話はさかのぼって、名誉将兵が反乱したという混乱が広がり、先に自由になった有紗はエクトルとどこかの居室へ逃げようとしていた。そこへ……
「お前たちは!」
名誉ブリタニア人将兵と遭遇した。
「な、なんでこんなことを!やめて、こんなことをしたってブリタニアを転覆できるわけないのよ!」
素人の有紗だって、わかることだ。
「うるさい!そんなことは分かっている!」
「だったら、すぐにでも降伏して!まだ処刑までは…」
しかし、それが逆効果だった。
「黙れ、裏切り者!」
有紗に銃を向け…
「有紗さん!」
エクトルが前に出て、銃声が響いた。そして、そのままエクトルが倒れ…服にべったりとした感触がした。
「エクトル、君?」
みるみる赤が広がっていった。
「エクトル君!エクトル君、しっかり!」
持っていたハンカチで撃たれた背中の血をふさぐが、止まらない。
「だ、誰かいませんか!?医療班を!」
が、エクトルが手を掴んだ。
「…もう、無理…です。」
「そんなこと言わないで!ライル様になんて言えば!そもそも、なんで私をかばったの!?」
が、エクトルは笑った。
「貴族なら、臣民のナンバーズを守るのは当たり前でしょう?」
「そ、そんな…でも、貴族の人達は!」
ナンバーズは貴族を守る。それが義務だと言っていた。
「昔の…僕ならそれに頷いたでしょう。でも……殿下にお仕えして、学んだ。ナンバーズが…貴族を守るのなら、貴族も…それに報いるべき、と。」
「そ、それなら…!」
「良いんです…これが、僕なりの…ノーブル・オブリゲーション…!」
吐血した。もう、虫の息だ…
「もう、しゃべらないで!医療班を呼ぶから、それまで頑張って!」
が、エクトルは首を横に振った。
「有紗さん…もし、今も殿下を信じているなら…今後とも、僕の分までお仕え、して…」
「嫌!まだ、あなたから教わってばかりなのに!」
「大丈夫、です…貴女なら。そ、れに…殿下は、貴女に心を開いています…僕、よりもね。それが…ちょっと、くやし…かな?」
エクトルの目がだいぶ細くなってきた。有紗はとっさにエクトルの手を握る。
「いや、いやよ!頑張って!」
「あ、りささん…父と、母に…お伝え、して……僕は、自分なりの、貴族の責務をはたし、た…と…」
握った手から力が抜け、エクトルの目は閉じられた。
「エクトル、君?エクトル君…エクトル君!」
エクトルは、もう答えなかった。徐々に冷たくなっていくであろうエクトルの身体を、有紗はきつく抱きしめた。
数分後、クリスタルが他の兵士たちと共にやってきた。
「有紗!…エクトル!?」
有紗はクリスタルを見て、首を横に振った。
「あ……もしかして、貴女をかばって?」
何も言わず、有紗は首を縦に振った。
「……今、殿下にお伝えするのはまずいわ。この子まで殺されれば、なおのことよ。私がこの子の守りに着くわ。みんなは、離反していない他の将兵の保護と監視を。」
「イエス・マイ・ロード。」
その後、離反していない将兵は誤射を恐れて動けずにいた。或いは諫めようとして殺されるか、負傷する者が多かった。
「エクトル…君は。」
「ごめんなさい…私が、私のせいで……」
「そうだ!貴様のようなイレヴンごときのために彼が死ぬなど!殿下、この娘はエクトル・バルテレミーを盾にしたのです!」
が、有紗は反論した。
「違います!本当にエクトル君が私を助けたんです!」
「……カメラはあったんだよな?」
「は、はい。確認は取れています。」
「なら、彼は帝国貴族として、帝国臣民を守るという責任を果たしたことになる。それを都合のいいように脚色するのは、エクトルへの侮辱だ。」
ライルは冷たくなったエクトルの頬へ手を触れる。
「まだ、15歳で……エクトル、君は私が心から尊敬するブリタニア貴族だよ。」
それが、今ライルがエクトルに贈ることのできる最大の賛辞だった。
「離反しなかった名誉将兵達の尋問については、私が弁護に回る。状況的に彼らが動くのは困難だったという証言に、立ってくれるか?」
他の幕僚達は
「え、ええ……ただ、本国からも尋問は欠かせません。それは、ご理解ください。」
「……これを機に、全員殺してしまおうなどという魂胆か?」
「殿下!それ以上は侮辱です!」
「…すまない。」
ゲイリーに次いで、付き合いの長い幕僚が意見をする。
「ですが、状況が厳しくなるのは確かです。その時に備え、殿下は英気を養うべきです。」
「ああ、君の意見が正しい。死亡した将兵は全員、戦死扱いで二階級特進と遺族補償はできるように計らってもらうよう。」
「承知しております。」
彼の指揮官としての能力は平均よりやや上というレベルだが、こうした事後処理にかけてはゲイリーやフェリクスに引けを取らない。彼が無事だったのは不幸中の幸いだ。
事態はすべて公表されたが、今首脳部はそれどころではなかった。エリア11で『黒の騎士団』がトウキョウ租界へ攻め込んでいたからだ。これまでとは比較にならない規模の反乱で、中華連邦までがこの混乱に乗じようという動きを見せた。
だが、これだけの事態なのになぜか皇帝は顔を見せない。
「なぜ……私の部下たちの反乱に、エリア11でこれだけの事態が起きたのに。」
いや、自分はともかくエリア11の大規模反乱でさえ関心を示さないのは異常だ。ライルは度々、皇帝が玉座を空けているのは聞いたことがある。だが、それがこれだけのことを放置するほどなのか?
