群馬鉄山の組織は壊滅した。あの後、長野達が坑道から突入して敵兵達と遭遇、降伏勧告を行うも拒否して攻撃をしてきた。そのまま長野達は後退して入口から顔を出したところへ砲撃を叩き込んで、壊滅させた。
後日調査したところ、構成員の殆どは中で自爆する形で自決。辛うじて生き残った構成員も逮捕され、逃げ延びたところで既に再起する力はなく警戒するにとどめられた。より正確には、ゼロに合流する線が濃厚というのが政庁やライル軍の見解だった。
「ゼロの勢力が力をつけるのは痛いが、一箇所に集まってくれるのは都合が良いだろうな。」
ゲイリーの分析どおり、一つずつ潰すことは出来るが時間がかかりすぎる。ならば、それらがゼロの旗の下に集まってくれた方が潰す側としては楽だ。
が、ここのところゼロの勢力は組織が細分化され、検挙できているのは末端中の末端のみ。ナリタにいた本流レベルは中々見つからない。
「文字通りゲリラ的に活動しているのでしょう。何か、移動拠点の類を使っているのでは?」
長野の指摘に、幕僚達は頷いた。そう、わざわざナリタまで足を運ぶということはそれだけの移動手段を持ち、支援者があの時点でゼロを重宝し始めたという事になる。
「しかし、だとしたら本当に厄介だな。ブリタニアから見れば小国とはいえ…すまない。」
現地人の長野に謝罪するが、長野が「お構いなく。」と答えた。
「実際、日本はブリタニアから見れば国土は小さい。しかし、それでもテロ組織一つが移動しているのであれば、捜索は困難です。」
「やはり、NACが支援していると見るべきでしょう。」
ライルに呼ばれた山本秋水が長野に続き、コーネリアの名代で出席していたダールトンも肯定する。
「山本殿の意見には同意する。が、敢えてこの場で申し上げるが貴公もそれと通じている疑惑が浮上している。事実ならば、逮捕せざるを得ないのはご理解頂けるか?」
「ダールトン将軍…この場で。」
ライルは立ち上がるが……
「殿下、疑われる要素を持つのは事実です。貴方のお考えを通すにしても、同じ事………全幅の信頼をお寄せになるのは簡単ではありません。」
「………分かりました。山本政務官、貴方ではないにしても心当たりは?」
「敢えて申し上げれば、濃厚なのは桐原産業でしょう。ただ、サクラダイト採掘権もありますし、恭順派の我々としても…彼の企業は。」
やはりゲットーの住民の経済を支える彼にとっては、桐原産業が支援者ならば抑えたいが、彼らのおかげで踏みとどまっている経済が破綻してしまうので強く出られない、という心理が働いてしまうのか。
「やはり、桐原産業が黒幕の一人だとしてもその後の委託先を見つけることも視野に入れた方が良いでしょう。」
「結局、そこに行き着くことになりますな。だが、まだナリタでの傷も回復しきっていない……本国とエリア18の我々の軍もまだ合流の準備が整っていない以上、そちらにお任せするしかなくなります。」
ダールトンの要請にライルは「大丈夫です。」と応える。
「それと、調査を依頼されていた例の組織、どうやら脱出を企てているようです。手土産にいくらかの流体サクラダイトを保持しているとか。」
群馬鉄山と並んで目を付けた、もう一つの組織。旧日本軍人がリーダーとなっている組織だが、これもまた結構なくせ者で軍の輸送列車や小規模部隊をゲリラ的に襲って物資の流通を停滞させると言った……有り体に言えば小さな嫌がらせをしている組織だが、奪われた物資などは彼らの懐に入る。
しかも、これがここ二、三年で続いているし、その物資を売り払えば更に懐が潤うし、分散すれば脚が突きにくい。他の組織に流されればなおのことだ。
地味ではあるが、このネットワークが広がりでもしたら厄介ではある。加えて、他の組織のように拠点を持っていないので中々見つけられない。言わば、このエリア11のゲットーや放置された地下鉄、かつての高速道路を利用して移動する正真正銘のゲリラだ。
「正規の軍人がゲリラ戦の指揮を執る……ゼロより恐ろしいかもしれないな。」
もう一つの注目点は、ゲットーは勿論租界の一般人ですら軟禁はしても積極的に危害を加えないという筋まで通している。とうことだ。
あくまで軍や政庁関係に的を絞り、民間人の被害は少しでも減らすというスタンスをとっているのだろう。敵ながら見上げたものと評する意見もいくつか聞いている。だが、ダールトンが意外な報告をする。
「しかし、ここのところ妙に足が着いているのです。これまでと比べて、犯行に粗が目立っています。」
犯行に粗が目立っている?リーダーが代わった?それとも何か?
