『タレイランの翼』は『グリンダ騎士団』の活躍で壊滅、その後に勃発した下部組織『タレイラン・チルドレン』のハレースタジアム占拠も同じく『グリンダ騎士団』が鎮圧し、最後の残党組織は『ユーロ・ブリタニア』から帰還した枢木スザクも加わる形で鎮圧した。
ライルはスザクへの面会を取り付けた。
「久しぶりだね、枢木卿。」
ライルから手を出し、スザクも握り返す。
「こちらこそ、先の反乱事件では名誉騎士団がテロリストを壊滅させたと。」
「ああ…一応の名誉挽回にはなった。ただ、部下達は未だに君さえ認めない連中の言いがかりに苦労させられている。」
「言いがかり、ですか?」
ライルは大きなため息をついた。
「君がランスロットを乗りこなすということ自体認めない輩がいるんだ。挙げ句、『イレヴンごときが乗れるのだからランスロットは簡単だ』とね。」
「それは…申し訳ありません。自分のせいで、部下の方達に多大なご迷惑を。」
「謝る必要はない。悪いのは、人種で乗れると決めつける馬鹿共さ。」
「……その馬鹿共は、どうなさったんですか?」
「君が乗っていたランスロットのシミュレーターを使わせ、泣かせてやった。しばらくは大人しくしているだろう。」
今度はスザクが苦笑した。
「ユーフェミア様から少し聞きましたが、殿下の貴族嫌いは筋金入りですね。」
「ただの実力主義、現場主義だよ。」
スザクはこの人の考え方が少しわかった。
ある意味この人は皇帝の不平等を最も忠実に実践している。その上でユーフェミアと同じく、世界を変えようとしている。
才能のあるナンバーズ出身者を探して、親衛隊に取り立てる。これは不平等だ。更にアッシュフォード学園の同級生で現在も逃走中の『黒の騎士団』のエース、紅月カレンと同じハーフを騎士にしたという。
レイ・コウガ・スレイター、同じハーフでも容姿はカレンと対照的に日本人と言われても不自然ではない。それがブリタニア軍しかも貴族の娘だから、さぞ浮いていたことだろう。
「どうかしたか?」
「いえ……それで、何かお話があるとのことでしたが?」
「ああ…」
ライルの表情が険しくなる。どちらかと言えば、一つしか違わないのに落ち着いた印象なだけにこの表情は何か怖い。
「枢木卿、ユフィのあの暴挙…君はどう思う?」
スザクは一瞬だけ、思考が凍り付いた。かけがえのない女性…最悪の形で歴史に名を遺した主君。
「どう、とは?」
「…私はユフィが自発的にあんなことをしたとは思えない。兄妹故に自分の目を曇らせている、と言われもするがどうしても信じられない。百歩譲って、何かの策略があったとしても式典開始というタイミングでは意味がない。」
つまり、ライルはあの場での虐殺命令を下すメリットが思い当たらない。そう言いたいのだ。
「仮にゼロを処刑するための罠だったとしても、それは式典を終わらせて特区を表向き成功させてからだと?」
「ああ……もしくは軍の過激派がありもしないユフィの命令をでっちあげた。そうした連中を操ってユフィを失脚させようとする貴族の差し金。」
誰でも考えそうな方法…だが、謀略という意味ではそれが普通なのだ。そう、何より彼女は…あの時自分がしたことを何も覚えていなかった。
言えるわけがなかった。だから、特区が成功したと嘘をついた。せめてもの救いは、彼女が自分のしたことを知ることなく息を引き取ったことだろう。
だが、この人は……
「ですが、現実にユーフェミア様が直接命令をしたという証言があります。」
「だから、なおのこと信じられない。」
「……何が仰りたいのですか?」
「率直に言う。ゼロがユフィに暗示や催眠術でも使ったのではないか?そうとでも考えないと、あのタイミングでのあの暴挙には説明がつかない。」
改めて、スザクは顔が凍り付く感覚を覚えた。
「自分は、何も…ユーフェミア様の無実を信じてくださっているのであれば、幸いです。」
「…そうか。だが、クロヴィス兄様の時のバトレーに式根島で君が命令違反時の記憶の混乱を主張していたという。それとも、関係がないと?」
「……無関係でありましょう。」
「そうか……ありがとう。」
「失礼します。」
スザクは退室した。が…
ライルは、何か気付いている。いや、気付いていて探りを入れている。ユーフェミアの暴挙、自分の命令違反、クロヴィス暗殺時のバトレーの記憶の混乱。
ゼロが関わった人物たちの矛盾した行動と記憶の矛盾を。苦し紛れの言い訳にしては、不自然だと。
全て、打ち明けてしまいたい。あの人に!
彼ならば、信じてくれるだろう。奴があの時、ユーフェミアに何をしたか。そして、自分にかけたこの忌まわしい呪いを!
だが、それら全ては皇帝シャルルの命令で口止めされている。
今、ここで話せばすべてが!ユフィの理想も!
