アッケシチョウに上陸したライル軍は軍旗を掲げた。
〈我々は第八皇子ライル・フェ・ブリタニア殿下の親衛隊である!殿下の剣の錆となる覚悟ある勇者は挑んで来い!〉
第八皇子軍の軍旗、白い翼と黒い翼の女性、さながら堕天使か堕落した女神が剣を抱く紋章……元は『フォーリン・ナイツ』用の紋章として用意されたものだが、人種も身分も問わないライルの方針をより鮮明にするという威光と予算の関係から、新たな軍旗となった。
「裏切り騎士団の軍隊だ、打ち取れ!」
「馬鹿、コーネリアの親衛隊より強いんだぞ!勝てるわけねえだろう!!」
名誉ブリタニア人達の部隊を前に裏切り者共への制裁に燃える者、相手の力量を恐れる者、無理矢理従わされている者と戦う事への躊躇が彼らの動きを更に鈍らせた。
『人種や爵位、名前なんてものは戦場では小石一個分の価値もない。』
ライルの持論で、ライル軍ではその大部分が同意していたが……
〈意外と、名前の効果があるケースも見られるようですね。〉
〈だからと言って、それで勝てると思い込めばおしまいだ。我々が見限られるからな。〉
〈ああ、我らが主君の多すぎる嫌いなものの一つだ。ま、俺たちも嫌いだが?っと、仕事に集中。〉
平民出身者が軽い会話をして、相手の様子を見る。元々が強力な指導者もなく、寄り集まったような連中だ。瞬く間に離散し、一部は玉砕覚悟でただのバイクやジープで向かってくる相手もいた。
フェリクスはそれを見て……
「流体サクラダイトがあるかもしれない、距離を取り対人装備で迎撃。」
そこからは、もはや虐殺に等しかった。元々離散しかけていたのが、真っ先に突っ込んだ人間たちが肉塊になったのを見て、残りは完全に散り散りだ。もう現地の軍だけで充分であった。ライルの軍はあくまでも牽制に切り替えたが、それでもかなりの人数を殺した。殺すな、という命令は受けていないしライル自身も無理な注文なのはわかっているからだ。
「こちらはライル殿下親衛隊のフェリクス・D・ヴィオレット。クシロ方面に展開するライル殿下の応援へ向かうべく、物資及び情報の確認を要請したい、指揮官につなげてください。」
〈イエス・マイ・ロード。〉
クシロの港からライル軍は上陸した。先発のサザーランドが揚陸艇で上陸し、索敵を行う。
「敵影は確認できません。」
「完全に誘い出されたか、或いは……一番怖いのは顔を出した途端に撃たれることだ。こればかりは、運任せだ。先に私が死んだら、ゲイリーが指揮を引き継いで逃げろ。」
〈そうならないことを祈りますよ…〉
揚陸艇から次々とKMFが出てくるが、迎撃の様子はない。
〈殿下、この様子からしてアッケシチョウに向かったか或いは…〉
「待ち伏せ、か?」
長野が〈そうです。〉とうなずく。今回、親衛隊の大半を陽動に割いたためにこちらは『フォーリン・ナイツ』とエリア11の駐留軍がほとんどだ。ライルが総指揮、副指令として長野が着いている。
「よし、このまま敵拠点予測地へ進撃。」
〈罠の可能性を留意しつつ、ですね?その代わり、我らが前で貴方は中央で。〉
「わかった……軍事の先輩に従うよ。」
通常よりやや遅めの速度で進軍するライル達だが、まるで何もない。ここまでくると、かえって不気味だ。恐れをなして逃げ出した、なんて思いたくなりそうだ。一度進軍を止めようとさらに速度を落として間もなく、警告音が響いた。
