逃げられたライルは事後処理を進めるが、そこへトウキョウから報告が入る。チョウフ基地が『黒の騎士団』に襲撃され、収監されていた藤堂を救出したという。そして、『黒の騎士団』を撃退したランスロットのパイロットが名誉ブリタニア人の枢木スザクであるという事実が世間に知られ、同時にユーフェミアが彼を騎士に任命した。
「騎士の任命、おめでとう。」
〈ありがとうございます。〉
「……姉様は、案の定いい顔をしなかったようだね。」
ユーフェミアの顔はやはり少し曇っていた。
「全く、もう少し早く来ていれば私が彼を引き抜いていたのに……」
〈兄様、それは他の名誉ブリタニア人の方々に失礼ですよ?〉
「ああ……そうだったね。だが、君への風当たりも強くなる可能性があるから、そこは気をつけて。」
〈ありがとうございます。兄様は、この後は?〉
「私はこのまま事後処理を進める。姉様なら大丈夫だとは思うが、念のためにね。」
「殿下がいる、というだけでも充分牽制になるでしょうね。」
後はもう一つ、行村鷹一の情報収集を山本に頼んであるし、逮捕された『日本解放戦線』の構成員に確認を取っているし、今はそちらに集中しよう。
秀作は部屋に戻ろうとしたが…
「畑方秀作……いいか?」
ゲイリー・B・クレヴィング……ライルの側近だ。
「将軍……不敬罪で処刑?」
「違う。少し、付き合って欲しい。」
連れられて、G-1の食堂の一角を借りて、コーヒーが出される。
「お前の素行は聞いているが…何がそこまでさせる?祖父と関係があるのか?」
「スパイの尋問か?」
「違う……私の家は先祖が新大陸に渡る以前からの軍人でな。…息子達にも軍人の道を歩ませたのだが…………」
「なんだ、死んだのか?」
「いや、生きてはいる。だが、嫌われてしまってな。お前のような顔をされたことがあるのだ。」
理由は薄々分かっていた。ゲイリーはクレヴィング家当主として、子供たちに心構えを教えた。だが、色々なものを見てきた息子達は軍人以外の道を進みたいと言ったが、ゲイリーはそれを認めずに無理矢理に長男と次男を軍学校に入学させた。
自分の家に遠慮せず、成績は公正に見てもらう様に言い含めたが、息子達は上位の成績を収めて卒業……それぞれE.U.、中華連邦方面の軍にKMFパイロットとして配属された。
「エリートじゃないのか?」
「いや……それがな………上のカリウスは妻の旧姓を名乗るようになり、下のソロも私の母…つまり母方の祖父の姓を名乗ったのだ。」
「絶縁じゃないか。アンタの自業自得だろうが。」
そう、自分のせいだ。息子達に自分の敷いたレールを走ることを強制して、健在だが会うことすらままならない。妻や使用人達にも苦言を呈され、末の娘のサリーだけは普通の学生として歩ませた。できれば貴族の子息と結婚して欲しいが、望む相手と結婚して欲しいとも思っている。
「お前も……両親か誰かが私のようなことをしたのではないか?」
秀作の顔が少しだけうつむいた。
「ああ…そうだよ。」
秀作の脳裏に、あの地獄が蘇る。幼稚園の頃からだろう……かけっこで一番になれなければ叱られて、小学校のテストで100点を取れなければ殴られるなど当たり前。
『この役立たずが!』
『貴方はお父さんとお母さんがおじいちゃんより強いと証明するのよ!それがあなたの幸せなのよ!!』
小学三年……戦争が起こる少し前には既に、両親………血の繋がりだけのあの妖怪共にとって自分は子供では無い。いや、子供とは自分の有能を証明する道具としか認識していないのは分かった。
両親は祖父…畑方源流の息子夫婦で軍人だった。
しかし、祖父と比較してもあまり優秀な軍人とは言えず、陰口を叩かれていたという。だから、息子を一流の軍人に育てて、自分達の有能を証明しようとしていたのだ。
くだらない……軍人のくせに、自分で実績を挙げようとしないで他人…それも息子にやらせようとするなど。
「仮に、俺が軍人として成功してもその栄光と実績は俺のものだ。アンタだって現役軍人なら分かるだろう?そこの皇子様も。」
秀作はライルが来ていたのに気付き、睨み付けていた。観念した、と思ったのかライルも大きく息を吐いた。
「ああ……仮に君が日本軍人として成功しても、その成功は君自身の努力の賜だ。両親がもらえるのは、精々良い軍人に息子を育てたという賞賛だけ…………『流石は畑方将軍の血を引く』や『畑方将軍の後継者』と言われても、その賞賛だって君に向けられるものだ。」
