「藤堂の処刑、か……」
海棠隆一……旧日本陸軍の大佐で一個連隊を率いていた。彼の連隊は専ら市民の疎開を行っていたが、その中の遭遇戦でブリタニアのKMFにも襲われた。海棠は歩兵と戦車を連携させ、撃破ではなく行動不能にする事を前提にした戦い方で市民の避難の時間を稼ぐことに成功していた。
藤堂の影に隠れがちの上に、今は長く伸びた髪に無精ひげ、更にくたびれたコートを軍服の上に羽織るという見るからにだらしない風体から、軍人であるかさえ怪しい。が、実際に彼の指揮下で働いた将兵達からは絶大な信頼を寄せられており、戦時中に保護された子供たちにも慕われている。
そう……保護した戦災孤児達の多くが海棠とともに日本独立のために戦うことを望んだのだ。海棠は何とか窘めようとしたが、子供たちの決意は固かった。結局、彼らを止める言葉を持たなかった海棠は求められるままに戦う術を、人殺しの技術を教えてしまった。
だから、他にも教えた。どんなに耳あたりのいい言葉で取り繕っても、結局人殺しだ。ブリタニアから見ればテロリストになることも……自分達の火の粉を一般人が被ることも。
「大佐、救出は出来ないのでしょうか?」
日本時代からの部下、土田一樹の問いに海棠はうなる。出来れば、助けたい。しかし…
「どうやって?すぐ隣のイシカワには遠からず総督自ら飛んでくる。しかも処刑をする以上、相手だって備えはするだろう。」
そう、あくまで海棠達の組織は軍や政庁を相手に物資の流通を停滞させ、それを売り払うか奪ったKMFのパーツや軍の物資それ自体をキョウトを通じて他の組織に回すという嫌がらせ等の裏方的な活動だ。
加えて、未確認ながら第八皇子ライルがこちらに来るという情報もある。事実ならば、勝ち目はない。となれば……
「当初の予定を繰り上げて、脱出を図るべきだな。中華連邦か、E.U.へ。」
「何を仰りますか、大佐!」
声を荒げた男に海棠の部下達は忌々しげな顔になる。行村鷹一少佐……陸軍に所属していたが、この男は日本軍時代から評判が悪い。とにかく自己顕示欲が強く、自らが英雄であると公言してはばからない。しかも、似たような思考を持つ人間を引き寄せるカリスマ性は持ち合わせているのだから、尚達が悪い。
しかし、実際のところ『極東事変』では保護すべき市民からの略奪や敵前逃亡と捉えられかねないような行為を繰り返してきていた。元々『日本解放戦線』にいたのだが追放され、こちらに転がり込んだのだ。
元同僚だから、見殺しにするわけにも行くまいと迎えたのもこいつを繋ぐことで暴れられるのを防ぐためだったが、海棠の予想以上にこいつは暴れん坊だった。ゲットー、租界を問わず手当たり次第に市民から略奪を行い。最近の活動もこの男のアピールが原因で足が着いてしまった。
「我らこそが日本を救う勇士です!藤堂やゼロなどという詐欺師ではなく、真の日本軍人たる我らが行うのです!」
「おい、俺達の方針はあくまで裏方……キョウトのじいさま達にかっぱらった武器とか渡して、嫌がらせしてブリタニアを焦らす方針だった。だからできるだけ身軽に行動する。お前さんも一度は納得しただろうが?」
行村と彼に同調した兵士達は不服そうだ。逆に海棠の日本軍時代の部下や、かつての戦災孤児達は行村達を睨んでいる。
「……で、キョウトから連絡があったな?隣のイシカワに総督が、こっちに第八皇子様がくるって。」
直属の副官の土田一樹中尉がそれに応える。
「は、既にこちらへ向かっているそうです。また、例の名誉騎士団も同行していると。」
「名誉騎士団、か……」
「大佐、これは好機です!裏切り者共を粛清し、我らの力を示すべき!!」
行村がしつこく食い下がるが、海棠は現実を告げる。
「こっちはグラスゴーや無頼が何機かある程度だぞ?勝てないよ。逃げの一手だ。」
幸い、片瀬と同じように万が一にもらった流体サクラダイトがあるし、手土産になるかは難しいが状態の良いサザーランドも何機かある。パーツも含めれば、十機は組み立てられる。日本側の政治家経由で中華連邦とE.U.に何とか話はついている。あとは運だろう。
「一応、手は考えている。みんな聞いてくれ。」
