コードギアス 戦場のライル   作:meitoken

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予告通り、秀作と雛に転機が訪れます。


WARFARE-28『皇子と皇女』

『フォーリン・ナイツ』のクーデターが落ち着いた後、ライル軍は本国待機を命じられた。当然と言えば当然だし、処刑されなかっただけマシと名誉ブリタニア人達は割り切っていた。

 

それが伝えられて暫くした後……

 

「あ、それは何かの間違いか…誤報では?」

 

秀作は突然上層部から呼び出され、内容を聞き返した。

 

「貴様に言われるまでもなく、私とてそう思いたい。だが、事実だ。セラフィナ・ギ・ブリタニア皇女殿下が貴様に会いたがっている。」

 

「……それは、任務ということでよろしいので?」

 

「無論だ……皇族の権限はそれぞれが独立している。まして、イレヴンが皇族の方に謁見を許されるなど、破格の名誉と思え。」

 

上層部は不服そうだが、秀作はあのパーティーで会っただけの自分になぜ興味を持つのかが理解できなかった。

 

 

 

川村雛はライルの随行でブリタニア皇族が済む離宮の一つアクエリアスの離宮を訪れていた。

 

「流石ブリタニア皇族……でかいわ。デビーの屋敷よりでかい。」

 

「私も、五、六歳の頃にコーネリア姉さまとユフィの離宮に遊びに行ったとき、迷子になったことがあった。」

 

「そりゃ、迷子になるって……ていうか、なんであたしなの?これから皇族に会うのに。」

 

雛にしてみても、理解できなかった。

 

「仕方ないさ……貴族出身者は先日の事件で休暇や除隊、他も動けない。」

 

レイとフェリクス、クリスタルといった名門貴族の跡取りたちも無理。それで信頼面を重視して、雛とは。

 

「……はあ、まあ命令だし。正式な謁見の類じゃないだけ、いいか。ていうか、あたしみたいな育ちも性格も口も悪い女を信頼って、あんたどういう頭よ?」

 

「私にとっては、君やセヴィーナみたいなタイプの方が自分の家をあからさまに自慢する貴族よりはずっと頼りになるよ。」

 

「そりゃ、自慢できるお家柄じゃないからね。ま、他の奴らの話のタネくらいにはなるか。」

 

 

 

秀作はゲイリーが付き添う形でセラフィナがいるブリタニア宮殿の一角を訪問した。ゲイリーやライルから聞いたが、彼女も姉と共に軍を率いているという。そのため、こちらを睨んでくる軍人が多い。

 

「イレヴンごときが皇女殿下と。」

 

「枢木スザクといい、どうやって取り入ったのだ?」

 

二人の親衛隊、というわけではなさそうだが秀作にとってはいい迷惑だった。

 

「あんたは俺の引率者か?」

 

「実際に保護者だ……それに、お前一人では何をしでかすかわからぬ。」

 

「こちらで皇女殿下がお待ちだ。」

 

ドアが開き、緑を基調とした軍服とドレスを合わせたような特殊な礼装の美少女がいた。先日会ったセラフィナ・ギ・ブリタニアだ。秀作は拳を胸に当てて敬礼する。

 

「第八皇子隷下特選名誉騎士団、畑方秀作少尉。皇女殿下のご命令に従い参上した次第です。」

 

「改めまして、セラフィナ・ギ・ブリタニアです……畏まらなくてもいいですよ。どうぞ、お茶を入れますから。クレヴィング将軍もご一緒に。」

 

「……では、お言葉に甘えまして。」

 

 

 

エルシリア・ギ・ブリタニアはデスクワークをひと段落させ、緑茶を飲んだ。入れたのは乳母の娘で、親友のクレア・エインズワースだ。

 

「セラは?」

 

「例の子と会っている最中よ。珍しいわね、あの子が男の子に興味を持つなんて。」

 

「ライルの部下だから、興味を抱いたのかしら?」

 

「それなら、今頃家柄のいい若いのに食いつくでしょう?」

 

