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また別の日の体育館。
用意された机の上に空き缶が並べられている。
距離はちょうど10歩ほど、7mくらいだろうか。西部劇の映画などで決闘するときくらいの距離だ。
ハイエストフェローはホルスターにおもちゃのリボルバーを差し込んで精神を研ぎ澄ますと。
早撃ちの要領で抜いて、矢継ぎ早に狙いを定めてトリガーを6回引く。
放たれたスポンジの弾丸は面白いように空き缶に命中し、空き缶は6個全部倒された。
その間、およそ2秒弱だろうか。
見事な早撃ちにインシルカスラムは思わず拍手する。
「すごーい、全部当たってる!」
ハイエストフェローはドヤ顔をしながら、煙なんか出るはずのないおもちゃ銃の銃口に息を吹く。
「Even if I say so myself good shot!(我ながらナイスショットだ!)」
そう、2人はプレゼントとして室内の射的ゲームなどで使われるおもちゃの銃をたくさん持ってきてくれた。
日本でも玩具屋に行けば見かけるトイガンだが。
今回持ってきてくれたものはサイケデリックな色合いの銃やカートゥーンのキャラクターが描かれた銃、果てはマッドサイエンティストが考えたようなキテレツな銃まで日本では非売品のものばかりだ。
ハイエストフェローはその中から拳銃を1丁インシルカスラムに放り投げる。
「Incy! You try it too!(インシー!お前もやってみろよ!)」
「アタシ!?アタシ、屋台の射的もやったことないのに……」
インシルカスラムは拳銃を受け取って全体を眺めまわした後、ハイエストフェローの見よう見まねで構える。
ハイエストフェローはインストラクターよろしくインシルカスラムの姿勢や持ち方を直しながら、残っている空き缶を指さす。
「Okay, hold it steady with both hands, aim calmly, and believe yourself to pull the trigger!(そう、しっかり両手で持って、落ち着いて狙って、自分を信じて引き金を引くんだ!)」
インシルカスラムは言われた通り、当たると信じて引き金を何度か引く。
弾丸は目隠しされて撃ったのかと思うくらい明後日の方向に飛んで行った。
射撃の経験が一切ないインシルカスラムでは10歩どころか5歩の距離でもなかなか当たらないものだ。
「ダメじゃん。I can't hit at all.(全然当たんない。)」
思ったより射撃というのは難しいこと、そして自分のすごさが分かってもらえたハイエストフェローは勝ち誇ったように笑う。
「Harder than you thought, right? Try playing with it in your spare time.(思ってたより難しいだろ?暇なときにでも遊んでくれよな)」
そして、後ろで黙々と弾込めをしていたアンベールを手招きする。
「Hey Unveil! Show her what your skill too!(おーい、アンベール!お前も腕前見せてやれよ!)」
「Me? Sigh......I'm not good at shooting than Fellow.(私?はぁ……私、フェローより射撃は苦手なんだけど)」
アンベールはあまり乗り気ではなさそうに返事をした後、インシルカスラムに目配せして「アメリカ人だからってみんな銃使い慣れてるわけじゃないからな」と言いたげな視線を送る。
しかし、手元すら見ずに鮮やかに弾込めをしているその様子はどう見ても使い慣れている側だ。
「Her say that but awesome too! Look look......!(そうは言ってるけど、こいつもスゲーんだぜ?ほらほら……!)」
ハイエストフェローはニヤけた笑いのままアンベールの頭を持っていた拳銃でつつく。
すると急にアンベールの目の色が変わり。
コンマ数秒でハイエストフェローが持っていた銃を払いのけ、鮮やかに腕を掴んで動きを封じる。
ハイエストフェローの腕が極められ、曲がってはいけない方向に力がかかる。
「Oh gosh my ar......arrrrrrrrrgh!(ヤベ、腕が……いだだだだだだだ!)」
「No Incy. Cuz She have provoked me(違うの、インシー。こいつが先に仕掛けてきたの。)」
アンベールは慌てて弁明するが、特殊部隊顔負けのCQCを見せられては説得力が一層なくなってしまった。
「うん。とりあえず怒らせちゃいけないのは分かった」
自分が銃を向けられたわけでもないのにインシルカスラムはなぜか手を挙げてアンベールに後ずさりしていた。
これにて5章:Bring it!は終了します。
次回はブラス・トレーサーの最も大きな出来事となる6章に入っていきます。