コードギアス 戦場のライル   作:meitoken

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いよいよ、あの醜態です。ロストではアレ、かなり変わったと聞いてますがこっちは映画重視。


WARFARE-35『方舟の船団』

西部戦線から一度サンクトペテルブルクの邸宅へ戻ったアーネストはベッドに座った状態で報告書を読んでいた。本国から派遣された軍師が『ハンニバルの亡霊』とユーロピアを攻略するための準備を進めているとのこと、近い内にまた遠征が始まるかもしれないとのことだ。

 

『ハンニバルの亡霊』は確かに脅威だ。正確な規模は不明ながら、何らかの方法で敵陣に降下して奇襲攻撃をする遊撃部隊。ナルヴァで『ラファエル騎士団』を壊滅させ、二か月前のスロニムでも大貴族軍を圧倒して『ミカエル騎士団』のエース部隊『アシュラ隊』が惨敗したという。

 

だが、逆に理解に苦しむ。それほどの力量と性能を両立する部隊を中心に軍を編成して、KMF中心の特殊攻撃部隊を新設すれば戦意高揚につながり、新型KMFの実働データも得られるというのにそれをやろうともしないとは。

 

ここまで愚鈍では、その新型もパイロットも作戦を立案する指揮官もユーロピアには宝の持ち腐れだ。

 

「カエサル大宮殿はなんと?」

 

シャワールームから羽田美恵が豊満な肢体にタオルを巻いた状態で入ってきた。

 

「近々、本国の軍師が大規模な作戦を行う。我々も再度出撃があるだろう。」

 

「そうですか…それじゃあ。」

 

美恵はアーネストの膝の上にまたがった。モスクワ失陥後に貢物となって自暴自棄になった彼女と肉体関係を結んで以来、押し切られながらも関係を持った以上は責任を取るべく保護者を買って出たアーネストは軍人以外にも勉学にも計らい、将来的には除隊させて本国或いはサンクトペテルブルク、モスクワなどの大学に通わせることも考えていた。

 

だが、イレヴンでしかもアンダーグラウンドで生きてきた彼女が身体で取り入ったと揶揄する声もある。きっかけはその通りだが、入団した後の彼女はすさまじい執念だった。

 

まるで乾いた土が雨水を吸収するかの如く、驚異的な速度で実力をつけて今やアーネストの部下だ。次期当主が内定しているアーネストが保護者になっている事実を考慮し、既に『ユーロ・ブリタニア』の戸籍を持ち、階級も少尉になっている。身体で取り入ったのを差し引いてもその成長速度と実績は血統意識の強い大貴族軍の騎士達も文句を言えないほどだ。

 

その原点が何か聞いてみたが、リフレインの代金代わりに自分を捨てた両親を嘲笑ってやるためだと言った。

 

『モスクワのゲットーでまだ生きていたら、言ってやるんです。「あの時、私を捨ててくれてどうもありがとう」って。』

 

もし、死んでいたらその粗雑な墓石を壊してやると。つまり、両親への復讐だ。原因を作ったブリタニアと革命政府よりも彼女の憎悪は幸せな過去の幻のために娘を捨てた両親に向いていた。そして、『ハンニバルの亡霊』が現れる二月ほど前に彼女は両親を殺した。

 

嘲笑うだけ嘲笑って、捨ててやろうと思ったが、両親は娘にすがってきた。返り血を浴びたその姿に驚いた時に美恵は笑っていた。

 

『あいつら、私にすがってきたんですよ?「また三人で一緒に暮らそう」、「だからアーネスト様にとりなして」って。「捨ててごめんなさい」、「許してください」って頭を下げるのもなしですよ?』

 

その時、美恵は両親を『汚らわしいイレヴン』として大勢のイレヴンやユーロピア軍の看守たちの前で両親をバラバラに切り刻んで、看守たちに金を渡してその死体を下水に捨てさせた。

 

