ようやくライルが正気に戻ったころ……案の定、エリア11各地では暴動が発生。現地の名誉ブリタニア人も多くが離反した。
それはそうだ。それらに大きな抑止力を持つ『行政特区日本』を立案者自身が最悪の形で裏切ったのだ。ライルが眠っている間にゼロは式典会場でブリタニアをかつてないほど痛烈に非難。新たなる日本…人種を問わずに弱者を虐げない矜持を持つ合衆国日本の建国を宣言した。
ライルはすぐに帝都ペンドラゴンへ向かった。随行はゲイリーとフェリクスに絞っている。レイも連れて行きたかったが、今回はケースがケースなので周囲が正論で封じた。
ユーフェミアという穏健派が恐ろしい狂人だったという事態は本国の貴族たちをも動揺させるが、もはやそれどころではなかった。今まで各エリアでは独立を求める武装勢力が存在したが、それでも各エリアの軍隊で鎮圧できる規模だ。しかし、今回はそれまでとは比較にならない。
エリア11…日本時代からの各ブロックの主要都市で大小さまざまな暴動が発生、現地の世論は一気にゼロへ傾き、ゲットーの住民達も怒り狂っている。
そして、『黒の騎士団』は蜂起した民衆をも吸収してトウキョウ租界へ向かっていた。
ライルは会議に出席することは許されなかったが…
「お願いします!ぜひ、私にエリア11への援軍の指揮官の任を!」
だが、閣僚たちは
「ライル殿下はエリア11からお戻りになられたばかりです。それに申し上げにくいことではありますが、殿下の将兵には名誉ブリタニア人が多い。その意味は、殿下ご自身がお分かりでありましょう!」
「し、しかし…!そのエリア11出身者の家族に害が及ぶ危険が…」
「ライル、君の言いたいことは分かる。主君として、彼らの家族にかかる君自身の責任もね。だが…それでも君を行かせられない。」
シュナイゼルがいつもの諭すような口調で冷静に事実を述べる。
「兄様…!」
「今から君の艦隊が戻っても、40時間以上かかる。若輩でも軍事の専門家なら分かるはず…何より、今君が行けば最悪の展開が待っている。」
「……名誉ブリタニア人達の離反、ですか?」
言いたくなかったし、考えたくなかったことではある。だが、あの虐殺を見てエリア11の大規模な反乱と並んで頭に浮かんだ可能性であるのは事実だった。
「下手をすれば、『黒の騎士団』に強力なカードを提供するという逆効果になる。悲しいことだが、あらゆる観点から今君が行くのは」
シュナイゼルの言葉をライルの通信機からのコールが遮った。
「失礼します。」
「良いよ。」
ライルは通信機を取り出した。
「どうした?」
〈殿下、『フォーリン・ナイツ』が離反しました!〉
な!!言っていた矢先に、最悪の展開が……!
「あ、有紗と長野も…いや、まさか名誉ブリタニア人将兵全員か!?」
〈いえ、長野隊長は彼らを諫めようとして負傷したと。少なくとも飯田は無事を確認しました!〉
そうか…少なくとも、有紗は無事ということか。長野も負傷したというが…今は生存を信じよう。
「とにかく、状況を教えてくれ!」
〈は!離反した名誉ブリタニア人将兵はおおよそ全体の4割!『フォーリン・ナイツ』は約半数が離反しております!〉
『フォーリン・ナイツ』はエリア11で加わった人数を含めて現在二十人。無理もない、か。
〈また、エリア11出身者で中島京子准尉が離反!弟が特区で殺されたと本人が主張されております!〉
ライルは頭を鈍器で殴られたショックに襲われた。あの虐殺映像の中、そこに…弟が?
