コードギアス 戦場のライル   作:meitoken

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スロニムです。


WARFARE-34『ユーロ・ブリタニア』

「全軍に戦闘準備命令が下されたか。」

 

「『アポロンの馬車』、発射の一時間後に突撃開始です。」

 

『アポロンの馬車』…『w‐ZERO部隊』が運用している大気圏離脱用超長距離輸送機のコードネームだ。KMF搭載のカプセルを一度ロケットで打ち上げて宇宙へ上がり、その後目標地点へ降下する戦術兵器だ。

 

片道切符であり、地上へ降下するのはパイロットの操縦技術が必要など問題点は多いが運用方法次第では拠点攻撃にも有効な兵器だ。だが、保守に凝り固まったユーロピア軍ではそれを積極的に運用することはしなかった。むしろ、イレヴンがそれで死んでくれる方がありがたいという風潮であり、ナルヴァで一定の成果を挙げてもそれは変わらなかった。

 

「ま、我々は参謀本部の命令を遂行するだけだ。」

 

「必要以上のことはしないようにな。」

 

「作戦が失敗した時の責任を取らされては損だからね。」

 

司令官たちもこれが国内向けであることは理解していた。イレヴンを捨て石にして、少しでも領土を奪還できれば意義はあっても、彼らはそうした発想さえしなかった。

 

手を抜いて、失敗した責任は全て『w‐ZERO』に押し付けてしまおう。

 

 

 

「なんて考えてるんでしょうね、あのオヤジ共。」

 

クラリスは司令官たちを罵った。先日、ルクセンブルクで合流した池田誠二少佐と彼の麾下の日本軍人達もばかにしており、最前線に投入した。ブリタニアとの戦闘経験が豊富な彼らを最前線に投入することは間違いではないが、こちらの場合は全て他人任せなのだ。

 

そのくせ、手柄だけは欲しがる。

 

「はあ……どこかでボロが出るって発想がないの?」

 

〈ないから、あんな手を考えるんだろう?〉

 

フィリップが冷酷な現実を突きつける。だが、その言葉にはブリタニアに負けたらそれどころではなくなるということが分かっていない現実感覚の乏しさを指摘していた。

 

未確認だが、インドから留学していた技術者を確保するために『ユーロ・ブリタニア』がドイツに越境したという情報もある。つまり、ポーランドを飛び越えてドイツに工作部隊を送るだけの力と地盤を『ユーロ・ブリタニア』は整えつつあるのだ。

 

なのに、あいつらにとって大事なのは保身と出世、今夜のワインだ。

 

こんな軍隊にいて、私何をしてるんだろう?

 

やっていることといえば、父と母のパーティーでの自慢話の手伝い。実戦に出たことはあるし、敵のKMFと交戦したことはあるが回数は少ない。なのに、父は既に『歴戦の勇士』なんて持ち上げる。本物の『歴戦の勇士』というのは、それこそ「四大騎士団」の総帥や『ナイトオブラウンズ』のことを言うのに。

 

それに、まだ18だが『洗脳皇子』、『ブリタニアの狂戦士』、『青の戦神』などの異名が着く第八皇子も第二皇女コーネリアに引けを取らない勢いだという。他にも『双剣皇女』と呼ばれる皇女姉妹、『侍皇子』と呼ばれる日本剣術を愛好する皇子など、コーネリアとシュナイゼルに負けず劣らずの勢いだ。

 

この連中が本腰を入れてきたら、現在のユーロピアなど砂の城も同然だ。

 

 

 

作戦が開始され、『w‐ZERO部隊』が予定通りにブリタニア側に奇襲攻撃をかけた。大貴族軍のKMF、『ミカエル騎士団』を翻弄してその混乱をついて第103軍団が進撃。

 

大貴族軍のアーネスト・N・シェーリンは敵のKMFと交戦していた。確かエリア11で『黒の騎士団』が運用していた月下という機体。なんという機動力だ。あの刀も、実用化されたMVSに引けを取らない。

 