「現在はフクイの方に隠れているとの情報が入っています。イシカワのすぐ近くですが、おそらくそこを狙ったのでしょう。」
なるほど、まさか今コーネリアが向かおうというイシカワのすぐ近くに隠れるとは普通は考えない。コーネリアにしてみれば、灯台下暗しだっただろう。
「イシカワはこれからですので総督は動けません。お願いできますか?」
ダールトンに言われるまでもなく、これは名誉騎士団に実績を挙げさせる好機でもある。ライルは二つ返事で引き受けた。
会議を終わらせた後、部下達から勧められた騎士の選任候補で興味を抱いた人物の資料を見ていた。ジュリアの後任の騎士をいい加減に見つけろとゲイリー達が薦めていたので、ここエリア11で探すことにした。『純血派』は足並みが揃えられないから論外で、他も悪くないがどうも納得いかない。
思いきって枢木スザクを……とも思った。彼の実績は相当なものだし、彼個人にも興味があった。が、そう思った矢先に眼に入ったのが。
「レイ・スレイター………か。」
スレイター侯爵家といえば、本国に本社を置く巨大グループの経営者だ。現当主は女性で、エリア11で旧日本企業との提携と一般のナンバーズや名誉ブリタニア人の採用、教育の向上などゲットーも含めた植民地政策にも力を入れている。
「スレイター家の当主とは何度かお会いしたが、娘がいるなんて初耳だ。」
政庁に確認をとったところ、確かに彼女の母は現在のスレイター家当主だ。詳しい経歴を調べると、当主は日本に留学していた時期があり、その留学先の大学の先輩と結婚したという。以後、父が会社勤めで専業主婦というありふれた平民生活を送っていた。しかし、戦争前に母は本国に連れ戻され、夫は戦争で死亡。娘は家のコネで終戦直後に引き取られたという。
ライルから渡された資料をフェリクスも手に取る。
「娘のためにエリア11へ、ですか……」
写真に写っていた彼女は肩まで伸びた黒髪に澄んだエメラルドグリーンの瞳。顔立ちはイレヴンだが容姿も美しく整っており、有紗と真っ向勝負ができるだろう。ブリタニア人国籍として認められているのは家への体裁や戸籍の問題だろう。
「明日、彼女を呼んでくれないか?それと、長野。」
「は?」
「先日逮捕された、彼に会ったらどうだ?私の名前なら面会くらいできる。」
「藤堂鏡志朗…ですか。」
そう、先日ようやくあの藤堂鏡志朗が逮捕されたのだ。ライルも会ってみたいと思っていたし、ちょうど知り合いの長野を会わせようと考えた。
「面会だ。」
藤堂鏡志朗は独房から連行され、椅子に座らされた。
「お久しぶりです、藤堂中佐。長野五竜大尉です。」
聞き覚えのある名前を聞き、藤堂は顔を上げた。
「長野……」
「…片瀬少将と草壁中佐の件、遅ればせながらお悔やみを申し上げます。」
敬礼と、同時に頭を下げた旧友に藤堂は
「………気遣いは無用だ。だが、よく面会が出来たな。」
その問いの答えは……
「私が許可したのです。監視付きという条件ではありましたが……」
若い男が入ってきた。身なりからして、高い身分の貴族なのは分かる。癖の強い前髪が特徴の灰色の髪に青い瞳……
「第八皇子ライル・フェ・ブリタニア……」
「名にし負う『奇跡の藤堂』に覚えて頂き、光栄です。」
若い皇子は律儀に敬礼をする。
「そうか……今は彼の部下になっているというのだな?」
「ええ、恭順政策の一環という形で。妻と娘の生活が良くなり、同時に市民の生活を良くする足がかりになるのならばと拝命した次第です。」
なるほど……彼が和平派よりになったのは妻の君子と娘の絵里のためと終戦直前に聞いているし、両者とも会ったことがある藤堂は彼の気持ちが分かった。そして、彼の考えは今も同じのようだ。
「お前がその考えでブリタニアに恭順するのならば、私に否定する理由は無い。だが、容易ではないぞ?」
「心得ております。ですが……敢えて従うのも守ることになると、私や山本政務官は考えています。」
敢えて従うことで民を守る……その考えもある意味で正しいのだろう。
「……旧交を温めている所で申し訳ありませんが、藤堂中佐。私からもよろしいでしょうか?」
「なにか?」
「単刀直入にいきます。客将として、私の旗下に加わりませんか?」
……今、何と言った?ブリタニアの軍門に降れ?