編入後に事情は聞いていた。名誉の将兵を採用するようになって、最低限の事情などは効くようにとフェリクスが助言して心がけていたことだ。
長野と同じく、家族…より正確には共に孤児になった弟を育てるために名誉ブリタニア人になった。名誉ブリタニア人になる以前の彼女は当時高校生で、貴族や軍人に身体を売って生計を立てていたという。
名誉ブリタニア人になり、軍に入隊した後も弟の養育費を稼ぐために軍の高官に身体を売っていたという。あくまで出世ではなく、小遣い稼ぎに等しかったという。
流石に『フォーリン・ナイツ』編入後はやめるように説得しており、本人も一応了承。特区に知り合いと共に弟が参加すると言っていた。それが…
「……私が迎撃に出る。そちらは被害状況の確認と負傷者の救助、および周辺都市への避難勧告を頼む。」
〈殿下!〉
通信を切った。
「どうやら、君自身恐れていたことが現実になってしまったようだね。」
シュナイゼルを睨みつけるが、ライルはここで彼を睨んでも意味がないことは分かっていた。
「全員が離反したわけではありません……だから、名誉ブリタニア人全員の処刑だけは!お願いします!」
シュナイゼルに深く頭を下げ、閣僚たちも困惑した。
「い、いかがなさいましょう。市民たちに示す意味でも…」
「しかし、全員を処刑したとあっては逆効果になる可能性も…」
「主君であるライル自身が自らの汚名を雪ぐべく動くし、離反しなかった彼ら自身にもチャンスを与えるべきだろう。ライル、宰相として君が迎撃に出ることは許す。ただし、3時間が限度だ。それ以上は待てないよ。」
つまり、3時間以内にこの不始末を片付けろ。ということだ。
「分かりました。ゲイリー、艦隊に連絡!それと、親衛隊と離反しなかった『フォーリン・ナイツ』にもだ!」
危険だが、賭けるしかない。ここで彼ら自身が自分たちの無実を証明できなければ、どうなるか。それは彼ら自身が分かっていることだろう。信じるしかない。彼ら自身のことも。
「正気ですか、殿下!」
〈正気の沙汰じゃないことくらい承知している!だが、彼ら自身に叛意がないことを証明しないといけないんだ!親衛隊を動かす理由も、私より君の方が割り切れるだろう!〉
艦隊を任された幕僚は歯ぎしりした。そう、ライルに言われなくても分かること……
「代わってください。」
「長野少佐…!」
「反旗を翻すそぶりを見せれば、すぐに撃って構いません!今は、本国の市民と帝都を守るのが最優先でしょう!」
正論中の正論だ。そして、信用しないなら撃っていいとまで言った。左肩からギブスで腕を固定している状態で言われれば、もはややむを得ない。
「二言はないな?」
「主君に誓って…」
「……殿下なら、軽々しく死を口にするな。と怒るだろう。よいぞ。」
「イエス・マイ・ロード!」
長野が通信機を手に呼び掛けた。
「私は長野五竜少佐である。すでにしってのとおり、私と同じ名誉ブリタニア人将兵が反乱した。これは衝動にかられた行動ではあるが、彼らは少数。なれば、玉砕を覚悟のうえで彼らは帝都への攻撃を敢行することだろう!」
イレヴンの軍人に言われるまでもなく、誰もが分かり切っていたことだ。しかし、新参者でしかもエリア11出身の軍人の言うことなど信じるか、という様相が強かった。
〈残念ながら、私自身は負傷して出撃することはできない!だからこそ、この場にいる全員に頼みたい。名誉ブリタニア人将兵は自らの潔白を証明するべく、そしてブリタニア人将兵は殿下の名誉のためにこの事態の鎮圧をせねばならない。そのための力を貸してほしい。〉
主君の名誉のため、と言われればブリタニア人将兵はやらざるを得ない。これ以上事態が悪くなれば、自分たちも主君も殺されずとも、キャリア作りや生活にだって支障が出るし最悪それでも済まないのだ。
〈既に殿下は出撃準備を進め、宰相閣下からは3時間の猶予を与えられている。つまり、3時間以内にこの事態を解決できなければ、我々自身の今後もない!イレヴンごときに、とも思うがそのそしりはこの事態を鎮圧し、生き延びてからにしてもらいたい!!〉