『私の本当の両親は、ブリタニアが日本を占領した時か革命政府が日本人を収容するって決めた時に死んだんです。あいつらは姿形だけの汚いイレヴンです。』

 

その夜、美恵はアーネストに甘えてきた。汚らわしいイレヴンの返り血を浴びた自分を抱いて、あいつらに捕まれた感触を忘れさせてと。

 

少なくとも、その時までは両親を信じていたのだろう。捨てたことへの謝罪の一つもあれば、結末は違った。復讐の形が永遠に服従させるか…捨て置くになっていただろう。

 

だが、両親は逃げ出した娘がブリタニア貴族の寵愛を受け、しかも大貴族軍の士官になって成功を収めていた。それに目が眩んだのだろう。なんと言ったか?日本ではそういう表現を……

 

そう、確か蜘蛛の糸だ。両親は美恵のことをお釈迦様…東洋の神が己の罪を悔いた賊を地獄から救ってくれる細い糸だと思ったのだ。だが、その糸に縋った賊は自分だけが救われようと他の者達を落とそうとした結果、再び地獄に堕とされたという。

 

言い得て妙な結末だと、不謹慎ながら思ってしまった。結果として娘は最も簡単で、陰惨な形で復讐を成し遂げたが、その後もブリタニアにいた。

 

『どうせ、行くところなんかないんですから。ついでに私をゲットーに押し込めた革命政府に少し仕返しもします。だから…今後もお仕えしますわ。』

 

その夜、美恵は何度も求めてきて明け方寸前まで激しく抱かれた。初めて抱いた時から豊満だった身体は更に育ち、胸などは今やアーネストの顔を埋めるほどだ。元々危なげな雰囲気の美貌だったのが、男を知ってからはより磨きがかかって大貴族の子息の中には本気で美恵に心を奪われる者もいた。さながら、大貴族でも中々相手をしてもらえない最高級娼婦のような色香を16歳で身に着けている。

 

アーネスト自身も、今まで家柄を持って迫る女達とは違う魅力を美恵に感じたのも本音だ。十歳年下の娘に、というのもおかしな話だがまるで食虫植物や毒花のような気がした。

 

この場合、自分は香りに誘われた獲物なのだろうか?それにしては、妙な共生関係ができあがったものだ。

 

そして、そんな最高級娼婦のような少女は自らを『アーネスト専用の女』と公言するほどにアーネストを熱愛し、アーネスト自身も何度か関係を持った女もいたが、愛人と呼べる関係にまで至ったのは美恵だけだ。

 

「この前の戦闘は良いところは『四大騎士団』にとられたんですから、今日は私がたっぷりとご奉仕しますわ…私のアーネスト様。」

 

美恵はバスタオルを取り去り、押し倒しながら豊満な胸にアーネストの顔を埋めた。

自分が相手をしてほしいだけだろうに…大体『今日は』、ではなく『今日も』だろう。と思いながらアーネストは息苦しさを感じながら女性特有の甘い香りと美恵の豊満な乳房の感触を堪能し、逆に美恵を押し倒した。

 

 

 

「ジュリアス・キングスレイ卿……ねえ、お姉ちゃんそんな名前の人聞いたことある?」

 

テレサはまた聞きした皇帝子飼いの軍師を貴族社会に通じる姉に聞いていた。

 

〈ごめんなさい…キングスレイなんて家名自体私もお父様も聞いたことないの。〉

 

「お姉ちゃんたちも?…最近、名を挙げて爵位をもらった貴族ってこと?」

 

〈もしくは、革命かそれより前の時代に断絶した貴族かもしれないわね。〉

 

そんな人がいきなり……枢木スザクのようにチャンスに恵まれたのだろうか?

 

「いずれにせよ、その軍師殿が作戦を開始すれば大公閣下のご命令で私達も動くから、今のうちに休んでおいてね。」

 

〈ありがとう、お姉ちゃんも休んでおいて。〉

 

姉妹の会話を済ませ、通信をきった。

 

「いきなりお抱えの軍師でインペリアル・セプターか……爵位を得たばかりの人がそんな権限許されるのかしら?」

 

しかも、『ナイトオブラウンズ』という最強の護衛までつけて。

 

一回、会えないものかしら?