〈砲撃だ!殿下をお守りせよ!!〉
すかさず前衛がライフルを構える。すると、前衛のグロースターが一機撃破された。
「敵襲!総員、迎撃せよ!」
やられた!万が一にと、上陸地点にクリスタル達を残したのが裏目に出た。相手正面から迎撃するよりも、こちらを公園とクシロの港の中間ギリギリまで引っ張ったのだ。全速力でくれば間に合うだろうが、ここまでやられてはおそらく……
「くっ!完全にやられたわね!!」
クリスタルの後続部隊が攻撃を受けていた。しかも、こちらを当てる気がなく…牽制の対戦車砲や日本軍装甲車、数機のKMFが牽制の射撃を行っている。
「うかつに動かないで!動けば、当たるわ!」
が、指揮をするより先に駐留軍のサザーランドが二機撃破されてしまった。敵の指揮官がどんな人間かは分からないが、こちらが本当にクシロから来るのを見越して、しかも周辺の勢力に協力を呼び掛けていたとすれば傑物だ。天才的な才覚を持つ一般人上がりか、それとも元軍人か。
「このままじゃ、殿下がやられてしまいます!!」
〈わかっている!アッケシチョウの方は間もなく鎮圧が完了する!!〉
「良いか!敵を撃破する必要はない!ある程度足止めしたら、戦闘状態を維持しつつ合流予定地点へ後退するんだ!」
〈承知!!〉
相手を港と公園地域の中間ギリギリまで誘い込む作戦、半分成功で半分失敗というところか。相手が罠を警戒して想像よりゆっくりと進軍していた。しかも、想定されたポイントよりも前で動きを止められそうになった。
かといって、挟み撃ちをすれば乱戦になってしまい、最終的に負けるのは数で負けるこちらだ。ならば、と先制攻撃を仕掛けたのが功を奏した。
第八皇子…異名から猪武者かと思えば、そうでもないようだ。或いはよほど良い部下に恵まれているのか。
稲垣は、池田がカミカゼを否定していたのを今なら理解できた。あの時は、稲垣自身もカミカゼをやるべき時が来ると考えた。多くの市民が、将兵が準じたのだからと。だが、池田は泥をすすってでも、生き延びるべきと考えた。ただ向かうべきではないと。
実際、血気にはやった将兵達が自爆を敢行したのに対して、同じく当時の将兵達よりさらに若いまだ少年というべき皇子はこちらの考えを半分は読んでいた。当時、今の彼と同年齢の若者は多くが自爆を敢行したというのに。
あの時、自分がすべきだったのは彼らを諫めることだったのだと稲垣は嫌でも思い知らされた。
「相手に名誉ブリタニア人がいないことを祈るばかりか。」
少なくとも、日本独立を果たせればこちらが彼らを殺す理由は減る。ライルさえ討ち取れば、彼らは
ブリタニア軍で危険な任務に従事する可能性は下がるのだから。
池田は内心、意外だった。相手がどんな人間かわからないから当然だが、池田も稲垣や他の部下たちと同じ、人材重視を除けば異名通りの超攻撃型の軍人…猪武者かもしれないと思ったが…
仮に猪だとしても、危険に対する鼻が鋭い。いや、むしろ狼やライオンかもしれない。まだ粗削りだが、近いうちあのコーネリアに並ぶほどの可能性を秘めているやもしれない。
そういえば、ホクリク方面でも日本軍人の組織相手に逃げられたという。が、その『逃げられた』が『負けた上に逃げられた』ではなく『逃げられたが、負けることは避けた』だったら?