そして、間もなくブリッジのドアが開いて……
「私は行きます。主君の危機ですし、奴らの一味呼ばわりされるのは一番我慢できません。」
レイ・スレイターだ。それに続く形で、川村雛と畑方秀作が入ってきた。
「あたしも乗るわ。とばっちりで死にたくない。」
「俺もだ…今回だけはお前の指示に従ってやる。」
更に、『フォーリン・ナイツ』と親衛隊、一般兵も何人か名乗り出た。
「ありがとう。では、志願者はすぐに出撃を。悠長にスーツに着替える暇はない。全速力で追うのだ!」
「イエス・マイ・ロード!」
「私はこの通り、動けない。スレイター卿も『フォーリン・ナイツ』と共に前衛で追撃。親衛隊は後続として出撃!近隣の基地に状況報告、想定ルート上の市街への避難勧告、帝都にも猶予を徹底させよ!!」
「は、はい!」
いつの間にか、長野はこの場の指揮を取り仕切って、ブリタニア人将兵もそれに従う。
「衛生班は負傷者の救助を最優先!出撃しない者も応急処置に協力!急げ!一人でも多く救うのだ!」
各方面への連絡を確認している中、クリスタル・ウィスティリアから連絡が入った。
〈長野隊長、実は…〉
ゲイリーは連絡として帝都に残り、フェリクスも万が一に備えて帝都に残した。ライルはシュナイゼルの許可を得て、ちょうど本国に来ていた『アルガトロ混成騎士団』所属の旧友二人、同じく本国待機のデビーに航空部隊を十機ほど借りていた。『アルガトロ混成騎士団』も後詰で何人か借りている。
〈しっかし、大将の方はとばっちりだな。なんだって、あんなことになっちまったんだ?〉
金髪のオールバックの美青年…ヴェルド・ホーネットの言う通りだった。そこに兄のコローレ・ホーネットが…
〈さあ…殿下も存じ上げてない。というより、ユーフェミア様が自発的にあのようなことをしたということ自体信じられないようだ。〉
そこにデビーが…
〈それくらいにしておけ……〉
〈あ、わりぃ。〉
「いや、良いんだ…」
報告が来た。敵…名誉将兵達はブリタニア人将兵を何人か脅迫し、VTOLの操縦をやらせている。おそらく、ペンドラゴンへの最短ルートを聞く意味もあるだろう。
「こちらもVTOLで相手に接触する。」
〈良いのですか?〉
コローレの疑問はもっともだが…
「たかがKMF三十機程度で帝都を落とせるなんて向こうも思っていないさ。多分、帝都の一部くらいは壊して過ちを払拭する…玉砕覚悟だろう。」
ただでさえ名誉ブリタニア人、それが皇族であるライルの庇護で一定の権限が守られていた。それを放り投げたのだ。
「それに…一人はあの特区の事件で弟を殺されている。12歳だ…!」
〈……なるほど、無理ないわな。〉
普通、そうだろう。おそらくコーネリアもユーフェミアを殺されたとあっては……
〈それで帝都へのテロとは、なんという軽挙妄動。所詮はナンバーズですな。〉
随行を命じられた本国のサザーランドパイロットが名誉ブリタニア人達を罵った。しかし、すぐに……
「黙れ……先にお前たちを殺すぞ?」
〈ひっ!!〉
ヴェルドは通信越しでも凍り付きそうだった。一年後輩で来たこの皇子、一年生の頃から人より勘が鋭く、取り入ろうとする貴族に辟易していた。しかも、彼女の死後もそれ幸いと取り入ろうとする彼女の同期生もいたのだ。
こりゃ、普通人間を信じなくなるぜ。よく俺やフェリクスが信用されてるものだ。
「今のはお前らが悪いね……なんも悪いことしてない弟、それも小学生くらいの子が殺されたんだ。」
〈し、しかし……〉
〈特区参加者は帝国臣民として恭順の意を示した。それを裏切ったのは我々だ…そう言えば、納得できるか?〉
コローレが助け船を入れてきた。
〈申し訳ございません、殿下。〉
〈…二度目はないぞ?〉
ヴェルドはため息をついた。彼女…ジュリア・ボネットの事件の後、ライルは酷く荒れていた。宥めるのに苦労させられたのはよく覚えているし、これでも本当にまだいい方だ。止めていなければ、今頃ライルは暴走して貴族子弟を理不尽に処刑した皇子として、自身も処刑台だっただろう。
コローレはライルに通信をつなぐ。
「それで、相手が玉砕覚悟で帝都に来るにしてもどうするんです?」
