ウマ娘 ブラス・トレーサー   作:takapon960

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7章はインシーがケガと戦うだけの話ではありません。

その間、森内トレーナーには地獄がやってきます。


第93話

ーーー81ーーー

 

年が明けて1月1日。

 

ウマ娘の中には帰省する者もちらほら出てきており、特に用事のないトレーナーであれば年始休暇も取れる頃なのだが。

 

森内トレーナーは休みなんか取っている場合ではない。

 

元旦から、理事長室ではスーツ姿の強面の初老の男が、険悪そうな雰囲気で森内トレーナーを問い詰めようとしていた。

 

恐らく、URA本部から派遣されてきた重役だろう。

 

中には秋川理事長もいて3人だ。

 

立場上は重役たちよりも秋川理事長のほうが上なのだが、むしろ、秋川理事長は重役に問い詰められる側にいる。

 

ウマ娘の故障はURAとして重く受け止めなければならない由々しき事態だ。

 

そこだけは芝もダートも関係ない。

 

インシルカスラムの故障に対して、URAでは第三者委員会が設けられ、原因の調査と再発の防止策を取ることになった。

 

……しかし。

 

原因など、調査するまでもない。

 

今行われているのは、原因調査という名のついた査問会議であり、森内トレーナーの尋問裁判だ。

 

「とんでもないことをしてくれたな、森内トレーナー……」

 

重役の男は重々しく会話を始める。

 

明らかに、森内トレーナーを信用せず、敵として認識しているような声だ。

 

「君はジュニア級の頃から、インシルカスラムが健康面に不安があることを知っており、その上で普通のウマ娘なら許容範囲である2連戦をあえて避けてきた」

 

「ここまでは間違いないか?」

 

重役の男は資料を見ながら森内トレーナーに確認する。

 

「……はい」

 

森内トレーナーはやや弱々しく頷いた。

 

「ではなぜ、チャンピオンズカップと東京大賞典、2連闘に踏み切った?」

 

そこまで問い詰められ、秋川理事長の顔が青ざめる。

 

元はと言えば、秋川理事長が無茶を承知でインシルカスラムにチャンピオンズカップの出走を頼み込んだのが原因だ。

 

最終的に決定したのは森内トレーナーだが、秋川理事長もこの悲劇の共犯、として見られるのは何ら不思議なことではない。

 

森内トレーナーはそこで黙りこくってしまう。

 

 

重役はバンッ!と激しく机を叩いた。

 

「"インシルカスラムならどちらも取れる"、そう思ったからだろう!?」

 

重役は声を荒げ、怒りをあらわにした。

 

「ああ、そうだろうとも!インシルカスラムはダート界でも類まれなる才能を持ったウマ娘だ!私も今年のダートG1を全て取るのではと思ったさ!」

 

「だが、森内トレーナー!君は、結果としてインシルカスラムに防げたはずのケガを負わせた!」

 

「--目の前のG1、2つに目が眩んだのだろう!違うか!?」

 

重役は森内トレーナーのトレーナーとしてのローテーション管理不足を厳しく追及する。

 

森内トレーナーは両方の拳を握り締めた。

 

「返す言葉もありません……」

 

インシルカスラムならどちらも取れる、と思っていたのは本当のことだ。

 

「なんと愚かなことを!G1タイトルの数を増やすためなら、担当ウマ娘の脚など壊れても構わないつもりだったのか!?」

 

「そ……それは違うッ!」

 

そこまで来て、初めて秋川理事長が反論の声を上げた。

 

「森内トレーナーは常に、インシルカスラムの体調に細心の注意を払っていた!壊れても構わないなど断じてあり得ないッ!」

 

インシルカスラムならどちらも取れる、と思っていたのは本当のことだが。

 

G1タイトルの数を増やすためなら、インシルカスラムは壊してもいい、と思っていたなど絶対に違う。

 

これは、レースの世界では可能性をゼロにすることはできない、不慮の事故だと秋川理事長は主張する。

 

しかし。

 

それで重役が納得するなら、こんな尋問は、最初から行われない。

 

「ではなぜこのようなことになった!?レースを1つ減らす、それだけでこうなる可能性を下げられたではないか!それができなかったと!?」

 

「くっ……」

 

秋川理事長は次の言葉が出てこなかった。

 

チャンピオンズカップも東京大賞典も、クラシック級のように一生で1回しか出られないレースではない。

 

どちらか1つ減らして来年に回したところで、何も問題はなかったはずだ。

 

 

「森内トレーナー。潔く罪を認めたことだけは評価してやろう。時間の手間が省けた」

 

罪、とはっきり述べたうえで、重役は机の上にある1枚の書類を拾い上げる。

 

そこから分かることは。

 

森内トレーナーがどう弁明しようと、重役は処遇を変えるつもりは一切なかった、ということだ。

 

「URA所属トレーナー、森内洋一。君は担当ウマ娘に防げたはずの故障を負わせ、トレーナーとしてあるまじき過失・失態を犯した」

 

「よって、今年1月末をもって、君のトレーナー資格を剝奪する」

 

それは、紛うことなき、極刑の宣告であった。




何とかしなければ、ブラス・トレーサーはバッドエンドで物語を閉じます。

↓よろしければあなたの意見をください。(展開には影響しません)

森内トレーナーはインシーが病弱なウマ娘であることを知っていながら、無理な連闘させた結果、骨折させてしまいました。 あなたの意見は?

  • トレーナー失格だ!クビにしろ!
  • ペナルティを受けるべきだ!
  • 事情があったなら仕方がないのでは?
  • トレーナーは何も悪くない!
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