只、こちらは潜伏するテロリストが暴れ出すレベルというイメージ。
実際、ユフィの事件ではオタルとサッポロをまたいで、ハコダテ、トウヤコチョウまたはムロランで暴動が起きてましたし。ちなみにここでは起こりません。
正直、オズとアキト発表前にやった頃にロゼでホッカイドウとは思いませんでした。
〈我々は、ここに正当なる独立主権国家日本の再興を宣言する!〉
キュウシュウブロック、フクオカ基地を占拠した武装勢力の中心人物は沢崎淳。当時の枢木政権で官房長官だった人物で、戦後は中華連邦に亡命していたが、昨今のエリア11内部の混乱に乗じて中華連邦の協力で戻ったというのが当局の分析だ。
ライルは早速、山本政務官と会っていた。当然と言えば当然だが、関与を確かめる尋問も兼ねているため、嘘発見器は使われている。
「では、戦後貴方の元に連絡はなかったのですね?」
「はい……共に亡命することを勧められたのですが、その時に袂を分かっております。」
既にいくつかの質問をしているが、今回の件に関して嘘発見器は反応がない。ここまでくれば、白とみていいと判断され、以後は彼に意見を伺うことにしていた。
「ここしばらく、NACに対してサクラダイト採掘を行う日本企業に採掘権について通告があったという話は聞いていたのですが、ここまで大規模な行動に出るとは。」
「…………政務官は、この日本をどうお考えですか?」
山本は数秒沈黙する。
「実態は別にして、貴国はこれを中華連邦との戦争とお考えになりますか?」
実態は別……という言葉にフェリクスが問う。
「つまり…貴方は、この日本が中華連邦の傀儡だとお考えですか?」
「はい……中華連邦の曹将軍は人道支援と公表しておりますが、中華連邦はキュウシュウを足がかりに日本の宗主国となるつもりでしょう。未確認ながら例のリフレインの流通に中華連邦が関与していたという情報もあります。」
リフレインの流通……確かに、当局も目を光らせているのにあれだけ蔓延するとは。しかも、クロヴィスより内政能力の高いコーネリアですら掴み切れていないのだ。中華連邦が梃子入れしていた可能性は高い。
「このまま行けば、E.U.とて黙っておりませぬ。下手をすれば、日本を三分割した三つ巴になりかねません。」
「……日本政府官僚の貴方としては悪くない話ではありませぬか?」
ゲイリーの率直な意見に幕僚達も少なからぬ疑惑の目を山本達に向ける。
「……私見を述べるならば、エリア11となった日本は一部を除きゲットーの状況は安定しておりませぬ。この状況でE.U.と中華連邦が日本を併合し、宗主国を宣言すれば一番火の粉を被るのはエリア11成立後に移住してきたブリタニア人以上に日本人です。しかも、搾取の相手にE.U.と中華連邦まで加わってしまい、本当に日本が世界全てを敵に回しかねません。E.U.の日本人の現状はあなた方もご存じでありましょう?」
確かに……E.U.の革命政府は権力アピールと日本企業の債務を取り消すために在住日本人達の財産を凍結し、収容所に隔離収容している。だが、既にベーリング海から攻め込んで現在は『ユーロ・ブリタニア』と名乗る貴族連合がロシアのほぼ全土とバルト三国を制圧して、大西洋方面とアフリカ大陸からは本国も攻め込んでE.U.は追い込まれつつあり、権力アピールは意味をなさなくなっている。
にもかかわらず、イレヴンを収容し続けて挙げ句にE.U.の市民権を餌にイレヴン達を前線に投入しているという。そのうえ、それで戦局を巻き返そうという発想にすら至っていない動きだとか。
山本達和平派は彼らの帰国と財産凍結の解除を申し入れているが、聞き入れられていない。革命政府としても、権力アピールのネタを手放したくないのだろう。『ユーロ・ブリタニア』が擁する『四大騎士団』の1つ、『聖ミカエル騎士団』でE.U.出身の日本人がその騎士団のナンバー2として活躍している上に名門貴族シャイング家に養子入りして、次期当主と『ミカエル騎士団』の後継者が内定しているという。確か、現在の名はシン・ヒュウガ・シャイングといったか……
それだけの地位に就いたイレヴンの同国人を支配しているというアピールにしがみつこうとしているのか。ライルにとっては滑稽だった。
いずれにしても、日本人が三大勢力全てに搾取される構図が出来上がるのは必至。今は相手が主にブリタニアだから暴走に至っていないだけだ。
「つまり、今辛うじて踏みとどまっている一線を越えるのを阻止したい、ということでよろしいのですね?」
「その通りです……私の権限の及ぶ範囲で情報や物資の提供に協力致します。」