「ブリタニア皇族はそのような冗談を嗜むのか?」
「本気ですよ?流石に貴方ほどの指名手配犯ではかなりの不自由を強いてしまいますが、その才能は欲しいのです。私の権限ならば大尉待遇は保証できます。」
「『厳島の奇跡』をブリタニアで起こせ、と?」
ライルはやはりそこか、と思った。そしてその一言でおそらく日本人達が彼に向けているものが読めた。
「記録の上になりますが、あれは貴方の軍事的手腕による勝利だと私は思います。」
「ならば、尚のことだろう。私がいなくても、有能なブリタニア将校がいるではないか。どのみち処刑を待つ身、そのような男を旗下に加えても貴方のためにはなるまい。」
「………軍人としての、筋ですか?」
「そうだ……私が勝ったために多くの将兵が、市民が自爆した。私に続けと……あそこで負けていれば、あのようなことは起こらなかったのではないか?」
「仰りたいことは分かります。我が国は我が国で、あれが原因で愚か者共は日本人を死ぬのが大好きだなどと、くだらない偏見を持った。ですが、貴方が軍門に降れば、未だに行われているカミカゼを止められるとは思いませんか?」
「『奇跡の藤堂』すら軍門に降ったと?………やめておけ。ブリタニアを内側から破壊する奇跡を人々は期待するし、そのあおりを受けるのは貴方だ。」
これもまた……随分と痛い指摘。しかも、極めて現実的な意見だ。
「そこまで言われては、仕方がありませんね。………ただ、軍人としてお聞きしたいことがあります。イデオロギーと市民、どちらを優先して守るのが軍隊だと思います?」
イデオロギーと市民……どちらも、軍人が守るものだ。しかし…………
「イデオロギーを守る術は我々軍人が持つ。それを放棄したら、日本人の日本人たる所以がなくなる。」
日本人の日本人たる所以………この国の石器時代から受け継がれてきた歴史、文化……精神、そういうもののことだろうか?だが、ここまで考えているとなれば、もう無理だろう。ゲイリーとは違う意味で頑固な男のようだ。
「貴方は、そういう軍人なのですね………では。」
ライルは軍人が守るのは市民の利益や生命だと思っている。イデオロギーは市民に伝えられる。つまり、市民が胸の内に秘めることが出来るのだ。しかし、生命を守る力は軍人の方が持っている。むやみに振り回せば、それはただの暴力………
「我が国に、それを言う資格があるのだろうか?」
そう口に出したライルは思考を切り替え、レイ・スレイターを呼んだ。
レイ・スレイターは緊張していた。まさか、いきなり皇族に呼ばれるとは。しかもコーネリアには届かないが高い継承権を持つライル・フェ・ブリタニアとは。
「レイ・スレイター、参りました。」
「どうぞ。」
了承を得て、入室すると執務室の机に座っていたのは灰色の髪の少年だ。報道でも見たとおり、前髪が特徴的で色素も薄い灰色の髪にサファイアブルーの瞳……容姿も整っている。
「率直に言う。君を私の騎士に任命したい。」
「………は?あの、聞き間違いでしょうか?」
「聞き間違いではないよ。君を騎士にしたい。」
私を騎士に?皇族が?なんで?
