最後、急ぎ足な自覚あり
短編です……
夜の10時に投稿するつもりかもしれなくもないと思われなくもないとおもいます。
────ある日、一つの尊く儚い命がこの世へと産まれ堕ちた。
今、世界は魔王の支配に困窮し、光を求めて止まない。多くの町や集落は魔王によって攻め落とされ、魔王は人間には使えない魔法を巧みに操り勢力を広げていった。
人々は毎日の食べ物にも困り、いつか魔王の軍勢が攻め入って来るのではないかという不安に泣きながら夜を過ごしている。
そんな中産まれた国王の息子、それは人々にとって希望の星であった。このままでは国は滅ぶ、そう考えた王は苦肉の策として、自身の息子を勇者として育て上げる決心をした。
王とて人の親、子に対する情は勿論持ち合わせている。しかし、彼は王になると決めた瞬間から、親としての幸せを捨て、王として生きることを自身に定めたのだ。
その息子の名前はカイン。彼は誰よりも努力を重ね、勉学でも剣術でも精一杯手を尽くした。しかし、カインには才能が無かった。
確かに彼は努力を積み重ね、一般よりも優れた能力を示した。
だが、それだけではダメなのだ。
勇者────それは圧倒的でなければならない。
誰よりもカリスマに溢れ、誰よりも優れ、誰よりも勇気に満ち足りた人間でなければならない。
カインにはそれが無かった。たしかに優しかった、しかしそれだけだった。たしかに優秀だった、しかしそれだけだった。たしかに少しの勇気があった、しかしそれだけだった。
人々は彼に失望し始めた。カインでは魔王を倒すことはできまい、そんな王の心が彼にも伝わったのか、カインは更に激しい鍛練を続けた。手のひらには血豆ができ、その筋肉は歴戦の猛者を思わせた。
しかし────それだけだった。
カインは十六才になった。
そんな時だったのだ。
────本物の勇者が現れたのは。
その女性は、カインの幼馴染みのエメルダであった。
彼女は三年前に突如行方不明となり、しかし今唐突に勇者にしか扱えない聖剣を携えてやって来た。行方不明だったころの話は一切しなかった、だが、聖剣があった。何故、そう口を揃えてもそれがある限り、彼女は勇者なのだった。
彼女はカインとどちらが本物の勇者なのかを賭けて一騎討ちを行った。
残ったのは…………カインの惨敗という結果であった。
圧倒的までの実力差を見せつけられ、カインは一方的に蹂躙された。
こうなれば彼女が勇者なのは、火を見るよりも明らかだった。
気がつけば、誰の目にも、既にカインの姿は写っていなかった。
* * sideカイン * *
「カイン、貴様は我々を騙し、勇者という名前を騙った。これは重大なる罪である」
────僕が何をしたというのだろう。
僕は騙してなんていない。勝手に期待して、勝手に夢を見て、お前らが僕を型に嵌めたんだろう?それなのに……
それで、別の手段ができたら要らないって。そんなのって………………
「それは、死を以て償う他あるまい」
人々はそれに賛同した。新聞はカインを極悪人として連日記事にした。
それもそうだ『本物』があるなら、誰もわざわざ『偽物』の贋作なんて必要ないだろう。
「あいつも哀れだよな、いつも馬鹿みたいに鍛練して。いや、馬鹿なのか」
カインを蔑み、嘲笑う声が聞こえる。誰もそれを咎めない、当然だ。みんな心の中ではそう思っているのだから。
「それでも結局『偽物』なんだってさ、ハハッ。阿呆は救いようがないな、勇者さまとは格が違うんだってさ。いつも、自分を勇者だと信じて疑わなかった、その罰に決まってる。身の程を知らない罰さ」
周囲の人々はそれに賛同した。
打って変わり、その男はうっとりしたような顔になる。
「────それにしても……本物の勇者さまは『偽物』と違って美しいなぁ」
誰もが頷く。もう、カインの存在なんて最初かららまるでなかったかのように────
最初は、憧れだった。そう、カインは思った。
父上は厳しくも優しく、常に民のためを考える姿はいつだって僕の見本であり、手本だった。
母上は病弱だったけれど、誰よりも優しい人だった。僕も母上のように優しく、そして強く在りたいと願っていた。
────考えるな。
歯車が狂ったのは、きっと母上が死んだ時だろう。
父上は僕の顔を見なくなった。僕はその理由に気がついていた。
────考えるな。
僕が……変わりに死ねば良い、そう思っていたのだ。
「かんが……えるなっ!」
僕は木刀を投げ飛ばした。
「あぁ、あ…」
僕は慌ててそれを拾いに行った。
────なんて滑稽なんだろう。
そういえば、この木刀は父上からのプレゼントだったっけな。
辛い、辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛いつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらい。
もう、とてもいきていけない。
────カインは逃げ出した。
追っ手は来なかった。
誰もが『本物』の勇者に夢中で、『偽物』の勇者になど欠片の興味も無かったのだ。
「────ぁああぁああっ!!」
深夜、満点の星空にカインの咽び声が響き渡る。
涙は留まる事を知らずに流れ落ち、彼は一人自問自答する。
何が悪かった?
