「本当に良かったのか?式典が終わってから、来るように計らうくらいなら私でも出来たのだぞ?」
艦橋で全員に紙コップに入ったコーヒーを出していた有紗に改めて聞いた。結局、彼女は特区に参加することでエリア11に残ることも、式典だけ見てから来るということもしなかった。
『フォーリン・ナイツ』編入を認めた女性、中島京子は弟が知り合いと一緒に式典会場へ行くとのことだ。彼女は、弟を育てるために名誉ブリタニア人となり、軍人になったという。
その意味では、確かに特区の方が安全ではあるだろう。彼女自身もそのほうが安心できるのかもしれない。
「はい、せっかく働き口が見つかったし……ライル様のお側にいたいから。」
「え?」
「あ…な、何でもないです!!」
それを聞いていた幕僚達は軽い溜息をついていた。
「何か言いたいのならはっきり言え…」
「いいえ、しかし特区が成立すれば殿下としては好都合でしょう?いろいろと立ち回りやすくなる。」
「……ああ、どのみち植民地政策を続けるにはどこかでああいった政策は必要のはず。姉様だってわからない人じゃないが、本国の奴らは……」
フェリクスがためいきをついて、意見をする。
「だから、否が応でも対応させるしかないと考えたのでしょう?ナンバーズよりブリタニア人がすべてにおいて上という妄想を払う意味でも。」
「ああ……特区はその意味でも良策だ。」
言い終えて…ライルは眉間に指を当てる。幕僚の一人がその様子を見て
「殿下、本国まで6時間ですが…到着一時間前までであれば我々だけでも大丈夫です。お休みになられたほうがよろしいのでは?」
それにゲイリーも同調する。
あの学園祭の後、急な特区構想でサラの家や他の協力企業、名誉ブリタニア人を採用する企業にコンタクトを取って……エリア11出身者の名誉ブリタニア人将兵の特区参加やその後の相談を受け、睡眠時間をかなり削っている。
「すまない…お言葉に甘えさせてもらう。通信か何かあったら起こしてくれ。」
「は。」
有紗も着いていき、ライルはマントをハンガーにかけようとするが先に有紗が受け取った。
「こういうことも、小間使いの仕事でしょう?」
更に、部屋の整理をしていたエクトルが氷水を出して頷く。
「ええ、そういうこと。お休みは二時間ほどでよろしいですか?」
「…ああ、一時間でもいい。何かあれば、起こしてもらうことになっている。君たちもそれくらい寝ていいぞ。」
そうして、ライルは椅子にもたれて眠ろうとする。式典はそろそろ始まっているだろう。
本国はもちろんのこと、E.U.と中華連邦も注目しているが、失敗する事態などライルは想像できなかった。コーネリアとて、承認せざるを得なかったのだ。
この特区構想が成功し、各エリアに拡大すれば将来的にエリア制度自体を見直して、ライル自身も考えた『ブリタニアを宗主国とした新興の連合国家構想』とすることも可能だった。場合によれば、エリア制度そのものを廃止して各エリアの独立と各国との国交の正常化……特区がその交渉材料にもなるだろう。この特区にはそれだけの可能性がある。
しかし、ゼロの特区参加の承認の対価。それをユーフェミアは自分の皇位継承権で賄った。つまり、もうユーフェミアは皇族の地位は保持しても今後の皇位継承に関わることはできない。エリア11内における一介の行政官どまりだ。
そこまでしてまで、ゼロを受け入れようとする理由は気になる。もしかして、ゼロの素性に何か心当たりが?
などと思いライルは眠った。が、突然足音が聞こえてきて目が覚めた。ゆっくり瞼を開くと、セヴィーナが飛び込んできた。
「おい、大変だ!」
まだ半覚醒状態の頭で時計を見ると、一時間ほど経っていた。
「…どうした、なにがあったんだ?」
「すぐにブリッジへ来てくれ!」
どうも、ただ事ではない。顔を洗い、両手で頬を何度か叩いて眠気を飛ばしてブリッジへ上がると……
「な…なんだ、これは?…どうなっている!?」
モニターに映っていたのは、行政特区日本の式典会場。だが、行われていたのはゼロを交えた調印の瞬間などではない。式典警備のKMFや歩兵が会場のイレヴン…否、日本人たちへの虐殺を行っていた。
「なぜこんなことに!?」
「わ、わかりません!ゼロが会場に来て、ユーフェミア様が単独で交渉に入られたのです!」
単独で交渉に?それはつまり、戻ってきたら突然こんなことに!?