 

 

 

クルークハルトは作戦に向けて、部隊編成の確認を行っていた。例の皇帝子飼いの軍師が動くというが、ヴェランス大公とレーモンドに忠誠を誓うクルークハルトは不服だった。今まで欧州戦線はこちらに殆ど任せきりだったというのに、いきなり『ラウンズ』と子飼いの軍師を派遣するなど。

 

今更になって、『ユーロ・ブリタニア』が力をつけるのを恐れたとでもいうのか?なら、最初から大貴族達に指揮権の大半を委ねるなどということしなければよいのに。

 

「いったい、どういうつもりだ?」

 

 

 

マルセルは剣術の稽古を終えた。格闘と銃はE.U.軍のものでなんとか通じるが、剣はやはり本場から学ぶに限る。

 

「コヴァリョフ中尉、流石に本職なだけあり筋は悪くないが、武器を変える気はないか?」

 

教官の指摘を受けながら、マルセルは練習用の剣をもう一度構える。

 

「そうですね……やはり、ユーロピア時代にナイフの訓練で慣れていましたから。短剣の方が私はしっくりくるかもしれませぬ。」

 

「我が『ユーロ・ブリタニア』にも短剣を用いた剣術はある。そちらを学ぶと良いだろう。」

 

「はっ!」

 

本国の軍師というのが何者かは知らぬが、復讐を果たして真の祖国と指導者、そして既に祖先が求めた自由と平等がないことを伝えられるのならば、本国の力だって利用してやる。

 

 

 

ワルシャワ駐屯軍の進軍から数か月後……パリが突然大停電に見舞われた。市民が困惑する中、北海の洋上発電所がテロリストに爆破されたというネット情報が確認され、犯行声明のムービーもアップされたらしい。

 

〈ユーロピア共和国の市民へ告げる。我らは『世界解放戦線 方舟の船団』だ。〉

 

逆光で顔はよく見えず、声も加工されていて判別できないが細身の若い男なのは分かる。背後には『神の雷』をイメージした紋章を描いた旗があった。テロ組織のシンボルマークだろう。

 

〈愚かしき為政者らの悪政に苦しむ市民達の真の開放を…我らは目指す。〉

 

ネットを通じて放送データを書き換えられ、瞬く間にE.U.中のネットやテレビ放送はこの『方舟の船団』を名乗るテロ組織の犯行声明に変わった。

 

〈我々は北海の洋上発電所を爆破した。これがその証拠だ。〉

 

映像には風力発電を中心に稼働している北海の洋上発電所が映った。それが、巨大な飛行船から投下された爆弾によって一瞬で灰燼に帰した。いかに『ユーロ・ブリタニア』の侵攻に対してもまるで関心がない市民でも、パリに住む住民達はこれが事実であることを理解した。

 

〈愚かしき文明に縋り、堕落という平穏に暮らす者たちに神々の審判が下される。〉

 

画像は先ほど、投下された爆弾が映し出され、リーダーの男がその傍らでまるで神を崇めるように触れていた。さながら、自らが神から崇高な使命を与えられた代行者と本気で信じているかのようだ。

 

〈もうすぐ滅びの星がパリを襲う。悔い改めよ!それが君達が生き残るためのただ一つの手段だ!〉

 

この犯行声明とパリを標的とした攻撃予告。もはや疑いようもない、これはE.U.全土を対象とした反体制テロ組織の出現だ。

 

 

 

ネットで拡散したこの情報は瞬く間にE.U.全土を混乱に陥れた。さらにネットでは『方舟の船団』がパリ以外にもまだブリタニアに降っていない大都市でテロを行ったという情報が流れた。

 

「ロンドンでバイオテロが発生し、数万人規模の死者を出した」

 