言い方はどうかと思うが、その通りだ。

 

「この前のパーティーで会ったそうだけど、印象は?」

 

クレアは軽くうなる。

 

「そうね……おじい様は今もブリタニア軍で尊敬さえされているけど、それがコンプレックスになっている。という感じじゃないわね……むしろ、おじい様のブランドを押し付けられて迷惑してるって言った方が良いかも。」

 

 

 

「はあ、ブリタニア皇族に仕えるのが栄光だってのは分かるけどさ……ここの連中まで、自分達だって皇族に仕えてるのに嫌な目で見てきちゃって。」

 

「勝ちすぎて、ダメになっているのかもしれない…植民地政策は十年以上続いている。だから、自分たちが上になるのが当たり前だという錯覚しているんだ。」

 

またしても、皇族なのに現体制に批判的なことを………

 

「お待ちしておりました、兄上。」

 

高い声が聞こえ、見るとそこには髪の長い美しい人物がいた。第一印象では性別が分かりにくい。

 

「えっと……妹?」

 

「弟だよ。」

 

「え、あの顔で?」

 

どう見ても女性的だ……男だっていうのなら、目の前の主君より上なのではないか?いや、ライルの方はまだ男性だと分かる雰囲気だが。

 

「そちらは、名誉ブリタニア人ですよね?」

 

「あ、はい…特選名誉騎士団の川村雛少尉です。」

 

「初めまして、第91皇位継承権者ウェルナー・レイ・ブリタニアです。」

 

91?百人越えとはいえ、ライルとさほど歳は離れていないように見えるが……

 

「この前の叙任式に来ていたが、歩いて大丈夫なのか?」

 

叙任式…そういえば、放送を見ていたときに身なりのいい少年がかなり前の方にいた気がする。

 

「ええ、ここのところ体調がよくて。」

 

「え…もしかして、身体が弱い?」

 

ウェルナー皇子がほほ笑んだ。

 

「ええ、生まれつき……継承権もそれで低いんです。」

 

「はあ…なるほど。」

 

「外へ出た回数も少ない、所謂世間知らずの箱入り息子なんです。兄たちの話でしか、殆ど外のことを知らなくて。」

 

「つまり、今日はその話と?」

 

ライルがうなずいた。

 

「ああ、そうだ。外国人と話す機会もあった方が良いと思ってね。」

 

 

 

「で…なんでわざわざ俺みたいなのと会いたい、なんて?」

 

「秀作、皇女殿下を前に。」

 

「いえ、その……おじいさまのこと、殺したいほど憎んでいるって。」

 

「……なんで、この前のパーティーで流れたような質問を?」

 

セラフィナは慎重に言葉を選ぶ。

 

「その……私の聞いた話だと畑方将軍は『極東事変』以前からの日本の名将で、今もブリタニア軍で尊敬する人さえいるんです。私にとって、姉や宰相閣下が自慢できる家族です。おじい様が自慢できるような人なのに、どうしてそんな風にって。」

 

「皇女殿下…その話題でしたら。」

 

「いかにも、お嬢様な理屈だな。自分もそうなりたいって?俺に言わせれば、おめでたいね。自分をコピーか何かだと勘違いしてないか?」

 

余りの言い草に、セラフィナは怒りさえ抱いたが…なんとかそれを飲み込んで問う。

 

「じゃあ、貴方はどうなの?なんでおじい様を殺したいなんて言ったの?」

 

「……奴のおかげで、俺は地獄を見た。」

 

地獄?どんな、地獄だ。

 

「小学校のテストで、百点を取っても『頑張った』の一言もなしで、『できて当たり前』。百点を取れなかったら殴られる……かけっこで一番になれなかったら蹴られる……夏休みで遊ぶことは許さない、隠れて遊べば真夏の物置に閉じ込められて殺されかけた……冬休みなら真冬のプールで浸からされた、夜に外に締め出された。竹刀で殴られる、鞭で打たれる…奴らは俺を道具としか見ていなかった!」

 

…………え?今、なんて?