「……何故私が?私でなくても、『純血派』だった軍人とかコーネリア総督が認めている人とか大勢いたでしょう?わざわざ、私のようなハーフでなくても。」
「………理由としては、確かにそれもある。」
それ?ハーフであること?
「君の出自は既に調べている。君の日本時代の名前は甲賀レイ。戦後間もなく、母君に引き取られたのも知っている。」
「私はついでですか?スレイター家を手に入れて、自分の地位を固めようと?それとも………私の…身体が目当てですか?自分で言うのも何ですが、良い身体をしているとは思っています。」
時折、名誉ブリタニア人の兵士や貴族の士官に言い寄られている。どいつもこいつも、胸や腰を見てくる。実際に、胸がかなり大きい方だという自覚はある。
「……そちらは別だ。出撃の回数は多くないが、その分戦果は高い。『純血派』の支持者にも聞いたが、能力はジェレミア卿も認めていたという。」
「…オレンジのお墨付きでも嬉しくないのですが?」
「そう言わないで……少し、私の指揮下に入って貰う。その上で君にも辞退するか決めて欲しい。」
つまり、この人はレイには来て欲しい。が、自分がレイにとって合格かどうか確かめたい、というところか?
「イレヴンのハーフだから、自爆作戦をやらせるのでしたら、すぐにでも辞退しますよ?」
「私を奴らと一緒にするな!!」
「……失礼しました。」
今のには気圧され、数秒の沈黙が流れた。そのまま何もなければ退室を申し出ようという時…
「レイ・スレイター、君はどうして軍に?ハーフでも跡取りになっているのは聞いている。跡取りなら、わざわざ軍に入隊する必要はないだろう?箔をつけるにしても、やりようはあるのに?」
「………家の名前に箔をつけるために、というのは見当違いです。そもそも…初対面の貴方にそこまでおはなしする義理はないでしょう?父を殺したブリタニアの皇子に…」
「……すまない。とにかく……さっきも言ったように私の指揮下に入って、その上で叙任をするかどうか決めてくれ。」
「は!」
レイ・スレイターが退室し、有紗とエクトルが入ってきた。
「あの人……やっぱり、ライル様のこと疑ってるんですね?」
「昔の僕なら、『ハーフの身で軍にいてしかもライル殿下の騎士にしていただけるのならば名誉なことなのに』と、彼女の態度を怒ったでしょうけど。」
「…今は?」
「父親を殺した国の皇子というだけで、印象が悪いんでしょうね。さっきの一言でも分かります。……貴女という実例もいますからね。」
有紗も少しつまるが、「そう。」とだけ答えた。何とか有紗は整理をしようとしているようだ。
「でも、スレイター家ってそんなに凄いんですか?ゲットー暮らしでよく分からないんですけど。」
「スレイター家は侯爵家…つまり、ブリタニア貴族では大公、公爵の次だから三番目に偉い地位にあります。」
貴族界隈で三番目の爵位。軍隊で言えば、大将や中将に相当するということ………
「そんな偉い人の家に、どうしてイレヴンのハーフが?」
プライバシーではあるが、やはりハーフでしかもKMFのパイロットというのは興味をそそられた。
「……当主の母君は日本に留学していた時期があり、その時に知り合った先輩と結婚して生まれたのが彼女らしい。その男性は戦争で亡くなった……つまり、ブリタニアは彼女にとっても母君にとっても家族の仇なんだ。君と同じ…」
「……ハーフって、ゲットーの時みたいな?」
が、ライルは言葉につまった。
「分からないが……彼女の様子からして両方から迫害されたことくらいは想像できる。」
逆に言えば……どういうことがあったのかは分からない、ということになるのか。
レイは部屋に戻り、大きく息を吐いた。
「どうせ、私の身体かお母さんの会社が欲しいだけなのよ…」