「西野!相手は若いとはいえ、前線に出る皇族だ。コーネリアと同じレベルだと思って当たれ!」
〈承知!〉
想像以上に進軍が遅いうえに、動きを止めたことで感づかれてしまった以上はそのタイミングで先制を仕掛ける方針に切り替えた。このままいけば、ライルの交戦に気づいたイタンキ浜の部隊がやってきて、数で押し切られる。そのうえで、親衛隊をイタンキ浜に回していた。相手がそこまで考えたかはわからないが、結果としてライルは待ち伏せした相手をさらに多数の、それも後ろから叩けるという形で自分を囮にしてしまったのだ。
「殿下がやられては意味がない!他の地区で動ける部隊がいれば、こちらへ急行させろ!」
〈アッケシチョウの方は制圧がほぼ完了しており、現在急行中!〉
VTOLで向かわせているとのことだ、さほど距離が離れているわけではないから、諸々を含めれば十分弱というところか。
「長野、『フォーリン・ナイツ』の出撃を許可する。全速力で殿下の救援へ迎え。ウィスティリア卿は防御に専念し、逆に敵を貴官に釘付けにするのだ。」
〈イエス・マイ・ロード!〉
クリスタルの後続部隊は足止めを食らっている。先行したライルに合流させないのが目的なら、それを逆手に取るまで。
「殿下、長野もそちらへ向かわせます!それまで、持ちこたえることに専念なさってください!」
〈わかった!だが、相手がそれを考慮してくれるかは私の責任外だぞ!?〉
「承知しております!」
ライルはゲイリーに応えながらKMFで応戦する。相手はほとんどがグラスゴーか改造機の無頼だが、一機だけ別格の機体がいた。チョウフ基地を襲った『黒の騎士団』で運用された機体。ナリタでコーネリア軍が遭遇した無頼の改良型と同じ刀に、妙な左腕を装備している。右腕に機関銃を装備して射撃戦もできる上に、機動力が高い。サザーランドどころかグロースターより上、おそらくあの紅い機体と同じ第七世代相当とみていいだろう。
ランスで刀を受け止め、押し返す。相手は距離を取り、機関銃で撃つがそれをこちらも躱し、撃ち返す。すると、敵は左手を前に出して弾丸を防いだ。
やはり、あの左腕はナリタで『純血派』を壊滅させた紅い機体と同じ輻射波動だ。あの腕に捕まったら高周波サイクルを叩きこまれて機体が膨張し爆発、中の人間にもどれだけのダメージが来るか分かったものではない。
「強い……美奈川浅海といい勝負か!」
先日会った彼女もあの藤堂が乗りこなしていた無頼のカスタム機を乗りこなすほどの実力者だったが、このパイロットはさらにハイスペックな機体を乗りこなしている。現在のブリタニアで対抗できる機体があるとすれば、それこそ第七世代機の第一号であるランスロットか、天領の神根島でゼロに奪われたガウェインを筆頭とした第六世代相当の試作型くらいか。
「流石はサクラダイト産出世界一の国だ!燃料には事欠かないね!」
ランスを手放して背中にマウントされた剣を抜き、左腕にライフルを持ってそのまま撃つ。敵はKMF離れした跳躍力でそれを躱し、距離を詰めてくる。が、ライルはハーケンを撃つ。通常の機体よりパワーが上がっているハーケンだが、敵はそれを逆に左腕でつかむ。しかし、輻射波動を使われる前に剣でワイヤーを切断した。
「ちっ、思い切りが良いな!」
池田は相手の判断力を称賛した。ハーケンをつかんでそのまま輻射波動を叩きこもうとしたら、それより先にワイヤーを切断した。あのままだったら、先に機体が爆発していたことだろう。
刀で斬りかかり、相手が剣で受け流してその流れで斬り返す。ギリギリで池田はそれを躱した。機体のパワーも高いが、それに任せない。
この青い角突きのグロースターは並の相手ではないのは先ほどから分かっている。協力者の情報で、これが第八皇子『ブリタニアの狂戦士』、『青の戦神』、そして『洗脳皇子』と呼ばれるライル・フェ・ブリタニアだ。
指揮官としてはともかく、KMFの実力はコーネリアより上というのは本当のようだ。グロースターも他の機体より速い。おそらく、スピードだけならこの月下試作型と同等だろう。
先ほどからこちらの攻撃に良く反応し、反撃の速度もすさまじい。しかも、こちらの輻射波動を警戒して剣で一度攻撃するたびに距離を取る。お互いに決め手がない状態だ。
〈少佐!敵の後ろ備えがそちらへ向かっていきます!〉
「稲垣の部隊は!?」
〈それが、最初の後続部隊に釘付けにされて止められません!〉
まずい。この作戦は奇襲を仕掛けてライルを討ち取る或いはその部隊に打撃を与えるのが趣旨。ライルを討ち取れば、心理的な効果を望めるという目算が崩れつつあった上にこのままいけば数で劣るこちらが負けるのは必至だ。
レイはこの状況が明らかにライルを狙い撃ちにしたもの。そして、このままいけば時間との勝負になるのがわかった。長野達が来るまでに持ちこたえれば勝ちだが、そうでなければライルがやられてしまい、更に行けば全滅。そして、最悪の展開はホッカイドウだけは確実に独立の機運が高まり、その灯はおそらくトウキョウにも。つまりは、今トウキョウ租界の母にも。
くっ!他の奴らはどうでもいいけど、最悪この人を!