「滅びの星がパリだけでなく、ミュンヘンに投下されて住民は全滅した」

 

「ルクセンブルクで武装集団が確認された」

 

「パリ攻撃の前段階でヒースローの空港がサイバーテロの標的になった」

 

他にもジュネーブ、ベルリンといった各国の大都市でテロが発生したという。E.U.全土における多発テロが発生し、各国の大都市は暴動が起きた。

 

特に『方舟の船団』の最重要攻撃目標のパリは凄まじく、自主的に避難しようとする市民、自暴自棄になり火を放つ市民、宥めようとした知人と殴り合い、誰かが仕入れた水や食料を奪い合い、殺し合いにも発展していた。

 

このテロに際して「資産家が我先にと、新大陸へ脱出してブリタニア貴族として恭順しようとした」という噂までが流れた。戦時国債を利用して富を得ていた富裕層への不満が貧困層を中心とした一般市民に伝染し、マルカル家が経営する銀行や工場、クレマン・インダストリーといった大企業も暴動に巻き込まれた。

 

しかし、これだけの事態になってもシテ島のゲットーはある意味で落ち着いていた。が、それは情報が入ってこなかった故であり、入ってきたところですでに彼らは避難を求める気力もなかった。小さな窓から見えるほどの火災が起きても、彼らは文字通りの対岸の火事で大きな関心を持たず、無気力になっていた。

 

 

 

ドイツのヴァイスボルフ城…『w‐ZERO』の本部もこの騒乱の情報は入っていた。スロニムで思わぬ足止めを食らい、少し前に帰ってきたパイロットの内佐山リョウ、成瀬ユキヤ、香坂アヤノの三人もいた。

 

「これ、ほんとかな?」

 

サラ・デインズの疑問に民間協力者のフェリッリ・バルトロワもネットで確認した情報を教える。

 

「ジュネーブやベルリンでもテロが起こってるって。」

 

「ユーロピア中で起こってるのかな?」

 

フェリッリの同僚のケイト・ノヴァクも確認するが、情報が多すぎる。どれがどこまで本当なのか判断できない。

 

「大都市はパニックで暴動だって。」

 

「やだね。」

 

オリビア・ロウェルが言うようにいくら『ユーロ・ブリタニア』との国境から1000キロ離れた森にある古城でも気が滅入るようなニュースだ。

 

「北海の洋上発電所の爆破テロがきっかけだったって。」

 

クロエ・ウィンケルが言うまでもなく、原因はそれだろう。しかし…

 

「SNSはデマが多いからね。」

 

「でも、こんなに一杯書き込みがあるんだよ?」

 

アヤノは素直に信じるが、ユキヤの見解は違っていた。

 

「人間は不幸な出来事に強く反応し、事実を確かめもせずにその噂を広める。」

 

「嫌な噂ほど、早く広まるものね。」

 

クロエの隣のヒルダ・フェイガンもその分析を肯定するが、リョウはその意味に気づいた。

 

「誰かがわざと悪い噂を流してるってのか?」

 

リョウの問いにユキヤは手と表情で「そういうこと」と肯定する。

 

「誰だよ、そいつは?」

 

 

 

ストラスブール基地でもこの騒乱の対応に追われていたのだが……

 

「東部方面軍の前線部隊が撤退!?」

 

クラリスはテーブルを叩きつけた。フィリップは更に怒りを掻き立てる情報を届ける。

 

「付け加えれば、政府のお偉方も統合本部のジジイ共もパリから逃げている。」

 

「な…!」

 

クラリスは絶句した。政府に加えて、軍まで!?最高司令部の幹部たちが逃げてしまったとあっては、軍は機能不全を起こしてしまう!第一、どこへ逃げるというのだ!?

