ここを詳しく書く作品ってあんまりないと思います。
つまりはこういうことです。
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「あ゛……ッ、ぐ……ああああああああああ!!!」
インシルカスラムは倒れ込み、左足首を抑えてのたうち回る。
まるで、左足首を無理やり引きちぎられたような痛みがインシルカスラムに襲い掛かる。
「痛い」や「助けて」すら言葉にできず、ただ絶叫を上げるしかできないその様が、どれほどの激痛かを物語っていた。
しかも。
レースが終わるまで、競技者以外は立ち入り厳禁。
決着がつくまで、インシルカスラムは、激痛にのたうち回る状態のまま放置されることになる。
その叫びは、遠くのラストスパート中のガルディアコダンにも聞こえていた。
「ちくしょう……なんでだインシー!なんでこんなことに!」
夢にまで見た先頭のはずが、全く嬉しくない。
だが、レースは続けなければならない。
自分1人が失格になるだけならまだしも、全員が失格になって、そのうえ二次災害の危険性を冒してまで助けに行くことはできない。
「ガルディアコダン先頭!テンカバスター迫る!残り200!」
レースは順位が1つ繰り上がってテンカバスターが2位、フルセイルサルートが3位の位置に。
「これは届かないか!ガルディアコダン、ゴールイン!1着はガルディアコダン!」
ガルディアコダンはテンカバスターに1 1/2バ身ほどを離して、見事東京大賞典を制する。
だが、そんなことはガルディアコダンにとってはもうどうでもよかった。
ゴール板を突き抜けると、ガルディアコダンは急減速して、元来た道を睨みつける。
いますぐインシルカスラムに駆け寄りたいガルディアコダンだったが。
ゴールしても、後続がまだ走っているうちに逆走してはならない。
正面衝突の危険性があり、これもまた重大なルール違反だ。
「おいインシー!大丈夫か!!」
そうガルディアコダンが声をかけるが、見ればわかる。
全然大丈夫なんかじゃない。
「インシーを助けに行かないと……!」
「ダメよテンカ!まだ全員ゴールしていないわ!」
続いて、2着でゴールしたテンカバスターと3着でゴールしたフルセイルサルートが同じ方向を振り向くが、まだ後続が続々とゴールインしている。
「ごめんなさい!」
ガルディアコダンのゴールから3~4秒後、最後尾の11着だったウマ娘が謝りながらゴール板を駆け抜ける。
それと同時に残り10人のウマ娘、そしてさっきゴールしたウマ娘も急にUターンすると。
全員、自身の呼吸も整わないうちに「インシー!」と声をかけながら走ってきたコースを逆走しだした。
いくら正面衝突の危険がないとはいえ、結果が確定しないうちにコースを逆走する行為も褒められた行動ではないが。
今回は事情が事情のため、係員や周囲の人々も何も言えない。
その瞬間。
「救急です!負傷したウマ娘さんはどちらに!?」
地下バ道から担架や救急キットを抱えた救急隊員が続々と駆け付けてきた。
よく聞けば、大井レースの外あたりから救急車のサイレンがかすかに聞こえてくる。
「こちらです!あの栗毛の!」
2着でゴールしたテンカバスターが救急隊を案内するように走り出した。
インシルカスラムの故障発生から、1分が過ぎようとしていた。
1分で駆けつける救急隊員、結構優秀です。
それでも遅すぎる。