少なくとも、ライルが死ななければ負けにはならない。だが、相手はなかなかに手ごわい。おそらく、ライルも遭遇したという無頼のカスタム機だ。鋸状の刀で押し迫り、こちらはスタントンファで受け止めるが、徐々に武器が悲鳴を上げ始めている。駐留軍も機体性能で勝っているが、相手が撃破ではなくライルをあの指揮官機が撃破する時間稼ぎを主軸に置いているようだ。撃破せず、撃破されず…こうなったら賭けに出るしかない。
「私が突っ込むから、その隙をついてこいつらを抑えてください!」
〈ま、待て!〉
レイは相手に向かって、突っ込んだ。トンファで刀を受け止めるのではなく、左腕を犠牲にもう片腕のトンファを無頼の頭部に叩き込んで殴り倒した。そのまま刀を奪って、レイは指揮官機へ突っ込む。陣形が崩されたことで、敵の注意はこちらへ逸れた。
「早く撃って!」
〈え、えぇい!〉
駐留軍の部隊もさすがに状況を優先して、こちらに注意が逸れたKMF隊を攻撃する。流石にこれには対応しきれず、布陣がほころび始めた。
そのままレイは刀を指揮官機に突き出した。敵は左腕でそれを止めてつかむが、そこに隙が生じた。
〈悪いが不意打ちさせてもらう!〉
ライルがそのままヒートソードで左腕を斬りおとした。最大の武器を失い、指揮官機は後退してそれに合わせて敵も陣形を変える。
〈レイ、おかげで助かった!〉
「貴方が死んだら私も困りますから!」
池田は片腕を失ったサザーランドをにらんだ。あの状況でブリタニア側に有利に運ぶために力押しで活路を開くとは、なんと強引かつ大胆な。
良い将兵がいるようだ。もう、こうなった以上は負けだ。いずれ後続の部隊もやってくる。
「合流予定地点へ急行する!全軍、スモーク弾発射!」
支持を受け、待機していたジープや旧日本軍の装甲車からありったけの煙幕弾が発射される。
そして、池田は後退しながら全周波数で回線を開いた。
「日本陸軍北海道方面担当、第4大隊臨時指揮官…池田誠二戦時階級少佐。第八皇子ライル・フェ・ブリタニアならば返答を求む。」
すると…
〈第八皇子ライル・フェ・ブリタニア…池田誠二少佐、貴官の勇戦に敬意を表す。〉
「痛み入る。」
それだけ告げ、月下もスモークを展開する。ありったけのスモークを展開し、しかもチャフもあるために暫くはファクトスフィアを含むセンサー類は補足できない。今のうちに行くべきだ。
通信が来て五分後、長野の部隊が増援として到着した。
〈殿下、追撃は!?〉
「この煙幕では無理だ。それより、生存者の救助を優先してくれ。それと、クリスタルの部隊は?」
〈は、報告によりますと戦闘を放棄して煙幕を展開、離脱したとのことです。かなり統率の取れた組織のようですね。〉
「ああ、流石本職だ。それと…レイ、大丈夫か?」
レイの機体は左腕を失った上に、さっきの輻射波動を受けて機体が半壊状態だ。既にまともに動く状態ではない。
〈ええ、なんとか。〉
「……レイ、やはり君に騎士になってくれるか?正直、ここを逃したら他に眼鏡にかないそうな人材を見つけるのに時間がかかりそうだ。」
〈戻ったらで、よろしいでしょうか?〉
「それでいいよ。……ゲイリー、合流予定地点はどこだと思う?」
〈手近でいえば、やはりアバシリでしょう。〉
「よし、そこに現地の部隊を向かわせてくれ……ただ、向こうが想定していないとも思えないが。」
ライルの懸念は当たっていた。手近なアバシリは読まれている。ならばと、あえて当時の本線沿いを抑えており、北上してワッカナイから脱出していた。ホッカイドウにいる協力者の手配のおかげだ。
