ウマ娘 ブラス・トレーサー   作:takapon960

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南部杯編、決着。


第63話

ーーー52ーーー

 

「た!!」

 

実況には確かに見えた。

 

「1着はインシルカスラム!2着ガルディアコダン、その差1/2といったところでしょうか!」

 

観客から歓声が上がる。

 

最後まで見どころたっぷりだった今年の南部杯の勝者は、インシルカスラムに決まった。

 

インシルカスラム自身も、はっきりと、ゴールする直前で抜いたことを実感できた。

 

「へへっ……よっしゃー!見たか見たか見たかー!?」

 

インシルカスラムは全身でガッツポーズをして観客席を指さし、走りながら端から端までなぞっていく。

 

「アタシが!いっちばーん!」

 

インシルカスラムはその人差し指を高らかに上げた。

 

それに呼応してガッツポーズをする者や、同じく人差し指を突き上げる者が、盛岡レース場ではよく目立っていた。

 

「くっ……なんとも悔しい結果です!」

 

打出トレーナーは柄にもなく膝から崩れ落ち、軽く地面を叩く。

 

「ですが、この勝負は世紀の一戦でしたね。ガチンコの勝負にコダンのトレーナーとして参加できた、悔いはありません」

 

「ああ……俺もコダンの強さを改めて分からされた。こいつらと何回も戦うのかと思うと苦労しそうだ」

 

森内トレーナーは腕を組み、掲示板の表示を目に焼き付ける。

 

Ⅰ:7 "確定"。

 

 

「おーい!インシー、いるかー!?」

 

インシルカスラムが控室にもどり、クールダウンを行っていると、扉越しにガルディアコダンの声が聞こえてきた。

 

「いるぞコダン!開けて構わない!」

 

森内トレーナーが返事をすると。

 

ガチャンと乱暴に開けられた扉から、ガルディアコダンの緑色のパーカーが飛んできた。

 

綺麗なストレートを描いたガルディアコダンのパーカーはインシルカスラムの顔面に直撃。「ぶぇ!?」と鳴き声を出させてしまった。

 

扉の先にはパーカーを脱いでインナーシャツだけになったガルディアコダンが投球後のフォームで立っていた。

 

「インシー!これで終わりと思うんじゃねーぞ!次!東京大賞典!出ろよな!リベンジマッチだ!」

 

ガルディアコダンは顔にパーカーをかぶせられてモゴモゴしているインシルカスラムにまくしたてる。

 

ようやくインシルカスラムがパーカーを顔から引っぺがすと、同じく全力投球でコダンに投げつけて返却した。

 

「砂もついてるし汗でベッタベタじゃねーか!もちろん、受けてやる!」

 

インシルカスラムもまた、ガルディアコダンを指さす。

 

どうやら、このレースを通じて2人の関係は、喧嘩するほど仲がいい、というやつになったようだ。

 

「そして、同じこと何回でも繰り返させてやる!一生リベンジマッチ挑ませてやるからな!」

 

 

一方、時期と場所は変わって11月の大井レース場。

 

「最終コーナー、前に出た!良いタイミングでのオーバーテイク!」

 

「スピードが落ちない!さらに差を広げる!」

 

「ゴールイン!なんという安定感のある走り!文句のつけようがありません!」

 

1着を取ったウマ娘は被っていた"パイレーツハット"を取ると。

 

観客席に向かって空高く放り投げた。

 

歓声が一層大きくなり、彼女もまた、これからのダート界を引っ張っていくウマ娘なのだと、知らしめる。

 

「今年のJBCレディスクラシックの覇者は笠松のフルセイルサルート!貴女をダートクイーンと呼ばせてください!」

 

そう呼ばれたフルセイルサルートは思わず笑みがこぼれる。

 

ジャパンダートダービーでは、第2のオグリと呼ばれても、それに見合わないと舌打ちで否定したフルセイルサルート。

 

だが、JBCレディスクラシックを取った今なら。

 

ダートクイーンくらいの称号くらい、貰ってもいいだろう。

 

これでようやく、故郷の笠松にG1タイトルという錦を飾って、堂々と凱旋することができる。

 

「けど、やり残したことがあるわね」

 

フルセイルサルートは誰にも聞こえないほど小さな独り言をつぶやき、さっきまで走っていた大井レース場を見返す。

 

9月には「アタシがいないG1はちゃんと取っとけよなサルート!」と簡単そうにインシルカスラムが言ってくれたことを思い出す。

 

「約束は果たしたわ。東京大賞典で会いましょう、インシー」

 

 




これにて4章【「逃げ」は勝負から逃げない】終了です。

1年の内、残る大レースはあと2つ。
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