 

百点を取れないなら殴り、かけっこで一番じゃなければ蹴られ、夏の物置で殺されかけ、冬の夜で外に出された?

 

「え…なんで、そんな?」

 

「簡単さ…常日頃、奴らは言っていた。ジジイより偉い将軍になれって。現役の軍人のくせに、だぞ?学校でも似たようなことを言われた…!」

 

秀作の両親……確か、旧日本軍から得た資料では夫婦とも軍人で、階級は確かに低かったが……別におかしなことではないのでは?

 

「ジジイと比べられたんだ。だから、俺を一流に育て上げて自分の有能を証明しようとしたんだ。あんただって、軍人ならこれが馬鹿らしいことくらいわかるんじゃないか?」

 

あ、そういうことか……彼は、才能に恵まれなかった両親が自己の有能を証明する道具にされたんだ。軍人のくせに、自分でやろうとしないで…

 

「今も生きていたら、奴らは俺を無理やり連れ戻していた。いや……もしかしたら、俺が今の成功を収めたのに気をよくして、自分達を売り込んでいたかもな。」

 

 

 

秀作の顔を見て、セラフィナは背筋が凍った。まるで、どちらでも自分にとって好都合…そう。

 

「そ、そうすれば……合法的に殺せるから?」

 

「ああ……戦争の後、手下どもは俺を担ぎ上げようとした。9歳だぞ?それがいきなり日本独立を果たす、なんて決めてかかった。大の大人がだ…奴らの手下だなけあって中身がガキだ。拒んだら、俺を殺して殉教者に仕立てる始末だぞ?」

 

「い…いくらなんでも、本当に?」

 

「ああ。ジジイの遺志を継ぐのが俺の幸せ、それこそが存在する理由。日本独立を果たすのが義務……俺の意志なんて最初からない。」

 

なんて、滅茶苦茶な理由。隣のゲイリーは顔を伏せており、心なしか入り口の警備兵も何か思うような表情だ。

 

「日本を、ブリタニアが占領したせい?」

 

「そんなの関係ないな……むしろ、俺が今くらいの時に攻めて来てたら、俺まで勝手な期待を押し付けられていた。」

 

 

 

ウェルナーはライルからエリア11でゼロに会ったことや婚約の話を聞いた。やはり、兄達の外の話は面白い。ふと、側に控える少女に目が向いた。右目を隠しているが、何故だろう?綺麗な顔だと思うし、姉達や屋敷の使用人以外では初めてまともに見る女性で、しかも外国人だ。

 

「あの…川村少尉。どうして、眼を隠しているのですか?せっかく美人なのに…」

 

「……気になる?」

 

「少しだけ…」

 

数秒すると、雛がライルに進言する。

 

「ちょっと外して…二人だけで話したいわ。」

 

「雛?私は別にいいが…離宮の警備が。」

 

「殺すような事しないわよ…はい。」

 

雛がライルに銃を手渡した。そして…

 

「ドアの前で待ってていいから。」

 

「…分かった。」

 

 

 

「その…畑方少尉は、ブリタニアを憎んでいないんですか?」

 

意外な質問だ。秀作があってきたブリタニア人は自分たちが憎まれるようなことをしているという自覚がないどころか皇帝の言葉を鵜呑みにして、ブリタニア人を憎むこと自体が愚かだという見識。そう、まるで奴らのような施行で、ライルやゲイリーのようなタイプの方が珍しい。

 

「あんたは、ライルや将軍みたいなタイプだな。」

 

「……それは、信用してくれるということ?」

 

「ああ……魔物共は国を奪ったとかでブリタニアを憎んでいるが、俺は別の意味で恨みがある。」

 

「どういう、恨み?」

 

セラフィナの問いに秀作は唇を凶悪な形で上げた。

 

「俺が殺したかったジジイと、あの妖怪夫婦を殺した。生きていれば、俺自身の手でバラバラに切り刻んでやりたかった!」

 

そうだ…そして、俺に奴の血筋を求める魔物どもも一匹残らず根絶やしにする!