「それで、この映像は!?」
「は、はい!どこからかハッキングされており、特区の式典放送がこのまま世界中に流れています!!」
中島京子は茫然としていた。何故なら…
なんで?なんで、あの子が?
一瞬だけ映った映像……倒れていた子供がいた。見間違えるはずもない…弟だ。
何もしていないのに、なんで?
出発前に会って、落ち着いたら会いに行く約束をしていたのに。どうして……?
「ふははははははは!!!あやつめ、やりおったわ!!」
ブリタニア皇帝シャルルはいつもの神殿で、狂ったような高笑いをしていた。
「な…なんだ、これは!?」
中華連邦との交渉を終えたシュナイゼルは余りの事態に愕然としていた。ユーフェミアのおかげで落ち着くと思われたエリア11における特区構想…それが。
映像を見たコーネリアはすぐさま妹の暴挙を止めるべく、出撃する。ギルフォードも後から追ってくる。
「お待ちください、コーネリア様!」
「着いてこられるものだけ来ればよい!」
このようなことをすれば、どうなるかは誰の目にも明らかだ!
いったい何があった!早く、止めなければ!!
式典会場は地獄と化しており、スザクも狙われた。その銃弾の嵐をくぐりながら、ユーフェミアを探す。
「見つかりましたか、どこにいるのか!?」
〈わからないのよ!ダールトン将軍とも連絡が取れないし!〉
アヴァロンのセシルに確認を取るが、アヴァロンでも見つけられないらしい。
「そ、そんな!なんで!?」
浅海はモニターの映像が信じられなかった。こんなことをしたら!特区構想がまったく意味をなさない!
いったい、何が?
「な、なんでこんな!?特区に反対するブリタニア軍!?」
ラルフは真っ先にそう考えた。特権意識に凝り固まり、腐敗した貴族ならばやりかねない。イレヴンを日本人と認める法案を妨害する?
だが、それにしてもこれは!
「だから言ったんだ!ユーフェミアの罠だって!」
カイトはそう決めつけた。これに呼応して、洗脳皇子も何をしでかすか!
なのに、有紗は今あの男と本国にいる!助けたくても、助けられない!!
「お、おい…こんなことしたら!」
海棠は特区日本の惨劇に言葉が出なかった。
「ユーフェミアめ…だまし討ちをしたんだな!」
「し、しかしこんな事をしたらどうなるか…いくらお飾りでも!」
土田はその結果を懸念する。そう、これはもはや騙し討ちの次元ではない。こんな暴挙に及べば彼女がこれまで築いた信用を失うし特区のメリットがまるで意味をなさない。それどころかエリア11全土で暴動が発生するのは目に見えている。
おかしい…一体何があったんだ!?