フクイに到着したライルは一番最後に『極東連盟』の略奪の被害に遭った地域に直接事情をうかがうため、ゲットーの責任者と話していた。
「では、その日本軍人は行村鷹一少佐と名乗ったのですね?」
「はい…日本独立に協力するのは市民の義務だと言って……!」
責任者の後ろから市民が出てきた。
「息子を無理矢理組織に入れようともしたんです!!」
「あんな奴に協力するくらいなら、ブリタニアの方がまだマシです!!」
「恭順でも何でもしますから、何とかしてください!!」
「上官は分かりませんが、行村と手下は絶対に処刑してください!!」
そのブリタニアの皇子の前で、といいたいがこれは窘めるのは無理だ。まさか、独立運動をしている組織にここまでの敵意とは。群馬鉄山の時より凄い。
「わ、分かった!分かったから下がれ!」
「とにかく、解散しろ!」
警護の歩兵や士官も住民達の凄まじい剣幕に怯んでしまった。
「ここまで民衆の支持を得ない武装勢力も凄いですね。」
フェリクスが半ば呆れるが……
「だが、行村鷹一少佐という男が今回の彼ら『極東連盟』の方針を狂わせた原因であるのは間違いないな。」
「リーダーの海棠隆一大佐は持て余している、と?」
ライルの分析に幕僚達は懐疑的だ。確かに、その男をカモフラージュにという線もないとは言い切れない。
「……逮捕された『日本解放戦線』の構成員にその二人を知っている人間がいたら、確認したいな。」
が、『日本解放戦線』の構成員と言っても藤堂や片瀬、草壁のクラスはもういないだろう。佐官クラス二人となれば、今も服役或いは植民地政策に協力している日本政府か軍上層部に日本軍のデータベースを当たってもらえば、簡単な素行調査のデータくらい出てくるかも知れないが、後だ。
「以上が、作戦の概要だ。」
「大佐、臆病風に吹かれすぎです!裏切り者共を粛清する好機ではありませんか!!」
「行村少佐、指揮官は大佐です。それに、相手が本気で潰しに来たら勝てません。」
そう、あくまで物資の流通などを停滞させるのが海棠達のやり方だが、本気で潰しに来られたら絶対に勝てない。なら、これまでの現物やデータ、流体サクラダイトなどを持って海外へ逃げて方向修正をするのが無難だ。
勝つことは出来ないなら、負けない勝負をするのだ。
「船は用意してあるが、保険はかけておきたいな。」
数時間後に土田が来た。
「大佐、準備は完了致しました。」
「ご苦労さん。」
土田の報告を聞き、海棠は応えて水を一杯飲む。
「大佐……第八皇子の名誉騎士団は。」
「裏切りだと思うのかい?」
「………はい。」
一般的な考え方、と言えばそうなのだろうが海棠はそう思わない。何故なら……
「裏切りって言うけどさ、俺達はその人達に何かしてあげたか?俺達は武器持って隠れてるだけ。しかもやっているのは軍隊に嫌がらせして、弾やらエナジーフィラーをかっぱらう泥棒だ。」
「身も蓋もないことを仰りますね。」
「事実だからな……だが、問題は名誉ブリタニア人だ。戦争で生き延びて、赤ん坊のミルクを買うために租界で働く親や、親の代わりに弟を育てようと名誉ブリタニア人になった人に俺達は何もしてないだろう?これはイデオロギーでは絶対に解決しない……それしか持ち出さないようなら、俺らに否定する権利はないよ。」
その言葉に、部下達も黙るしかなかった。だが、そう言っていて海棠は自分に嫌気が差した。大層なことを言いながら、彼の戦争で保護した子供達の多くが日本を取り戻すために戦いたい、恩を返したいと彼の元に集まった。彼らの意思に押されて海棠は知りうる限りの戦い方を教えた。そう…未来ある子供達を死地へ赴かせている。
「特に元ちびっ子共…お前らは次の世代なんだ。カミカゼやって立派に死のうなんて考えんなよ……俺はそんなことのためにお前ら保護して戦い方教えたわけじゃないんだ。立派に死ぬより、生き延びるために戦えよ?」
行村鷹一少佐は壁を殴りつけた。
「ええい、臆病者めが!」
今こそ、憎きブリタニアの皇子を打倒するチャンスではないか!そもそも、我々の通報がゲットーの住民からだとしても、それはあの男が脅迫するか洗脳もしくは内通者だ。
そう、あの四分の一がブリタニア人の女に決まっている!