 

「奴らも、奴の血筋を俺に要求する魔物どももこの世界から一匹残らず消す。そうすれば、やっと俺は俺になれるんだ!」

 

 

 

「川村少尉って、どういう経緯でブリタニア軍に入ったんです?」

 

「生活のため。戦争で親が死んじゃったから、自分で生活費を稼ぐため。」

 

生活の、為?それだけ?

 

「え、えぇと…各エリアには自治や経済を請け負うグループがありましたよね?財閥などの。」

 

「ああ、エリア11のNACとかね。あれはダメ。ねえ、あいつらがテロを支援してたって聞いてる?」

 

テロを、支援?自治体が?

 

「知らなかったのね……箱入りのあんたには難しいだろうけど、ブリタニアっていろんな国から恨まれてるの。国を乗っ取って、ナンバーズは家畜扱い。殺してもいいってね。」

 

「え…あ…その…父上は、確かにそれらしいことを仰ってますが。」

 

「あたしから見ても、あの馬鹿な連中はそれを方便にナンバーズ相手にやりたい放題なの。あんたの兄さんは『限度がある』って否定的だけどね。」

 

「……えぇと、それとあなたが名誉ブリタニア人になったこととどういう関係が?」

 

「簡単よ……NACのジジイ共はそれに不満がある連中を手伝って、独立しようって考えてたの。政庁からKMFやら買ってね。」

 

 

 

それが、雛にとっては許せなかった。

 

「あたしは戦争で家族が死んで、頼る人もいないから何でもやった。同じくらいか、もっと小さい子供も殺して自分が生き残るために必死だった。そんなあたしみたいなやつに、あのジジイ共は何もしてくれなかったのよ?グラスゴー一機を買う金があれば、赤ちゃんのミルクやあたしらみたいなガキのための教材や食料をどれくらい買えたのかしらね?」

 

「俺に…なる?」

 

「ああ、そうだ……奴らを一匹残らず根絶やしにしないと俺は永遠にジジイの呪縛から逃れられない!家族とか友達なんてもの、俺は信じない!それはすべて、俺を奴隷にするための方便だ!!」

 

セラフィナは理解した。秀作は……今でも縛られている。祖父のブランドにすがるイレヴンのエゴに……

 

でも…その妄執自体に彼自身も縛られている気がする。

 

「少し、外してくれませんか?二人きりで話したいので。」

 

「姫様?しかし…」

 

警備も困惑し、

 

「おい、正気か?俺の言っていたことが嘘だったらあの世だぞ?」

 

が、

 

「嘘にしても、色々とつけ過ぎです。将軍のご見解は?」

 

「……我が軍の他の将兵も同じ証言を受けており、一等兵時代からもテロリストに対しては、ブリタニア人より苛烈な行動がありました。彼の経験は、事実とみてよいでしょう。」

 

「それなら、大丈夫です。私を殺したら、英雄になっておじい様のブランドをより美化してしまう。でしょう?」

 

秀作があっけにとられた。

 

「…ああ。大体、それならこの前の時に一緒に反乱するし、ひと段落したあのタイミングでライルを殺す。あんたならそうするだろう?」

 

「そうね…その直後の方が、兄さんも将軍たちも油断しているもの。成功率は高いわ。」

 

「姫様!」

 

「たとえ話ですよ……それより、外してください。」

 

「…イエス・ユア・ハイネス。」

 

 

 

ウェルナーは、雛の言葉の意味を理解しきれなかった。少なくとも、自分で生き延びるために必死だったのは分かったが……

 

「その、私は税金で暮らしている身だからうまく実感は持てないけど……」

 

「そうね、あんたの歴史で言えば『パンがなければケーキ食べなさい』って感じね。NACのジジイ共が。」

 

「それは当時の王室への不信感で蔓延した流言っていう説が濃厚ですよ?」

 