どうやら、山本は本気で協力するようだ。
「では、ご好意に甘えさせていただきます。」
「ライル兄様。」
ユーフェミアが入ってきた。
「ユフィ……」
「何か、できることはございませんか?シュナイゼル兄様は大丈夫そうでしたので。」
が、ライルはため息をついた。
「ユフィ、残念だけど今回ばかりは私も君の味方はできない。……式根島での兄様から枢木少佐への命令は私も納得できない。でも、君はやり過ぎた。少し謹慎した方が良い。」
敢えて、謹慎という言葉で副総督としての自覚と空回りを窘めた。が……
「ですが……」
「キュウシュウが落ち着けば、シュナイゼル兄様やコーネリア姉様と話すチャンスはある。私も仲介してあげるから、その時ちゃんと話し合うんだ。枢木少佐のことも……」
ユーフェミアはそう言われて、項垂れるしかなかった。元々、政治的な素質は少なくとも自分よりはある方だとライルも思う。ただ、経験値が圧倒的に不足している。加えて、コーネリアが負担を減らそうとしているのが逆に彼女から成長の機会を奪ってしまっているように思う。
姉妹仲は良いが、実は指導者としての相性は良くないのかも知れない。
「わかりました……」
ユーフェミアは退室していった。
「厳しすぎたかな?」
有紗に問うと……
「え?私、一人っ子だったから……ちょっと、兄弟のことは。」
「事態が事態ですし……彼女も総督も頭を冷やした方がよろしいでしょう。」
フェリクスがコーネリアも窘めるような発言をした。が、実際にユーフェミアの騎士候補はコーネリアがダールトンやギルフォードと共に選んでいる。そこに、本人の意志はなかった。
「枢木スザクを騎士にしたことは……あの子なりの姉様への反抗かもしれないね。」
「あの年頃は我が強くなってきますからね……何せ、我の強さならばもっと強烈な方が我々の目の前にいます。」
ゲイリーに言われ、会議室の全員がこちらを見てきた。
「……大きなお世話だ。」
そこに、山本の笑い声が入った。
「良い信頼関係ですね……」
「…そう見えるのですか?」
「ええ、少なくとも私の目には中核の方々は身分ではなく殿下を等身大の人間として接しているように見受けられます。」
だが、実際のところライルは良くも悪くも幼い部分もあるというのが古株たちの認識だ。
美奈川浅海はあの後、各地を渡り歩いた。何とか生き残った仲間とは合流したが、彼らは考えを変えることなく無理矢理食料を奪おうとし、果ては12歳にも満たない子供を無理矢理仲間に加えようとした。
それを窘めようとしたら、逆に裏切り扱いされた挙げ句に住民達に通報されて他の仲間達は捕まるか、住民に殺されて浅海だけは命辛々脱出に成功、元々キョウト経由で打診していた『黒の騎士団』への合流が適った。
合流できたのは、あの枢木スザクの叙任直後。無頼改を乗りこなせるというのが効いたのか、式根島の戦闘後に零番隊と呼ばれる親衛隊に編入することが認められ、隊長の紅月カレンとは年齢もあって新参者とエースよりも友人として付き合うことができた。
ブリタニア人がいたのは驚きだが、うち一人のラルフ・フィオーレは貴族の陰謀で全てを失ったブリタニア内部の被害者だとのことで、現在は副司令の扇要の傍で補佐役として動いている。
だが、浅海の心にはしこりが残っていた。
あの時……ライルが言っていた安寧を望む日本人達。仲間達はそれに耳を貸さないばかりか協力するのを当然だと言って、中には若い女性を身体目当てで無理矢理連れて行こうとさえした。今まで、浅海は謝罪と弁明をしながらそれを実践していた。だが……
遠巻きに見て、気付いてしまった。これでは、ブリタニアと同じだと。
そんな中で、果たして『正義の味方』を名乗る『黒の騎士団』で自分は何を見つけられるのだろうか?
ラルフは扇と話し合っていた。
「ゼロが国を作るつもりだったなんて……」
「ああ……いくら組織が大きくなったと言っても…………」
「でも、ブリタニア人の僕が言うのもなんですが日本を取り戻すってそういうことですよね?……やっぱり僕達だけじゃ限界がありますし、キョウトのバックアップがあってもE.U.か中華連邦の後ろ盾か同盟が必要じゃあ。」
そう言われて、扇は低くうなる。
「確かに、お前の言うとおりだ……」
「その上で、沢崎と合流しないって決めたのはあくまで中華連邦にしろE.U.にしろ、傀儡じゃあ意味がないって事でしょうか?ただ上に立つ国が変わるだけって事に……」
さっきゼロもいっていた独立国構想……だが、かといって中華連邦が沢崎とこちらを同時に支援してくれるのだろうか?
