先見の明がある人間はガニメデの段階で、アレに頭が着いてもっと武器として形になったらと思ったでしょう。まさかグラスゴーであそこまでとは思わなかったかもしれないけど。
長野もガニメデの段階では実戦は無理と思ったけど、実際にグラスゴー三機に惨敗して革新的な発明と認識したタイプです。
『フォーリン・ナイツ』に配属されたのは畑方秀作、川村雛、中島京子を含めた五名。更に、そこへ……
「長野五竜大尉、本日付で第八皇子ライル・フェ・ブリタニア殿下直属、特選名誉騎士団『フォーリン・ナイツ』隊長に就任させて頂きます。」
「歓迎する……軍人の先輩としてもよろしく。」
ライルは手を差し出した。長野は一瞬当惑するが、一息ついて手を取る。
「こちらこそ………まさかこの様なことになるとは。不敬を承知で申し上げますと、貴方のような方がブリタニアにもっと多ければと思わずにいられません。」
「ありがとう……素直に褒め言葉として受け取るよ。……?」
いつの間にか来ていた畑方秀作がその童顔に似合わない敵意で長野を睨み付けている。黒髪のアシンメトリーが童顔を引き立てているが、その目つきはまるで野獣だ。
「どうかしたのか、畑方秀作…」
「……その男、信用しない方が良いのではないか?」
「貴様、皇族に向かって無礼だぞ。しかも上官侮辱まで。」
いくらナンバーズ同士でも秀作は准尉で長野は大尉、れっきとした侮辱罪だ。ブリタニア人の将校でもそう言うだろう。
「日本軍人など信用したって碌な事にならない。これは意見の具申だ。」
「でも……そんなことを言えば枢木スザクは首相の息子だし、貴方だって…」
有紗が「日本軍人の孫」とでも言おうとしたが……秀作は睨み付けてきた。
「俺は俺だ………!それとも………アンタも俺がヤツの孫だからいきなり騎士候になれるなんて期待をしているのか?」
遠目で見たときは、分からなかったが……なるほど、これは確かに問題児だ。
「彼は妻子の身の安全と生活のためにブリタニアに着いた。君はどういう事情なんだ?事前情報を調べた限りだと、反ブリタニア勢力の元を逃げ出したと証言していたが?」
「プライバシーの侵害だぞ………まあ奴らの、魔物共の敵であり続けること自体に意義がある。」
それだけ言って去って行き、フェリクスが……
「…いきなり、地雷を踏んでしまったようですね……」
「殿下、あの男こそ大丈夫なのでしょうか?」
幕僚の一人が意見する。確かに、彼の方が問題児という気もする。しかも、同国人を魔物呼ばわりとは………
「今は人材が欲しいところだ。彼の事情についてはまた追々聞いてみよう。」
少なくとも、命令違反の類は殆どない。少しずつ見ていくしかない。
秀作は苛立ちながら歩いていた。入隊してからも、ヤツの孫を理由に内通を疑われたことが何回あったか。
内通を疑われないためにはどうすれば良い?決まっている。奴らを殺しまくれば良い。
だから殺した。殺して殺して殺しまくった。壊滅命令が出たゲットーでは民間人も攻撃の対象、だから子供だろうが老人だろうが殺した。
「ここでも殺しまくってやる…俺になるために。」
川村雛は新しい制服に袖を通して、何度も鏡を見ていた。
「まさか、騎士団に入れるとはね……我ながら運が良いわ。」
噂に聞けば、かなりの甘ちゃんだという。確かに、顔を見ればいかにも人の良さそうなお坊ちゃんだ。あんなのが『狂戦士』なんて呼ばれる程の凶悪な皇族なのか?
