「--なんで謝ってんの?トレーナーは何も悪いことしてないって!」
しかし、申し訳なさそうに下がっていた森内トレーナーの頭を、インシルカスラムは強引に上げさせた。
「え?いやしかし、インシルカスラム、君の体調が……」
「あんなのちょっと暑かっただけだし!それにほら!今はアタシ何ともないだろ?」
インシルカスラムは触れよ、と言わんばかりに森内トレーナーに顔を突き出した。
森内トレーナーがおそるおそる触ると、たしかに平熱に戻っているが……。
「あ、ああ。今はもう大丈夫だが……」
「だったらいいの!それに、コレ、ちょうどほしかったしトレーナーにはお礼言わないと!」
「ありがとな!」と体調管理に文句どころかむしろお礼を言われた森内トレーナーは面喰らってしまう。
まあ、これ以上蒸し返してもインシルカスラムの性格的にくどいと言われるだけだろう。
「……まあ、復活したなら一安心だ」
次は同じ轍は踏まぬ、と森内トレーナーは心の中で誓う。
「あとさ!毎回フルネームでよばれるのなんかよそよそしい!アタシのトレーナーなんだしさ……」
そうまくしたててインシルカスラムは直前までの記憶をたどるように首をかしげる。
インシー、ストップ!!こっちに!とっさに森内トレーナーがそう呼んでいたことを思い出した。
「そう……インシー!アタシのこと、そう呼んでよ!」
ウマ娘は本名の一部を取ったニックネームで呼び合うのが普通。例えばオグリキャップなら誰もがオグリと呼ぶ。
しかし、インシルカスラムはインシル?インシルカ?カスラム?スラム?と、どこで区切るかわかりづらかった。
インシーは親しみやすく、わかりやすいニックネーム。
何より、本人がそう望んでるなら呼ばない理由はない。
「よし。インシー、2本目の練習はいけそうか?」
「当然!さあ、やるぞー!」
インシルカスラムは新しいニックネームで呼ばれて嬉しそうに返事をして立ち上がり、意気揚々とグラウンドに戻っていった。
場所は変わってトレセン学園の理科準備室。
ここにはアグネスタキオンの研究室、そしてマンハッタンカフェのオカルティズムなスペースがあることで有名な場所だ。
そして、研究室の椅子には新しいデータを手に入れて満足そうなアグネスタキオンが。
「カッフェ~。ちょっとこの写真を見ておくれよー?」
アグネスタキオンはマンハッタンカフェに1枚の写真をひらひらと見せつける。
写真に写っていたのは、ちょうど練習中だった、インシルカスラムだ。
あまり写真には目もくれず、マンハッタンカフェはいつも通り、鬱陶しそうな顔でコーヒーを挽き続ける。
「あなたに付き合っている暇はないのですが」
いつもならまた相手にされなかったか、まあいい。とアグネスタキオンは独り言を言い続けるだろう。
しかし。今回はそんなマンハッタンカフェにさらに写真を近づけた。
「--今回ばかりは、真面目な話だよ、カフェ。君の意見も聞きたい」
ようやくマンハッタンカフェはコーヒーミルを回す手を止めた。
そこまで言うなら仕方ない、とため息をつきつつ写真を見る。
「この子が何か?」
マンハッタンカフェにとってインシルカスラムは会ったこともなければこれから会う予定もないし、路線も違うので対戦する予定も一切ない赤の他人だ。
「この子、インシルカスラムくんは、ダートでデビュー予定のウマ娘だ。何か思うことはないかい?」
そういわれてカフェはインシルカスラムをじっと見る。
「……なんでしょう、この子。不気味です」
「不気味?」
アグネスタキオンは写真を見直す。
写っているインシルカスラムは元気よくスピードをかっ飛ばして走っている。不気味そうには見えないが。
「"死相が見えます"」
つまり、インシルカスラムは近いうちに死亡するだろう。マンハッタンカフェはそう言っているのだ。
そして、マンハッタンカフェが見える相、というのはオカルトでは片づけられないほどよく当たる。
「ほう?カフェはそう表現するのか……十分だよ。ありがとうカフェ」
「……そうですか」
マンハッタンカフェは赤の他人なインシルカスラムに少し戸惑いを覚えつつも、コーヒーを挽く作業に戻った。
改めて、アグネスタキオンはインシルカスラムについてのデータ資料を見比べる。
「……キミは超がつくほど病弱なのかい?なのに、砂に噛みつくように走って、脚に多大な負荷をかけている」
「……君には。プランBが必要なのかもしれない」
アグネスタキオンにとっても、インシルカスラムは今は赤の他人。しかし。得られたデータからは。
どうも、ただの他人同士で終わる気はしなさそうだった。
急にタキカフェが出てきましたがなぜかと言うと、アグネスタキオンのほうに用があります。
理由は後々。
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