鍛練を怠ったことは無かった。様々な方法を試し、強くなるために努力を重ねたはずだ。それが、たった三年修行しただけの幼馴染みに負けた。
才能が無いということは理解していた。だが、余りに可笑しいではないか。今までの僕の苦労は全て無駄で、魔王を倒すのは聖剣を手にしたエメルダその人であろう。
僕という存在は誰からも忘れられ、記憶から抜け落ちる。
「無駄……そう、無駄だったんだ……何もかも」
────本当にそうなのか?
僕の人生はことごとく無駄で、あの日々も、辛く苦しいあの時間も。
そんなの……悲しすぎる。
僕は……
────僕は『本物』が羨ましい。
人々の光として戦い、救いとなる。僕が子供の頃から常々言われてきた言葉。
あぁ、羨ましい……
でもさ、僕は凡人で、『偽物』で。
『本物』には到底及ばない。
「いや……」
でも────少しくらい、やり返してやりたいじゃないか。
僕の居た意味はあったのだと、そう、証明してやりたいじゃないか。
これは僕の、きっと最初で最後の『反抗』だ。
「魔王を────倒してやるっ!」
抗え、今、歴史を変えろ────
* * * * * *
魔王を倒す為に、そう考え始めた僕に、最初の難題がぶつかってきた。
そもそも魔王は聖剣でしか倒せないのだ。
だからこそ聖剣を携えてやって来たエメルダを、誰もが勇者と認めた訳で。つまり僕が魔王を倒すには聖剣に変わる新たな武器、ないしは方法を見つける必要がある。
たとえ魔王と対等に戦う実力を身に付けたとしても、それが無いと始まらない。
そう考えた僕は、まず聖剣のルーツについて調べ始めた。どうして聖剣は魔王を殺せるのか、どのように聖剣は生み出されたのか。
大昔の事であったためなかなか資料が見つからない、それはそうだろう、簡単に見つかるなら既にそれは創られているはずだ。
資料が無いならば話を聞く他あるまい、そう考えた僕は、この世の対話が行える種族の中で最も長寿なエルフの住む里へと向かった。
「ここがエルフの里か……」
エルフの里は樹海のど真ん中に位置していた。その為なかなかに苦戦するはめとなったが、必要経費だと割り切ることとした。
木々に住み処を作るエルフ達は、上からの攻撃手段として弓矢を得意とする。
礼儀に厳しいエルフなので、粗相をすれば撃ち抜かれるかもしれないと恐怖しながら、僕は情報収集を始めた。
意外にも優しいエルフ達は、親切に話を聞いてはくれたが、あまり有益な情報を得る事はできなかった。
それもそのはず、エルフは確かに長寿だが皆が皆長く生きているとは限らないのだ。
僕はこの里で最も長寿なエルフは誰かと質問した。すると彼らは口を揃えて『長老だろう』と言った。
僕は長老の住む一番大きな屋敷へと足を運んだ。
* * * * * *
────どうやら阿呆がやって来たようだ。
それが儂、レヴィアの元へ訪ねてきたカインとやらへの印象だった。
アポを取らずに突撃してきた彼は、当然門番に追い返された。それくらいならエルフの中にも居る、しかしカインは次の日もやって来た。
次の日も、その次の日も、彼は粘り強くやって来た。
流石の儂もこれには呆れ返り、儂の側近も此処までの馬鹿は久し振く見ていないなと言うほどであった。
カインが初めて訪ねてきてから、二週間が経った。
いつまでも諦めない彼に痺れを切らし、儂は三人の護衛を付けて会ってやることにした。
そうして初めて儂はカインと出あった。一目見た瞬間から分かった。こいつは巷で有名な『偽勇者』であると。なにせ人々をああまで期待させた存在だ、知らぬという方が無理があるだろう。
何日もここへ訪ねてこられた鬱憤を晴らすがごとく、儂は皮肉げに彼を見下ろす。
「ふんっ…誰かと思えば人間の国の『偽物勇者』じゃないか。残念ながら我が国も乞食には困っていないものでね、お前のような……」
そこまで言って気づく、儂を真っ直ぐと見つめるその瞳の輝きに。
静かに燃える蒼の眼は、確かなる意志と決意が感じられた。思わず声が途切れ、彼は言葉を発し始める。