「ほほう…これは都合が良い。我々のために死んで貰わなければな。」
行村はほくそ笑んでいた。日本軍人であるにも拘わらず、目の前で市民が殺されていくのを何とも思わず…いや、自分に都合が良い状況を喜んだ。
これで日本人は我々に着く。私は英雄だ…精々利用させて貰うぞ、ゼロ。
特区日本の惨劇は池田達にも衝撃を与えた。
「騙し討ち?…バカな、ゼロも『黒の騎士団』もいない状況でそんなことをする意味があるのか?」
これが本当に騙し討ちで、自分がユーフェミアならゼロと『黒の騎士団』を完全に油断させてからこうする。だが、それらしい死体は映らない。これでは政治的駆け引きも何もない…
「ユーフェミアめ!よくも卑劣な真似を!!」
部下達はユーフェミアを憎むが、池田は理解できなかった。お飾り同然の彼女でもこんな事をしたらどうなるか想像はつくはずなのに。
山本は持っていたペンを落としてしまった。
「ば、ばかな…なぜ?」
それ以外に、言葉は出なかった。
「すぐに引き返せ!エリア11に戻るんだ!」
「無理です!既に本国に到着を通達しているのです!」
ならば、とライルは飛び出した。
「殿下、どこへ行かれるのです!」
「決まっている!エリア11に戻るんだ!!輸送機でもなんでもいい!!」
が、フェリクスが肩を掴んで壁にたたきつけた。
「今から行って、間に合うわけがないでしょう!!今、我々がすべきことは!?」
今、すべきこと。今から行っても、間に合わない。ならば……
「っ!!……艦隊の速度を上げ、本国への到着を早める。それに併せてエリア11、特に政庁と式典会場および会場付近の基地からの情報収集!!」
日本人たちの保護は言わなかった。言えるわけないし、あんな事態になってはブリタニア軍を信用するわけがないからだ。
「そう、それと…」
フェリクスが続けようとしたとき…
「殿下、これだけの事態になってしまってはエリア11で暴動が発生するのは必然。我が軍の名誉ブリタニア人全てを拘束するべきです。」
ゲイリーと数人の幕僚が通路にやってきた。
「拘束?これを方便に排除しようとでもいうつもりか!?」
「殿下、彼らを信じようという心情はお察しします。しかし、これだけの事態です。」
幕僚の一人が遠回しに「ブリタニアが植民エリアの主権を部分的に認める法案を虐殺の罠にした」という認識が広まってしまうという現実を伝えているのが分かった。
「私も同じ意見です…殿下。我々の拘束を、推奨します。」
「長野…」
長野は既に銃と刀を持っている。それを、ライルに差し出した。
「……私も、妻子が死んで反ブリタニア勢力に身を投じていれば暴動を率いていました。そして、この事態がまさにそれ。事の深刻さは殿下の方がお分かりになるはず。」
長野までがそう言って……
「本国に着いて、暫くは拘束するしかありません。殿下。」
フェリクスまでが言ってきた。
「…分かった。名誉ブリタニア人将兵全員を自室にて軟禁。武器を所持する者は武器を没収せよ。それと、有紗も…か?」
「例外を設けるわけにはまいりません。」
ゲイリーが畳みかけ、ライルはうなだれるしかなかった。
「この事態をいいことに何かすれば、先に君達を殺すぞ?」
「承知しております。あと、万が一のためレイ・スレイターも。」
「……分かった。」
それから3時間後、会場上空にいたアヴァロンを経由してシュナイゼルから2つの報告が届く。一つは特区が『黒の騎士団』に制圧されたこと。これはブリタニア軍が予想しうる事態の一つだ。
そして、もう一つは。日本人虐殺を命令したユーフェミアがゼロに撃たれ、枢木スザクに救助されるもアヴァロン艦内で息を引き取ったとのこと。
「そん、な……ユフィ。」
ライルは足の力が抜け、そのまま膝をついてしまった。
「殿下!」
フェリクスとエクトルが肩を担いだ。
「殿下、しばらくお休みください。」
「だ、大丈夫だ…」
が、ゲイリーが…
「どこがですか。しばし私が預かります。そんな状態で指揮をとられても満足に行動できますまい。」
「分かった……名誉ブリタニア人出身者の軟禁は継続。入港したら呼んでくれ。」
フェリクスとエクトルに運ばれ、ライルはそのままベッドに横になった。そして、喪失感と疲れが一度に襲ってきてそのまま意識を手放した。
あれと、ユーフェミアの死……それらが全部、何かの悪夢であれば良かったとどこかで思いながら。
軟禁された名誉ブリタニア人将兵は消えかけていたブリタニアへの不信感が再燃していた。人数の関係から、多くは食堂やレクリエーションルームに集められていた。
「くそっ、第八皇子もいずれああいうことをするんだ!」
「待て、殿下をそうだと決めるのは軽はずみだろう!」
「長野隊長はどうお考えなんだ!おい!まさか、隊長を殺したんじゃないだろうな!?」
見張っている兵士に問うが、
「安心しろ、あの男は殺されていない。殿下のご采配でお前たちを殺すなとのご命令だ。」
「要するに、お前らの皇子様の気まぐれなんじゃねえか。」
「よせ!」
