オズとアキトまでもうちょっと待ってください。
銀河英雄伝説の影響もあってか、グダグダ長くなってしまってます。
「は?」
ライルは母に呼び出され、突然婚約を告げられた。
「ま、待ってください!なぜいきなりそうなるのです!?」
机を叩きつけて抗議するが、シェールは聞く耳を持たない。
「貴方のためですよ。もう18なのに、特定の交際女性すらいない。親として、心配するのは当然です。」
何が親として、だ。オレゴンの田舎貴族という生まれを隠す縁戚が欲しいだけのくせに!!
母の実家はオレゴンの田舎を統治するハウエルズ子爵家。土地柄を生かした農産業、牧畜業や小さな貸別荘、乗馬体験などを活かした地味だが無理のない、平民層にとってやや割高で貴族には安めの堅実な事業を営んで祖父母は今も健在。領民の信頼もある。
アルバートフ伯爵家を始めとした大貴族達の覚えも良かったのだが、母は大貴族達の優雅な暮らしに魅了されたか、ここを唾棄して祖父母が委託した領地も殆ど任せきり、一部に至っては売り払おうとした始末だった。
「先方も、貴方であれば良いと仰っているのです。爵位だって、伯爵家。侯爵家とはいえ、イレヴンの混ざりものなどよりもはるかに高貴です。」
高貴なのは家柄だけじゃないのか?
この女の選ぶ相手は過去に引き合わされた経験から、家柄は高貴でも中身が下劣な貴族の方が多い。祖父母やアルバートフ家当主のような貴族の方がまれだ。
「……で、どこのどなたですか?」
「先日、貴方と踊ったサラ・クラウザー嬢です。」
何、今サラ・クラウザーと?!
「エリア11で出会って以来、貴方も随分と気を許しているようですしこれならば文句はないでしょう?アルバートフ家を第二妃、ウィスティリア家を第三妃、あの混ざりものなどよりはるかに素晴らしい血筋です。」
余りに予想だにしていなかった相手が結婚相手であったため、ライルは反論さえ忘れていた。
「で、殿下と婚約って!お父様!?」
サラも寝耳に水であった。
「お前は先日のパーティー、殿下以外と踊らなかったではないか。気に入っているのであろう?」
「そ、それは…今までお会いした人よりはずっと…」
「ならば、文句はないだろう。母君の実家の爵位はやや低いし、先日の事件だが付け入る隙がある。」
結局、それか。この人は娘に父親らしい愛情を抱いていないのだ。
「だからって、いきなり婚約は性急すぎます!少しは考える時間をください!」
「それが父親に対する言葉か?」
父親…貴族の父親としてはいろいろとしたが、一人の父親としてこの人は何をした?お菓子や人形、ドレスを買い与えただけだ。勉強のアドバイスさえほとんどなかった。
「だったら、少しは娘の意見や殿下の心境を考えてください!」
「先日の事件か?所詮はナンバーズではないか。」
そのナンバーズと同じ学校に通っているのをこの人は忘れているのか?大体、ライルはそのナンバーズを部下として扱っているではないか。
「あの人にとっては、部下です!部下殺しをしたんです!」
自分でも驚くほどの剣幕だ。
「とにかく、今は婚約はやめてください!心にはとどめておきますから!」
あんな事件でまだまいっているのに、いきなり婚約なんてサラは耐えられなかった。それに、
もしかしたら、ライル様は有紗のことを…
「それに合わせて、貴方の部下達を新しくするようにシュナイゼルに掛け合っています。あのナンバーズ共は元のエリアに戻しなさい。」
余りに一方的な言い分にライルは再び机をたたいた。
「彼らは私の部下です!軍の権限は私にあります!!いくら母上でも、これは越権です!!」
「何が越権ですか!私は貴方が皇帝に相応しく成れるように努力しているのですよ!」
「ご自分が母后になりたいだけでしょう!!」
が、シェールは…
「私は18年間、あなたを愛して育てたのですよ!?なら、貴方も私を母后にしなさい!!」
これだ……母后になりたがっているくせに、自分自身は宮廷工作と言えば聞こえはいいが、実際のところ息子を売り込んだり、自分好みの貴族を息子の部下にして、息子の軍を塗り替えようとしているだけ。
宮廷工作、と言っても下の下ではないのか?
