只、ここでライルの宿敵の一人が出てきます。能力で言えば、ロゼの黒戸やルルーシュの藤堂並かそれ以上です。
原稿として書き直したのもロゼ発表より前なので少し場所を変えたりしています。
池田誠二少佐……『極東事変』ではまだ二十代前半ながら大尉というスピード出世の逸材であった。当時の部隊長の戦死に伴い、戦時階級として少佐の階級を与えられてそのまま、その階級を通している。
敗戦後に赴任地でもあるホッカイドウで生き残った将兵や志願者と共に潜伏を続け、『日本解放戦線』の崩壊とゼロの台頭でも彼らは動かずにいた。
自分達の規模が遙かに劣る上に、陽動をしようにも自分達だけでは効果は望めない上に組織同士の横の繋がりなどは皆無に等しい。
だが、我慢の限界が蔓延しつつあるのも無視できない状況となっていた。一度でも、何かの行動でこれを爆発させるガス抜きが必要な状況になってしまった。
そんな中、ホッカイドウの企業から連絡が入った。第八皇子ライル・フェ・ブリタニアがこちらの鎮圧に向かっていると。
「池田少佐、この気分を爆発させる格好の相手だ。」
当時上官だった稲垣孝一中佐が意見する。階級は彼が上なのだが、池田の方が才能はあると固辞して彼自身は補佐役に留まっている。
「第八皇子を討ち取るのですか?兵士の質ならばコーネリアの正規軍より上だと謳われるあの軍を?」
彼の実力主義は聞き及び、最近は畑方源流の孫や和平派の日本軍人さえも旗下に加えたと聞く。正に家柄は勿論、人種も問わず躍進の機会を与えて正当な評価を下す、ある意味で公正ととれる皇子だ。
『首相の息子』や『将軍の孫』というブランドに縋る日本人は最初から負けているとさえ、池田は感じていた。そもそも、戦争当時二人はまだ小学生だ。小学生にやらせるということ自体が見当違いだというのが池田個人の考えでもあった。
「玉砕覚悟で戦わねばならぬ相手だが、我々が奴を討ち取れば、痛み分けとすることはできる。反抗の灯は消えないだろう。」
なるほど…せめて、傷跡を残して後に続く者たちに希望をと。
「お考えは分かりましたが、やはりそれでは意味がありません。無様に落ち延びても、雪辱の機会をうかがうべきです。」
池田の考えは、ここでライルを討ち取るのを狙うが万が一に備えて逃げられるようにする。そうすれば、この場の負けにはなっても完全な負けにならない。我々が雪辱を晴らし、独立のために戦い続けることができる。
「…指揮官は君だ。私は、補佐としてその判断に従おう。」
〈沢崎に呼応したホッカイドウブロックの反政府勢力は現在、ホッカイドウブロックの守備隊と小規模の衝突を行っているとのことです。市民の皆様はゲットー周辺には近づかないようにお願いいたします。〉
キュウシュウのように旗印がいないのが幸いしたか、小規模勢力が小競り合いをするレベルにとどまりつつある。どうやらただでさえ寄せ集めに等しい組織が内部でいさかいを起こしたようだ。この分なら、自然と消える可能性もあるか?
ならば、ここでライルが来て強く吹けばおそらく小さい灯は吹き消せるだろう。
「大きな灯りがあれば、それに反応する。それだけでも叩ければよいが、果たしてうまくいくか。」
作戦案は大体まとまっている。そして、今回有紗は政庁で留守番だ。エクトルも一緒だし、シュナイゼルが政庁にいる上にライルが嫌う手合いとて今回はたかだか名誉ブリタニア人のメイド一人にかまっている暇などないはずだ。
「こればかりは、相手の出方次第ですな。」
「ああ……」
〈ここで政庁からの発表です。ホッカイドウで散発的に発生する反政府デモおよびテロ鎮圧のため、第八皇子ライル殿下がご出立なさったとのことです。殿下の名誉ブリタニア人で構成された騎士団はこれまで各エリアで実績を重ね、先日も『極東事変』後に我が国との和平に尽力した旧日本政府文部科学省の山本秋水政務官の護衛官であった元日本軍人を出向の形で編入したとのことです。今回の出立について、専門家は沢崎に賛同していないという意思表示の見方を示しています。〉
『黒の騎士団』でもこのニュースは見ていた。
「本当に日本軍人を……」
「何が和平派だよ!命が惜しくて裏切ったんじゃねえか!」
玉城がそれを罵るが、ラルフが
「玉城さん、藤堂さんたちもいるんですよ?」
「あ…す、すみません。」
「別に、身内の恥をすすげないのは残念だけどね。」
朝比奈が淡泊に答え、他の三人も沈黙していた。
〈ただいま、出向した日本軍人の情報が入りました。旧日本陸軍所属、長野五竜大尉。戦時中に『厳島の奇跡』と呼ばれる日本軍がブリタニア軍を撃退した戦闘後に頻発した軍と市民の暴発を防止及び枢木ゲンブ首相の自決による内政混乱収拾に尽力した山本氏の護衛任務を受けていたとのことです。〉
テレビにスキンヘッドの壮年の男が映り、元日本軍人の五人は反応する。
「長野…本当に成功しているか。」
「山本政務官のことは聞いていたが、まさか護衛の軍人は中佐のお知り合いですか?」
卜部の問いに藤堂はうなずいた。
「ああ、新兵時代からの私の友人だ。『厳島の奇跡』の後に頻発したカミカゼを嘆き、それを止めるために和平派に転じて最速の負けによる奥方や娘、市民の生命を選んだ。」
それを言われ、空気がやや重くなる。
「みんな、その議論は後にしよう。ゼロから作戦の発表がある。」
扇が仲介し、全員ブリーフィングに向かう。その中で浅海は……
負けることで、頻発するカミカゼを少しでも減らそうとした。
いつかカミカゼをやるべきと考えていた浅海だが、それはつまり…負けによる誹りを受けてでも犠牲になる人々の命を一人でも減らそうとした。
「ライル、日本軍人まで採用して貴方は本気で自分のやり方でブリタニアを変えるつもりなの?」
何とか入団試験をクリアした久保カイトは第八皇子ライルへの怒りを募らせた。有紗を攫って、挙句に和平派つまりは味方であるはずの日本軍人の家族を人質に直属の騎士団に入れるなど!