「……今の二つは正直殴りたかったが、お前の言うとおりだよ。他人の、それも自分達の子供のお零れに預かる妖怪の道具なんて、俺はまっぴらだ。同じようなことを言う魔物共も同じだ。奴らを根絶やしにしないと、俺は永遠に奴らの道具だ。」
そう、奴らは俺に奴の妖怪ジジイの孫として日本の旗印を要求する。ならば、根絶やしにすれば俺は俺自身になれる。
ライルは秀作の言葉に強く惹かれた………永遠に、親の道具………
私も、このままでは永遠に……
「秀作、前も言ったが私は君の出自には興味があった。だが、いきなり大きな戦果を挙げろとは言わない。実績を挙げるのも君自身のペースでやっていい。」
「……分かった。少なくとも、この間と今回でお前や将軍が奴らみたいな事を言わないのは分かった。」
ライルは少しほっとした。
「少なくとも、君が言う手合いよりはマシだと思ってもらえたのかな?」
「ああ……一応な。」
有紗は川村雛と会っていた。
「なんで、名誉ブリタニア人になったか?」
「ええ、私はライル様が保護してくれたところで身の振り方を相談したら、今小間使いとして使ってもらっているから。川村准尉は?」
「…………呼び捨てで良いわよ。」
「え?」
「同じイレヴンなんだし、あんま他人行儀でも肩がこるわ。アンタや親衛隊のお姉さんのでかいものとは違う意味で。」
雛の指を指した先を見て……
「どこを見て、言ってるの!?自分だってスタイル良いし、美人じゃない!」
胸の大きさで言えば、有紗自身やクリスタルが上だが、彼女だって充分スタイルが良い。顔の右半分が隠れているが、男が放っておかない美人
「生憎、これなの。」
右半分の髪をあげると、そこから覗いたのは焼けただれた顔だった。
「……それって、戦争で?」
「そ、爆撃に巻き込まれたの。家族はそれで木っ端みじん、あたしは顔と背中が見事にウェルダンになっちゃったの。」
背中、まで……
「それ以来、あたしは何でもやって生きてきた。あのころのあたしより小さいイレヴンの子供も殺してきたの。」
同じ、イレヴンの子供を自分が生きるために?
「ど、どうして……他の人達と協力しなかったの?」
「あたしみたいな火傷だらけのガキなんざ、薬がいくらあっても足りなかったんだもの。だから、大人にあれこれ聞けるだけ聞いて、学力補って盗みでも殺しでもやって名誉ブリタニア人になったの。食い扶持が欲しくてね。」
生活のために……名誉ブリタニア人になって、軍隊に入った。
「あんたやあのハーフと違って、売れる顔と身体じゃないから。一等兵じゃ、すぐに限界が生じると思ってたけど運が良かったようね……あのお坊ちゃんのおかげでいきなり下士官に大出世だもの。それに、一銭にもならないイデオロギー持ち出す奴らを思いっきり殺せるおまけ付きだし。」
レイはライルが気に入っているというイレヴンの小間使いに会ってみようと思い探していたら、先に編入された少女、川村雛の話を聞いた。
一銭にもならないイデオロギー、か……
イデオロギーばかり持ち出す……レイを虐めていたイレヴンもそういうことを言っていた。散々、レイをハーフと迫害しておいて、都合の良いときだけ日本のイデオロギーを持ち出して同胞扱いする。
イデオロギーで私が純血になれるのなら、それを振り回すわよ。
だが、実際にそんなもので解決するモノなんて1つも無い。
「……私も、混ぜて貰って良いかしら?」
「あらま、騎士候補まで。」
「よろしく……さっきの話、良いこと言ってたわね。」
「イデオロギーどうこうって?」
「そ、知っての通り私はハーフだけど、イデオロギーで私が純血になる?」
その問いに、二人は沈黙した。
「なれないわよね。ところで、飯田有紗さん。」
「は、はい。」
「貴女、私達の間でも貴方が殿下を誘惑したとかって噂あるけどどうなの?」
有紗は顔が赤くなった。
「ゆ、誘惑なんてしてません!だって、イレヴンなんて相手にされないでしょう!?」
また、随分と率直な意見だ。
「……そんなこと言ったら、ハーフの私なんて母親が貴族でも相手にされるかどうか怪しいでしょう?」
「ああ、いえてる。どうせおたくの家が目当てでしょうね。で、子供産ませたらどこかの貴族とってパターンよね。」
「……それ、ライル様もそうだって言うんですか?」
「違うって言える?」
レイはまだライルを信用していなかった。そして彼女たちも
「私はね、本音を言えば貴女達も信用していない。根拠は、私が純血じゃないから。」