〈…ああ、相手はVTOLでの輸送に少数の航空戦力だ。航空戦力同士の潰しあいになりかねない。〉
だが、基地の方から戦闘機部隊が追ってきている。そう遠からず追いつかれる。それならば……
〈基地にいる私の部隊に連絡を取ってある。相手にKMF戦をしてもらう。〉
「どうやって?果たし状を送って、頷くとは思えませんよ?」
玉砕覚悟の相手がそんなものに乗るはずがない。誰でもそう思う。
〈いや、ここに餌があるだろう。自分たちの間違いを払拭するための格好の餌が。〉
「……なるほど。大胆というか無茶というか。」
とはいえ、本国の地理に明るくない彼らにとってはライルをやる方が分かりやすい。三十近いKMFなら、確かに押し切れる可能性の方が高い。
〈周辺の地域の被害を抑えるためにはVTOLや航空機を撃ち落とすわけにはいかない。〉
「正論ですが、素直に乗ってくれるとは限りません。撃ち落とすのも覚悟しないと。」
コローレの意見にライルも〈分かっている〉とうなずく。
「基地の方から追撃部隊は追ってきている。最終的に挟み撃ちにできれば理想的だ。」
避難誘導はしてもらっているが、一時間足らずでは大して避難誘導できない。
中島京子は意を決していた。もう、あの子はいない。ここにいる同志たちも似たようなものだ。ブリタニアを信じたのがそもそも間違いだったのだ。
KMFがあると言っても、三十機にも満たないし地の利は向こうにある。勝てないのは百も承知。多分…
〈ペンドラゴン方面から通信…ライル殿下です!〉
「…つないで。」
モニターには、中島も見慣れ始めていた端正な顔が映っていた。
〈投降してくれ……どんなに悪い判決でも、処刑だけは〉
「今更無理ですよ……結構な同僚を殺したし、どんなにあなたが頑張っても終身刑でしょう?なら、弟を殺したブリタニアに一発くらい蹴りを入れてやらないと死に切れません。」
そうだ…ライルがいくら弁護しても自分たちは国家反逆罪なのだ。処刑も終身刑も大して変わらない。
「後ろから航空戦力が追ってきているのは知っています……リクエストに沿って、目的をあなたを殺すのに変えてあげます。」
〈………もしかして、最初から?〉
〈ああ、伊達に半年以上アンタに仕えていないからな。それに、あんたが自分で俺達を殺さないと名誉挽回できないし、可愛いお姫様も危ないだろう?〉
古株の一人が挑発し、ライルがモニター画面で笑った。
〈……俗にいうフェアプレーの精神のつもりなら、一対一で交代してくれよ。〉
〈それは無理ですよ…こっちだって反旗を翻した以上は全力で行かないと。どうせ家族も友人もいない連中ばかりですから。〉
ライルは泣きそうになり、同時に笑いそうにもなった。
「全く…こういうタイプは怖いよ。死兵になって襲ってくる。」
しかも、ご丁寧に降りてきて輸送機と護衛の航空戦力は引き上げている。
「撃ち落とさないんだな。」
〈同僚ゆえの強みってやつですね……知り合いとか人質にしたんですよ。記録もあるんで、確認してください。ま…生きてればの話ですが!〉
一機のグロースターが突っ込んできた。ライルも迎撃する……
いや、ここは!
右に移動してライフルを撃つ。すると、四機で一直線に進んでいた。有視界戦闘が主なKMF戦の活かし方としては有効だ。もし、正面から迎撃していれば確実に死んでいた。
一機を撃破してフォーメーションを崩し、そのまま間にいるもう一機をランスで串刺しにする。
先頭と最後尾がライフルで迎撃し、ライルはそれを躱す。
平坦な地形では盾になるものもない。数と腕で勝負するしかない。相手はすぐにこちらを包囲する。なら、こちらは!
自分にかかる負荷など構わずにライルは機体を最高速で走らせる。そのまま左右に移動するが、サザーランドもグロースターも捉えきれない。ハーケンでサザーランドを撃破し、そのままもう一機のグロースターをランスで薙ぎ払った。更に、そのままライフルでもう一機のサザーランドを撃破する。炸裂弾と通常弾を撃ち尽くし、グロースターを一機、サザーランドを一機撃破して弾切れになった。
だが、まだ武器はある!