「────魔王を、倒したいのです」
もしその気迫を直に感じていなければ、そんなのは妄言だと切り捨てていただろう。しかし、この男にはそれをさせない力を受けとらせるのだ。
だが、儂も無能ではない。
「聖剣がなければ、何も出来まい」
そう儂が言葉を出すと、カインは身を乗り出してくる。
「私は、まさにその聖剣について知りたいのです。聖剣……初代勇者が行方不明になってから突如てして現れた伝説の剣。それは、一体どのようにして造られたのか。その情報を求めて、僕……失礼、私はこのエルフの里で最も長寿な貴女のもとへとやって来たのです」
こやつは、本当に魔王を倒そうというのか。
聖剣……知ってはいる、それがどのように出来たのかを。だが、それを教えたところで……
────いや、もしかしたらこの男なら。
話してみる位の価値はあるかもしれない。
「……分かった。教えよう、しかし……これは他言無用で頼むぞ」
儂がそう言うと、カインは嬉しそうに晴れやかな笑みを浮かべ、こちらを真っ直ぐに見つめる。その期待に応えようと、そう思った訳でもないが儂はいっそう気合いの入った語りだしを行う。
「聖剣は、簡単に言えば……初代勇者の魂で造られた剣だ。その為、初代勇者に認められた高潔な精神を持つ者にしか扱えないし、初代勇者の魂に焼き付いた魔力や身体能力によって強化される」
儂が唐突に語りだしたことに、側近と護衛は驚いたような顔をする。打って代わりカインは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……一体どのように造られたのですか?」
当然の疑問だろう、そう儂は思った。
その問に答えるのには、まず聖剣が産み出された経緯について語る必要がある。
「──経緯を説明しよう。初代勇者は突如出現した魔王を、聖剣無しで封印した。いや、聖剣が無かったから封印しか出来なかったと言うべきだろう。しかし、封印はいずれ破れる。それを危惧した初代勇者は、魔王を倒す手段を考えた。それが文字通り、自身の魂を込めた聖剣の作成だった」
儂は乾いた舌に紅茶を流し込み潤す。コホンと軽く咳をしてから、儂は再び話始める。
「ここで必要になったのは、魂を取り出す方法と、取り出した魂を込める為の武器の作成だった。魂を取り出すのには………簡単だ、初代勇者は自身の心臓を使って武器を造らせたのだ」
彼は驚愕したような表情を浮かべ、後ろに控える部活たちもその事実に驚く。儂は今までそのことを話したことはなかった。
当然だ、軽く話してしまえば、真似をする輩が出てこないとは限らない。
「心臓を?!」
そう感嘆の言葉を漏らしたカインに、儂は肯定を返す。
「あぁ、勇者の心臓には高潔なる魂と、美しい血脈が流れている、らしい。そのため、聖剣は今でも拍動が続いている。剣を作るのにはドワーフの里へ行ったらしいぞ。これが聖剣の全てだ。」
その言葉に、カインは悲しそうな顔をし、唸るように言った 「……ということは聖剣の代わりとなる物は、作れない、そういうことですか?」
その質問に、儂は否定を返す。作る方法はある。しかし……
「いや、そうではない。……が、実際そのようなものだろう。」
カインは更に身体を乗り出し、儂に話を乞うてくる。
「ぜひ、教えてください」
こやつなら────そう思った儂は、無理の可能性のほうが高いが、教えてやる事にした。
「────ドラゴンの心臓。それを使えば、同じようなものも作れよう。しかし……ドラゴンの心臓を手に入れるというのは、そう簡単なことではあるまい」
それを理解したカインは、とても晴れやかな顔をしていた。
「なるほど、早速向かってきます」
急なその発言に、さしもの儂も驚いた。が、なんとか納得した。しかし、護衛はそうではなかったようだ。
「なっ、なにをっ」
そう動揺した護衛を、儂は下がらせる。この話をすればこうなることは分かっていた。それでも儂が話したのは、カインなら出来るのではないかと、そう思われたからだ。
