ーーー56ーーー
「待ってくれインシー!」
すかさず森内トレーナーが止めに入る。
「チャンピオンズカップと東京大賞典、両方出たら2連闘だ!負担が大きすぎる!」
ウマ娘医学的には、1か月に2戦をこなすのは許容範囲とされており、3戦以上から急にリスクが上がることが証明されている。
だが、それは普通のウマ娘の場合。
インシルカスラムが病弱で森内トレーナーもまたこれまで2連闘すら避けるほどローテーションに気を使っていたことは今更言うまでもない。
「せめてチャンピオンズカップに出るなら東京大賞典を諦めないと……」
「イヤだ!!」
インシルカスラムは即座に反撃した。
「東京大賞典は、サルートやコダンと約束した!テンカだって出る!アタシだけ身体弱いこと言い訳にして約束破れない!」
「--それに、さっきも言ったけど!走ったことない奴に、勝手に弱いって決めつけられて見下されるのも我慢できるか!」
普通のトレーナーならば、そう言われても「だからってお前の脚が壊れるまでやらなくてもいいじゃないか!」と反論するだろう。
しかし、森内トレーナーはインシルカスラムを担当した時にこう誓った。
ウマ娘の、やりたいように。
「……理事長。こうなったインシーはもう止められん」
森内トレーナーは秋川理事長の肩を叩いて、顔を上げるように促す。
「それに、俺にだってプライドはある。売られた喧嘩を買わないのは。何より、本人の意思に反するローテーションでは、インシー担当の名が廃る」
「理事長の悲願に、力添えさせてほしい」
その答えにようやく秋川理事長は土下座の頭を上げる。
額が腫れ、滝のように涙を流してぐちゃぐちゃの表情だった。
「大……感謝ッッッ!!礼を言うッ!インシー!森内トレーナー!」
「礼はアメリカ勢に勝ってからにしてもらおうか。インシー。やるからには、アンベールとハイエストフェローに一泡吹かすぞ!」
「任せとけ!アタシたちにケンカ売ったこと後悔させてやる!」
12月はあっという間に来た。
中京レース場の観客と賑わいは、いつもの1.5倍くらいになっている。
そのうち、1.0は日本の、特にインシーの活躍を見ようとしているいつもの観客たち。
残り0.5は、アメリカ人だった。
なんと、アンベールとハイエストフェローの応援のためだけに、海を越えて1万人以上のアメリカ人ファンがはるばるアウェイの中京レース場に駆け付けたのだ。
「The Winner will be Unveil.She's gonna shoot everybody!(勝つのはアンベールさ。彼女がライバルを全員撃ち抜いてくれると思うね!)」
「Nope, Fellow's western spirit will be win at last!(いいや、最後はフェローのウエスタン魂が勝つさ!)」
「I'll cheer Incy! If Japanese Umamusume beatdown them,It would be so exciting!(俺はインシーを応援するぜ!もし日本のウマ娘が奴らをぶっ飛ばせるならサイコーにワクワクするじゃねえか!)」
いつもと違う大盛り上がりを見せる中京レース場では急遽英語のアナウンスが追加されていた。
「Here are some recommended snacks.In the Chukyo racetrack, we are selling rice balls to eat while watching the Champions Cup.(オススメの軽食をご紹介しましょう。中京レース場ではチャンピオンズカップを観戦しながらで食べられるおにぎりを販売中です。)」
「Please refrain from any behavior that may disturb spectators or players, and follow the rules to enjoy the race.(他のお客様や選手のご迷惑となる行為はご遠慮いただき、ルールを守って観戦をお楽しみください)」
調べたところ、チャンピオンズカップはだいたい観客数3万人らしいので1.5倍なら15000人くらいアメリカ人か、と適当に設定しましたが。
15000人のアメリカ人が急に来日って航空会社大変そうだな()