まあ、あるよね、MVPの表彰式とか。
で、MVPの表彰式に今のインシーが出たら、こういう雰囲気になるよね。
と思いながら書きました。
ーーー78ーーー
1年の全てのレースが終わり、年末直前。
大晦日を迎える前には、今年のウマ娘の表彰式が開催される。
当たり前だが、表彰者の中にはもはや知らぬ者はいないであろう名前が並んでいる。
シニア級最優秀賞/総合MVP:オグリキャップ
スプリント最優秀賞:ダイタクヘリオス
そして。
ダート最優秀賞:インシルカスラム。
東京大賞典での悲劇があってなお、今年のダート界最強は、インシルカスラムで決定した。
表彰式当日。
会場に向かう者は、誰もがその姿を見て言葉を失っている。
無理もない。
今年の表彰者であるインシルカスラムが左足を包帯でぐるぐる巻きにして、車椅子に乗っていたら皆そういう顔をするだろう。
「……アタシ、なりたくてこうなったわけじゃないんだけど」
インシルカスラムは物珍しそうに見てくる人々を少し不機嫌そうな目で睨み返す。
「祝いの席だ、あまり気にするな」
車いすを押す森内トレーナーは首を振りながらインシルカスラムに語り掛ける。
それを聞いてインシルカスラムは睨むのをやめて車椅子にふんぞり返りなおした。
やがて、会場の入り口が見えてくる。
会場内の雰囲気は相変わらず、盛り上がっているが、その中でお通夜のようなオーラを出している人がちらほらいる。
インシルカスラムに何があったかを知りながらおめでとう!などとは言えない。
そして、入り口前には同じ受賞者である友人たちがインシルカスラムを見て駆け寄ってくる。
ダイタクヘリオスとオグリキャップは、車椅子状態のインシルカスラムをみて目を見開いた。
ケガした、という悲報は聞いていただろうが、実際に厳重に包帯が巻かれている様を見て、実感がどんどんと湧いてくる。
「インシー大丈夫なの!?怪我したって聞いた時ガチサゲしんどみぴえんモードだったんだけど!」
「インシー、必要なら肩を貸そう。今くらいは私たちを思う存分頼ってほしい」
インシルカスラムは表情はあまり悲しみを見せずに頷いた。
「大丈夫!今日は喜ぶ日だからな!」
それが強がりであることは誰にでもわかったが、2人はあえて口に出さないことにした。
「笠松からここまで来れたのはみんなのおかげだ。改めて、お礼を言わせてほしい」
「来年も爆速鬼逃げでブッカましてくっからよろー!」
今年の最優秀賞授賞式が始まり、ジュニア級、クラシック級ときて、シニア級最優秀賞のオグリキャップ、そしてスプリント最優秀賞のダイタクヘリオスのコメントが続く。
インシルカスラムはオグリキャップとダイタクヘリオスに挟まれる形で、車椅子に座ったまま壇上に上がっていた。
「それでは次にダート最優秀賞を獲得したインシルカスラムさん!戦績は8戦6勝です!」
「今年のクラシック級のダートG1を総ナメし、シニア級のベテランダートウマ娘にも勝利し、アメリカの強豪にも迫る強さを見せてくれました!」
芝はジュニア級部門、クラシック級部門、シニア級部門、ティアラ部門、スプリント部門……という風に今のクラスや路線によっていくつも表彰部門が分かれているが。
ダートはダート部門1つしかない。クラスや路線は全部一緒くただ。
つまり。インシルカスラムがそれに選ばれたということはシニア級のテンカバスターやガルディアコダンを差し置いて名実ともにダート最強に君臨したということだ。
「その、東京大賞典は残念でしたが……」と司会が口ごもってインシルカスラムの紹介が終わる。
その紹介に、今までインシルカスラムを詳しく知らなかった者からどよめきが聞こえる。
「8戦6勝、内G1が3つ……!」
「実質日本では無敗のようなものだ」
「こんな大一番のレースで離脱だなんて……」
おそらくあまりダートに関わらない者たちもダートでケガしたウマ娘がいる、ということくらいは噂に聞いていただろうが。
まさか、そんなに強いウマ娘だったとは。
そして、まさかそんな最後のタイミングで無念のリタイアをしていたとは……。
その悔しさは初対面であろうと容易に察せられる。
「--それではインシルカスラムさん、ファンやライバルの方々に向けてなにか伝えたいことがあれば」
ウイニングポストで表彰されるインシルカスラムを見ながら思ったことは
「表彰式に車椅子包帯で来たらオグリとヘリオスはぎょっとするだろうな…」
でした。