 

リラが端末でネットを調べるが……

 

「パリ以外にもリヨンやマルセイユが標的になってるって噂があります。」

 

「近くにいる軍や政府関係者から連絡は取れません。」

 

リラの向かいに座るヴァンがため息をつき、ガイルが……

 

「こっちの基地の連中も何人か逃げ出そうとしたのがいたから、今しょっぴいたよ。ただ、アブラームのクソジジイには逃げられちまった。」

 

今度こそ、クラリスは言葉を失った。基地司令のエミリアン・アブラームが真っ先に逃げだす……

 

これだけの混乱が起きて、事実確認や治安の安定よりも自分が逃げるのが大事?基地司令官としての任務さえ放り出したのか。

 

「こんな状況で『ユーロ・ブリタニア』まで来たら…!」

 

万が一にでも、この混乱が伝わればそれはあちらにとって絶好の機会だ。もしかしたら、この混乱自体がブリタニアに仕組まれた可能性もあることをクラリスは疑っていた。

 

「……うちのクソ親父だけでも、抑えないと!それと、アブラームが逃げたという報告書だけはまとめておいて!」

 

「すまぬ、ピエルス少佐。」

 

副司令が申し訳なさそうな顔になる。クラリスは水を飲んで、椅子に座り込む。

 

「とにかく、今は副司令が指揮を執ってください。」

 

結果、副司令は暫定司令官となりクラリスは司令補佐としてストラスブール基地を纏め上げ、ストラスブールの治安回復に尽力していた。

 

 

 

またもワルシャワに呼び戻されたと思いきや、ゼラート達はこの混乱に巻き込まれてしまった。前線部隊が戻ったかと思えば、どこかへ行ってしまいワルシャワはパニックに陥りかけたが…ゼラートが事態の収拾に動いた。彼以上の階級の士官たちは殆どが逃げ出してしまい、逃げようとした士官達は外人部隊や残った正規軍に逮捕された。

 

結果、ゼラートが残留軍の司令官に収まってしまった。

 

「中佐、ネットは情報がまだ錯綜しており事実が確認できませぬがワルシャワから100キロ圏内に武装勢力と思しき一団は確認できません。」

 

「また、下水道や鉄道網などにも爆発物、化学兵器の反応などは検出されておりませぬ。」

 

「そうか……使える回線を開いて、ワルシャワ及び近隣都市に発表を行う。準備を頼む。」

 

「は!」

 

散々、外人部隊とゼラートを見下していた正規軍の士官たちであったが、この最悪の状況で最低の上官たちが逃げ出した中で残ったゼラートが纏め上げたことで、皮肉なことにここに残った彼らの垣根はなくなっていた。

 

何故かID登録が抹消された補給部隊のピエル・アノウがいたらこうはならなかった。何しろ、補給部隊司令官の権限を悪用して、友軍の補給を潰すような奴だ。

 

「アノウ中佐がいなくて、助かったぜ。」

 

「ああ、あいつのことだ…補給部隊司令官の権限でどこかに逃げてるよ。」

 

「よく見ると、ヴァントレーン中佐素敵ね……ベッドにお招きしてほしいわ。」

 

「馬鹿、んなこと言ってる暇があったら手を動かせ。」

 

まだ普段のだらけ切った態度が抜けていないが、ゼラートの統率力が彼らに規律を戻していた。中には、いっそゼラートのところの方がまだやりやすいと思い転属願いを考える将兵もいた。

 

ゼラートはひといきつき、中東から志願したアサド・ランゲルクとスウェーデン軍のアレクシア・エストランデル、同じく中東のニコロス・ディアルゴスを呼んだ。

 

「イロナは?」

 

「ああ、少し落ち着いたぜ。」

 

アサドの報告にゼラートは少し安堵した。今回の混乱で逃げようとした正規軍士官が連れて行こうとしたのが出会ったころ…正規軍の将兵達に襲われた光景と重なり、パニックになってしまったのだ。幸い、ウェンディが今は着いていて眠っているようだ。

 

「一応、逃げた奴ら何人かしょっ引いて檻にぶち込んでます。」

 

「何か言っていたか?」

 

アレクシアの報告をニコロスがつなげる。

 