グロースターの剣で刀を受け止め、その隙をついて月下が左腕でつかみかかるが間合いを取る。

 

「この指揮官機を抑える!各個撃破を行え!」

 

 

 

「流石はブリタニアの精鋭!この指揮官機は私が抑える!左翼、進撃せよ!」

 

〈承知!〉

 

ホッカイドウからともに亡命してきた部下達が無頼やパンツァー・フンメルで砲撃を仕掛けて突入する。だが、流石に性能では相手が勝り敵は一機ずつ撃破していく。

 

池田は指揮官機のグロースターを撃破しようとするが、相手はすぐに戦闘を切り上げて後退した。

 

「後退するか…!」

 

指揮官機を孤立させる狙いもあったが、ダメだった。それどころか左腕の輻射波動を使うことさえ許さなかった。

 

「全軍、進撃を続行せよ!」

 

だが、あまり進み過ぎれば却って敵陣に深く入り込んでしまう。そこだけは注意してほしいものだ。

 

 

 

「アーネスト様、ご無事ですか!?」

 

〈ああ。〉

 

主君の無事を聞き、羽田美恵は胸をなでおろした。まさか『黒の騎士団』の機体が出てくるとは。『ハンニバルの亡霊』に続いて、日本の反ブリタニア勢力まで。

 

「向こうもなりふり構わなくなってきたのでしょうか?」

 

〈それは分からぬが、シャイング卿からの指示だ。交代して、『四大騎士団』と合流する。〉

 

「イエス・マイ・ロード。」

 

 

 

軍の進撃は順調だ。が、クラリスの部隊は『w‐ZERO部隊』との合流及びワルシャワ駐屯地への護衛に切り替えられた。

 

「ご苦労様です、レイラ・マルカル中佐。ストラスブール基地KMF部隊第二中隊のクラリス・ドゥ・ピエルス少佐です。」

 

「こちらこそ、『w‐ZERO部隊』司令官レイラ・マルカル中佐です。」

 

「『ワイヴァン特別攻撃隊』日向アキト中尉です。」

 

クラリスは先日、統合本部ですれ違った二人と再会していた。やはり、この二人が例の部隊の人間だったようだ。

 

「中佐とは、一か月ほど前に統合本部ですれ違ったのです。覚えておいででしょうか?」

 

 

 

レイラ・マルカルは目の前の少佐の美貌に圧倒されながら、記憶をたどった。

 

統合本部で一か月前……

 

そういえば、思わず振り返ってしまうような美女とすれ違った記憶がある。それがこの人?

 

「ピエルスというと、もしやピエルス将軍の?」

 

「ええ、娘です。」

 

「…お父上の噂はかねがね。悪い意味で、ですが。」

 

「日向中尉、それは。」

 

が、クラリスはそれを意に介さない。

 

「いえ、中尉の言葉は間違っていません。今回、私の任務は後方支援。とは名ばかりの自慢話の話題作りですから。」

 

「…苦労されているようですね。」

 

「言わないで頂戴…はあ、貴方みたいないい男が側にいるだけ中佐は潤いがあるわね。」

 

「んな!」

 

レイラが顔を真っ赤にした。どうやら、彼女はそちらはまだ経験不足のようだ。かくいうクラリス自身もまともな恋愛経験などない。言い寄ってくるのは、いつも家柄だけのボンボンばかり。自分では何もしていない、親の権威を自慢する手合いばかりだ。

 

『ノブレス・オブリージュ』…ブリタニア語で『ノーブル・オブリゲーション』。俗にいう『高貴な生まれの責任』をピエルス公爵家は守り、それ故に革命に賛同したというが…

 

革命に参加したご先祖様があのクソ親父を見たら……墓の下で泣いてるのかしら。

 

 

 

一方、最前線では……これを機に一気に挽回しようとした司令部が第103軍団に進撃を続けさせた。その結果……

 

「ブリタニア軍のKMF隊を確認!数、およそ200!いえ、それ以上!!」

 

「ば、馬鹿な!やつら、領土を放棄したのではなかったのか!?」

 

