絶対に手にはいる訳の無い物を追い求める者を馬鹿と呼ぶなら、きっと僕は大馬鹿なのだろう。
そこそこで満足して生きるべき?
そんなのはわかってる。わかってるんだよ。
でもさ────きっと、人間誰にも、そして何にも譲れないものってあると思うんだよ。
うん、そうじゃなきゃ……
お願いします、神様。どうか僕に、この身に収まらない身勝手な夢を見る僕に。
ほんのすこしで良いから────
僕に、力を恵んで下さい。
才能を、恵んで下さい。
────勇気を、恵んで下さい。
そして何より、██を恵んで下さい。
* * * * * *
次に僕はドワーフの里へと向かった。
何故か、その答えは簡単だ。下手な武器に心臓を入れると武器が耐えきれず壊れてしまう。
この里の武器や防具は品質が高いと有名で、各国から沢山の人々が訪れる。
その為、国はとても潤っているだ。僕がこの国にやって来た理由は当然、先程もいったが武器を求めてである。
入国の手続きは沢山人が居るため長引くかと思いきや、多くの窓口が有ったため直ぐに終わった。国に入って見ると、ガヤガヤとした雰囲気と言うか、活気溢れる町並となっていた。
食文化も凄く発展しているらしが……まぁ僕には関係ないな。
多くの場所に身長の小さい『ドワーフ』が居る。ドワーフというのは、長寿で酒好き、身長が小さい代わりに手先が器用という、珍しい種族となっている。
そう、僕がこの里にやって来た理由も、王国随一のドワーフの鍛冶師であるライルスという人を訪ねてだ。
僕は王国の辺境とも言えるライルスさんの屋敷に到着した。そこには、とても辺境とは思えない位の人だかりがあり、全員がライルスさんの作る武器や防具を求めて来たようだ。
工房の中から一人のドワーフが出て来た。そのドワーフこそがライルスさんのようで、人だかりは一気に集中した。ライルスさんは、何かを探すように辺りを見渡し、何人かを呼び入れた。呼ばれた何人かは歓喜に酔っており、彼が本当に人気な鍛冶師なんだと僕に再確認させた。
────そして、その何人かのなかには、僕も入っていた。
他にも呼ばれた何人かと共に、僕は屋敷の中へと足を踏み入れる。彼は全員を見渡すように眺め、声を張り上げて言いました。
「この中に、腕自慢はいるか?それも、魔物とのだ」
────は?そんな声が聞こえ、皆がポカンとした顔をしていた。 僕はもう一度辺りを見渡すと、皆が武人のような見た目だったと言うことに気がついた。
そんな十五人近くいた人達の中で手を挙げたのは、僕だけだった。
それはそうだろう。
腕自慢かと聞かれて『うん』と言えるのは本当に自信がある者だけだと考えられる。僕だって、本当は自信なんてない。でも、ここで断るわけにはいかない。
「なら、そのお前を残してあとは帰っていいぞ」
他の人達は不満な表情を見せ、何かを言おうとしたがライルスさんにギロリと睨まれると、黙りこくってしまった。そして結局は、とぼとぼと歩いて去って行った。
腕自慢の武人に、一体なんの用があるのだろうか。ライルスさんは眉間に皺を寄せて、話しづらそうに言う。
「単刀直入に言わせて貰おう。お前には……フェニックスを倒して欲しいんだ」
「フェニックス⋯⋯ですか⋯⋯なぜ?あ、いや、断るわけではないんですよ」
フェニックス⋯その名前の通り、炎をまとった不死鳥のことだ。かなり強い魔物で危険性も高い。
強さは魔物の中でも上位に位置し、素材も『永遠に燃え続ける羽』や『高濃度の魔力石』 など、喉から手が出るほど欲しがられるものばかりだ。うん。
「いや、違う。寧ろ素材なんて欲しくもない。俺は……フェニックスに殺された弟の仇が討ちたいんだ」