日本時代から、レイは虐められていた。育った地域が保守的且つ閉鎖的で、父も職場で嫌がらせを受けていた上に父方の親戚からも会えば汚物か何かのような目で見られていた。
小学校に上がる頃には苛められ、給食着や体育着を汚され、教科書を破かれるのは日常茶飯事。先生に相談しても、取り合ってもらえないどころか教師までもがクラスメイトと一緒にレイを虐めていた。
窓ガラスが割れたとき、一緒にいたのにレイがやったと誰かが言えば先生も一緒になって犯人扱い、いじめを相談してもレイは嘘つき扱い。
そのまま小学五年のあの夏……母がブリタニア本国に帰っている間に戦争が起きて、本土決戦で父は自分を庇って死んでしまった。その後、軍のキャンプで保護されていたところをスレイター家の権限で大使館と日本政府に頼み込んで母が迎えに来て、しばらくは本国で過ごしていた。
が、その避難中も学校の奴らに見つかって『スパイ』だなんだと非難され、他の避難民達にも迫害を受けた。流石に日本軍人にそういう扱いは受けなかったが、レイは既に摩耗しきっていた。
引き取られた後も、イレヴンのハーフという理由で白眼視された。
『イレヴンの混ざり物の分際で。』
『どういう手を使って、当主様をたぶらかしたのか。』
自分と父への貴族達の嘲笑が耳に飛び込んできていた。しかも、聞こえよがしにわざと日本語で。
『全部、お母さんのせいよ!お母さんが私達を連れて行かなかったから、お父さんが死んじゃったのよ!!お母さんもブリタニアも日本も大っ嫌い!!』
あの時、母は何も言わなかった。無理ない、と思っていたようだった。
日本占領後、エリア11成立までの間に母はスレイター家の当主を引き継ぎ、経営の手をエリア11に伸ばした。
『今更何?もう、お父さんはいないのよ?お父さんの親戚のあいつらは死んでるわよ?まあ、ざまあみろだけど。』
父の親戚が死んだと聞いても、レイにとってはざまあみろ以外の何物でもなかった。学校の奴らや近所の連中も酷い目に遭っているというが、親戚と同じ印象しかなかった………
『分かってるわ……でも、せめてお父さんが見てくれるかもしれないあそこで貴女を育てたいの。それだけは信じて。』
その時の母の顔は、今でも覚えている。苛められて泣いていたとき、傍にいてくれた……父と三人で旅行に行ったときのあの顔だ。
学校に通うことも勧められたが、ハーフを理由に断られてばかりだったため……中学レベルの教育は母が教材を買って、自習するしかなかった。家庭教師もつけられたが、ハーフを理由に嫌がらせを受けてレイが長続きせず、嫌がらせに我慢できずにレイが掴みかかることが多かった。
『母親の温情を踏みにじる親不孝ものが。』
『汚らわしいイレヴンのハーフらしいな。』
みんな、みんなハーフを理由に!!そのくせ、母の前では……
『可愛らしいお嬢さんをお持ちですね。』
『母君譲りの気品と美しさを持ちますな。』
何が母譲りだ。自分の髪と顔立ちが父方譲りなのはレイ自身がよく分かっている。肌の色と瞳の色が母譲りというのは分かっても、顔はイレヴンだ。
それでも……誕生日には時間を作ってくれて、誕生日祝いのメールやプレゼントなどを贈ってくれていた。日本時代のように父の好きな和食を一緒に食べたり、ケーキを焼いてくれた。
そして……本国の祖父母からの命令で社交界デビューすることになったが………案の上だ。しかも、母に再婚を迫るような貴族も大勢いた。うんざりしていた頃………
少なからず、自分に味方してくれる使用人の一人から聞いた。母が病を患って、もう子供を産めないと。つまり……
『私は後継者以外の価値がないってこと?それとも、どこかのお坊ちゃんをもらおうっての?』
そう思ったが、後継者は母にとって名目。祖父達は叔母が嫁いだ貴族の息子に継がせようとも考えたそうだが、出来が悪く苦渋の決断でレイを後継者にするのを認めたとか。