乗り込んでいたのは当時の北海道方面の陸軍に、この船を用意した当時の海上保安庁と港湾管理室にパイプを持つホッカイドウの要人だ。
池田が乗っていた試作型と正式量産型の月下、サザーランドの現物と流体サクラダイトを手土産に中華連邦を経由して親日寄りだったE.U.へ合流する手はずになっている。キョウトもE.U.に抑えられた債務を一部我慢するという条件でこちらに根回ししてくれたようだ。
「ライル・フェ・ブリタニア、か…」
コーネリアとシュナイゼルばかりが目立っていたが、彼もまた侮れない。まだ18でありながら、今回のこちらの意図を読んでいた。しかも、ホッカイドウの中で最も規模が大きい相手にターゲットを絞る戦略眼もある。
経験値では勝る池田に言わせれば、まだ拙く粗削りではある。だが、18で一定の情勢を分析する能力は末恐ろしい。
同じくらいの志願者の少年もいるが、比較するととても勝負にならない。そして、こちらの日本軍人たちは、基礎能力は高いが考え方が池田から見て古い。西野はともかく、稲垣はその傾向が強く、教条主義に固まりがちだ。既に非の打ち所がないまでに完成されているコーネリアに加えて、まだ若いが、身分どころかナンバーズからも有能な人材発掘に余念がないライル、今のままでは絶対に勝てないと池田はほぼ確信していた。
他の勢力は霧散し、また隠れてしまった。警戒態勢は続けるが、日本軍人勢力が一つここを離れたことで悩みの種は一つ消えたことになる。
『日本解放戦線』の残党も、一部は中華連邦に逃れたというが現段階では放置しておくしかないというのが政庁の見解だった。
サッポロの省庁でライルは事後処理を行い、長野達もそれに協力した。案の定、相手の視線は好意的ではなかったが…
「いっそ、彼らを餌にするという手もありだったでしょうね。植民地政策に協力する現役日本軍人に、名将畑方源流の孫。殺せ、或いは救出するべく立ち上がれと騒ぎ立てていたでしょうね。」
「しかし、それではゲットーの波が租界にまで押し寄せる。得策ではあるまい。」
サッポロの責任者に指摘され、フェリクスが「失言でした。」と謝罪する。だが、方法としてはアリだっただろう。少なくとも、分裂を引き起こすタネには使えたかもしれない。
長野はライルと合流した後の掃討、鎮圧に協力し、秀作と雛も精力的に動いていた。『フォーリン・ナイツ』の先輩たちによれば、長野はともかく秀作と雛が半ば妄執じみていたそうだ。
今回だけでも、三人は十分働いてくれている。それはサッポロの軍もコーネリアも首を横には降らなかった。それに合わせて、ライルは昇進を議論することにした。
「長野は能力的に佐官クラスは言っている。大佐に昇進させてもいいのでは?」
「殿下、いきなり大佐は早すぎます。ただでさえ、枢木スザクの昇進で骨董品共がうるさいのですから。彼と同じ少佐か、無理をしても中佐が限界です。」
フェリクスの意見にゲイリーを始めとした幹部たちがうなずいた。
「はあ、わかった。民主主義に従うよ。」
笑えないような冗談で頷き、エリア11出身者で実績が高い秀作と雛を少尉に昇進させることは全員が異論をはさまなかった。
「だが、『フォーリン・ナイツ』の副隊長や分隊長が欲しいね。秀作と雛はやってくれそうだとは思うが。」
あの二人が…雛はともかく、確かに秀作は指揮官としての片鱗もある。あの性格と度の過ぎた反日思想が少し落ち着けば、の話だが。
「いずれにせよ、今回の名誉出身者の昇進はこの辺りが妥当でしょう。他の者たちはE.U.戦線の参加や本国の治安維持で納得させるしかありますまい。」
幕僚の一人の意見に、ライルは「わかっている」と答えた。だが、果たしてあの実力と血筋を区別できない連中が納得するかどうか。