「あら、そう。でも……NACのジジイ共やその手下どもがまさにそれ。あたしみたいなのがいても『魂』とか『誇り』とか『裏切り者』しか言わないの………あたしに言わせれば、あたしは革命を起こした農民であいつらは革命で処刑された貴族。」

 

E.U.の革命の歴史のようなたとえだ。

 

「つまり、あたしはイデオロギーより金を稼ぐ方が大事なの。」

 

「そ、それにしても……名誉ブリタニア人になるだけの学力があったのなら他には?」

 

「無理ね、はいこれ。」

 

右目を覆った髪を上げると、そこから出た顔にウェルナーはギョッとした。左半分の綺麗な顔とは真逆に、焼けただれた顔だった。

 

「戦争の爆撃でこうなっちゃったの……背中にも火傷がある。魂とか誇りで、これが治るわけないでしょう?あいつらは、それが分からないバカなの。そんなバカの一味になっても、あたしには何の得もない。こんなウェルダンに焼けた女を欲しがる男だっていないんだし。」

 

最後のは、知識としては知っている程度だが彼女は自分の女としての価値さえももはや諦めているのだ。

 

 

 

ライルはドア越しに雛の言葉が聞こえていた。

 

うすうす気づいていたが、彼女は自分自身が生きる目的がない。生きること、それ自体が目的になっている。本能、と言えばそうかもしれないが人としては破綻している。

 

「私にさえ、ジュリアの復讐やブリタニアの改革という目的がある…長野も家族の生活という目的が、なのに。」

 

レイや秀作ですら復讐でも目的があった。だが、雛はそれもないのだ。

 

 

 

「あの男は、悪魔かと思ったがそうではないのだろう。」

 

「は?」

 

退室したゲイリーは兵士たちに漏らした。

 

「改めて聞いて感じたことだ……イレヴン、いや日本人の畑方源流のブランド信仰が9歳の子供を人として歪ませたのだ。彼らは、自分達を滅ぼす悪魔を自分で育てたのだ。」

 

そう、両親のエゴと祖父のブランドへ縋ったイレヴンたちの勝手な期待が秀作を悪魔にしたのだ。他でもない、自分たち自身の手で。

 

私も行き過ぎれば、息子たちにああ思われていたということか。

 

 

 

「友達とか、そういうのはいなかったの?」

 

「友達?俺はそんなの知らないし、理解できないね。俺に奴の孫を要求するのが友達なのか?」

 

違う。ようやくわかった…この人は両親や祖父だけではない。それが存在している日本が、世界が憎いんだ。祖父の勇名に縋って独立を求める日本人も憎い。この人はその気になれば、世界だって大喜びで滅ぼすだろう。だが、それが余りに悲しく見えた。

 

「安い言葉をかけるつもりはないけど、復讐のためでも貴方はもう貴方になってるわよ?」

 

「………何?」

 

「おじい様が亡くなって、貴方を道具にしようとしたご両親ももういない。残っているのは、貴方のご両親の誇張を鵜呑みにするか、9歳の子供に全部押し付ける、貴方が貴方として存在することを認めようとしない人たち。」

 

セラフィナはそう思った。秀作は元凶の祖父と両親が死んだことで、本来ならばもう自由になっているはずなのだ。

 

「もう、貴方は自由になっているはずよ。自分で名誉ブリタニア人になった……復讐のために軍人になった。貴方の意志よ?」

 

復讐のため、というのは含むところがあるがそれでも秀作が自分で選んだ道だ。

 

「誰も認めようとしないなら、私が認めるから……貴方は、もうご両親の人形じゃない。日本独立のために戦う義務なんかないわ。」

 

気付けば、セラフィナは秀作の手に自分の手を重ねていた。

 

 

 

秀作はセラフィナの顔に見入った。世間で言えば、美人なのだろう。

 

それが自分に対して、なぜここまで?