スザクはこぶしを握り締め、深呼吸をした。
彼は、何かを知っている。ライルは確信していた。
やはり、あの事件はユーフェミアの意志ではなかった。突飛ではあっても、先ほど自分で言ったような条件でもなければあの場であんなことをする理由がない。そして何より、あの状況で一番利益を得るのはゼロだ。最悪のロイヤルストレートフラッシュで斬り返しを図ったことになる。
あえて触れなかったが、スザクは『ユーロ・ブリタニア』に派遣された際にある軍師の護衛も兼ねていたという。その人物が皇帝の肝いりで皇族たちにさえその名前さえ公表されていない。
まさか…皇帝はあの虐殺事件の真相の一端を知っている。それならば、スザクのあの態度もうなずける。
あの男…一体、何を企んでいる?
そして、スザクが戻る少し前にその『ユーロ・ブリタニア』でも動きがあった。
なんと『ミカエル騎士団』のシン・ヒュウガ・シャイングが同じ『四大騎士団』の『聖ラファエル騎士団』、『聖ガブリエル騎士団』、『聖ウリエル騎士団』の三つを襲い、『ユーロ・ブリタニア』の大貴族会議の実権を掌握、『ハンニバルの亡霊』と呼ばれる部隊の基地を強襲して、そこの大気圏離脱兵器を用いてペンドラゴンを爆撃しようとしたのだ。
もはや反乱の次元ではない。もし、ペンドラゴンの皇帝が死ねばブリタニアは継承者争いの内戦に突入し、各エリアも蜂起、中華連邦とE.U.もそれに乗じることは目に見えている。
ただでさえ、ブリタニアの侵攻で着実にブリタニアに傾きつつあったパワーバランスが一気に重石を失い崩壊、世界大戦の始まりだ。『ユーロ・ブリタニア』を乗っ取って権力を握るのが目的なら、そこまでする必要はない。彼はそれ自体をもくろんでいたのか?そして、彼の義妹と義母であるシャイング家の心中、これもマンフレディの自決と似通っていた。
もし、ゼロとユフィの事件を当てはめるのならば…
シャイング卿がマンフレディ卿だけでなく、母君と妹君まで殺したのか?
証拠などないし、状況的には自決や心中だ。しかし、もしゼロと同じ条件を当てはめれば説明がついてしまうのだ。
そして、戦争の相手のE.U.では『方舟の船団』を名乗るテロ事件が勃発、後に『ユーロ・ブリタニア』の謀略と判明するが、市民の犠牲を考慮して進軍する大貴族軍とやり方が合わない。いずれにせよ、この混乱に乗じてジィーン・スマイラス将軍を中心とした主戦派が臨時政権を樹立するが、そのスマイラス将軍が戦死したことで四十人委員会が主権を回復したという。
だが…『方舟の船団』の事件で真っ先に逃げた政府や軍など、今更信用しまい。
とはいうものの、こちらもかなりの痛手を負ってしまった。『四大騎士団』が壊滅状態に陥ってしまった上にシンの反乱を方便に『ユーロ・ブリタニア』は戦争の主権を本国に奪われた。ただでさえ、各エリアの反乱に目を光らせなければならないこの状況下でE.U.を担当していた『ユーロ・ブリタニア』がロシア方面に下がってしまった。以後の戦争は本国が主導権を握るとはいえ、只でさえ苦しい本国の懐事情がより厳しくなるのが目に見えていた。
「ほう、ライルの奴めが。」
黄昏の神殿でシャルル・ジ・ブリタニアは背後で膝をつく二人の男と話していた。一人は隻眼に壮年の男、『ナイトオブワン』ビスマルク・ヴァルトシュタイン。もう一人はこの中では最も若く、二十代半ばにも見えるが、実年齢は三十代だ。
レイシェフ・ラウ・ヴァリエール……短期間ながら『ナイトオブスリー』の座に就き、現在は皇帝お抱えの非公式に当たる騎士団『セントガーデンズ』を率いる騎士でその実力はビスマルクに匹敵すると称される。いわば、シャルルのもう一振りの剣だ。
「はい、枢木をユーフェミア様の一件で問い詰めたようです。いかがいたしましょう?」
「捨て置くがよい……」
ビスマルクの問いをシャルルは大して気にも留めなかった。
「陛下、殿下を我らの同志に迎えるのはいかがでしょうか?」
レイシェフの具申にシャルルは唇を上にあげた。
「ほう?」
「同志と迎えるに足る経験をあの方は経ております……いずれにせよ、しばし様子を見ておくことが良いかと。」
「よかろう。」
「マリー、お疲れ様。」
「ありがとうございます、お兄様。」
マリーベル・メル・ブリタニアとライルは会っていた。より正確には……
「そして、ジヴォン卿。その若さで、すごいじゃないか。」
「いえ、若いと言っても、殿下と一つしか違いませんから!それに、私より一つ年下でランスロットを乗りこなしたという凄腕の名誉ブリタニア人がおられるではありませんか。」