「いつもの御託だ…政府にパイプを持つ自分がどうのこうのって。」

 

呆れたものだ。対策を練るなどと言っておいて、田舎に逃げようとしたのを正当化する。そんな方便さえ考えられないとは。

 

「奴らが逃げようとした証人は?」

 

「みんな、証言してくれるそうです。こういう時だけ、正規軍の奴らも使えるんだから。」

 

その正規軍士官達はアレクシアの言葉に腹を立てるが、思い当たる節がある者は黙って何も言えなかった。

 

「最前線の方には小規模の哨戒部隊だけでも配置しろ。万が一に備え、ワルシャワの市民を避難させる用意もしておけ。」

 

できすぎている……ここまで大規模なテロが発生、それ以前にこれほどのことを実行できるテロリストがなぜ今まで隠れていられた。ブリタニア側に雇われた傭兵?

 

いや…むしろブリタニアの情報戦と考えた方が自然だが、『ユーロ・ブリタニア』の攻め方と違い過ぎる。ならば、シュナイゼル?それとも別の……

 

 

 

海棠とバルディーニはイタリアの事態収拾に動いており、バルディーニの影響下にある外人部隊及び動ける正規軍はイタリアの事態収拾にあたっていた。ローマが標的になっているという情報は裏付けが取れておらず、『方舟の船団』の標的は宣言通り目下パリだというのが彼らの見解だ。しかし、それより先に警察や軍が逃げてしまい、残ったのは暴走する市民だけだ。

 

「警察や軍まで逃げるって、どういう了見ですか!?」

 

ナカタ・クレシェント・セーラでなくても、そう言うだろう。イタリアの政治家や富裕層も地方都市に逃げるか、酷い場合には『ユーロ・ブリタニア』に寝返ろうとしている者までいた。

 

テロから逃げるために、あっさりと敵国に寝返るとは。ここまで変わり身が速いと逆に感心してしまう。

 

「ところで、あの自称勇者様のおっさんはどこにいるんですか!?あんなのでも、いないよりマシじゃないですか!」

 

イタリアの正規軍人の一人が海棠と一緒にわたってきた行村少佐を罵る。奴は、E.U.でも前線へ出ようとせず、むしろ上層部に取り入って安全な後方にいることに勤めた。曰く、『日本解放のために戦力と地盤を整える』だが、それが方便なのはバルディーニ麾下の誰もが見抜いていた。要はそれ以外で自分がやる必要はないと考えているのだ。その日本解放でさえ、自分でやる気がないくせに。

 

「逃げたよ……」

 

「は?」

 

海棠の答えに全員が間の抜けた声を上げた。

 

「逃げた上の連中の護衛だとか言っていたが、例のごとく『日本解放の勇士たる自分はE.U.のテロで死ぬべきではない』なんてのが本音だろうよ。」

 

「なんですか、それ!?」

 

「我々ユーロピア正規軍に文句をつけて、自分はそれですか!?」

 

取り残され、必死に事態の収拾にあたっているという意識がある士官たちは憤慨するが、バルディーニの直属に言わせれば、こいつらも似たり寄ったりかもしれない。もっとも、逃げようとして捕まったところで親の権力などを持ち出して喚くドラ息子共よりは遥かにまともだろう。

 

「まあ、心配するな。バルディーニ将軍の名前を使って、手は打ってある。」

 

海棠の勝手な好意をバルディーニは……

 

「まあ、責任者は私だからな。よくやってくれた。」

 

 

 

行村は部下達と共にイタリアの幕僚との合流ポイントへ向かっていた。手土産にいくらか上等なワインを確保し、更にゲットーやイタリア人の若い女も確保している。

 

「海棠め…今頃慌てふためいていることだろうよ。」

 

真の英雄たるこの行村庸一の実力を理解できずに、罵るだけの愚か者どもめ。

 

しかし、この騒乱を生き延びた暁にはこの私がイタリアを立て直し、親日国家としてイタリアを導く!そう、私はそのために行動しているのだ!!