「イ、 イレヴン共を前に!」

 

「しかし、戦線が伸びきって戦力が低下しております!もはや」

 

最前線の陸上艦が撃破された。『ユーロ・ブリタニア』の列車砲だ。

 

 

 

〈ファルネーゼ卿、予定通りです。〉

 

シンの通信を受け、アンドレア・ファルネーゼはうなずいた。最小限の犠牲で敵をおびき出し、反撃に転じる。基本的な戦略を大規模にするシンの作戦は理にかなっている。

 

だが、そのために子飼いのアシュレイ・アシュラが部下を一人喪ったという。合理性を重視しすぎるし、将兵の命を軽んじるような態度がファルネーゼには許しがたかった。ナルヴァの愚かな司令官と同列に映る。

 

「作戦通り、『四大騎士団』による反撃に映る。ナルヴァの雪辱を晴らせ!」

 

〈イエス・マイ・ロード!〉

 

 

 

ルビー・メイフィールドは『ミカエル騎士団』にいる妹に通信をつないだ。

 

「こんな形で、貴女と一緒の戦場に立つとはね。」

 

〈人を殺した、なんて自慢話はみんなにしたくないわよ?〉

 

ルビーはそれに頷いた。そう、メイフィールド家の家訓は結局のところ自己満足…父や祖父もそれを自覚している。だが、貴族の家訓など偽善や自己満足だ。だからこそ、張り通す。

 

「難儀なものね……大公閣下の偉大さが分からぬ愚民どもで片づけられれば、楽なのに。」

 

〈メイフィールド卿、私語はそのあたりに。〉

 

「…は!」

 

ファルネーゼの言葉にルビーは背筋を只した。

 

 

 

戦線や補給線、現有戦力の無理も考慮できないとは、なんと愚かな。

 

シン・ヒュウガ・シャイングはユーロピア軍の司令官を内心で罵った。軍団規模といえど、無理に戦線を伸ばせばその分維持する戦力が減り、補給も連絡も滞る。大方、大規模な領土奪還という功績に目がくらんだのだろう。

 

「スロニムやバラナヴィーチまでならば、まだこんな醜態をさらすこともなかっただろうに。」

 

イレヴンに対する同族意識などはないが、愚か者共には相応の罰を与えてやらねばなるまい。

 

〈ヒュウガ様、そろそろ。〉

 

ジャン・ロウの報告を受け、シンもマンフレディの搭乗機になるはずだったヴェルキンゲトリクスを走らせる。既に何度か動かしたが、流石は『ナイトオブラウンズ』だったマンフレディが乗るはずだった機体。パンツァー・フンメルなどできの悪いマネキンも同然だ。

 

最大の特徴の四足形態でランドスピナーを使わずに走らせるこのスペックの前にパンツァー・フンメルはまるで豆鉄砲を撃つかのようにこちらを狙うが、100キロ以上の速度で走れるこの機体を捉えられるわけがない。

 

ショットガンでパンツァー・フンメルを一機、腕のハーケンでまた一機撃破して突出した中型陸上艦に取り付き、艦橋をSDAアックスで破壊する。艦が内部から爆発し、いくらかの焼死体か肉片が飛び散った。一瞬だけ、望んでいる光景が広がり唇をゆがめるがすぐに意識を戻す。

 

鹵獲されたグロースターがランスで突進してきた。ショットガンを一発、二発とかわして距離を詰めてきた。

 

「ほう、いい腕だ。」

 

ランスの一突きを躱してSDAアックスの歯車を回転させる。高速回転した歯車それ自体が巨大な刃物になってグロースターを両断するかと思われたが、ランスを手放して距離を取って剣を抜く。斧で斬りかかるが、グロースターはパワーで劣る分躱し続け、大ぶりになった瞬間をついて懐に飛び込んだ。ギリギリで飛びのくが、この機体でなければ、或いはもう少し遅れていれば間違いなくシンは機体ごと真っ二つだった。

 

「惜しいな!ブリタニアならば『ラウンズ』も夢ではなかっただろうに!」

 