『あの時、二人も連れて帰る選択があったのに私はそれをしなかった。皇族の方達がいるから大丈夫だという油断があの人を殺した……あの子を怖い目に遭わせた。だから…あの子にしてあげられることは何でもしてあげるの。』
後継者にするのも、学校に通わせようとしたのも……それだった。母親として、出来ることを何でもしようと。
その時、レイは決めた。ならば、自分は母を認めさせると。次期当主として何をすべきか………まず、死に物狂いで勉強し、作法も身につけた。だが、それだけでは足りない。そして、あった。軍に志願することだ。
レイは独断で政庁に乗り込んで、志願した。ハーフ故に白眼視されていたが、流石にスレイター侯爵家の名は効いた。KMFのパイロットとして入隊を認められた。
とはいえ、『純血派』が幅を利かせつつあった軍内部では出撃の回数は少なかった。その分だけ、出撃時には力を入れてきた。その甲斐があったか、それとも家への配慮か少尉にまではなれた。
『スレイター家の名前で出世した雌が!』
『出来損ないの分際で…!』
貴族や平民兵士が五月蠅かった。そして、名誉ブリタニア人からも
『半分日本人じゃないか!』
『身体と家の力だろうよ。』
家の力……勝手に作用したのは想像が付くが、それだけなら丁重に追い出せば良いし、噂で聞いた枢木スザクの方が追い出す方便には困らないじゃないか。
ゲットーに紛れ込んで、ブリタニアへの不平不満は聞いたが…
「じゃあ、私はどうなるのよ?ブリタニアにも日本にもどっちにも認められない私は…」
だから、レイにとって居場所は母だけであった。ブリタニアの中での居場所……母の傍だけがレイの居場所。そこを守るためにも……
同時に「奴らと一緒にするな」と彼のあの言葉………何故か、惹かれた。和平派の日本軍人を旗下に招き、あの畑方源流の孫も部下に招き入れた第八皇子………
「スレイター家の娘を?確か、イレヴンのハーフだったと聞くが。」
「そんなもので戦争は出来ない、総督の方がご存知でしょう?」
少なくとも、この理屈でならライルはコーネリアを負かす自信があった。何しろ、現場での経験は相手の方が上だ。爵位なんか小石一個分にもならないことは彼女の方が分かっているからだ。
「……分かった。本人からの了承は得ているのだな?」
「ええ、昨日のうちに。」
これで、コーネリアの許可は得た。そして……
「ユフィの騎士候補の件は聞きました。確かに優秀な人材が揃っていますが、枢木スザクは駄目なのですか?」
「あれはイレヴンだ…能力は認めるが候補に入れるわけには行かぬ。お前こそ、どうなのだ?」
「特派に入る前なら、声を掛けたかもしれません。兄様に先を越されたのが痛いです。それにしても……藤堂鏡志朗の銃殺、本気ですか?」
「ああ。」
藤堂の処刑は枢木スザクに変更された。おそらく、彼に出世のチャンスを与えるつもりなのだろうが………
「…恩師を処刑させるなんて、筋が違うでしょう?」
「何か?」
「いえ…何でもありません。」
長野は既に整理をつけようとしているが、枢木スザクはまだ17だ。死刑執行しかも恩師なんて……
「お前も、行くのだろう?」
「ええ……フクイの方に。」
「イシカワを隠れ蓑にして潜伏しようと考えたのだろう。お前がいなければ、私をやり過ごせたろうに。」
そうして、ライルはコーネリアと別れた。
ゼロやスザクに興味を持ち、藤堂にも無理を承知で声をかける。正にライルは人材マニアです。
ライルが騎士候補に選んだレイ・スレイター。
文章で分かるように、外見はイレヴンのハーフです。外見がブリタニア人のカレンと真逆です。
そして、レイはハーフのマイナスを私なりに考えたキャラです。あの世界ならハーフやクォーターの方が純血のナンバーズより居場所がないかもしれません。
ちなみに藤堂と長野は旧知という設定で長野の家庭にお邪魔したこともあるという感じです。