 

 

 

アムステルダムはオランダの中でも特に凄惨だった。どこから漏れたのか、アムステルダムが『方舟の船団』の標的になっているという噂がゲットーにも流れてきたのだ。

 

事態を知ったイレヴン達は逃げ出そうと収容所で暴れだし、看守達もこの人数を前に逃げるしかなかった。そして、収容所の門が破られてイレヴン達は飛び出して、自分達を隔離したE.U.市民への怒りをぶつけるか、アムステルダムから逃げ出そうとしていた。

 

オランダの正規軍は右往左往し、デルク率いる外人部隊はアムステルダムのゲットーの鎮圧に駆り出された。

 

浅海は無頼改の催涙弾を発射するが、中に日本人がいた事実が彼女を迷わせていた。

 

私は、何をしているの?ブリタニアと戦うことだけでも続けようと、E.U.に来たのに。

今、自分は暴れている同胞を鎮圧するためにKMFを撃っている。中にはこちらに火炎瓶を投げる日本人もいる。

 

やめて…!KMFにそんなの通じるわけないでしょ?

 

だが、まるで分らないかのように空き瓶などを投げる市民もいる。

 

彼らは知らないんだ。KMFという兵器がどれだけ恐ろしいのか。

 

反ブリタニア活動をしていた浅海は骨身に染みている。一機あるだけで生身の人間相手ならば十分な制圧力が物理的にも心理的にもあるということを。

 

〈分かっただろう?これが今の共和国だ。ブリタニアの侵攻さえ、他所の国の出来事。隣の国が占領されたら、次は自分の番だということさえ分からない。その成れの果てがこれさ。〉

 

デルクがサザーランドから通信してきた。

 

昔の私も…こんなだったんだ。ブリタニアは日本が怖い、そんな根拠のない大人たちの話を鵜呑みにして、大人たちも楽観論で安心しきっていた。その結果があのざまだ。

 

挙げ句に…イデオロギーばかり持ち出して、ブリタニアに降ってまで何とかしようとする日本人達の窮状さえ理解しようとしない。本質的に日本人は戦前で止まっているんだ。

 

KMFさえあれば、互角に戦える。あの時まで、そんな楽観論もあったが彼と出会い、そんな自信もあっさりと崩れ去った。『日本解放戦線』でさえ負けた結果を見ていなかったんだ。

 

また、彼の顔が浮かんだ。

 

会いたい…ライルに会いたい……!これを、どう思うのか聞きたい。

 

そして、反乱した部下達を処刑した時に何を思ったのか。

 

 

 

「ユーロ・ブリタニアと対峙している東部方面軍の前線部隊が撤退しているとの報告が上がっております!」

 

パリの統合本部は残った一部の将官と若い士官たちが中心に情報の収集を行っていた。その中で、最悪の報告が二つもあった。その一つが、ワルシャワの前線部隊の撤退だ。

 

「テロルを言い訳に戦線を離脱するとは、やはり彼らは烏合の衆!」

 

「四十人委員会には臨時閣議の指示が出ていますが、議員たちはパリから逃げ出しているとの情報が!唾棄すべき奴らです!!」

 

もう一人の士官は報告をしながらも、政治家達の醜態に心からの怒りを抱いていた。市民達からの投票で選ばれ、そのために普段から立派な演説をしておいて、いざなればこのありさまだ。

 

「この騒乱は我らにとって好機ではありませんか、将軍!民衆は政府の惰弱をはっきりと認識しました!」

 

唯一の女性士官の言葉に、スマイラスは内心で頷く。そう、この大規模テロを前にして軍は前線からもテロからも逃げ出し、政治家も首都を逃げ出した。首都機能の移転や別の都市での閣議、市民の避難誘導なども全て後回し。こんなことをすれば、もう市民が自分達を信用しないことさえ理解していない。

 

「今こそ、将軍の理想を現実とするときです!」

 