海棠が保護した学生だと言うが、あの女が内通しているのは明白だ!何度も主張するが、証拠がないと取り合わなかった。
大体、真の勇者が何故海外へ逃亡する?………いや、待てよ?
そうだ、海外で同志を募り私とともに世界をブリタニアから救う力をつけるのだ!
日本をブリタニアから解放するのは藤堂などではない。まして、ゼロというあの仮面の男ではない!この行村鷹一を置いて、他にいないのだ!
海棠の子供達では年長に位置するブリタニア人のクォーター……ナカタ・クレシェント・セーラはため息をついた。例によって、またいいがかりをつけられた。占領前から、ブリタニア人のクォーターを理由に嫌がらせを受け、占領後はあの通りだ。海棠達に会わなければ、どうなっていたことか。
「気にするな……」
土田が肩を叩き、気を使う。
「大丈夫です…もう、慣れました。」
同じく、戦災孤児の一人の橋本裕太は海棠に声をかけた。
「大佐、俺は行村少佐の考えは正しいと思います。」
「カミカゼが?」
「いえ、名誉ブリタニア人が裏切り者だという考えだけは…でも、その裏切り者ですらブリタニアからもきっと裏切り者候補扱いされているとも思うんです。だから、俺達が独立させれば名誉ブリタニア人達も元の日本人として、少なくとも日本人から迫害されることはなくなる。だから、俺は大佐と共に戦うんです!」
海棠は少しだけ唇を上げ、裕太の頭を叩く。
「理想としてはそうだな……けどな、独立ってのは口で言うほど簡単じゃない。出来たとしてもその後のブリタニア人の帰国やブリタニア企業、国際的な日本独立の承認、再度侵攻に備えた武力。生活環境、子供らの教育、問題の数だけでいやあ今の数十倍、いや数百倍だぜ……」
「数百倍…」
「だから、独立できりゃ一番だが…限定的な自治も俺は良いと思ってる。例えばキョウト、ナラ、オオサカだけ日本としての内政自治を認めるって事で……その上でブリタニアって国の加護が得られる……」
「でも、それは…!」
「そう……ブリタニアの支配下から抜け出せなくなる。でもゲットーでひもじくて肩身の狭い思いはしない。だろ?」
「は…はあ……」
「どっちもどっちだが…お前らのようなお若いのがドンパチで死ぬことがないならその方が良いよ。ミルクが飲めずに泣きながら赤ん坊が死ぬなんざ、なおさらだ。藤堂や草壁は果たしてそういった考えが出来たかどうか………っと、無駄話が過ぎちまった。準備しとけよ。」
「敵は、おそらくこれまでに我が軍から強奪した物資を逃走資金代わりに国外脱出を試みるでしょう。ならば敵の戦力は絞られてきます。」
「……海兵騎士団は?」
ライルの質問にゲイリーが答える。
「は、ポートマンを五機ほど手配しております。」
船一隻ならば十分すぎる戦力だ。だが、敵がこの動きを読んでいた場合…どう出るか………
「逃げることに集中するか…それとも玉砕覚悟で挑んでくるか。両方を視野に入れて行動しよう。」
「向こうは多分俺達が逃げるか玉砕で決めかねているだろう……そこにつけいる隙がある。」
「何故言い切れるのですか?」
セーラの問いに海棠は一息ついて答える。
「ああ……戦争で死んだあいつらや市民には悪いんだが…………」
同僚や、市民には悪いが?