 

 

指揮官機の機動力を前にゼラートは舌打ちした。

 

「ちっ、取ったと思ったのだがな。」

 

ケンタウロスになるあの金色のKMF、確かヴェルキンゲトリクス…前はサグラモールという名前だったか。とんでもないスピードとパワーだ。第七世代かその先に相当するのは間違いない。グロースターではまともにやって、勝ち目はない。

 

だが、機体だけでなくパイロットも凄腕だ。新しい『ミカエル騎士団』総帥は若いイレヴンだと聞く。正規軍の連中は、イレヴンだから弱いなどと言っていたがまるで違う。『四大騎士団』の総帥に選ばれるだけあって、他の騎士達とは別格。

 

「全く、優秀な敵は多いのにそれ以上に無能な味方が多いと来たものだ!!」

 

『四大騎士団』のKMF隊はこちらのKMFや装甲車を見事な連携で次々と撃破していく。ウェンディのサザーランドを中心としたこちらのKMF隊も踏みとどまっているが、それもいつまでもつか。

 

 

 

「ヒュウガ様!」

 

ジャン・ロウは搭乗機グラックスで主君の救援に向かうが、KMFが一機立ちはだかった。エリア11のテロリストが運用している無頼、その改修機だ。

 

グラスゴーのコピー機で、私を阻むか!

 

グラックスの剣で斬りかかるが、相手も刀で受け止める。二機はつばぜり合い、ハーケンで撃ってくるがこちらもハーケンで相殺、その隙をついてまた斬りかかる。

 

「ぐ…ユーロピアの市民兵ごときが!」

 

シンに拾われて以来、ジャンは己を磨いた。こちらの出自を理由に貶めてくる貴族共を磨いてきたその腕で何度となく、黙らせてきた。

 

奥の手であるグラックスの両腕の展開機能を使った。剣という武器に加え、この両腕の展開機能で通常の倍以上の間合いでの格闘戦ができる。だが、無頼はその腕の一撃一撃を受け止めて踏みとどまっている。

 

 

 

浅海は意表を突かれながらも、新型機の攻撃をしのぐ。

 

「なんて機体なのよ!」

 

サザーランドをベースにした次世代機、油断していなかったわけではなかったがこんな変則的な接近戦を行うなど。紅蓮弐式の右腕も同じような機能を持っていたが、剣がある分更に間合いが遠い。これでは近づくことができない。

 

だが、浅海も踏みとどまっている。間合いで勝っているのなら!

 

左腕の剣がこちらに突き出された瞬間、回転刃刀で受け流し、左手のナックルガードで胸部を殴りつけた。流石に撃破とまではいかなかったが、相手の体勢を崩すことには成功した。しかし…銀と赤のサザーランドがライフルで援護に回った。

 

〈美奈川、撤退だ!〉

 

「撤退!?三十分もたってませんよ!?」

 

無茶な戦線拡大をして、敵の大反撃を受けて責任を外人部隊のせいにするなどと喚いた挙げ句に真っ先に死んだバカ指揮官の尻拭いをやらせて、自分達だけ安全圏に逃げたらようやくか!しかも、三十分足らずで前線が瓦解するなど!『ブラック・リベリオン』だって、完全敗北は午前0時から夜明け近くまでかかったというのに!!

 

 

 

デルク・ドリーセンは鹵獲したサザーランドのランスで『ガブリエル騎士団』のグロースターをなぎ倒し、ライフルで大貴族軍の機体を牽制しながら、浅海の機体のフォローに回る。

 

彼に続く形でパンツァー・フンメルが何機かこちらに回り、一斉射撃で近くの敵を牽制し、『ウリエル騎士団』のサザーランドが一機被弾した。

 

〈一体どうなってるんですか、ユーロピアは!?〉

 

「文句は後でいくらでも聞いてやるから、お前も後退しろ!」

 

〈っ、了解!〉

 

浅海も舌打ちをするのが聞こえ、デルク達も射撃をしながら徐々に後退する。

 

