まさかおもしろミームとしてではなく、ちゃんとこの裏に込められた意味も盛り込んだオマージュとしてこの話を書くことになるとはね。
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つまり、レースに復帰するには最低でも5カ月はかかる。
どうあがいても、2か月後のフェブラリーステークスには間に合わない。
それを聞いたインシルカスラムは医者の腕を掴んだ。
「じゃあフェブラリーステークスは!?どうにかして出れないの!?」
「2月のレースは諦めてください!出走どころか、自力で歩くこともままなりません!」
それどころか、5月に開催されるかしわ記念すらも絶望的だ。
次回G1は、最短でも6月に行われる帝王賞になる。
それを聞いた森内トレーナーの目の前が真っ暗になった。
ダート最強だけじゃない。
ダートの世界で唯一の称号である"春秋ダート"は、シニア級でチャンピオンズカップと"フェブラリーステークス"を両方勝利することが条件だ。
インシルカスラムなら、狙える称号だっただろうに。
それは、手の届かないものになってしまった。
森内トレーナーは絶望に打ちひしがれ、膝をつく。
自らを恥じ、大声を上げて号泣したいところであったが、インシルカスラムから先ほど禁止されたばかりだ。
森内トレーナーは歯を食いしばり、己の気持ちを押し殺して耐えることしかできなかった。
そして、インシルカスラムは。
「そんな……」
医者を掴んでいた手を力なくベッドに落とした。
「先ほどの様子を見るに、レースに復帰する気なのですよね?それでしたらリハビリも楽ではありません」
医者は心を痛めながらも説明を続ける。
「身体的にはもちろんのこと、精神的にも困難を極めます。レース中に骨折したウマ娘の多くは重いトラウマ症状を抱えますから……」
それを聞いたインシルカスラムに、だんだんと東京大賞典の記憶がよみがえってくる。
急に左斜めに傾く視界。
次々と抜かれて、あっという間に遠くなっていくバ群。
ライバル、観客、実況、トレーナーが悲痛な叫びで自分の名前を呼ぶ光景。
そして、地面に手をついた後に来た激痛。
ちぎれた、なくなった、では到底表現が足りないほどの。
きっとあの時、意識を失えたら、いっそショック死でもできればとてつもなく楽だっただろう。
そう思うほどなのに、そうさせてもらえないほどの凄まじい苦痛。
そんな1秒だって耐えられない痛みが1分以上続いていた。
気が狂うかと思った。
今、痛みがないはずの左足に、痛みが蘇ってきたようにさえ感じてきた。
「っ……あぁ…………!!」
インシルカスラムは歯を食いしばり、首を横に激しく振って、トラウマを振り切ろうとする。
「インシー、大丈夫か!しっかりしろ!」
「まずい、鎮静剤を……!」
森内トレーナーはインシルカスラムの手を握り、医者は注射の準備をしだす。
医者の予想通り、インシルカスラムもレース中に故障したことでトラウマを抱えてしまっていた。
それを、インシルカスラムは握られていないほうの手で医者の注射を遮った。
「大丈夫……アタシは……こんなのに負けたりしない……」
インシルカスラムはゆっくりと顔を上げ、深呼吸で落ち着きを取り戻す。
存在しない痛みなどに屈することは、インシルカスラムのプライドが許さない。
「……あなたは、強いウマ娘だ」
医者は持っていた注射の針にカバーを戻した。
この話を身内に見せた時「インシーってメンタル強すぎないか?」といわました。
さて、ここで問題です。
「"インシーのメンタルは本当に強いのでしょうか?"」
答えは7章で。