読む前に1度、79話のあとがきに戻っていただければ幸いです。
なぜこの章のタイトルが「最後の一戦」ではなく「サイゴの一戦」だったのか?
答えは、一歩間違えれば「最期の一戦」になったかもしれなかったから。
ーーー79ーーー
司会はインシルカスラムに向けてマイクを差し出し、インシルカスラムは素直にマイクを受け取った。
「あーあー……よしっ」
インシルカスラムは顔を上げて、表情を明るくする。
「ファンのみんな、アタシを応援してくれてありがとう!今日初めましての人もアタシのこと覚えてくれよな!」
「今はこんなだけど、アタシはまだ諦めない!絶対復帰して、もう1度だけでも、G1勝って見せるから!」
インシルカスラムは辛さ、苦しさ、悔しさを吹き飛ばすように、はきはきと明るく話す。
それに、沈んでいた会場の雰囲気がだんだんと元に戻りだした。
「あの子、まだまだやる気なんだな」
「根性のある子だ……」
「奇跡の復活ってやつが、見れるかもしれん」
インシルカスラムはこんなことで諦めるウマ娘じゃない。
この言葉だけで多くの人にそれを知ってもらえただろう。
「それとコダン!!」
すると急にインシルカスラムは急に会場にはいないガルディアコダンの名を叫ぶとバッと車椅子から立ち上がった。
「あっ、ととと……」
もちろん、片足しか使えないことを忘れており、前にふらついて倒れそうになったところを。
隣にいたオグリキャップとダイタクヘリオスに抱えられた。
「インシー、急に動くと危ないぞ」
「ちょちょちょ、ケガしてんだから落ち着いてってば!」
インシルカスラムは2人に支えられたまま前を向くと、マイクを持ち直し。
会場の参加者へのコメントの2倍くらいの声量でまくし立て始める。
「東京大賞典、あんなのでアタシに勝ったってカウントしてねーだろうな!?ホントはアタシの勝ちだったんだからな!」
「違うってんなら来年もアタシと勝負しろ!絶対勝ってやる!」
急にどこかにいるライバルに喧嘩を売り出したインシルカスラムに会場の参加者は面食らう。
「テンカ!サルート!アンタたちとも!どこかで勝つまでアタシはやめないからなー!」
「それと、Unveil! Fellow! Don't pity me!(アンベール!フェロー!アタシのこと、かわいそうだとか思ってんじゃねーぞ!)」
「Watch me win again in silence!(アタシがもう1回勝つ瞬間、黙って見とけ!)」
「--それくらい!」とインシルカスラムはマイクを司会に放り投げる。
「あ、ありがとうございました。来年のライバルたちとの激闘、楽しみにしています!」
司会は慌てながらも、なんとか最優秀賞の表彰式を締めくくった。
「アイツ、これ世界中に放送してんの忘れてんじゃねーのか……」
部室ではガルディアコダン、テンカバスター、フルセイルサルートが3人一緒になって、1つしかないテレビの表彰式に釘付けになっていた。
名指しされたガルディアコダンは少し恥ずかしそうな表情をする。
「悪い気はしないでしょう?」
「……まあな」
フルセイルサルートは名指しされて当然でしょうという風にすました顔だ。
ガルディアコダンとしても、恥ずかしいがまんざらでもない。
「うん。来年、一緒に走ろうね」
テンカバスターは画面の中のインシルカスラムに向かって手を握る。
テンカバスターは心の中で「そして、私が勝つからね」という言葉を付け加えた。
3人とも、内心表彰式でライバルとして名指しで宣言されたことをうれしく思っているようだ。
「……Keep your head up, Incy.(諦めないで、インシー。)」
「Yes, You can do it!(ああ、お前ならできるぜ!)」
そして、遠く離れたアメリカにいるライバルたちも同じく。
次回から7章に写ります。
はじめて、サブタイトルとして、レース名がつかないいわゆる闘病生活編を描いていきます。