スザクのような破格の実績すら認めようとしないのだ。生まれで決まるのはせいぜいスタートラインだけ。貴族だから、絶対に成功するなどという根拠はどこにもない。そんな法則があるのならば、没落貴族など出てこない。
そして……本国貴族の中で、ライルが最も嫌っている人間の代表の顔が浮かんだ。ジュリアの事件の首謀者として、真っ先に浮かんだ顔だ。
あの女なら、枢木スザクの成功も認めないだろう。何しろ、平民の躍進さえ不正扱いする。そのくせ、自分では直接何もしようとしない。田舎貴族と揶揄される自分の生まれにコンプレックスがあるくせに。
あの女は、ライルが知る限りで貴族としては欠点だらけだ。実家の土地に対する責任感など欠片もなく、祖父から任された土地も放置して半ば息子に押し付け、そのくせ息子がそこに行くことには良い顔をしない。息子よりも幼稚ではないか?と何度疑ったことか。
「あの馬鹿共を先に始末したい…」
「は?」
「何でもない、独り言だ。明日には政庁に戻る。」
解散させ、フェリクスが…
「あの事件、やはりあの方をまだお疑いに?」
「他もいそうだが、最有力の容疑者はあの女だ。大体、露骨すぎる。ジュリアの葬儀前からだぞ?」
葬儀の前から、急に貴族たちが群がってきたのだ。何度首をはねたいと思ったことか。いや…
「いっそ、奴らを拷問しても良かったか?」
「時間と労力の無駄ですよ……ただ、餌に食いついた魚ですから。」
その餌をちらつかせたのが誰なのかはもうライルは確信していた。まあ、ちらつかせなくても食いつく輩は腐るほどいるだろう。
「それに、拷問を好まない貴方では、匙加減ができないでしょう?そのかじ取りの方が大変だ。」
「痛いところを突くね…」
「昨日今日の付き合いじゃありませんから、あなたの問題点は分かります。根が真面目過ぎて、あの方みたいな手合いへの侮蔑を隠そうとしても隠せないところもね。」
「チャームポイントと言ってもらおうか?」
「では訂正して、貴方の人種や身分を問わないその面は美点であると同時に欠点です。」
余計にいら立たせてくれる…と、口には出さないでため息だけですませた。
ホッカイドウの散発的な反乱はライルが出征し、最大規模と目された日本軍勢力の敗退と逃亡で収まったと公式に発表され、同時に最大の話題であったキュウシュウの沢崎敦が立ち上げた新日本政府はコーネリアの電撃作戦で壊滅、沢崎を始めとした新日本政府の官僚と協力した中華連邦軍も捕縛された。
尚、ライルにはゼロが強奪したガウェインで陽動のために突撃した枢木スザクのランスロットを援護、助力したという情報が伝えられた。おそらく、ゼロは日本の現状改善を目指すが沢崎と違う方法をとるというスタンスを示す意味合いもあったのだろう。
池田の機体はロストカラーズのあの輻射波動搭載型月下です。流石にロストストーリーズの蒼月なんて虫の良い事はなかったです。
池田は簡単に言えば、ライル一人に狙いを絞って少しでも不利が生じれば即逃げる。自分達がKMFの性能でも練度でも劣っているのを分かっていて、元々示し合わせた蜂起ではなかったからと思ってください。
ナリタで無頼改に乗っていればコーネリアの親衛隊も厳しかったでしょう。
尚、ライルのグロースターはリミッターを外した状態なのでコーネリアより早く、パワーもあります。ただし、そんな無茶をしてるから機体にかかる負荷は大きいです。
イメージとしてはリミッターを外した上に関節やランドスピナーも通常の機体よりパワーを上げているからスピードだけならばランスロット並です。