人は見かけによらない、とも言うが……まあ、いい。あたしらを使い捨てにせず、給料出してくれればね。その分働いてあげないと。
〈畑方秀作を旗下に迎え入れたそうだな……しかも、ブリタニアの政策に協力するとはいえ日本軍人を迎え入れるとは。〉
「こちらで枢木スザクという例を表立ってないとはいえ、何度か使っているのと同じです。そもそも、ならば何故首相の息子を入隊させたのか?それは恭順派の象徴にするバトレーやクロヴィス兄様の狙いもあったはず。私も、軍人でも重用するケース作りが欲しいから、彼を起用したのです。」
〈実力主義らしい答えだが……お前の期待にそぐわなければどうする?〉
それは……今まで遭遇したことがあまりないから考えたことがなかった。言われてみれば、かなり痛い。
「……正直、今までが期待通り過ぎたので考えたことがなかったです。ですが……起用したのは私です………姉様だってダールトン将軍の養子だからという理由でクラウディオ達を親衛隊に入れたわけではないのでしょう?」
『グラストンナイツ』……コーネリアの親衛隊の最精鋭である五人の騎士。正真正銘のエース部隊だ。そして、その五人は全員が孤児で彼女の側近のダールトンが引き取っている。
〈揚げ足取りだけは上手くなっているな………最後まで面倒を見るということだな?〉
「はい。」
〈ならば、そのくらいの責任は持て。〉
通信を切られ、ライルはため息をついた。
「貴女の考えは立派だし、尊敬します。でも……ブリタニアが永劫不滅というわけじゃないんだから。」
物心ついた頃から……ブリタニアは世界一や永劫不滅というような根拠のない自信をかざす大人を見てきた。ライルは、子供心でそれが怖かった。根拠などない………だが、不気味に見えた。
やめよう……今は目の前のことに集中しないと。
ここのところ、ゼロも大人しくあまり大きな動きはない。なら、今のうちに他を叩いておきたい。ゼロが本格的に動けば、他に力を割く余裕が無くなるのだ。軍の再編がまだ完全に終わっていないコーネリアの露払いをしておかねば。遠征軍であるこちらはある程度の融通は利くし、厄介そうな相手はいくつか上がっている。
まず、群馬鉄山を片づけよう。ここは古い鉱山だがその分アジトにはもってこいだ。チュウブの『サムライの血』程の規模ではないが、旧日本軍人以外にも旧日本政府にパイプがある財界人の関係者がいるためかKMFを何機か保有している。
問題はこのテロリストの通報が周辺の村からあったということだ。この一帯はカントウブロックとはいえ戦略的価値も薄く、戦時中は市民の疎開先になっていたという。その名残で、山本を初めとした和平派の政治家や財界人達もここを市民の居住地の1つとして力を入れていた。
だが、それが災いして廃鉱山を隠れ家にしたテロリストが武器を突きつけて農村から水や食料を供出させている。更に支援者達も中を改装する資金を提供しているとか。最近は地元の働き手達を組織に迎え入れる……この場合は徴兵といった方が良いのだろうか?その動きがあるという。
その矢先にコーネリアの正規軍がナリタで壊滅的な打撃を受けて、それに気を良くしたのか更に顕著になっているとのこと。幸い、まだ住民が組織に入れられたという報告はないが時間の問題だ。先送りにされたこの件を片づけてしまいたいし、ユーフェミアも心を痛めていた。
これは恭順の意を示すゲットー住民からの明確な救援要請と扱い、ライルの個人的心情としてもこの組織は早めに潰したいところであった。もう一つもかなりの問題ではあるが……
「ライル様?」
有紗に呼ばれ、振り返った。
「ああ、何でもない。有紗、そういえばハラジュクで世話になった人たちにどうしているか連絡はしてないんだろう?」
「え?ええ……携帯は持てませんから。」
そうだろう……名誉ブリタニア人は反乱防止で携帯電話の所持は出来ない。流石に長野は立場上持たせなければ不都合だし、有紗も出来れば持たせたいところだが…
「何人か付き添わせるから、今のうちにハラジュクで知り合いに会っておくと良い。暫くは政庁に詰めることになるから。」
「有紗さん、その方が良いですよ。会えるときに会わないと。」
「エクトル君も……ありがとう、じゃあそうするわね。」
こういう時、民間人の有紗は融通が利きやすい。が…
「エクトルの方こそ…2、3日くらいなら休みを出せるぞ?」
「ご好意だけ受け取ります……」
翌日、外出許可を受け取った有紗はフェリクスに付き添われて、租界外縁部まで行き、そこでフェリクスと別れた。
「有紗?有紗か。」
声を掛けたのは、オールバックの黒髪の少年……ハラジュクゲットーで知り合った久保カイトだ。
「カイト君。」
「どこに行ってたんだ。」
「あ、えぇと……話すと少し長くなって。」
どうも言いづらそうだ。久保カイトが有紗と知り合ったのは四年前、戦争でお互いに両親を亡くしてシンジュクほどではないが比較的復興が進んでいるここにカイトが来てからだ。
既に有紗はゲットーの幼い子供たちの相手をしてあげたり、炊き出しを手伝いながら大人からブリタニア語や日本の小学校高学年から中学レベルの学力の補填を行っていた。カイトは力仕事を手伝っており、その時の炊き出しを出してくれてからの仲だ。
当時から既に可愛らしかったが、今では美貌に磨きがかかっていて身体も豊満に育っている。日本が今も健在ならばモデルにでもなっていたかも知れない。
「とりあえず、福原さん達のところに行きましょう。」
それから、普段世話になっていた人たちに租界のコーヒーとお菓子を手渡し、それで一息ついてから身の上を話してくれた。
「えぇと……私、あの時外縁部を歩いていたらマフィアに捕まって……シンヨコハマでオークションの商品にされたの。」
オークションの?しかも人身売買の?いや…ブリタニアならナンバーズをそう扱うだろう。
「買われたんだな?」
「待って、違うの。……そのマフィアが軍隊に潰されて………潰した軍隊の指揮官が皇族の方だったの。」
軍隊がマフィアを潰した?しかも皇族?