奴を倒さねば、多くの日本人が奴に操られてごみのように捨てられる!!
そう、信じて疑わなかった。ブリタニアへの憎悪が自分の目を曇らせ、自分に都合のいいようにしか認識できなくしていることに気づかず。
有紗はため息をついていた。今回は事件の規模が大きすぎるために留守番を言い渡され、その間にライルの居室の掃除をしていた。他にやることもなく、事実上の休暇に等しかった。流石に事態が事態だからハラジュクに帰るのは無理だと言われているし、外出はどうしようか悩んでいた。
「やめておいた方が良いですよ。ナンバーズ出身を理由に因縁をつけられるから。」
エクトルの言う通りだと思った。ただでさえ、名誉ブリタニア人で皇族の小間使いなのだから、何を言われるか分かったものではない。
「いい機会だから、少し休んだ方が良いですよ。僕も事実上の休暇ですから。」
エクトルに促され、有紗はうなずいた。
確かに、礼儀作法や紅茶を入れるときの動作、知識などいろいろと勉強しながら務めていたが、かなり厳しかったのは事実だ。
「そうね……暇つぶしに厨房を借りたいわ。」
「僕からもお願いしてみます。」
ライルのことが心配ではない、と言えば噓だが、自分にできるのは待つことだけ。彼が無事に帰ってくるのを信じて………
「私、料理や身の回りのお世話しかできないなんて……やっぱり銃の撃ち方だけでも習った方が良いのかしら?」
エクトルはぎょっとした。まだ数か月足らずの付き合いだが、彼女は清楚という言葉がよく似合う女性だ。これがブリタニア貴族ならば、家庭的かつ淑やかな令嬢だっただろう。
「有紗さん、殿下が銃の撃ち方を習った方が良いとおっしゃったんですか?」
「え?そういうわけじゃないけど…」
「だったら、無理に習わなくてもいいと思います。僕だって本国の貴族専門の学校で従者としての作法を習っただけですし、それでも銃の撃ち方は習わなくてもいいと殿下に言われました。」
多分、軽はずみに撃ってほしくないというライルなりの気遣いがあったのかもしれない。それに、ライルは彼女の手が血にまみれるのをよく思わない気がした。
「殿下がどこまで自覚しているかはわからないけど、貴方が帰りを待ってくれている。それだけでも充分だから。」
ホッカイドウの武装勢力の蜂起は迷走しつつあった。すでに報道されていたライルの到着が、ただでさえ勢い任せに等しかった武装勢力を後退させていった。彼らにとっての救いがあるとすれば、租界の安全確保が最優先された結果、追撃が少なかったことだろう。
ゲットーの中に逃げ込んで、隠れてしまえばそう簡単に見つからないしシンジュクのような対応をとるにしても、ホッカイドウブロックのゲットーで手あたり次第にするのは悪手だ。中枢に当たるサッポロもそこを配慮して防御を優先している。
それゆえ、ブリタニア軍も比較的大きな動きをする地域に戦力を集中させて今後の脅威となりうる部分のみの対応にとどめた。キュウシュウが鎮圧されれば自然と収まるという公算があってのことだ。
「示威行為でとどまれば良かったが、クシロ方面に比較的規模の大きい勢力がいるという報告は?」
「はい、戦時中に北海道防衛線を担当した日本陸軍が中心となったようです。拠点は湿原国立公園近辺。規模からして、少なく見積もっても一個大隊です。」
一個大隊……兵器の質や数を考慮しても、勝てない規模ではない、か。
現状、その組織が一番厄介だ。しかも、戦後の今も野生動物の生息地として現地の企業や有力者からも保護を申し出られているから手を出しにくい。
「近隣の部隊に連絡、それと意図的に我が軍のネムロからの上陸をリークしてくれ。」
情報をリークする、という発想に幕僚が意見する。
「殿下、情報をリークするのであれば相手の潜伏地域に近いクシロからの方がよいのでは?」
「だからこそ私は馬鹿正直にここから行くべきだと思う。」
フェリクスがそれに対して
「リークするからこそ?」
「相手は確かに我が軍と正面から戦っても勝てる兵力ですが…だからこそ、ですね。」
長野が意図を悟った。
「ああ、あえて正面から攻撃する。多少なりと、心理的な奇襲はできるだろう。」
普通ならば、誰もリークした方向から攻めてくるとは思わないだろう。仮に読まれたとしても、心理的打撃を抑えたい。