「…へえ、つまりあんたはあたしらイレヴンがゼロと政庁の二股かけてるって言いたいわけね?」
雛が挑発的な態度をとると、
「あら、違うって言えるの?イレヴンはみんな私を半分日本人のくせにって言ってるし、ブリタニア人もどうせ半分イレヴンって言ってる。都合のいい時だけ、敵国人同国人の掌返しの連続。あんたたちだってそうなんじゃないの?手柄欲しさで、私に言いがかりをつける。」
有紗がギョッとしていた。
「図星、かしら?」
「ち、違います!だって、ハーフなんて証拠にならないでしょう!だったら、純血のイレヴンの私達の方が説得力あるでしょ!?」
「逆よ、ハーフだから純血より説得力があるってこと。だって、どっちにとっても邪魔なんだから。案外、本当にゼロと結託して」
「いい加減にして!!」
有紗が怒鳴るが、レイは怯まない。
「だったら、日本軍人やその血縁なんてもっと怪しいでしょう!?そっちはどうなのよ!自分の親以外は全部敵だっていうの!?」
「そうよ。だって、この18年親以外はみーんな、敵。都合のいい時だけ日本人、ブリタニア人。悪くなればブリタニア人、イレヴンだもの。純血のあんたたちにわかるの?」
それを言われ、有紗も雛も黙ってしまった。
「…だったら、どうしてライル様の騎士になる話を受けたの?」
「まだ受諾したわけじゃないけど……そうね、あの人は、私のハーフという出自に興味を抱いた。と言った。そこだけは信じてもいいって思ったの。」
それから、彼女達は生い立ちや身の上を語り合い、最終的にライル・フェ・ブリタニアは現時点では信頼できる人だという結論に達した。
暫くした後、フクイの後始末が落ち着いて一足先に政庁に戻ったライルの元へある報告が入る。エリア11へ来訪するという第二皇子シュナイゼルを出迎えようと式根島に向かったユーフェミアが黒の騎士団の襲撃に遭い、スザク共々行方をくらました。
捜索の結果、神根島に流れ着いてゼロと接触していたが、スザク共々無事に救助されたという。シュナイゼルが本国のジヴォン家に出資を頼んでいた試作機ガウェインを奪われてしまったものの、ある程度データは残っているし、シュナイゼル自身もあまり気にしていないようだ。だが問題は…
「枢木スザクが命令違反?」
「はい……本人は記憶にないと主張しているのですが。」
また……?どういうことだ。
過去のデータや最近の軍医のカウンセリングの資料を見たが、命令違反をするようなタイプではないとライルは思う。彼と同じ特派のスタッフ達も同じ考えだそうだが……
結局、シュナイゼルの計らいでこれは不問となったが彼はその責任を取ろうと騎士を辞任してしまったという。少佐への昇進そのものは取り消されなかったが、それにしてもこうも立て続けに利敵行為や命令違反が起こるのはあまりにも異常だ。
バトレーにジェレミア、そして枢木スザク……何かしらの形でゼロと接触した人間がこうも立て続けに利敵行為とその後の記憶の混乱を訴えるなんて。ホテルジャックを起こした『日本解放戦線』の草壁もゼロに会って間もなく自決したという。
明らかにおかしい…………
こうなってくると、ゼロ自身に何か、と考えていた矢先にライルの元へフェリクスが報告に入る。
「殿下、関門大橋が落とされました!更に、玄界灘に多数の揚陸艇が!」
「中華連邦か?」
宣戦布告も無しに、それとも同時に?が、その後の報告に
「いえ、それらの艦艇には日本の国旗があったそうです!」
日本の国旗……日の丸と呼ばれる、あの白と赤の?
前々から、あっても良かったと思うナンバーズ側の悪い部分の犠牲者。秀作と雛はそれです。
秀作は「将軍の孫だから、アレをしろコレをしろ」。正にスザクの「首相の息子だからああしろ、こうしろ」です。それへの憎悪が肥大化して、同国人を魔物と呼ぶほどの憎悪になった。
レイもまた、カレンがなっていたであろう形の一つです。同じハーフでもカレンと違い、どちらであることも認められない環境で生きてきた。だから、『ハーフという出自への興味』で声をかけたライルに関心を抱いた。
雛は戦災孤児の典型例かもしれません。『自分が生きるために何でもした』、『イデオロギーで顔は元に戻らないし、空腹は満たされない』から。『魂や誇りしか持ち出さないバカ共』なんて全部死ね。
三人にとって、日本は祖国ではなく只の呪いの象徴でしょう。まして、日本人なら独立のために戦えなんて、三人にとっては「どうぞ殺してください」と言っているようなものでしょう。レイに限れば『ブリタニア貴族の責務』も同義語