「アホな奴らのカミカゼを知りすぎている…それが答えだ。俺達が腰抜けか、バカか判断する材料が少ない……片瀬少将みたいなことをされたら向こうも困るしな。」
なるほど……海棠の部下と子供たちは言いたいことが掴めた。つまり、悪い前例を知りすぎている彼らにとって我々は言わば考え無し或いは逃げられないのならば一人でも道連れにする手合いか、それとも逃げることに全力を注ぐか………どちらかを判断する決定的な根拠がない。日本解放戦線という前例を知っているのならば、尚更だ。逆を言えば、そこに逃げられる可能性があるということだ。
目標の船を捉え…前もって勧告をしたが、敵に動きは無い。そして、刻限が来た。
〈作戦を開始せよ!〉
今回は『日本解放戦線』の事例を考慮してライル達は前もってKMFで待機、『黒の騎士団』の真似をする別の勢力かゼロ本人の介入に供える意味もある。
敵は流体サクラダイトを保有しているため、コーネリアが打った手と同じく対人用の弾丸を装備している。しかし、甲板に人影が全く見えない。熱源で探査すると、敵兵は数が少ない上に屈んでいる。これでは狙いが付けられない。
〈気分の悪い作戦だ…〉
レイはライルが吐き捨てたのを隣のサザーランドで聞いた。
「殿下?」
〈いきなりこんなやり方で気分が悪いし、あんなことを言っておきながら出られなくて済まない…〉
詫びにレイは「いえ…」と答える。
「でも…攻撃の中止要請とかが来ませんね……」
秀作はコクピットで舌打ちをした。あの忌まわしい魔物共…日本軍人を一方的に殺せるというのに屈んでいては狙えない。バズーカでも撃って船を沈めたいところだが現在バズーカは装備しておらず、撃ったとしても流体サクラダイトによって全員木っ端微塵だ。
「散々俺に奴みたいに戦え。独立させろ等と抜かしておいて自分達はこれか…!」
だが、ゲイリーの指示で敵の恐怖を煽るべく射撃は続行する。熱源センサーを頼りに秀作は目標を定めてトリガーを引いた。
命中し、秀作は唇を上げるがふと違和感を覚えた。センサーで周囲を見回すと、何故か小さい陰がちらちらと見える。
〈船が出航した!脱出を許すな!スクリューを破壊して動きを止めるのだ!〉
ゲイリーが兵達に念を押し、海兵騎士団に追撃の準備をさせる。だが…これでは本当にコーネリアと同じ轍を踏む……
〈こちら第三小隊、トラックが一台…!〉
報告してきたニイガタの駐屯部隊からの連絡が途切れた。それを聞いた秀作は気付いた。
「ライル!敵はトラックを爆発させて俺達の攪乱を狙うつもりだ!!あの船も本当に敵がいるのか怪しいぞ!!」
魔物共め…やはりカミカゼを仕掛けてくるか!流体サクラダイトで最後は自爆…いや、それは考えにくい……!だったら最初から港ごと吹っ飛ばした方が良い。
ということは…もしや?