大体、皇太后だって公務はあるはず。領地の運営さえ放り投げたこの女ができるとは思えなかった。
「とにかく、少し考える時間をください。」
有紗が入れた紅茶を飲みながら、ライルは先日の件を話した。
「あの人と、婚約?」
「ああ…この間のパーティーで。迂闊だった……」
あの女のことだから、すぐにでも結婚させかねない。だが、先方がいきなり結婚はしたくないと言ってきた。せめて、サラが大学を卒業するまでは待ってほしいということになった。
「だが、聞く耳を持たなかった。一か月以内に式を挙げるなんて言い出した。」
「一か月って、早すぎますよ!」
そう、一般人でもそう思うだろう。
「ああ、だから高校を卒業するまでは待ってもらうことにした。」
彼女が嫌いなわけではない。政略でも、彼女ならばなんとかなりそうだし会う機会を増やして理解を深めるなりやりようはある。
だが……一度くらいはしたい。ジュリアとともに喪われたどこにでもあろう、学生がするようなものでもいいありふれた恋愛……
宮廷の欲望にさらされ、その奥を察していたライルにとっては皇帝即位と同じかそれよりも高いところにある気がした。
それこそ…今隣にいる彼女と……
悩んだ末、ライルは祖父母とアルバートフ家に仲介を仰いでサラとの婚約はあくまで話のみに留めてもらうように頼み込んだ。サラの方も思うところがあるのかその話は了承してくれた。
「申し訳ありません、こちらの都合に巻き込んで。」
「いえ、父達も思うところがあったようなので。」
そうは言うが、こちらの問題に巻き込んだのだ。何かしらの形でお返しをしたいとライルは思っていた。
そして、婚約騒動が片付いたライルは有紗をはじめとして十代の未成年者がエリア11で一気に増えてしまったため、彼らの身元引受人を検討していた。秀作はゲイリーが自分からなると言い出し、有紗はレイの母が、雛はデビーが引き受けることとなって一応落ち着いた。
有紗はバルテレミー家に頼むわけにもいかないし、レイの母が引き受けたのは元々日本人と結婚していたから無理もなかった。が、ゲイリーが秀作の保護者を買って出たことは貴族界隈でも話題を呼んだ。ライルも意外な顔で…
「どういう風の吹き回しだ?」
「……家庭の事情、とだけ。」
エリア11で何度か食事をしたり、いろいろと話を聞いてゲイリーは自分が息子たちにしてきたことを思い知らされた。息子達の意志をほとんど認めず、自分が敷いたレールを走ることだけを強要した。その結果が、いまだ。
同じく軍人で家庭持ちの長野に聞いて、息子たちと食事の機会でも儲けようとするがなかなか会ってくれない。先日のパーティーも招待したが、軍務を理由に断られてしまったのだ。
息子たちにしてあげなかったことを、あの男で埋め合わせようとしているだけ……自己満足だという自覚はあった。が、他人事ではなかったというのもゲイリーの本音だった。
そして、本宅へ招いて部屋も用意した。
「お前の年頃の好みは、長野から聞いた。テレビもあるし、DVDもある。」
部屋には歳が近い平民兵士の意見を聞いて、いろいろと用意した。
「日本文化が恋しければ、エリア11を経由して取り寄せることもできるから言ってくれ。それと…」
「なんだ?」
「ここにいる間くらいは、戦争のことを忘れておけ。休めるときに休むんだ。」
「…わかった。」
「今日の夕食は、妻が作ってくれる。若いころはよく作ってくれたんだ。」
我ながら、下手だ。が、息子たちと最低限のコミュニケーションさえしなかったツケなのかもしれない。
リビングで紅茶を飲んで、一息つくと。
「旦那様、一体なぜあのイレヴンの保護者を?」
執事たちがやはり聞いてきた。
「私も、気になります。」
妻もやはり、同意見だ。貴族出身でナンバーズへの差別が当たり前なのだから、当然だ。
「……私が、息子たちにしなかったことをまざまざと思い知らされたんだ。あれはもっと酷いらしい。学校のテストで百点を取らなかった、競争で一番になれなかったから殴られたり、夏場に物置に閉じ込められるなど当たり前だった。」
「な…いくら何でも。それは誇張では?」
「そうでもないらしい……まともに遊ぶことさえ許してくれなかった。周りの子供でさえ、祖父の名前しか見なかったようだ。」
「確か、あの者の両親は日本軍人だったと。」
そう、ある意味で自分と同じだが決定的に違うのは……
「祖父と比べれば、あまり優秀ではなかったという。」
そして、秀作の証言から、あまり考えたくないが、もし想像通りならば醜い考えだった。相手がイレヴンでもそう思ってしまった。
「その結果、イレヴンを殺すのが趣味だと公言してしまった上に世間一般でいう親という概念さえ破綻している。肝心の中身が赤ん坊同然なんだ。」
そんな秀作を通して、自分が同類だったと思い知らされて償いをしようと思った。
「…イレヴンごときと思うが、割り切ってくれ。」
「……かしこまりました。」
「それと、あやつにとって両親と祖父は憎むべき仇であるからな。血筋を持ち上げるようなことを言わないように気を付けてくれ。」