「仇、ですか」
つまりは復讐か────でも、都合が良い。、
「武器を求めてるんだろ?遺体が見つかれば無料でも……それでだめなら、金を払ってもいい」
「わかりました」
いや、もともとそれが無くても引き受けてはいたけれどもね。ホントだよ、カイン、ウソ、ツカナイ。
「お、おう。即決か……」
「僕は天国の弟さんの為を思っただけですから……」
本当にそれだけなのだ。ホントにね。
「場所は……俺が案内する」
そう言うと、ライルスさんは僕に明後日集合する場所と時間を教えてくれた。それまでに戦いの準備を終えておくように、とも言っていた。
* * * * * *
明後日……戦闘の準備を終え、とうとうフェニックスの居る洞窟へ出発した僕たち。
この洞窟では鉱石が良く採れたためライルスさんの弟さんも、鉱石の採集へ行ったところでフェニックスと出会いそして……殺されてしまったようだ。
「本当に、いいのか?」
ライルスさんは最後の確認として聞いてくる。それに、僕は勿論肯定を返す。
「はい。勿論です、覚悟も出来ています」
その言葉にライルスさんは大きく頷き、僕に感謝の意を示してくれた。
洞窟はかなり入り組んでいたが、ライルスさんは良く鍛冶の材料を手に入れる為に入っていたそうで、道を分かりやすく教えてくれました。
「次の所を左に曲がると、大きな空洞があって、そこにフェニックスがいるらしい」
「分かりました。作戦通り行きましょう」
僕たちはもう一度作戦を小声で確認しあい、とうとう戦闘へ臨むこととなった。
まず、ライルスさんがフェニックスの囮としてでていく、フェニックスは炎の翼を飛ばしライルスさんへと攻撃しますが、それを剣で切り、消滅させている。凄い────僕は素直にそう感じた。
────だが、見惚れている暇はない。
「いきます!」
そう言うと、ライルスさんは一時退散した。
僕は腰の方へと手をやり、そして……
一閃を放った。
「キュルルルーアーッ!!!!」
僕はフェニックスの片翼を切り裂いた。突然登場した僕の高速攻撃にフェニックスは驚き、そしてダメージを負った痛みから咆哮を放っている。
僕はそこへ更に追い討ちをかける。
「ハァっ!!!」
下から上に向かって振り上げるような形になった僕の攻撃は、見事フェニックスからもう片方の翼を奪う。
地面へと落下したフェニックスの上に僕は馬乗りとなる。
────熱いな。
それを我慢して、僕はフェニックスに刀を突き、刺し、切り刻んだ。
それが五分位続いて、とうとうフェニックスは息絶えたようだった。
「────よっしゃあ!倒したぞ!」
ライルスさんが喜ぶ姿をみて、僕も頬が緩む。
「フェニックスの死体の肉の部分は灰になり、三日後に蘇ります。瓶の中に詰めておけば大丈夫なので、しっかり回収しましょうか」
そう、フェニックスはそのまま放置してしまうと復活してしまうのだ。
そのため僕たちはフェニックスの灰を全て回収した。
「⋯これで弟も報われるってもんだ⋯⋯」
僕はその声に、何も答えなかった。
フェニックスを瓶詰めにした私たちは、屋敷へと戻った。フェニックスの材料をふんだんに使った刀を作ってくれるようで、しかしそれにはまだ時間がかかるようだった。
そのため、僕は出来上がるまで別の場所で活動を行うこととした。
* * * * * *
────彼はどのような人物でしたか?
「あいつは……兎に角お人好しだった」
────お人好しですか。どうしてそう感じましたか?
「ははっ、たった刀一つでフェニックスの討伐と割に合うわけ無い。なのにあいつは引き受けた、それだけが事実だろ?」
────そうですね。あの出来事についてはどう思われますか?