「海兵騎士団の追撃を中止しろ!あの船は囮だ!!」
〈な、畑方准尉!貴様に発言権は…〉
「くだらない面子に拘っている場合か!散々馬鹿にしているイレヴンに出し抜かれるぞ!!」
〈秀作、何か気付いたのか!?〉
ライルが秀作の発言に耳を貸す。
「どこかに他の船がいないか探せ!それがおそらく本命…」
言い終わるよりも先に船が爆発した。
船の爆発は海中にまでその影響が及び、海兵騎士団のKMFは三機が互いに激突して爆散し、二機はかろうじて戻ってきたがパイロットは負傷している。
そして、陸上のKMF隊も爆発の余波と船の残骸で被害を被っている。すると、別のドックから作戦開始から数十分前に民間の船が出港したという連絡が入った。元々出航中止していたという民間船だ。
「やられた…!回された脱出用の船自体を囮にして民間船を拿捕したのか!」
〈殿下、すぐにあの船を…!〉
レイが進言するが、更に爆発が近くで起きる。先ほどの車両群だ。まだ、爆発が続く。この調子では、何が出るか分からない。
「全機、負傷者を救助した後にこの戦場より離脱!損傷の酷い機体は捨てろ!人間の命が最優先だ!確実に逃げるために今度は何を仕掛けてくるか分からない!!」
もし、あれが本物の民間船なら乗員が人質になっている可能性が高く、うかつに手が出せない。相手がコーネリアだったら通じないだろうが…ライルならば話は別だ。
秀作はパネルを殴りつけた。
「くそっ、魔物共め!次に会ったら、必ず俺が食い殺してやる!!」
あの忌々しい日本軍人共に一本取られた…秀作にとってはそれこそが屈辱であった。奴らを、そして日本人を根絶やしにすることこそが存在を確立する唯一の手段だというのに……!
いや、まだゼロが…あの奇跡を名乗る魔物がいる。奴らの首をこの俺の手ではねてやる!
「大佐、ブリタニア軍は追撃をする意思はないようです。」
「こっちが何かまだ手を用意していると思って損害を優先したってところかな?良い判断だね…何せ本当に手を用意してたんだから。」
土田の報告を聞いて海棠はデータでしか知らないライルを賞賛する。あのまま追ってきていれば、爆弾入りのKMFコクピットを即席の機雷として使用、あるいは組み立てておいたKMFの遠距離砲撃でだめ押しをするつもりでいた。あのまま攻めてきていたら彼らの損害は更に大きくなっていただろう。
「さて…んじゃこの貨物船の皆さんには丁重に下船願いましょうか。」
海棠は行村一派の暴走を聞いた時から、それを止められなかったことを悔いるだけではなく…この偽装作戦の実行を想定していた。民間の貨物船の乗組員達を銃で脅してコンピュータで出航予定時刻を改竄、即席でくみ上げたプログラムで無人のトラックと船を用いたカミカゼによる脱出作戦を演出した。費用は目も当てられないほどかかったが、中華連邦とはある程度の話がついていた。そして、この貨物船にある水と食料もある。何とか、E.U.へ渡る算段も立てている。
「それじゃま、皆さん。ブリタニア軍に俺達に銃で脅されたってバカ正直に証言よろしく。あ、これはその音声記録ね。」
「な…何故我々を生かすのです?」
船長の問いに海棠はわざとらしく頭に手を当てる。
「あのね…あんたらから見たらテロリストだけど、俺はまだ軍人のつもりなの。ブリタニア人だから皆殺しなんて品のないこと嫌いだから。…行村組は抑えてんだろうな?」
海棠の確認に部下達が敬礼をして答える。
「は!既に食堂に軟禁しており、彼らの帰還用ボートには爆発物は確認されておりません!」
「よし…んじゃあ悪いね。俺らはこれで海外旅行してくるから。船賃は俺らの罪状追加って事で。」
二時間後、解放されたクルーたちは無事にブリタニア軍に保護されたとの報告が入った。