「おい、コーネリアがそんなことするのかよ。」
「総督じゃないの……ニュースで見なかった?第八皇子ライル・フェ・ブリタニア殿下。」
第八皇子ライル……聞いたことがある。『ブリタニアの狂戦士』と呼ばれて……
「あの『洗脳皇子』か?」
「……洗脳?」
「何言ってるんだ、洗脳しているんじゃないか。名誉ブリタニア人の部隊を率いているなんて言ってるが、使い捨ての駒にするためなんだぞ。」
周りの大人も同調する様子を見せる。だが、有紗は……
「……私が捕まったオークションを潰した後、あの人は私達をゲットーに送り返す手配をしてくれたし、グルだった警察や政庁の関係者をみんな逮捕したわ。ナンバーズ関係では裁けないから、別の案件を理由にしたけど。会見でそう言ってたの、見なかった?」
確かに見たが、そんなものは体裁を取り繕うだけだ。どうせ奴隷とするために…
「私みたいな人たちに……名誉ブリタニア人の採用試験で便宜を計らってくれたの。政庁にもそのマフィアと通じていた幹部がいたから、その不備の謝罪で慰謝料までもらえるように政庁に働きかけたわ。」
名誉採用の便宜?慰謝料?そんなものブリタニアがするわけないだろう。
「お前、随分とその皇子の肩を持つじゃないか。」
「あ………えぇと、その…今まで抱いていた皇族のイメージと違って、その人に助けてもらった恩を返したいと思ったの。それに………就きたくても就けそうな仕事なんてないから、どうしたら良いかって相談したら……小間使いの見習いで雇ってくれて。」
「皇族の小間使いだと!?お前、ブリタニアに魂を売ったのか!」
大人が立ち上がり、他の大人達も睨むが……
「違うわ!少なくともあの人は…ライル様はナンバーズをぞんざいに扱っていない!全部の皇族がそうだって証拠だってないんだから!」
「うるせえ、この売国奴が!」
「やめろ!」
炊き出しのまとめ役もしている中年の男、福原源吾が止めに入った。薄めの髪に少し太っているが、有紗やカイトが信頼している大人だ。
「つまり、お前は就職出来た、ということだな?」
「はい……でも、みんなに心配をかけたのも事実だから、外出許可を貰ってきたんです。」
「そうか……無理はするな。」
福原は納得したようだ。その上で有紗の身を案じて忠告するが、カイトは納得していない。
「カイト君?」
「あ、ああなんでもない………じゃあ、今は政庁に?」
「ええ……お世話になった人達にどうしたかくらいは知らせておけって……」
有紗が目を細く、微妙に頬を赤くしているのを見逃さなかった。まさか…?
「それじゃあ……そろそろ。他の人達にもよろしくお願いします。」
「分かった…無理はするなよ?」
福原が見送り、カイトも外苑まで付き添った。
「有紗…」
「何?」
「いや………その皇子、絶対に裏で汚いことをしているんだ。気付いたら辞表でも出した方が良い。」
有紗が困惑した。しかし……
「さっきも言ったけど、あの人は名誉部隊の人達も生還できるように、手柄も立てられる様に考えているわ。少なくとも、今はそれをしているもの。それに……清濁併せ呑むって言うしギリギリの事をしてるんじゃないかしら?」
そう言って、租界へ戻っていった。が……カイトは。
名誉ブリタニア人にして貰った?小間使い?皇族の……しかも『ライル様』?
ブリタニアめ……!俺や彼女から両親を奪って、挙げ句に彼女を操っているな!『洗脳皇子』め!
カイトの中にはブリタニアへの怒りが既に渦巻いていた。両親を殺したブリタニア、家を、学校を焼いた。そして、同じような経験をした大人達に聞かされたブリタニアの悪行。シンジュクやサイタマでも市民を虐殺した。
あの第八皇子とやらだって、ニイガタで市民の虐殺をしたじゃないか。
「ブリキめ……有紗を洗脳して、手懐けやがったな!」
俺の、惚れた女を!………そうだ、思い出した。ネットで第八皇子が日本人の女を小間使いにしてる噂があると!有紗だったんだ。
カイトが有紗への気持ちを自覚したのは、一年ほど前だ。優しく、可憐に成長し、子供たちにも懐かれている彼女に心を奪われた。それを、ブリタニアは洗脳した。
オークションもその皇子はグルで、夜な夜な身体を弄ばれているんだ。早く助けねば!
だが、今の俺には………そうだ。あるじゃないか。うってつけの手が!
秀作はスザクのマイナスやなっていた可能性、雛は一般的な名誉ブリタニア人をイメージしていきます。
福原源吾のボイスはイメージとして、lostで変更になったダールトンイメージですね。ライルや有紗はもう少し進んでから。
後、ライルの蔑称は有紗の昔なじみが言う『洗脳皇子』です。名誉ブリタニア人達を騙してKMFで戦わせてる、使い捨ての歩兵にして、どちらも使い捨てにしているとされてます。とはいえ、ブリタニア憎しに凝り固まった反ブリタニアの言い分で、実際に見ている和平派の政治家や企業家達は少し話が分かる相手と見ています。