「多分、ゼロのような相手には通じないだろう。」
「少佐、クシロ方面から第八皇子が上陸するという情報をつかみました。」
戦時中からの副官である西野淳哉大尉が意見をする。
「おそらく、この情報はブリタニア軍がリークしたものでしょう。いかがなさいます?」
西野の分析は正しい。となれば、比較的手薄なアッケシチョウから来ると考えるのが理想だが、見え透いている。相手が素人集団と侮っているかそれとも、本職の軍人だからこそ定石で来ると考えたのか。
「こちらにはアッケシチョウからくるという確証がない。」
「罠である可能性も?」
西野の意見は池田もうなずいた。
「ああ、だが誘いに乗ってクシロに行けばどうなる?そちらのブリタニア軍と戦うだけならまだしも、アッケシチョウから上陸した敵に側面から襲われる。」
「では、第八皇子はそれを狙って?」
「恐らく……私がブリタニア軍ならば、名誉騎士団の実績という政治宣伝を狙う他にホッカイドウで規模の大きい組織に戦力を集中して、こちらの方面軍に恩を売り軍事的な勝利も狙う。」
まだ18だというが、そこそこ頭が回る。本人の才覚か、それとも優秀な補佐役がそろっているのか。
「いずれにしても、海外へ逃げることも想定する。」
こちら側も脱出も戦術的勝利も狙えるということだ。おそらく、相手もそれを狙っている。
「だからこそ、クシロから行く。どうせ二分の一の賭けだ。」
ライルの考えに長野はうなる。
「…待ち伏せされないと慢心してアッケシチョウから行くよりも、待ち伏せを前提にクシロからというわけですか。」
「ものは考えようですな。相手が待ち伏せているのを前提に進めば読まれた心理的打撃も少なくできる。」
ゲイリーはそれを認めた。同時に、ライルの成長速度に少し驚いた。士官学校での成績は上位だが、ペンドラゴンの最上級の士官学校から見れば中の上、言っても上の下だ。実際、来た頃の彼は新兵さながらの緊張をにおわせた。
だが、才能があるとすればおそらく柔軟さ…或いは最良の手だけを狙うのではなく、考えうる最悪のケースに全ての手を用意するその執念と責任感だ。
「いくつか議論して出たこれが、これが私の考えられる手だ。この手で行く場合の不足分を聞きたい。」
「殿下、より確実とするために本当にアッケシチョウへ行く部隊を用意するべきでしょう。」
幕僚の一人が意見すると
「戦力を二分するのか?それは良いが、数の優位を作れなくなる可能性もあるが?」
「殿下、その作戦ならば修正を付け加えられます。」
フェリクスが意見をした。
「教えてくれ。」
「行くのであれば、私を含めた親衛隊の中でも力量のあるパイロットとエリア11の軍でアッケシチョウに上陸、そちらにいる勢力を叩くのです。その方面の軍も健在との連絡もあり、数の優位をより作れます。」
フェリクスの考えはゲイリーにも読めた。
「つまり…二正面作戦か。」
それならば、理屈の上では良い手だ。ましてこちらには皇族がいる。皇族というジョーカーが少ない手勢で来るとは普通は考えない。仮に外れても、今回のホッカイドウはキュウシュウのように旗印がいるわけでもないから、統率性を欠く。付け入る隙はある。
「となれば、後はクシロの私次第か。わかった、艦隊に備えとしてKMF二個小隊は残せるか?」
「はい。」
ゲイリーの返答にライルはうなずいた。
「では、今の作戦にフェリクスとゲイリーの案を付け加える。フェリクス、陽動を頼むぞ。」
「ええ、派手に暴れます。それと、この手は今回のような散発的な反乱だからできる手ですよ?」
「ああ、分かっている。相手が正規軍ならば、もっと大規模かつ綿密さが要求されるんだろう?」
「そういうことです。これ以上のベットは危険ですからね。」
正直、戦術論としては自分で考えても混乱してしまいます。
クシロの公園周辺にいる池田誠治達の組織を叩くべくアッケシチョウから上陸する……という偽情報を流して馬鹿正直に拠点近くのクシロから攻め込む。
普通なら誰でもアッケシチョウから攻め込むと思うでしょう。多分、ゼロやコーネリアならば両方とも抑えると思います。もしくは読み切って、クシロに最大戦力を集中して撃退する。