キョウトから届いた、沢崎に呼応しているホッカイドウの武装勢力にも合流しないとゼロは表明した。
『あれは沢崎にも劣る。中華連邦の傀儡政権であることも分からずに、ただ便乗しようとしているに過ぎない。そんなまとまりのない連中を助けたところで、こちらが余計な損害を被るだけだ。邪魔にこそなれ、我々の同志にはなりえない。』
その意見には、ディートハルトと藤堂も肯定的だった。今の『黒の騎士団』は本格的な軍事組織に限りなく近い。そんな思いつきで動くような連中を仲間にしても、こちらに従ってくれる保証もない。そうした観点から、藤堂も頷いていた。しかも、ホッカイドウの鎮圧に第八皇子ライルが行くという。
あっちも正面からぶつかっても、勝てないからか。
記録だけ拝見したが、ナリタでコーネリアに勝ったのはゼロの作戦勝ちによるところが大きい。勝利の結果だけに酔いしれてライルにも勝てると錯覚させない意味もあるのだろう。
更に言えば、本命はあくまでコーネリアがいるトウキョウ租界。地力で劣る以上、戦う相手は絞るべきとも言っていた。
ホッカイドウの武装勢力を取り込むプラスよりも、ホッカイドウのブリタニア軍とライルの両方を相手にするマイナスを考えた結果だ。
山本からホッカイドウで不穏な動きがあるとの報告が入った。沢崎の動きに呼応して、いくつかの武装勢力が蜂起しようとしている。
「ホッカイドウ方面で活動する日本政府か財界の要人からは?」
「いえ、組織だった行動はありません。支援者が手引きした可能性もありますが……それでもまとまりは弱いです。」
「となると……沢崎淳の新日本政府に呼応した…………と見るべきか?」
ライルの分析に会議室の面々は頷くが……ゲイリーが
「殿下、より正確に申し上げるのならばこれは軽挙妄動に等しいでしょう。」
「軽挙妄動?」
ゲイリーがモニターにホッカイドウの報告を映す。武装勢力の活動は流石に当時からの中枢であったサッポロやハコダテでは起こっていないが、クシロやキタミなど当時からのホッカイドウの主要都市周辺で同時多発的に起こっている。規模も大小様々だ。
「『日本解放戦線』や『黒の騎士団』であればもっと大規模で組織的に動くはず。しかし、サッポロ租界を初めとした各都市の軍が個別に対応に当たっております。となれば、おそらく市民のデモや弱小組織が動いたまとまりのない散発的な行動という線が濃厚です。」
そうか、沢崎の新日本政府樹立に続こうという組織が個別に動いているんだ。
「規模は大小様々でも、鎮圧はできるだろう。しかし……これだけの数が動かれては向こうの軍も対応が追いつかない可能性もある。」
最終的に鎮圧はできても、時間がかかる。ならばいっそ、
「私達で鎮圧に向かおう。」
「……その理由は?」
フェリクスの問いにライルは
「これまで総督は本州に力を入れて、いままでホッカイドウなどには力を入れてこなかった。ナリタでアレックス将軍を始めとした幹部や親衛隊に多くの死者が出たのも大きい。」
「軍事的にはそれでいいですが、具体的には?」
「……まず私が行くという報道を行い、上陸予定地もリークする。」
有紗がそれを聞いて、意見した。
「待って!そんなことしたら、待ち伏せしてくださいって言ってるようなものでしょう!?」
素人の有紗でも、そう考えるだろう。普通の反応だ。
「そう、それが狙いだ。軍人の組織でも、風穴の一つを空けようとする。私ならば、少なくともこういう場合は逃げるか、動かずに様子を見るか、玉砕覚悟の三択をする。」
相手は皇族の正規軍、普通ならば戦おうとしない。
「確かに、貴方が出てくるだけでも示威行為には充分ですね。ホッカイドウからも規模の大きい武装勢力の情報はもらっています。」
長野の報告を聞き、その場は軍議に変わっていく。
「では、まずいくらか修正を加えましょう。」
「……ああ、総督と宰相にも申請を通す。」
ライルの申請は思いのほか早くシュナイゼルが承認してくれたことで、すぐさまホッカイドウへ向かう準備が整えられた。
ライルの言い分はつまり、第八皇子自らが鎮圧に向かうという報道を行ってホッカイドウの連中を縮こまるようにする、または勢い任せの連中を自分に誘き寄せる。
ホッカイドウの軍と挟み撃ちに出来る可能性もあるから。