ウマ娘 ブラス・トレーサー   作:takapon960

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この話はブラス・トレーサーという話を作る上で一番伝えたかったこと。


第88話

ーーー76ーーー

 

「……ケガしたのは別にいい。それより」

 

インシルカスラムは、この結果を受け入れるようにゆっくりと話を始める。

 

ウマ娘はプロ野球選手やサッカー選手のように十何年とできるスポーツではない。

 

5カ月の離脱はあまりに大きい痛手のはずだが、それよりも大事なことがある、というふうに話を続けていく。

 

「悔しいのは……途中までアタシが……1着だったんだよ……」

 

インシルカスラムは、両手で顔を押さえて、悔しそうに泣き出す。

 

2000m中、1500mまでは、インシルカスラムはずっと1着の位置をキープしていた。

 

安定した走りで、2着のガルディアコダンを引き寄せていなかった。

 

あのまま無事にレースが進めばインシルカスラムが1着になる未来が最も確実なはずだった。

 

なのにどうして。

 

どうして、そこにたどり着かせてもらえなかったのか……。

 

東京大賞典に出るという選択をした時点で、ケガは避けられなかったのかもしれない。

 

それでもよかった。

 

ただあと500mでよかった!あと30秒あればよかった!

 

それだけ耐えられたなら、インシルカスラムは、東京大賞典を獲得できたのに!!

 

運命は、それを許してはくれなかった!!!

 

 

「アタシが1着になるはず、だったんだよ……っ!!!」

 

インシルカスラムは、手の隙間からボロボロと涙を流して泣き叫んだ。

 

激痛に襲われても、全治5カ月と言われても、涙1つ見せなかったインシルカスラム。

 

彼女にとってそんなことよりも泣きたかったのは、"優勝できるはずのレースで優勝できなかったこと"だったのだ。

 

結果的にインシルカスラムの東京大賞典は"競争中止"という順位が付く。

 

途中までは走っていたため戦績にはカウントされ、そして勝利としては扱われない。

 

競争中止、という順位は、事実上"失格"と同じ扱いだ。

 

インシルカスラム本人には全く非がないのにもかかわらず。

 

「……そうだな。俺は、インシーが1着だと思ってる。多分、コダンだって」

 

森内トレーナーはそうフォローするのが精いっぱいだった。

 

 

今日の朝、森内トレーナーとインシルカスラムは、東京大賞典をパパッと楽に獲得できると思っていた。

 

それなのにレース中に骨折し、激痛に襲われ、結果は台無しになり、今後のレース人生すらメチャクチャになってしまった。

 

今、病院で絶望の底の底に叩き落されているなんて。

 

今日起きたころには、想像もしていなかった。

 

2人が絶望のあまり、言葉を失っていたその時。

 

医者がインシルカスラムの両肩を掴んだ。

 

「インシーさん。立場上、言うのを控えようと思っていましたが……」

 

医者の言葉は一転して力強くなっていた。そして。

 

"インシーさん"と呼んだその医者は、森内トレーナーの真似で呼んだわけではなく。

 

まるで、ずっと前からそう呼んでいたかのようなニックネームの呼び方だった。




ウイニングポストには「疲労」というパラメータがあり、◎、〇、△、×の順で悪化していきます。
この時、たかぽんは「×だと流石に出走させたくないが、ギリギリ△だ!なんとかなるだろう!これを走り終えたらゆっくり休ませてあげよう!」と思い、出走させました。


私が愚かでした。
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