現地で夜が明けたころ……トウキョウ租界へ攻め込んだ『黒の騎士団』は壊滅。藤堂を始めとした、幹部たちは捕縛されたとの連絡が入った。
しかし、コーネリアの負傷に加えてコーネリア直属の正規軍も壊滅的な被害を受け、ダールトンの戦死というブリタニア側の被害も甚大であった。ゼロの捕縛と処刑が報じられた、行政特区日本の虐殺に端を発したこの反乱は組織名にちなんで『ブラック・リベリオン』という公式名称が着けられた。
そして、名誉ブリタニア人部隊の反乱は本国に波紋を呼んだ。生存した反乱部隊はもちろんだが、遺族の中にはライル麾下どころか全エリアの名誉ブリタニア人を処刑しろという声もあった。
だが、ただでさえ『ブラック・リベリオン』で本国以上にエリア11はもちろんのこと各エリアの反ブリタニアの機運が高まっているうえにE.U.と中華連邦の動きも活発化している。
この上、更に皇族の部下として働いている全ての名誉ブリタニア人を処刑してしまえば、ブリタニア本国が大々的に名誉ブリタニア人制度を撤廃したと認識されかねない。
「下手をすれば、全てのエリアの名誉ブリタニア人が敵に回りかねない。」
「確かにそうなれば、収拾がつかなくなる。」
「だが、名誉ブリタニア人などを採用した殿下の責任追及はせねば!」
「まて、処刑するならば反乱部隊のみに留めればよいではないか!!」
「それならば、イレヴンを全て処刑すればよい!」
政府と軍部でも意見が分かれていた。殆ど発言ができないライルから、前もって反乱しなかった者たちに寛大な処置を求められたこともあって彼らの判断を悩ませており、判断を誤れば事態を悪化させる恐れがあった。エリア11出身者全てを処刑するのが手近だったが、それが余計に複雑であった。残りの名誉ブリタニア人の猜疑心と恐怖を煽りかねなかった。
エリア11出身者にしても、あの事態になってもなお植民地政策への協力の姿勢を崩していない山本秋水の護衛官である長野五竜、彼まで処刑すれば今もこちらについている旧日本政府、軍関係者を敵に回して、『ブラック・リベリオン』の灯が再燃してしまう。しかも、率先して『フォーリン・ナイツ』の反乱鎮圧にその長野が陣頭指揮を執った上に、畑方秀作や川村雛という新たに編入されたイレヴンがあわや皇族がもう一人、というところで救出した。
「反乱しなかった人たちまで処刑をするのはやり過ぎだよ……当面は謹慎と監視に留めるべきではないかな?むしろ、残留した将兵の家族が心配だ。こちらで丁重に保護してあげられないか?」
オデュッセウスが穏健よりの意見を述べ、シュナイゼルもまた
「兄上の意見も一理ありますね。まして、ゼロを捕縛したのもエリア11の名誉ブリタニア人です。彼の功績までも抹消したということになります。」
そう、あのゼロを捕縛したのはユーフェミアの騎士だった枢木スザク。彼はユーフェミアの汚名を雪ぐべく、独断でトウキョウ租界へと現れ、ゼロを捕縛した。抹消するには大きすぎる功績だ。
「彼らの我が国への不信感、同時に我々の中に根付く彼らへの疑惑もある。ならば、ライルも含めて彼らは本国に留めておくべきでしょう。ここで火事を大きくする必要はないが、仕置きも必要……彼らには減俸処分を通達し、何かの恩赦を得られれば解除し、昇進もさせる。これでバランスが取れるのでは?」
つまり、最悪主君共々本国に閉じ込めてしまおうというのがシュナイゼルの意見だが……
「ねえ、それってつまり死んでも痛くも痒くもないっての?今に始まったことじゃないけど…」
雛の意見にライルは…
「分かっている……ただ、踏み絵をすれば監視のみに留まるらしい。」