ライフルを投げつけ、今度は撃破されたサザーランドのバズーカを片手で撃つ。元々両手で撃つ武器なので、反動で体制が崩れるがまた一機撃破する。
ヴェルドは久しぶりに見る後輩の戦闘に圧倒された。相変わらず、騎士と言うよりも野獣のような戦いぶりだ。
「すげぇ…久しぶりに見たけど、グロースターでよくあそこまでやれるな。」
グロースターの性能は確かにサザーランドより上ではあるが、突き詰めていけばマイナーチェンジ、チューンアップに等しい。
「ていうか、兄者。あれ絶対にリミッター外してるよな?」
〈だろうな…相変わらず、無茶をする。〉
コローレが同調した。というより、この場合はグロースターでさえもライルの動物並みの反応速度に着いていくにはそこまでしないと駄目だということ。乗っている機体が人間についていけていないのだ。
「って言っても…それ相手に食らいつくこいつらは流石大将のたたき上げだな!!」
何機かはこちらを狙っている。しかも、必ず三対一であたってしかも撃破しようとせずに釘付けにしてきている。全滅しても、ライルを討ち取れば皇族の一人を討ち取ったという事実は必ず漏れる。
〈全く、人種や爵位なんか役に立たないという後輩の持論がよくわかるよ!!〉
〈言ってないで、手を動かせ!殿下が殺されれば、他の名誉出身者は格好の獲物だ!!〉
デビーの言う通り。ライルが死ねば、彼が掲げた植民地政策の改正は消える。そのモデルケースの名誉ブリタニア人たちも今回の共犯者として、殺されるのは明白。
「ま、噂のメイドやジュリアの後任が偉くかわいいらしいからな!」
〈ああ、ぜひともお目にかかりたいからやらないとね!!〉
デビーは少し笑った。
「まったく、こういうところは揺るがないんだから。」
士官学校時代から、めぼしい女子生徒にアプローチしており、しかもほとんどはそれなりの成功を収めている。とはいえ、ジュリアの後任であるスレイター侯爵家の娘にはデビーも興味はあった。
「三対一を逆用できるか?」
〈難しいが、他に手はないね。〉
三人は互いの背中を守るように一か所に集まった。思えば、この三人はライルやクリスタルと同じ士官学校の出身で、デビーとコローレは卒業生であったが当時在校生のヴェルドやクリスタルがライルと親しくしており、その縁で二人もライルと交流を持つようになった。
ブリタニアにいくつかある士官学校で、彼らの士官学校は貴族7割の平民3割といった編成であり、自然とカーストが生まれていた。ライルはその中で、ひと際高い皇族ながら彼より優秀な平民や下級貴族が多かった。そのため、かなり軽んじられていたが中には御しやすいと思ったのか取り入ろうとする生徒が多かった。
卒業生として会いに来たコローレが、絡まれて辟易していたところに声をかけたのがライルとの交流の始まりで、以来男爵家と皇族という格差を超えての縁で結ばれていた。訓練でも個人的に付き合うことがあり、彼らはお互いのことをよく知っていた。
「私の正面に来たら、一斉に突っ込む。」
〈あいよ。〉
〈それでいくか。〉
相手の動きをうかがい、デビーの前に来た。
「今だ!」
デビーの機体が急加速し、正面の三機に突っ込んでそれに続く形でヴェルドがミサイルとライフルを一斉に撃つ。虚を突かれたサザーランドは一機は完全に破壊、もう一機は足を破壊されて最後の一機はデビーの機体が左腕で振ったトンファ―で倒された。そして、ともに突っ込んで攪乱に出たコローレはサザーランドのランスを拾って投げつけた。
投げられたグロースターはくし刺しになり、完全に陣形は崩れていた。あとは各個撃破。
〈悪いね、ボンボンだと思っても俺らもそこそこの場数踏んでるのよね!!〉
ライルは息切れし始めていた。場数はそれなりに踏んでいるが、これほどの相手は…池田誠治の部隊との一戦以来。それがよりにもよって、自分の部下達とは。
「はぁ…はぁ……全く、我ながらとんでもない連中を育て上げたな。」
〈よく言うわよ…全体の半分近くをあなた一人にやられたってのに。〉
だが…残り7機。サザーランド二機とグロースター五機。武器は相手のものを奪うなどして、何とか持ちこたえているが…
警告音が響いていた。ランドスピナー、手足の関節部…どれもが限界に近づいていた。
「頼むから、持ってくれよ!」
グロースターで突っ込む。サザーランドの射撃を躱し、背中の剣で切り裂いて後ろに下がったグロースターのハーケンを掴んで、そのまま引っ張って体勢を崩して、コクピットを串刺しにする。
その隙をついて中島のグロースターが温存していたミサイルを撃ってきた。機体を左右に展開して躱し、肉薄しようとしたとき…
ランドスピナーがバーストした。
「こんなときに!」
奪ったライフルを撃つが、今度は左腕が突然機能を停止した。ここにきて、機体が限界を超えてしまったのだ。こちらの足が止まったことに気づいた相手は距離を置くが、敵もかなり弾を使い切っている。だが、ここまでくればもはや関係ないだろう。接近戦で充分。誰でもそう考える。
グロースターとサザーランドが一斉にランスで突っ込んでくるが、ライルはグロースターをジャンプさせた。
急停止が間に合った機体もいたが、間に合わなかった機体は味方のランスで串刺しは免れたが、戦闘続行は不可能なダメージを受けた。
しかし、着地と同時にライルの機体は足が完全に破壊されてしまった。今のジャンプで脚部のモーターが完全にやられてしまった。もう、万事休すだ。
〈大将、脱出しろ!〉
「…そうしたいんだが、今のショックで脱出装置も動かない。その上仰向けだ。脱出したくてもできない。上部ハッチも開かない。完全に棺桶になってしまった。」
その前に、残りのKMFがやってきた。正面にいるのは、中島だ。
「ひと思いにやってほしいね……できれば、中島京子。君に頼む。」
〈…副総督の代わりに、せめて自分を殺せと?〉
「それでいいよ。有紗と、彼女の紅茶と料理と永遠にお別れなのが残念だ。」
〈そうですか…では。〉
ランスを振り下ろそうとしたとき、サザーランドが爆散した。
援軍?