翌日…『極東連盟』に船を拿捕された貨物船のクルー達への事情聴取が行われ、彼らの証言と音声や映像の記録から彼らは特に罪には問われなかったが……
「なんと品のない男だ……これでも軍人か?」
ゲイリーがモニターに映った海棠龍一の顔に憤慨する。確かに、手入れなどされていない髪と無精ひげ、更にくたびれたコートを軍服の上に羽織っているだらしのない印象だ。しかし……
「この男がリーダーということは…あの脱出作戦もおそらく……」
「『能ある鷹は爪を隠す』といいますが、もしそうなら侮れませんね。」
長野が純粋に海棠を賞賛するが…
「お前が内通していたんじゃないのか?」
畑方秀作が入ってきた。
「そいつ、和平派だっていうが裏じゃ藤堂と通じてるんだろうよ。さっさと処刑した方が良いと思うが?」
「貴様、先日も同じ事を言われたのを忘れたのか?」
ブリタニア人の士官がにらみつけるが、秀作はそれを意に介さない。
「あんた達こそ、いきなり後から来た日本軍人が幹部で面白くないくせに。枢木スザクの時のようにでっち上げで殺せば良いだろう。嘘から出た真っていうし、俺に死刑執行をやらせてくれよ。」
図星を突かれたのか、士官達は黙るがゲイリーが前に出る。
「畑方秀作、いい加減にしろ……お前の祖父も日本軍人だっただろう?」
「俺は奴らの一味じゃない!」
先ほどと打って変わって、凄まじい剣幕だ。
「……俺も疑っているのなら、どうすれば味方だと信用する?ゲットーの魔物共を千匹ぐらいKMFで踏み潰せばいいか?それとも、昔ロッポンギでやったようにテロリストの首を十個くらい持ってくればいいか?なんなら、お前の前で脳みそぶちまけてもいいぞ。ああ、魔物の赤ん坊を生きたまま焼いて、食えばいいか?」
次から次へと出てくる虐殺の光景……特に最後のは士官達も口元を押さえてしまった。ライルも、何とか堪えていたが……その言動と、目を見たライルは自分が重なって見えた。あの頃、母の言うとおりにするだけだった自分への嫌悪感……自分の注文通りにしようとする親への敵意。同じようなことを言う人間全てへの憎悪……秀作のはライルよりも…
「来たとき、アンタは妻と娘のために和平派になったというが……家族のためということ自体、理解ができない。」
もっと酷い…………彼にとって、家族とは
「秀作、ここは引き下がってくれ。さっきのは完全に私のミスで…相手が上手だっただけだ。」
「……分かった。ただし、そいつがスパイだったら俺は遠慮なく殺すぞ?動機だけなら、俺にとっては嘘八百だからな。」
礼はして、秀作は退室した。
「殿下、あの男はやはり危険です。」
確かに、クロヴィス時代の彼の話は聞いている。ロッポンギが兵士達の間で一番有名だが、それ以外でも反ブリタニア勢力のイレヴンを大勢殺している。居合わせた士官の話によれば、『自分が日本の敵であるとアピールをすることに固執している』というが、そのルーツは?
「…殿下、私に彼と話をさせていただけませんか?」
ゲイリーがいきなり名乗り出た。
「ゲイリー…君が?」
「はい。少し、気になりますので。」
「………分かった。」
行村はあの世界でいなかった腐敗した日本軍人を出したくて書きました。実は掲示板時代、ある投稿キャラの敵役として考えたのです。
他のアニメとかでいえば『銀河英雄伝説』の門閥貴族やアンドリュー・フォーク、或いは自由惑星同盟の無能軍人共。
対照的に海棠は『銀河英雄伝説』でいえば、ヤン・ウェンリーとアレクサンドル・ビュコック提督を足して割った感じかもしれません。
海棠はブリタニア軍に嫌がらせをして、それをキョウトや他の勢力に回す。ネットワークを作ろうとしていたけど、行村のせいで失敗した感じです。