「…………残念だった、としか言いようがない。あいつは何も相談してくれなかったのだから」
────今、彼の自伝を作っているんです。
「自伝……成る程な。あいつもきっと報われるだろう……」
────ええ、そうなることを切に願っていますよ。
* * * * * *
────まだ足りない。
確かに僕は強くなった。スライディアとの戦いでも身体能力や判断能力が向上した、しかし……やはり人間の限界を超えられない。
そう考えた僕は、ドラゴンの心臓を入れるための刀をドワーフに作ってもらう間、強くなるための修行を行うこととした。
誰かの声が聞こえる────救いを求める声だ。
しかし────その声は僕を求めている訳ではない。
彼らは『本物の勇者』を求めているのだ。
曰く、勇者とは、勇気のある者、勇敢な者に対する称号であるという。
他にも、困難に立ち向かう勇気を持つ人物、正義を貫く人物として伝えられることが多く、しばしば英雄と同一視される。
偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとする者への敬意を表す呼称として用いられ、武勇に優れた戦士や、勝敗に関わらず勇敢に戦った者にも用いられたりする。
物語では、魔王を倒す旅をする人物として描かれることが多く、特殊な血筋や能力を持つ存在として描かれることもある。
つまり、別に聖剣を持たずとも勇敢であり人々を守ろうと尽力し、魔王を倒して正義を実行すること。
だが────正義を成すためには、当然、力が必要だ。
しかし、僕には才能がない。
なら……裏技を使うしかない。
そう考えた僕は、魔石工業の町『ヒドレール』にやって来た。
それは、一重に魔石を使った身体能力の強化を求めてだ。
自身の体に魔石を埋め込むことで身体能力が向上し、魔法へと耐性ができる。魔王を討伐するに当たって、これは最低限必要なことだった。
大きな外壁には、それと比例するように沢山の衛兵が存在している。
いや、それにしても今日は……何と言うかピリ付いた雰囲気が漂っている。その様子を横目に見ながら、僕は門をくぐる。
魔石加工というのは、たとえどのような場所でも必要となる技術だ。そのためこの町は潤っており、人々は笑顔に溢れ道路も非常に整備されている……と聞いていたのだが。
町全体として鬱憤の溜まっている感覚に溢れ、軍の演習などが活発に行われているという印象が強い。
そんな風に町をなんとなく見て周りながら、僕はとうとう工房へと到着した。まぁなかなかに有意義な時間だったと思いながらその工房を見ると、見た目は廃れているのかと思いきやピカピカで活気溢れるといった感じだ。
石造りの工房はツルツルと滑らかで、形は直方体。看板は掛けられておらず、もし事前に情報を得ていなければ分からなかっただろう。
ライルスさんといい、優れた職人は辺鄙な場所を好むのか……?
中からはカンカンと甲高い音が鳴り響き、何やら忙しそうだ。
────そりゃあ国一番なら仕事も選り取りみどりか。
これは期待はずれかと足を翻そうとしたとき、僕は一人の少女から話しかけられた。
「おにーさん、家に用があるんでしょ?どうしたの?」
家……ということは、彼女はこの工房の娘ってことか?
そんなことを考えていると、更に他の人が工房から出てきた。その男は大柄で、屈強な武人という印象がより正確であろうという感じだった。
「おいっ!メイ、勝手に外へ出るな!危ないだろう!」
彼女はメイと言うようだ。この大男は彼女の親御さんかな?そう疑問を抱えたまま、その男は彼女の近くへとやって来た。
近づいてみればよく分かる、彼は本当に体格がよく身長は僕より二十センチは軽くあるだろう。
「いやぁ済まない、うちの娘が迷惑かけなかったか?」
強面な顔つきとは異なり厚和で人懐っこい笑みを浮かべながら、彼はこちらへと話しかける。僕はそれに同じく笑みを返し、口を開く。
「いいえ、全然」
そう言うと、メイという子は僕の腕にしがみついた。どうしたのだろう、そう疑問を持つとそれに彼は答える。
「随分なついてるもんだな……何かしたか?」
「いえ、なにも……」
ホントに何故だろう。しかし未だにメイちゃんは僕の腕を強く握っている。
「お兄ちゃん家に用があるみたい」