 

 

結局、今回の作戦は『w‐ZERO部隊』の任務それ自体は成功したが、肝心の進軍計画は第103軍団の無茶な戦線拡大で『四大騎士団』の反撃を受け、大惨敗を喫した。正規軍も多くの戦死者を出し、イレヴンを始めとした志願者や外人部隊が『ユーロ・ブリタニア』を食い止めたものの、KMFを初め多数の機動兵器を失う羽目になった。

 

「『w‐ZERO』がもっと敵の数を減らさなかったから、こうなったのだ!」

 

「そうだ、あの無能な女のせいだ!!」

 

前線指揮官達はレイラ・マルカルのせいだと喚きたてたが、そもそも『w‐ZERO部隊』の任務は第103軍団の進撃を援護した後に合流するというもの。

 

実際、彼らの合流地点であるスロニムまではそれなりの陽動ができたのだ。その時点ですでに『w‐ZERO部隊』はKMFも大破しており、お門違いも甚だしかった。手柄は自分達のもので、責任はイレヴンのものになる。それが彼らの常識だった。

 

「イレヴンが手を抜いたから、こうなったんだ!」

 

「そうよ、あの無能な負け犬がさぼったから私達は死にかけたのよ!!」

 

ほとんど何もせず、ただ領土奪還という甘い果実だけかじろうとした正規軍は反撃で死にかけた責任を外人部隊とイレヴンの志願者に擦り付けようとした。

 

それらに対し、イタリアのバルディーニが『第103軍団と合流した友軍の戦線維持限度を優に超えた進軍をした挙句に『w‐ZERO』が奪還したスロニムまで奪い返された。これは第103軍団とワルシャワ駐屯軍司令部の判断ミス』と主張、同じくオランダの一部正規軍将軍とドイツの外人部隊に影響力を持つ正規軍将校が同調、それらを受けた統合本部の判断で『w‐ZERO』の責任は咎められることなく、最前線で敵の迎撃に貢献した外人部隊も咎められなかった。

 

結局、責任は真っ先に死んだ前線将校に全て向かう形で処理され、同時に政府は『ユーロ・ブリタニア』に小さくない打撃を与えた旨を既に市民に発表する準備を進めている。

 

 

 

「三十分、もたなかったってさ。」

 

「いぃー、前線こえー。」

 

「最前線、ぜってーむり。」

 

つい先刻、多くの将兵が死んだというのにワルシャワに駐屯する兵士たちはまるで緊張感がなく、酒か女を楽しんでいた。

 

「やっぱ後方だよな、後方が良いよ。」

 

「事務方に転属願いを出そうかな?」

 

「俺、休暇願出しとこうかな。」

 

「いいな。」

 

「羨ましい。」

 

聞いていて、クラリスは腸が煮えくり返っていた。前線が嫌だから、後方勤務を希望する。だが、後方は後方で各部隊の補給物資や補充要員の確認などの能力が要求される。あんな奴らが後方に来た暁には、補給どころか情報だってまともに行き届かない。

 

どうせ、今度は……

 

『やっぱ前線にしようぜ。』

 

『ああ、やってらんねえよ。』

 

『めんどくさー、パイロットの方がずっと楽だわ。』

 

なんて言っている奴らをうんざりするほど見てきた。同期にさえそういうのがあふれている。そしてまた、後方勤務を希望するのだ。

 

お偉方のドラ息子やバカ娘のワガママもおそらく上の連中は「しょうがないな。」程度にしか認識していないのだ。

 

「いい加減にしろ。」、「わがままも過ぎるぞ」なんて言えるのがいたらクラリスはそれだけでも尊敬する。何せ、馬鹿オヤジでさえ親心ではなく『ただブランドのために娘が必要なだけで、入隊してKMFに乗せてるだけありがたく思え』なのだ。

 

長い間、大きな戦争もなかったから戦争でさえも乗馬やテーブルマナーの次元にまで落ちたツケだが、ここまで酷いとは。

 

