異世界ギルドと言う名の何でも屋~気が付いたら最強ギルド長になっていた~ 作:あましのの小説部屋
「ってコトでどうッスか自分の情報は」
目の前にはかつてレヴからの手紙を届けた魔人族がいる
ロティ・アテロイド、ロザ軍幹部の一人であり、唯一隊を持たない魔人
その立場ゆえに、彼は“観察者”と呼ばれている。
戦場にも、会議にも、ほとんど姿を見せない。
ただ、誰よりも早く情報を集め、正確に伝える。
常に笑顔で人当たりの良さに反して冷静であり、その冷静さは時に、敵味方の区別さえ曖昧にするほどだ。
「その前になんでギルドに来てんだよ」
リュカが当たり前の疑問を問う。当然だ、敵陣の真っただ中に単身で乗り込んでいるのだから
「ここは来る者拒まずの場所だからッスからね」
「流石に限度があるだろうよ?!」
そうおちゃらけた表情で答え、リュカがツッコむと
「んで、何が目的なのよ」
フラが本題に戻す。
「単刀直入に言うッス。ロザ軍の情報とアルノー隊の勢力の譲渡を引き換えにレヴ・アルノー及びカミュール・カルトナの身柄の解放をして欲しいッス」
沈黙が落ちた。
ギルドの喧騒が遠くで霞む。
リュカもフラも、すぐには言葉を返せなかった。
「……取引、ってことか?」
「裏切り者、ってことね」
「ええ、そうッス。でも勘違いしないで欲しいッスよ。自分は誰の味方でもない。勝つ方に『情報』を流すのが仕事ッス」
フラの冷えた刃のような言葉にロティは首を傾げ、薄く笑った。
「それ、どっちの側から見ても正解ッスね」
笑顔のまま、彼の目だけが笑っていなかった。まるで、誰も信用していない瞳。そしてその目が、ゆっくりとシキの方を見た。
「シキ・イチヅカ。あなたがどう動くかで、この戦いの形は変わるッス。選び方を、間違えないで欲しいッスね」
そう告げると、ロティはまるで風のように立ち上がった。
何も触れていないのに、窓の外の風が揺れた。
次の瞬間、彼の姿は消えていた。
「今の、なんだったんだ」
リュカが息を吐く。フラは黙っていた。ただ、拳を強く握りしめて。
ロティの姿が消えてから、ギルドの大広間には重い沈黙が残った。
窓の外で風が石畳を撫で、誰かの鼻歌が遠くで止んだように聞こえる。
「選択か」
リュカが息を吐く。視線は床に落ちたまま。どこか疲れている。
フラはいつもの冷めた目つきを崩さないが、拳は硬く握られている。
「私たちだって、早く終わらせたい。だけど、ロティって奴の『情報』自体がどれだけ信用に足るかは別問題よ。」
シキはテーブルに肘をつき、窓の光をぼんやりと見つめる。
彼の答えは早かった。短くて真っ直ぐだ。
「僕は終わらせたい。無駄な血をこれ以上増やすつもりはない。もし本当にロザ軍の態勢が崩れているなら、ここが勝機になる。情報を活かして、一気に決めに行きたい」
フラは即座に反論する。
「勝つために誰かを信じて裏切られたらどうするのよ?ロティは『勝つ方に情報を流す』と言った。今は手を貸すって言ってるけど、いつ裏切るか分からない。それが一番怖いのよ。」
リュカは二人を見比べ、首をかしげる。
「二人とも分かる。シキの言うことも分かるし、フラの言い分も正しい。どちらか一方に偏れば、別のリスクが出る」
会議室の空気はどんどん熱を帯びていった。仲間同士の議論はここ何日も続いているが、今回は特に重要だ。ロティが提示した条件は甘いようで危うい。だが時間は味方しない。
シキは立ち上がり、顔を強張らせる。
「条件を出す。ロティの情報を受け取る。ただし」
声を張るその瞳はいつになく鋭い。
「その情報は、まずギルド側で検証する。ロティが示す“ロザ軍の移動”や“アルノー隊の残存位置”を、我々の手で裏取りする。確認が取れるまで、レヴとカミュールの身柄はこちらで預かる。話が本当に真っ直ぐなら、後で相応の交換をする時間はある。勝手に放すなんてことはない」
フラは一瞬、目を細めた。条件は甘くない。シキの信念と慎重さが同居した妥協案だ。
「それなら――」とフラ。吐き捨てるように付け加えた。
「カミュールの監視は私がやる。この状況で一番危険なのは彼女から目を話すこと、仮面はつけさせない。ロティが本当に情報をくれるかの“確認”は私が行う。万が一の裏切りには即座に制裁を加える」
リュカが頷く。
「俺は偵察隊を出す。小部隊でこっそり動いて、ロティの情報の一部を自分の目で確かめる。見込みがあるなら全力で支援させてもらう」
シキは静かに皆を見渡し、息を吐いた。決意は固かった。
「分かった。ロティの条件を受ける。だが、約束だ。誰も無意味に死なせない。勝つための最短を探る。ただし、裏切りの兆候があれば即刻方針転換する。捕虜もやむなく切り捨てる」
――承諾を示すように、フラが小さく頷いた。リュカも拳を握りしめる。
その夜、ギルドは慌ただしく動いた。
偵察班は準備を整え、ネムには監視の輪を引き締めさせた。ロティから受け取る情報は一枚の古い羊皮紙に手早く書き写され、村の地図に赤い粉で印がつけられた。
「ロティ、貴方は何をする気なの・・・・」
魔人族メディック隊長は一人の同僚を怪しみ、
「戦場が動くっすよ」
道化の魔人族は静にその時を待つ