もう帰ろうかと思っていたのだが、という不満は口にはしなかった。別に大して困るようなことはないのだから。
「そうなのか。今は戦いの用意で忙しいのだが……まぁ、メイがこんなになついているし……じゃあ、家にあがっていってください」
ならば有りがたく、そう言おうとしてから気づく。
「戦い……?一体どこで?」
僕は人前にあまり顔を見せたくなかったので、今の世間の情報には疎い。しかし、いくら疎いといっても戦争の予兆くらいは見通せる、そう思っていたのだが。
だが、この町のピリッとした空気はそれが原因だろう。
「あぁ、もしやよそから来た人か?ならば教えとこうか。いま、このヒドレールは魔王軍の四天王の一人に目をつけられているんだ。名前は『焔魔のバレスト』、聞いたこと位ならあるだろう?」
聞いたことがある、なんて次元ではない。僕は幾度もその名前を耳にしたことがある。
「それはどうしてなのか分かりますか?」
「バレストはこの町の魔石加工技術に着目してな、最初は交渉を行ってきた。被害は少ない方が利用できると思ったのだろうな。いや、あれは交渉等ではないだろう。なにせ受け入れなければ殺す、という内容だったのだから。それを長は断った。となれば当然戦いになるだろう」
成る程、人間同士の戦争ではなく魔族との戦争か……
確かにこの町は普通の町とは比べ物にならない位潤っている。しかし、四天王に対抗できるほどなのか?いや、違うだろう。
このままだと────
きっと町は滅ぶだろう。
恩を着せられる。そしたらきっと────
そこで気がつくべきだったのだろう。僕が大きな過ちを犯しているという事実に。
「いつ、四天王はやって来るか分かるのですか?」
「あぁ、明後日だ。それまでに気が変われば降伏しろだとよ……魔族は傲慢な種族だと知っていたが……結果俺たちに準備をさせる時間を与えてるんだからな」
この工房が忙しそうなのは、戦争があるからなのだろう。話を聞くと町へと愛が強い人のようだから今は仕事を選ばず働いている、ということだろう。
つまり、この戦争が終われば忙しくはなくなる。
「今日のところは仕事の依頼は止めておきます。戦争が終わって暇ができたらまた来ますね」
「あぁ、そうしてくれ。あれ?メイは?」
話に夢中でメイちゃんが居なくなっている事に気がつかなかった。もしかして────そんな最悪の思考が頭をよぎるが、しかしそれは杞憂に終わったようだ。
メイちゃんは工房の中からテクテク走って出てきた。両手には何かを抱えているようだ。
「これ……」
彼女は仮面を渡してきた。なんだこれ?そんないきなりの出来事に放心している間に、僕は無理矢理それを持たされていた。
黒色と白色の仮面は、かなりデザイン性の高い物といえるだろう。顔の目元の部分が覆われる形のようで、呼吸に問題は無さそうだ。
「いや、悪いよ。お金も払ってないのに……」
「いや、貰ってくれ。それはメイが作ったやつだしな。お前のことが気に入ったんだろうな。──代わりに、戦争が終わったらまた来てくれよ」
僕は大きく頷く。
────次の日、ヒドレールには勇者がやって来た。
きらびやかな凱旋が行われ、勇者御一行はヒドレールに到着する。
がたいの良い戦士に、大きな杖を抱えた魔法使い、そして聖剣を掲げた勇者。彼らの到着はこの町の人々を大いに沸かせ勇者御一行万歳、勇者御一行万歳という歓声が響き渡った。
これは四天王も哀れ、我らには勇者が着いているのだから。そう人々は安心した。
更に次の日、とうとう四天王は多くの軍勢を引き連れてやって来た。
────そんな僕にとって、勇者御一行の来訪は予想外ではなかった。
それはそうだ、四天王がのこのこやって来るという情報があれば勇者がこの町に来訪するのは当然、というか僕でもそうする。
それでも万が一の事態に備えて、僕は着々と準備を進めた。
僕は考える。
きっといつか後悔するのだろう。
でも────僕は後悔したくないのだ。
そんなのは、傲慢なのかもしれない。
僕の器はちっぽけで、誰でも掬いきれる訳ではない。
それがどうしようもなく歯痒く、苦しいものなのだと────
それを僕が知るのは、いつだった取り返しがつかなくなってからなのだ。
そしてそれは────今回もそうだった。