ライルを信じる者、ライルにも不信感を向ける者が口論を続けていた中…
「おい、お前は平気なのかよ!同じ日本人だろうが!」
川村雛に疑惑の目が向けられるが……
「別に……ただ、あれがもし『黒の騎士団』の連中がいるときだったらよかったのに。とは思うわね。」
「な…!」
聞いていたブリタニア人兵士でさえ雛の発言にはギョッとした。まるで、何の関心もないような。あまりにも無関心な態度にブリタニア人の士官が…
「か、川村少尉。貴官はイレヴン…いや、日本人だろう。同国人への意識などはないのか?」
「ない。だって、あたしは戦争の後で自分が生きるために子供だって殺したのよ。今更でしょ?特区に参加したって、あんたらに復讐したって家族やこの顔が元に戻るわけでもないし。」
さらりと言い放った半生、そしてある種の諦念さえ感じさせる雛の言葉に全員が聞き入った。
「それに、あれに怒れって…あたしにゼロの味方してほしいの?そうすれば、うっとうしい名誉を一匹始末できるから?」
「い、いや…そういうつもりで言ったわけでは。」
「ま、あれはウチの雇い主の坊ちゃんならやらないでしょうね……あたしは少なくともあの坊ちゃんなら今まであたしに言い寄ったり、捨て石にしようとしたブリタニアのおっさんより信用できる。これじゃ不満?」
「…殿下を信じるというのは分かったが……」
「まあ、あんな名誉を散々裏切り者呼ばわりしておいて、お姫様が認める自治に食いつく奴らなんざ百万殺したって意味ないわよ。価値のない二十万より、価値のある一人や二人。つまり、本当にだまし討ちするならゼロや藤堂、NACのジジイ共だけを狙うわ。」
秀作はレクリエーションルームで雑誌を読んでいた。ブリタニア人士官に一番の叛意を疑われそうであったが……
「なぜ、俺が日本の魔物どもに味方しなきゃいけない?」
「魔物…君の同国人だろうが。」
「違うね…奴らは、俺に流れるジジイの血を最初からあてにして、自分でやろうとしなかったごみどもだ。二十万どころか、二百万死んでも俺には関係ないね。むしろ、俺もやりたかったくらいだ。」
周りにいた人間全員が絶句した。イレヴンに対して同族意識がないどころか、殺意と憎悪が強いのは分かっていたがこれほどとは。
「むしろ、あの妖怪夫婦ならゼロではなく俺があれを阻止するシチュエーションを作るために副総督じゃなくて、ブリタニア軍の特区反対派を煽るなんてやるね。そして、俺にそれを阻止させて自分たち自身を売り込む。」
「そ、それはいくら何でも極端では?」
「いいや、奴らならそれくらい考えるね。救いがあるとすれば、それだけの能力が奴らやその手下どもにはないってことか。」
時間はさかのぼり……浅海は取り残された政庁の高官の一人に銃を突きつける。
「質問に答えて…貴方たちは、これを知っていたの?イエスかノーで、答えなさい。」
「し、知らなかった。そもそも、なぜユーフェミア様があのような暴挙に走ったのか我々も分からぬ。」
「しらばっくれんじゃねえ!!」
浅海が団員を制して、「続けて」と告げる。
「だ、大体一般のイレヴンにあのようなことをしたら、暴動に発展することくらいはお前達だってわかるだろう?」
「お飾りの副総督でも?」
その問いに、「そ、そうだ。」と答える。
「そうね……もう一つ。本国へ行った第二皇子と第八皇子はこれを知っていたの?」
「い、いや…シュナイゼル殿下は特区設立の助言をユーフェミア様になさったし、ライル殿下は特区成功後を見据えて、植民地政策に協力する企業や官僚に連絡を取っていた。それ以上は私も何も知らない。」
嘘を言っているようには見えない……
「つまり、特区発案からこの事態までユーフェミアの完全な暴走だと主張するのね?」
「そ、そうだ!ダールトン将軍も撃たれたのだぞ!」
コーネリアの側近中の側近まで……拘束したほかの兵士からもそうした証言はある。
「でも、止められる立場にいながら止めなかった。それは事実よ?」
貴族たちはそれを突きつけられ、黙るしかなかった。
「いずれにせよ、人質になってもらう…いいわね?」
「わ、わかった…」
ラルフは扇に付き添っていた。
「どうして、こんな…」
ラルフは大勢の日本人の亡骸を見て、茫然とつぶやいた。中には赤ん坊の遺体さえもあった。思わず、口元を抑えてしまう。
「ラルフ、あまり見ない方が良い。」
「い、いえ……扇さんたちも、こんな光景を戦争の時に?」
「ああ……」
こんなことを、ブリタニアは当たり前のように。戦勝国だからと言って、やっていいことと悪いことがあるのに。
「……ブリタニア人が、これを何とか止めたいと思うのは悪いことなんですか?」
「俺個人の意見なら、悪いことじゃない。ユーフェミアがそれを変えたいと思ったから、俺も参加して関係を修繕すべきだと思った。なのに!!」
血がにじみ出るほどにこぶしを握り締めているのが見て取れた。
カイトは生き残った日本人の保護に努めていた。
有紗、これを見てればブリタニアの本性が分かるだろう!これがブリタニアだ!