 

「ねえ、貴方誰かと一緒に遊びに行ったこととかないの?」

 

「…学校の遠足すらダメだった。」

 

「じゃあ、次のオフに私の外出に付き合って。今までできなかったこと、映画とか外の食事とか買い物、私が教えてあげるから。」

 

まっすぐに見つめるセラフィナの瞳に秀作はなぜか、心を惹かれた。

 

「……………ああ、期待…しないでおく。」

 

 

 

「で、そういうあんたは?何かしたいことないの?」

 

「え?私、ですか?えぇと…普段、花の栽培とかしてるけど。」

 

「そういうのじゃなくて、せっかく皇族なんだから他所の貴族の領地への旅行とか!他にも、エリアにあるその国の文化遺産とか!」

 

ウェルナーは言葉に詰まり……

 

「えぇと、エリア11なら侍の時代の寺院とか城ですか?」

 

「そういうの!実際にパソコンの画像で見るのと、肉眼で見るじゃ違うの!」

 

「誰かから、聞くだけじゃあだめということですか?」

 

「そう!知識を得てもね、実際に体験するのと違うの。おたくの兄さんもナンバーズに恨まれてるってのを何度も実感してるんだから!」

 

ナンバーズに憎まれる。昔、ライルが言っていたことだ。漠然と分かっていても、そうした憎悪を向けられるのを実感したと言っていた。

 

「あんたにそれをやれとは言わないけど。本国だけでも外を歩きたいとか、走りたいとかわがまま言いなさい!家臣やお母さんの好意にいつまでも甘えない!」

 

甘えている……そういわれれば、そうなのかもしれないが。

 

「例えば……歩けるように体力をつけろ、とかですか?」

 

「それでいいの!ちゃんと自分で歩けるようになって、お忍びで出かけたいとか!したことないの?」

 

「あまり…」

 

雛が頭を掻きむしった。

 

「ああ、もうイライラする!分かったわよ!休暇の日に、こっちに来てあんたの歩行訓練に付き合ってあげる!!」

 

「え?」

 

「他の皇子様の点数稼いでおけば、ウチの皇子様に何かあった時の備えになるかもしれない!これでいい!?」

 

要は、皇族に恩を売っておこうというのだ。

 

「え、えぇと……そういうのって、あまり恩にはならない気が。」

 

「細かいことうだうだ言わない!ほら、分かったらお母さんとちゃんとよく話してくる!!男なら、ちょっとくらい冒険していいんだから!!」

 

ドアが開き、ライルが呆れた顔をした。

 

「雛、外まで聞こえているぞ。」

 

「ちょうど良いわ!あんたもあんたよ!五体満足で外を歩きたいってちょっとは思ってる弟を考えるなら、ちょっとくらいワガママ聞いてあげなさいよ!!」

 

ライルが少し後ずさった。

 

「随分とストレートに言うね。」

 

「こういうのはストレートじゃなきゃダメ!あんたにも責任があるんだから!!ウェルナー!あんた、馬に乗ってみたいって思ったことは!?」

 

「え?あ、ありました。」

 

「だったら、今からでも身体鍛えて練習する!健康の第一歩はそういうところ!!返事は!?」

 

「は、はい!」

 

いつの間にか呼び捨てにしてくるが、不思議とウェルナーはこの少女に呼び捨てにされるのは悪い気がしなかった。

 

 




今回は秀作と雛がメインです。

人の自慢できる姉と兄を持ったセラフィナ…通称セラにとって、同じように自慢できる祖父を憎んでいる秀作はとても対照的且つ印象に残り…僅かなやりとりで秀作は全てを憎んで『家族』や『友達』という概念自体を理解できないほど壊れていると感じました。

そして、秀作の邪推。ほぼ確実です。スザクを裏切り者と罵る奴らに見せてやりたいほど。



雛の方は身体が弱いために病弱な皇子ウェルナーと出会いました。華奢な美少年と顔半分が焼けただれた美人と奇妙な組み合わせ。

病弱故に周りが過保護になりがちなのを雛はいらついて、かなり強引な展開ですが尻をひっぱたきました。無意識に甘やかされたウェルナーに対して嫉妬またはそうした好意に甘える姿勢への苛立ちがありました。


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