クラリスはサンドイッチとボトルの紅茶を買って、一つの部屋に入る。

 

そこには、イレヴンの少年と少女が一人ずついた。あの後、スロニムで会ったパイロットのうち二人だ。

 

「あんた…」

 

「お友達が死んだのは、僕たちのせいだって文句つけに来たの?」

 

予想通りの反応だ。

 

「生憎、ウチの部隊は貴方達と合流したらお役御免。馬鹿オヤジが余計な茶々入れないようにするのが手一杯だったわ。」

 

五人分のサンドイッチと紅茶を置いた。

 

「そのパパにお願いしなくても、それだけの美人と身体なんだから…偉いおじさんにサービスしたら出世できるんじゃないの?」

 

少年の皮肉に、クラリスは自分の紅茶のボトルをあける。

 

「残念でした。ここに来るまでに、ハイエナどもに嫌って程迫られてそんなことする元気ないわ。貴方達こそ、司令官もその子も……貴方達が守らないと何されるかわからないわよ?」

 

「ご忠告どうも。」

 

「用が済んだなら、サッサと出て行ってくれない?今、腹が立ってるんだから。」

 

「そうするわ……早めに戻れるといいわね。」

 

 

 

デルクの外人部隊はワルシャワに呼び戻された。オランダ軍上層部の一部が考慮してくれたようだが…

 

「なんだ、正規軍のお兄さんにサービスしてんのか?」

 

「だったら、俺達にサービスしてくれよ。」

 

「代金は弾むぜ?」

 

制服を着崩し、明らかに酔っぱらった正規軍の兵士が浅海に絡んできた。

 

「オランダ州軍外人部隊のデルク・ドリーセン少佐だ……私の部下に何か用か?」

 

「なんだよ、オランダなんて田舎からはるばるポーランドなんて田舎に来たのか?」

 

「物好きな少佐殿ですな。」

 

浅海が怒って、飛び出そうとするが

 

「よせ、どんな言いがかりをつけられるかわからん。」

 

「ですが…!」

 

デルクは浅海を制し、深呼吸をする。

 

「君達こそ、酒が入っているようだから今日は目を瞑ってあげるが、規律に厳しい上官に会えば懲罰部隊で上層に顔が効く親達の事も怒らせるだろう。そこは、注意するように。」

 

言いたいことだけ言って、浅海を連れて行くが……

 

「なんなんですか、あいつら!本当に軍人!?」

 

「ああじゃない方が珍しいんだよ。」

 

外人部隊の中には上層部の不興を買って、送られてきたその国の出身者もいる。軍隊としての筋を通そうとして、或いは腐敗した上官の失敗の責任を押し付けられた者も多い。

 

 

 

帰還用の輸送機の使用許可は一週間後と内定が取れたので、ゼラートは退室した。

 

「お疲れ様です、中佐。」

 

ウェンディが出迎え、ゼラートは「ああ。」と答える。

 

「一週間後には帰還用の輸送機を使わせてくれる。」

 

こういう時、長年外人部隊でキャリアを重ねてきた経歴が役に立つというのも皮肉だ。

 

「よう、俺たちのところに来いよ。」

 

「飯、おごるぜ?」

 

目の前で小柄なロシア人の少女が正規軍の将兵に絡まれていた。以前保護したイロナ・メルク―シンだ。過去のトラウマを刺激され、完全におびえており、今にも泣きそうだ。

 

「おい、いい加減にしろ。つうか、んなガキに言い寄るくらいならもっと色気のある姉ちゃんにしろよ?」

 

ゼラートが出るよりも先に、長身の少年が現れた。外見でイレヴンなのはわかる。

 

「あんだよ、イレヴンが俺達に指図しようってのか?」

 

まずいな、このままでは何を言われるか。

 

「どうした、もめ事か?」

 

「中佐!」

 

イロナがゼラートの顔を見るや否や仔犬のように走ってきた。そして…

 

「部下が何かしたのか?そちらのイレヴンの将兵は部下を助けようとしたように見受けられるが?」

 