「踏み絵?」
長野の問いに…
「中島京子を始めとした反乱者たちの銃殺の執行を私達でやれ、とのことだ。」
つまり、同僚殺しをやれということだ。エリア11でスザクに藤堂の処刑をやらせようとしたのと同じように。あれは実績を挙げさせるというコーネリアの配慮なのかもしれないが…あれとはわけが違う。
「中島だけは、私が直接やるのを許してくれたが残りは長野達でやれ。そうすれば、残りは全員おとがめなしだそうだ…と言っても、当分は現場に行かせてくれないだろうが。」
除隊処分さえないのだから、シュナイゼルが随分と気を利かせてくれたのは分かる。
「じゃあ、あたしやる。」
「俺もだ、ただし相手は魔物で頼む。」
エリア11出身は中島とあと一人だが…
「分かった……それと、上官として長野は立ち会えとのことだ。」
「…当然でしょう。」
長野も含むところはあるが、同意してくれたようだ。その場は解散になり……
反乱で死んだ将兵達の葬儀が終わった後……エクトルの葬儀が行われていた。民間人同然のエクトルが軍の葬儀とまではいかず、日程をずらしてもらってライルが有紗とともに出席していた。
有紗はどうしても、というので本国兵士の監視付きで出席を許可してもらっていたが…
「イレヴンが男爵家の葬儀に出るとは。」
「故人から小間使いとして学んでいたらしいぞ…」
「それに付け込んで、盾にしたのね。」
「カミカゼで自分が死ぬべきであっただろうに。」
これ聞こえよがしに有紗を罵っていたが、カミカゼが出てきたときにはライルはそいつらを手当たり次第に殴り倒したい衝動をこらえていた。そもそも、発端を作ったライルの出席さえ彼らは認めなかったことだろう。そう、元々自分が来ること自体場違いなのは分かっていたが…これくらいは受けるべきなのだとも考えていた。
まして、彼の父と妾である母はなおのことだ……バルテレミー男爵はライルが好感情を抱かない貴族の一人ではあるが、そうした切り離しができる人ではあるようだった。妾の息子でも、出席する当たり最低限の責任は果たす意思もあるらしい。
そして、埋葬には有紗も乗り出した。
「お願いします。命を救われたからこそ、埋葬してあげたいんです。最後の恩返しをさせてください。」
だが、只でさえ花を添えるのも特例でこれ以上は無理だと言われてしまい有紗も引き下がるしかなかった。
一通り終わった後……二人はバルテレミー家の屋敷に入った。そして、彼の母と対面した。
「貴女が、エクトルの最期を看取ったのですね?」
「はい、おっしゃる通りです。」
母は…
「盾にしたのではなくて?」
「違います!エクトル君は私をかばったんです!嘘だと思うのなら、その時の記録を確認してください!!」
「有紗…!」
ライルに止められ、有紗は下がった。
「失礼しました。」
「………私は領地もない騎士階級の生まれですが、貴族ではあります。何故、あの子はナンバーズを庇うようなことを?」
有紗はエクトルの遺言を伝えた。
「自分なりの、ノーブル・オブリゲーションだと言っていました……只ナンバーズに守らせるだけでなく、貴族の自分もナンバーズを守るべきだと。殿下を通じて、そうした考えに至ったそうです。」
あの時のエクトルの血の感触が、まだ残っている気がして有紗は喪服の裾を握りながら伝える。
「息を引き取る際、お二人に『自分なりの貴族としての責務を果たした』そう伝えてほしいと……」
「それが、あの子の遺言だと?」
「…はい。」
「お二人とも、もうお引き取りを。今は、感情を整理できません。」
当然、と言えば当然だ。