秀作はブリタニアの雑誌や漫画を読み漁っていた。奴らがほとんどやらせてくれなかったこと……ゲイリーは、それらをやらせてくれている。備え付けられた冷蔵庫を開けて水を飲んで、一息つく。ふと、少し屋敷の周りを出たいと思い部屋を出た。
そこへ、使用人の一人と出くわした。
「…少し、外に出たい。まだ、要領を得ないから玄関口まで案内してほしい。」
「かしこまりました……」
不服そうな顔だ。頭ではわかる。こいつらにとって、自分は魔物の一味なのだ。
「俺がゼロの一味でないと証明するにはどうすればいい?」
「え?」
「今からでもエリア11に行って、ゲットーの一つか二つ潰せばいいのか?それとも、百人ばかりイレヴンのガキを生きたまま焼き殺して人肉を食えば納得してくれるか?生きたまま、解剖するのもいいぞ。」
「ま、待ってください!」
なら、なんだ?と目で睨みつけるが。
「だ、旦那様のご意向には従いますが、やはり納得できませぬ。差別を重んじる旦那様が、いかにご自分の失敗を見たからと言って、イレヴンの保護者など。」
「そんなの知るわけないだろう……大体俺が知りたい。」
ただ、一つだけ言えることがある。
「まあ、将軍とライルが今まで俺に奴の孫だからああしろこうしろとうるさかった奴らよりマシだ。」
「ねえ、別にあたしは官舎暮らしでもいいのよ?」
雛はデビーの実家の屋敷に招かれた。と言っても、今は物置として使われている離れだ。そこをねとまりの場に用意した。
「ていうか、簡易的なキッチンとバスルームまであるとは。」
「男爵家で没落の危機に瀕しているとはいえ、貴族だからな。」
銀髪、より正確にはアッシュブロンドというところか?やや濃いめの肌の色に整った顔立ちだ。
「その貴族様が、よくイレヴンなんぞの身元引受人なんぞ引き受けたわね。あんた当主?」
「いや、まだ正式に後は継いでいない。殿下の心象を少しでも良くしたい、という魂胆だろう。」
なるほど、跡取りが皇族の親衛隊となればそれは軍隊では相当なエリートコースだ。より固めておきたい、ということなのだろう。
「ねえ、あたしって一応エリートコースなの?」
「過程をかなり飛ばしてはいるが、エリートだな。あの元日本軍人…長野少佐もだが今後の働き次第では君も騎士候になれる。」
騎士候、一代限りの貴族ではあるが平民でも困難だという。それになれる、というケースは既に極端だがあるか。
「まあ、生活に困らないに越したことないわね。まともな屋根の下で寝られることにはお礼を言っておくわ。」
「それで十分だ。ただ、父上や私の婚約者には気をつけろ?とくに後者は、殿下のことさえ侮辱する。」
「……よくそんなのと結婚するわね。」
「辺境伯家のご息女で、本国の政治界でも影響力はある。私を結婚させて、縁戚を得たいのさ。」
「うわ、平民でよかった……」
有紗はスレイター家の屋敷の離れに住まわせてもらっていた。離れ、と言っても来客の宿泊なども兼ねているためにキッチンなども備え付けられている。
「大きなお屋敷……離れなんて、殆ど家一軒だわ。」
「ええ、レイもここに住んでいるの。それにしても、娘の友達を家に招くことができるのがうれしいわ。」
スレイター侯爵家当主の言葉に有紗は困惑した。
「え、あの…お嬢様は日本育ちだったんですよね?」
「ええ、でもハーフを理由に虐められていたの。学校でも、かなりひどい苛めでね。不登校が多かったから、友達なんて殆どいなかった。」
そういえば、そうだ。何せ有紗のことだってついこの間まで疑っていたのだ。
「あの子の心は、幼稚園で止まってしまったようなものだった。貴女のように普通に接することができる相手、それも日本人がいたのが母としてもうれしいわ。」
夫人が有紗の両手を取って、願い出た。
「有紗さん、あの子のお友達として仲良くしてあげてください。ライル殿下のこともですが、今あの子に必要なのは歳が近くて、心を開ける人ですから。」
「友達…と呼べるかまだ分かりませんが、その……私や、他の人とはそこそこ付き合えてますよ?」
「そうですか……よかった。」
夫人がほっとしている。本当に、レイのことを心配しているのだ。
「それじゃあ、今日は少し奮発しましょう。娘の友達を招待したんですもの、母として私が腕を振るいます。」
「え、お料理なさるんですか?」
「ええ、日本にいたころは専業主婦でしたからね。和食も作れます。」
その日の夕食は、レイと有紗と夫人の三人で仲睦まじい景色が広がっていた。レイを疎んじる使用人たちは良い顔をしなかったが、レイを気にかけていた使用人たちは…
「奥様がいつになく楽しそうでいらっしゃる。ご息女がご友人を連れてこられた、感覚なのだろう。」
「お嬢様も心なしか、リラックスしておいでだ…奥様の手料理がよほど嬉しかったのかあのイレヴンの娘が一緒だったのが原因だろう。」
そう言っていた。
同じ母親でも、ライルとレイでは凄い差です。この程度にしか書けないのがちょっと情けないけど。
この後、秀作と雛の転機の出会い。そこから、色々あってアキトとオズの予定です。