「ドラゴンはこの里から南の竜峰に住まいておるぞ」
儂がそこまで言い切ると、カインは立ち上がった。護衛は何をするつもりかと腰に携えた剣に手をやったが、それは杞憂に終わった。
「有り難うございました。とても貴重な話を、どうも」
* とある南のドラゴンのはなし *
我はこの世界で最も長く生きたドラゴンである。
そんな我の元に、一人の男児がやって来た。名はカインというらしい、我の漆黒の鱗の対照的な純白の頭髪を持つ彼は、腰に粗末な刀を持ちてここへ訪れた。
「そなたがここらを統べるドラゴンでありますか」
────透き通る声を持つ輩だ。
それが我の第一印象であった。
その瞳には強い意志が宿り、その姿勢を崩さぬまま彼は話出した。
魔王を倒したいということ。
その為に武器が必要であること。
エルフの里で、ドラゴンの心臓があればそれを作れること。
「されば、一騎討ちあるのみと思いて、汝ここへ参じました」
礼儀正しい人類は良いものだと感じ、我は体を人間に寄せる。実力のあるドラゴンともなれば、変化くらいは自由自在だ。
彼は驚いたようだが、気にせず我は対話を行う。
「成る程、確かにドラゴンは三つの心臓持ち、自身で言うのも何だが高潔なる精神を備えているであろう」
「なれば────」
「だが、違う捉え方をすれば三つしかないとも思える。その心臓の内一つを使うというならば……当然その覚悟を見せて貰うしかない」
我は立ち上がり裏から昔人間界で拾った剣を持ってくる。
戻ってきた我が見たのは意気揚々とも形容できそうなかの者の姿だった。軽く運動をし準備を整え、彼は先ほどからは想像もできない鋭い目付きを見せた。
我もそれに答え、剣に手をやる。
────厳しい戦いになりそうだ。
それからは怒涛の連続であった。
戦いの中で、カインは着々と実力を上げていき、そして……我はカインに負けた。
「はぁ、はぁ……勝った…ぞ……」
仰向けに倒れながらそう言うカインは、前とは比べ物にならないほどの力を手に入れていた。
「そうだな…産まれて初めて人間に負けた」
我の声が木霊する。強くはなかった。才能は微塵も感じられない。
でも、気がつくと負けていた。
傷を癒した我は、カインに心臓を明け渡した。
腕で抉り取ったときには彼に何故か引かれたが、気にはならなかった。だが、流石は我の心臓、取ってからも拍動が続いておった。
カインを気に入った我は、ついでに魔石を与えた。最初は断っていたが、押し付けると渋々受け取った、
そしてカインは直ぐに冒険へと向かった。
思えば、彼は鈍い光を放つ刀のようだと思った。
勇者はまるで炎のごとく輝き見る人を魅了する。しかし……それが眩しすぎる者というのも存在するものだ。
血にまみれ、それでも、鈍くても輝くその光が。きっといつか誰かを救うのだと、そんな似つかないことを思った。
* * 記者のいんたびゅー! * *
────彼のことをどう思いますか?
「あやつは底抜けの阿呆じゃ」
────ほう、阿呆とね。一体なぜ?
「はぁ、勇者でないのに魔王を倒そうなど、阿呆以外の何者でもあるまい」
────ええ、そうかもしれませんね。でも、その阿呆が……
「言わんでもよい。そんなことは分かっているのだから」
────そうですか。では、あの出来事についてはどうお考えですか?
「……残念だった。ただそれだけだろう。なんだ?ありきたりでは嫌か?」
────いいや、ありがたいですね。彼が他の人とは違うと感じた部分はありますか?
間が空く
「目が違った。底知れぬ意志を持っていることは、何よりもまず分かったのだ。そしてまぁ、ただ一つ確実に言える事があるとするならばそれは⋯⋯私は未来永劫彼よりも勇者たりえる存在には出会わないであろうという、客観的事実だけであろう」
彼女は俗に言うツンデレというやつなのだろうと記者は思った。
────ほうほう、有り難いお話をどうも。いいのが書けそうですよ。