「……失礼、致します。」
「お待ちなさい…」
母に呼び止められた。そして、有紗を見つめる。
「あの子は、他に何か?」
「……殿下を信じているのならば、自分の分まで私がお仕えしてほしいと。」
「あなたは、どうなのですか?」
有紗は、自分の今の考えを打ち明ける。
「正直、特区の事件はなぜああなったのか分かりません。でも、あんなことになったら行くところもないし……エクトル君に命を救われなくても、私はこの人を信じてお仕えするつもりでした。助けられたなら、なおのことです。」
そう、ああなった以上有紗にはもう行くところなどない……エリア11に戻ったってどうなるか。いきなり殺されることだってあるのだから。
「………そうですか。私もメイドとしてお仕えしていた身、お仕えする立場は分かるつもりです。貴女も自分がそうであると自負するならば貴女も自らの務めを果たしなさい。そして願わくば、当分は会わないことを願います。先ほど申したように、まだ……感情の整理ができませんので。」
「………はい、承知いたしました。」
強く、そして寛大な人だと有紗は感じた。イレヴンごときだと思えば、簡単だというのに……息子の意志を尊重しようと努力しているのだ。
この人の慈悲を無駄にしないためにも、お仕えし続ける。何より…有紗自身がライルを信じているから。
その後、別室で男爵と対面した。後継者が既にいるとはいえ、彼も息子に父としての情をそれなりに抱いていた。
「そうか……貴族として、イレヴンごときを庇うなどといいたいのだが………」
男爵は膝の上で手を握っていた。有紗への憤りと、殺した者達への怒りが入り交じっている。
「………エクトルについては母の方にほぼ一任していた。だが…親として、君個人への憤りをまだ整理できない。今日はお引き取り願いたい。」
「はい。」
そして、処刑当日……公開処刑には当初ライルは反対したが、秀作達が処刑するのを全世界に中継することで名誉ブリタニア人制度が健在であると、同時に国内に対しては有紗や長野、ハーフのレイと言った面々が今もブリタニア少なくともライルには忠誠を誓っていることを示すべきであり、そうしなければ立場が危ういままだというフェリクスの助言で、首を縦に振るしかなかった。
「有紗も、立ち会わせないと駄目か?彼女は民間人だぞ…」
「皇室にお仕えする以上は、やむをえません。バルテレミー男爵も立ち会うのですから…」
そういわれれば、納得するしかない。
「分かった……ただし、できるだけ遠くからだ。」
〈先日、ライル殿下のご情愛を賜りながらも反旗を翻した元名誉ブリタニア人らにいよいよ処刑の日がやってまいりました。処刑は、彼らの元同僚たちの代表者及びライル殿下恩自ら執り行うとの旨が公表されております。〉
公開処刑される以上は、当然のことではあるが様々なテレビ局が処刑場には詰めかけていた。ブリタニア軍人はもちろん、民間人も口々に彼らを罵る。「裏切り者」、「恩知らず」など様々だが、フェリクスは聞いていて呆れ果ててしまった。
見当違いもいいところだな……元々名誉ブリタニア人そのものが現地人からは『裏切り者』…ブリタニアからは『どうせ裏切る』、なんて言っているくせに本当に裏切れば「恩知らず」……功績をあげれば「卑劣な手を使った」。……自己中心的にもほどがある。
自分で考えて、驚いた。自分はブリタニア貴族で妾腹の子だが、貴族としての責任には理解があるつもりだ。エリア制度も現体制の上では無理からぬと割り切ってもいたが、それをこんな風に……
いよいよ本格的に殿下の考えがうつったのかな?