モニターを見ると、基地の方からだ。識別信号は『フォーリン・ナイツ』と親衛隊だ。
〈ライル様、ご無事ですか!〉
その声、レイだ。
〈追いつかれた!早く、その男を!〉
だが、ヴェルドとコローレのグロースターが体当たりで敵を退け、デビーの機体がそのままライルの機体を引っ張る。そして、ハッチをこじ開けた。
〈殿下、早くこちらに!〉
「ああ、わかった!」
乗り出したライルを守ろうとヴェルドとコローレの機体がライフルで敵を牽制し、その間に増援が接近した。秀作の機体が二機をあっという間に剣で両断した。
〈おい、生きているか!?〉
〈給料払わないまま逝ったら引きずりおろすからね!〉
雛がミサイルで最後のサザーランドを撃破し、後一機のグロースターをライフルで撃破した。そして、レイのサザーランドが中島のグロースターにランスを手に突進した。
近接戦闘の性能ならばグロースターが上。ならば!
レイはランスで相手のランスを受け止めるが、パワーが上なのを逆に利用する。ランスを動かして体勢を崩し、そのままランスで足を薙ぎ払った。
両足を失ったグロースターはそのまま倒れ、沈黙した。
「投降しなさい。残りはすべて撃破か投降したわ。」
「…形勢逆転ね。無駄話なんかせずに、とどめを刺すんだった。」
中島がコクピットから出てきた。直接話したことはなく、ちらりと見た程度だが本当に美人だ。
ライルは救助され、治療も問題はなかった。だが…
「殿下、此度の一件…貴方の名誉ブリタニア人採用が引き起こしたも同然。どう責任を取るおつもりですか!」
「待て、エリア11でも名誉ブリタニア人が寝返った!ならば、名誉ブリタニア人制度そのものが…」
「そもそも、原因はユーフェミア様のご乱心だ!あれさえなければ、このような事態が発生しなかった!殿下を責めるのは筋違いであろう!」
ライルを糾弾する声、名誉制度そのものを否定する声、遡って特区日本の事件が原因であり、ライルを擁護する声が上がった。
「…死傷者を教えてくれ。」
「あ………実は、そのことで。」
その話題を触れ、幕僚達の声が暗くなった。
「どうした?」
基地から合流した全員が一人分の収納袋を持ってきた。遺体を包装しているのは明白だ。
「…あたしらも後から聞いたんだけど。開けるわよ?」
雛がファスナーをゆっくりと開くと…
「な!……エクトル?」
眠っていたのは、小間使いのエクトルだった。
「なぜ、いったい何が!?」
「私が…お話し、します。」
有紗だ。服には返り血がべっとりと着いている。
「まさか、その血は……」
すると、有紗の体が震えだした。
「はい……エクトル君の血です。」
部下同士の殺し合いに、弟同然に可愛がっていたエクトルの死……ユフィに続いて追い打ちがかけられました。
裏切った中島達はタレイランに比べれば極めて小規模。最初から死ぬのを覚悟した叛乱で、帝都に傷跡を残す或いはライルだけでも殺すつもりでした。
勝てると思ってないあたりは素人集団の『黒の騎士団』よりは上でしょう。こっちはプロもしくはセミプロが多いですから