「畑方秀作だね…先日の功績が認められて中尉に昇進した。隊長の長野も中佐に昇進だ。」
流石に雛や他の面々の昇進は認められなかったが、ここまでくればもはや時間の問題だろう。
「マリー、『グリンダ騎士団』で運用しているブラッドフォードとゼットランドの件は?」
「はい、シュナイゼル兄様も了承してくださいました。運用データが欲しいとのことでした。」
そうか。これに加えてサザーランドの狙撃型サザーランド・スナイパーも回してもらえるとのこと。これで、KMFの問題は何とか解決するだろう。
「ところで、お兄様はそちらの方を騎士にされ続けるのですか?」
マリーベルが後ろに控えるレイを見た。
「家柄で言えば、問題はないだろう?」
「ですが…」
「半分がイレヴン?なら、純血のイレヴンの枢木卿はどうなる。純血のイレヴンは良いのに、ハーフは駄目だ。という法律でもできたのか?」
マリーベルは正論を突きつけられて、押し黙った。
「貴族界隈で言えば、君とジヴォン卿がどう思われているか。君達二人の方が実感しているだろう?そんなものを君たちははねのけた。なら、彼女がはねのけることに何の不都合がある?」
そう言われ、オルドリンが表情を引き締め、マリーベルが顔を伏せる。
「マリー、テロ根絶という理念は立派だ。だが、ナンバーズ全てがテロリストじゃない。大体、我が国が彼らの国を占領しなければ、彼らだってテロに走らなかった。」
ライルの言葉にオルドリンは胸に小さな針が刺さったような気がした。
ブリタニアが祖国を奪わなければ……いったい、どういう?
三分割された世界をブリタニアが統治する。自分はその上でマリーの剣になる。と、誓った。が…
なんで、今のこの方の言葉がこんなに引っかかるの?
「お兄様のご忠告、心に留めます。」
「ああ……ところで、ジヴォン卿を貸してくれないか?少し、話したいんだ。」
「構いませんが……口説かれるのですか?」
「えぇ!?」
第八皇子殿下が、私を!?え、えぇと…確かに素敵だけど。
オルドリンとて、女。ライルは歳が近いし、どう見ても美男子だ。しかし…
「別に、そういうわけじゃないよ。」
その言葉に、オルドリンは少々傷ついた。自分は魅力がないのか?それとも、イレヴンのメイドかこちらのスレイター卿と?
イレヴンのメイド、飯田有紗といったが確かに清楚な東洋人少女という雰囲気で、自分でも目を奪われる美貌だ。こちらのレイ・コウガ・スレイターも目を引く美女だ。外見こそ東洋人だが、気品を感じさせるのは貴族の母親譲りだろう。そう考えを巡らせていると。
「レイ、すまないが君も外してくれ。」
「…私も、ですか?」
「すまない。あまり人に聞かれたくない話なんだ。」
「…はい。」
マリーベルとレイが退室し、ライルが紅茶を一口飲む。
「ジヴォン卿、先日のハレースタジアムの事件で聞きたいことがある。」
「…なんでしょうか?」
「首謀者のアレクセイ・アーザル・アルハヌス卿は自決したというが、何か不自然な点はなかったか?」
不自然な点……そう言えば。
「その、私からの交渉に応じて投降を受け入れたのです。連行の際に私に銃と剣を手渡す際に、突然自らの頭を銃で。まるで……」
その時の彼は、確かに様子がおかしかった。まるで、誰かが無理やり彼の身体だけを操って自決させたかのような。
が、そんなこと言えない。マリーベルにすら言っていないのだ。言ったところで信じてもらえないだろう。その先を飲み込もうとしたが
「……まるで、マリオネットのように操られた?」
「どうして!?」
「図星、か……ありがとう。それが確認したかったんだ。」
それが…どういうことだ?
「ジヴォン卿、今の件はマリーにも黙っておいてほしい。」
「マリーにも、ですか?」
思わず主君を愛称で呼んでしまうが、ライルはそれを咎める様子はない。
「ああ、頼む。」
「…イエス・ユア・ハイネス。」
流石に違うと思っていたが、まさかアルハヌス卿まで。『日本解放戦線』の草壁中佐も自決したという……
「一体、何があるんだ?」
あまりにも唐突なそれも高い位に立つ者達の奇行。少なくともゼロが現れてから、ずっと頻発している。念のため、その時のハレースタジアムのカメラも確認してみよう。
この時、ライルは気付いていなかった。既に自分がパンドラの箱に手を伸ばしていたことに。
『タレイラン』が先か、『方舟の船団』が先かは正直具体的な時間の順序が分かりません。
ただ、それぞれの形でスザクとオルドリンに気になる件をライルは問い詰めています。
設定に書き忘れましたが、勘が鋭いので一連の事件に疑念を抱いています。ただし、パンドラの箱を見つけてしまったようなものですが。