〈処刑にはかつての同僚たちも立ち会っております。これは、ライル殿下の格別の慈悲と呼べるものであり、殿下の主君としての最大の恩情です。それによって死を賜る彼らは果報者でしょう。〉
殿下のお気も知らず、言いたいことを言ってくれる…全く、『フォーリン・ナイツ』や枢木スザクを『汚い手で出世した』、『まぐれに決まっている』。平民の若い娘なら『色目で出世した』と陰口をたたいて、そして裏切りで処刑されればこれか……
ゲイリーは軍人として情けなくなってしまった。これではライルのブリタニア人不信も無理はない。自分やクリスタル、フェリクスがほぼ例外中の例外なのだ。
十年以上続く植民地政策によって『自分たちが勝つのが当たり前』、『ブリタニア人だから最初から全てにおいて上』という錯覚が根付いてしまい、ナンバーズやその混血が出世すること自体があり得ないという、ありもしない法則を勝手に作ったのだ。
この状況に立たされ、そして聞いてゲイリーはライルが既に…本人がどこまで自覚していたかは分からないがブリタニアの腐敗を感じ取ったのだと理解した。
それに対して、実力主義且つ現場主義なのは……
『父は、ナンバーズや平民は出世するな。とは一言もおっしゃっていない。努力するな、とも仰らなかった。つまり、ナンバーズや平民が絶対にブリタニア貴族より下という自然の摂理などもない…違うか?』
名誉の積極的な採用を考案した時に、そう言っていた時期があった。反対派を黙らせるときにも似たようなことを……
あの連中は、そうしたものが分らない輩というわけか。
長野は号令役として立ち会っていた。まだ三角巾は取れていないが、上官として見届けるべく間近にいた。
「これより、反逆者の処刑を執り行う!構え!」
秀作と雛をはじめ、処刑役を買って出た名誉ブリタニア人達が機関銃を構える。
「…撃て!」
何十発もの銃声が響き、反逆者たちを蜂の巣に変えた。会場に拍手が響き、最後の一人の中島はライルが処刑することになっていた。処刑のトリを飾るためだ。
が、ライルは銃を受け取らずに剣を抜いて中島に歩み寄る。
「……最後に、何か言い遺すことは?」
「…適うなら、ヨウタを……弟を弔ってから死にたかった。」
彼女が裏切った経緯は公表されていた。だが…
「テロリストを処刑しただけではないか!」
「愚かなイレヴンめ!」
「エリア11に住まわせてやった恩を忘れて!!」
愚かはどっちだ…!あの事件からひと月もたっていないんだぞ!こいつらの頭はどういう構造をしているんだ!!
あの『ブラック・リベリオン』のそもそもの原因はユーフェミアの暴挙。既に彼女は皇籍をはく奪されて処刑された、というのが表向きの発表だ。つまり、皇族の恥部とその被害者が彼女だ。なのに、こいつらはそれさえ頭から都合よく排除している。挙げ句の果てに「エリア11に住まわせてやっている」などとほざく。彼女は元々エリア11…日本在住の日本人だ。
人間とはここまで身勝手になれるものなのかと戦慄さえ覚えてしまう。こんな愚か者しかいない国だというのなら、いっそのこと滅びてしまえとさえ思ってしまった。
ライルは彼女より先に、こいつらを処刑したいのを必死にこらえる。
「……なら、君に代わって弟を…ヨウタ(陽太)を弔うことを約束する。妹の愚挙へのせめてもの詫びだ。」
妹の愚挙、という彼らが排除した彼女の反乱の要因を持ち出してライルはあえて罵声を鎮めることにした。『原因を都合よく忘れるな』、というライルなりの彼らへの反抗でもあった。
〈なんとご立派なお心でしょう。反逆の要因となった弟を弔うのはこの上ない殿下のご慈悲、主君としての最後の務めなのは疑いようもありません。〉
「……信じろと?」
「戦争で亡くなった君の両親と、枢木首相に誓う……だから、ブリタニアを、私を呪って逝け。」
剣を振り下ろし、中島の身体を切り裂いた。
「イエ、ス…ユア…ハイネ、ス…」
返り血をたっぷり浴びたライルは剣の血を振り払った。そして…
「この血はこの者たちの罪にして、『妹の愚挙』の重大さを測りきれなかった私の不徳の証!私はこの身に浴びた血の意味を、決して忘れない!」
我ながら、白々しい芝居だ…だが、有紗達を守る意味でもライルが自分自身の不徳、同時に妹の暴挙の不始末をしたというアピールをする必要もあったのだ。もっとも、政治に精通した者であればすぐに見破られそうなものだが、他に選択肢はなく、立ち会うだけでもしなければならなかった。自分は、彼らの主君なのだから。
直後、会場から万雷の拍手が流れた。『妹の愚挙』の深刻さを測り損ねた自身の失態とも言える者達を処刑して、同時にその愚挙の直接の被害を受けた者へのささやかな詫び…皇族としての務めを果たしたと多くは認識するだろう。
だが、ライルの心はこの処刑でかなり参っていたのを知るのは彼の部下や親しい兄弟たちだけであった。彼女があのような暴挙に走ったのは、突然の乱心というのが彼女を知る人の大半の認識であり、ライルもその大半の一人であったからだ。
中島達の処刑は当然でしょう。これだけの事態なら、ライルの権限でもかばえません。
ただ、ゲイリーのような保守派でもライルに影響されてブリタニア人達の言い分に不快感を抱いて……挙げ句に『エリアに済ませてやった恩を忘れた』という言い分にライルは本気で怒りを抱き、『こんな国滅びてしまえばいい』と思ってしまいました。