あの第八皇子もこれをもくろんでいるかもしれない!いや、そうに決まっているんだ!!
ゼロが政庁に攻め込む方針を打ち立てているという。ならば、エリア11を日本として取り戻して有紗を取り戻す足掛かりにする!!
レイは有紗と同じ部屋に軟禁されていた。
「結局、私も奴らの仲間扱いか…」
「でも…」
「分かってる…あの人が私を信じていようが、部下の連中がそこを切り離せって言ったんでしょうね。」
それくらいはレイにもわかる。だが、問題は……
「ねえ、有紗は殿下があれを知っていたと思う?」
「え?……その、ライル様は特区が成功すれば他のエリアの人達の人権保障ができるし、エリア制度自体も改正できるって聞いたけど。」
「…そう。それが真実なら、あの人は関係なさそうね。」
そして、有紗が自分の考えを述べる。
「私だったら、式典の後が良いと思う。そのほうが油断してるから。」
そう、有紗が言うまでもないことだ。式典を無事に終わらせ、その後に一網打尽にすれば後でいくらでも言い訳はできる。
極端に言ってしまえば、ブリタニアにいる特区反対派を犯人に仕立て上げて処刑して「臣民への裏切り者」なり「ゼロは日本人たちのために己を犠牲にした」とでも言って、イレヴン側の反対派を引っ張り出して全部擦り付けるなり手があるはずだった。
長野も自室で軟禁状態だが、流石に立場が立場であったので他よりは厳重だ。
「……今すぐ、とは言わぬがエリア11にいる山本政務官や家族の安否は確認しても構わぬか?」
「…その件に関しては、我々からはお伝え出来ません。殿下にお尋ねするしかないでしょう。」
お役所仕事、というような返答だ。まあ、それが普通だろうが。
「なぜ、あのような事態に……やるにしても、タイミングがあるではないか。」
「……それは、確かに。」
流石に監視の将兵もその意見には同意していた。どうしても解せない。あんな世界中に放送されている式典であんなことをするメリットがどこにある?
エリア11どころか、全ての植民エリアが蜂起しかねない上にE.U.と中華連邦の外交関係だって悪化どころでは済まされない。下手をすれば、E.U.方面軍の『ユーロ・ブリタニア』さえも独立を宣言しかねないというのに。
「失礼します。」
ライルの小間使いの少年、エクトルが入ってきた。慣れた手つきでコーヒーとクッキーのトレーを置いた。
「どうぞ。」
「…すまぬ。」
「いえ、殿下ならすぐにあなたたちが離反しないと本国を説得してくれるし…何かチャンスがあれば皆さんが大丈夫だという証明できるように計らってくれますから。」
その言葉が純粋な好意なのは分かった。
「エクトル君は、殿下との付き合いが長いそうだな。」
「ええ、士官学校を卒業して軍を率いるようになってからですから…そろそろ二年ですね。ヴィオレット卿ほどではありませんが、長い付き合いです。」
「そうか……では、君のことも信じる。コーヒーとクッキーはご厚意に甘えるよ。」
こちらのオリジナルメンバーも行村以外は唖然としていました。カイトは見ての通りで、行村は自分が英雄になるのに都合が良いとしか見ていない、見下げ果てた輩です。
そして、名誉とレイは全員拘束…武器を没収した上での軟禁状態です。
こういう部隊なら無理からぬことでしょう。
そして、部下達だけでも分かるようにこれが原因でライルにまで疑いの目が向いてしまいました。