「ああん?だれだ、てめえ?」

 

「ドイツ外人部隊のゼラート・G・ヴァントレーン中佐だ。」

 

「ちゅ、中佐!?」

 

制服を着崩しているが、見える限りの階級章では少佐かそれより下はいないようだ。おそらく、准尉よりも下だろう。外人部隊ごとき、と出ないあたり階級差が大きすぎるのは理解しているようだ。

 

「あ、それは…」

 

「戦争で疲れた子をからかって、リラックスさせてあげたのでしょう?貴方も、早合点してしまったようだし。」

 

ウェンディがイレヴンの少年に声をかけ、少年がこちらの意図を察したようだ。

 

「あ、ああ…ちょっと気が立ってたみたいですわ。」

 

「なら、これでおしまい。報告書に書くつもりはないからこれで解散、良いでしょう?」

 

「は、はい。」

 

正規軍が退散したのを見届け……

 

「全く、あいつらときたら……ありがとう、部下が助かったわ。」

 

「いや、しかしあんたら大したもんだな。正規軍を黙らせちまうとは。」

 

「場数はそれなりだ。それよりあそこで手を出していたらお前が危なかったぞ。」

 

だが、ゼラートはこの少年が場数を踏んでいるのは雰囲気で察した。軍隊ではなく、アンダーグラウンド上がりなのだろう。

 

「ま、そうかもしれねえし……お前も危なかったな。」

 

「ひ!!」

 

イロナが突然、ゼラートの背中に隠れてしまった。まるで実年齢より幼い子供のように。

 

「あ……俺、なんか嫌われることした?」

 

「いや…お前の雰囲気がさっきの連中に似ているからだろう。」

 

「あ…あれと一緒にすんじゃねえ!つうか、いくら胸でかいからってんなガキに手を出すほど飢えちゃいねえ!」

 

「この子、これでも16歳よ?」

 

「え?」

 

間の抜けた声を上げ、少年は茫然とした。

 

「まあ、いい。部下を助けてくれた礼に、何か奢るぞ。」

 

「あ、ああ…んじゃあなんか肉でもくれ。俺を入れて五人分。持って帰るからよ。」

 

その後、ゼラートはこの少年が『w-ZERO』に所属するパイロットだと知るのは帰還中のことだった。

 

 

 

サンクトペテルブルク……カエサル大宮殿のある客室にて

 

「スザク…水を、水をくれ…!」

 

左目に眼帯をつけた黒衣の男が衰弱し、『ナイトオブセブン』枢木スザクに水を求めていた。すぐそこにあるが、まるで見えないかのように。

 

皇帝の命を受けユーロピア戦線への参加をすることになったスザクだが……

 

なんで、俺はこいつを!こいつは俺をだまし!ユフィを!!

 

ジュリアス・キングスレイ、今回の作戦指揮を任されると共に皇帝の全権移譲を象徴するインペリアル・セプターの所持を許された軍師にして、皇帝の忠臣中の忠臣。

 

しかし……こいつの正体をスザクは知っている。最低にして、最悪の形で自分を…アッシュフォード学園の生徒会にいる友人全てを裏切り……かけがえのない女性でもあった、主君に最低の汚名を被せて自身は英雄を気取った悪魔。

 

皇帝の命令でなければ、今すぐにでもこの場でバラバラに切り刻んでやりたい!蜂の巣にしてやりたい!KMFで踏みつぶして醜い肉塊に変えてやりたい!

 

それほどまでに憎いこの男を護衛しているジレンマにスザクは憎悪の炎をより燃やしていた。彼女を奪ったこの男と、この男を産み落とした世界への憎悪を。

 

 

 

 




惨敗した第103軍団を私なりにやりました。

良識と理解のある一部将校のおかげでアキト達は責任転嫁を逃れ、責任は馬鹿をやって死んだ指揮官のせいになりました。

そして、ぼやいていた馬鹿共。絶対に事務方に転属願い受理されても、出来ないから前線勤務を希望するのが目に見えてる。

自由惑星同盟より酷い。

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