維持してくれるのでしょうか!?」
インシルカスラムはパドックを歩きながらチラチラと後ろを見たり、時には体ごと後ろに振り向きながら前を歩いている。
やはり、後ろを歩くガルディアコダンが気になるのだろう。
というより、耳が完全に後ろに倒れているので気になるというより睨みつけてガンを飛ばしている。
その様子を見て関係者席の森内トレーナーは頭を抱えて唸っている。
「あれほど言ったのにもう忘れたんじゃないだろうな……恐ろしい因縁関係だ」
「早速火花を散らしてますねえ。お互い逃げウマ娘として引き下がれないんでしょう」
打出トレーナーはインシルカスラムがメンチを切っている様子を微笑ましそうに見つめている。
続けて、10番にガルディアコダンが出てくる。
勝負服は紫色のラインが入った緑色の厚手のパーカー。
スカートではなくバスケットズボンのような半ズボンでこちらも緑色がテーマカラーだ。
ガルディアコダンも、目線は9番と8番のウマ娘の先にいるインシルカスラムで、同じく耳を絞ってインシルカスラムを見つめている。
「--5枠10番はガルディアコダン。ここまでの戦績は34戦19勝」
「34!?」
森内トレーナーは思わずガルディアコダンの累計出走数を反復してしまった。
34はものすごく多い。
芝のウマ娘なら現役でいた年数にもよるが生涯で10~20戦程度が平均だろう。
それ以上ケガ無く走ればとても丈夫なウマ娘と呼んでもいい。
34戦、南部杯含めてまだそれ以上走る、などウマ娘の健康面を心配されるレベルだ。
さらに「レースに出しすぎだ、いつか故障するぞ!?」と、トレーナーのローテーション管理能力も疑われるだろう。
しかし、ガルディアコダンが故障したというニュースは聞いたことがない。
ガルディアコダンは、超が付くほどタフなウマ娘と言えるし、打出トレーナーはそれを承知の上で過密なローテーションを組み、高い勝率を叩きだしている。
「そして、その出走数から得られた経験がある。油断するなよインシー、相手は格上だ……!」
いよいよレースを始めます。
5戦しか走っていないお前が、34戦走ってきた奴に勝とうとしているんだ。
楽には勝てない。