さしものスマイラスもここまで軍と政府が腐敗していたとは思っていなかったが、確かに好機だ。利権しか頭にない政治家とそれにへつらう軍人、そしてそれを支援する資本家。かつて革命で打倒された者たちが形を変えて蘇ったのがまざまざと見て取れる。

 

「強欲な資本家が新たな貴族となって!」

 

「民衆を搾取するこのユーロピアの矛盾を改めるため!」

 

「我らが起つ時が来たのです!ご決断を、スマイラス将軍!!」

 

彼らに言われるまでもない。これを逃したら、おそらくもう次はない。放っておけば、騒乱は収拾がつかなくなり、今に統合本部にも市民や取り残された軍が押し寄せてくる。ここで動かなければ、内と外からE.U.はブリタニアに征服されて、かつての王侯貴族達の専横の時代に逆戻りだ。

 

 

 

E,U,を脅かす『方舟の船団』を名乗るテロ組織はブリタニア本国でも多少は話題になっていた。が、

 

「軍も政府もパリを逃げ出すって……どこへ逃げるつもりなの?」

 

セラフィナは政府と軍の醜態を真っ先に非難する。実際に犯行声明に映っていたものと同じ飛行船の目撃情報もあるというし、その画像もある。巨大な飛行船が爆撃するのであればパニックになるのが普通だが、本国の彼らもここまでの醜態をさらすとは想像していなかった。

 

「革命の尊厳を守るのが市民の義務って普段から演説していたのに、これじゃあ市民の期待を裏切るようなものじゃないですか。」

 

見学に来ていたウェルナーの言う通りだと、同席していた貴族達もうなずく。やはり、我らブリタニアが導かねばと思っているのだろう。しかし、シルヴィオやエルシリアは別の疑念を抱いていた。

 

「この騒乱…『ユーロ・ブリタニア』が引き起こした可能性があるな。」

 

「ええ、これだけの混乱で前線部隊までが無許可撤退をしている有様。コーネリア姉上なら攻め込むでしょう。」

 

兄と姉の分析にライルも続く。

 

「市民達が暴動と戦闘で大勢犠牲になるが、勝った後で征服者よりも自分達の安全だけ図った為政者への怒りを煽るんですか?」

 

ライルもその意味は理解できるし、それが最大の成果を出す手段だ。だが、一つ引っかかる。

 

「ですが……ヴェランス大公閣下がこんな作戦を許すんでしょうか?」

 

仮に『ユーロ・ブリタニア』が仕掛けた作戦だとしても、これは今まで市民の犠牲を考慮してゆっくりと攻め込んだ『ユーロ・ブリタニア』と真逆の作戦。シュナイゼルならば、安全保障をちらつかせて残留した政治家達を抱き込んで領土割譲などを条件に部分的な併合で片を付けてしまう。

 

「兄さんの言う通りですね……」

 

「僕も…同じ意見です。大公閣下にお会いしたことはありませんが、とても高潔なお方だと聞いております。」

 

そう、むしろ本国から派遣された軍師がやったというのならば説得力がある。皇帝の全権代理人の証であるインペリアル・セプターを所持して、『ナイトオブラウンズ』のスザクが護衛に着く。いくら大公でも逆らえない。

 

だが、ライルは別の違和感…否、既視感を抱いていた。確かに、方法としては確実。先日、シルヴィオも言っていたが戦時国債で利益を得ていた富裕層への不満もこれがきっかけで爆発したという。だが…もし、本当にブリタニア側が仕掛けたのだとしても……

 

なんだ……この既視感?

 

人目にさらされたら却って逆効果になりかねない、方舟の目撃情報。まだ情報が入ってこない北海の発電所の爆破、E.U.全土で発生するテロの情報。

 

ライルは頭の中で仮説を立ててみた。仮に、発電所の爆破がただの動画だったとする。それをネットで公開し、方舟を目撃させることで『方舟の船団』というテロ組織が実在したと印象付け、更にネット経由で市民の不安や不満を煽る。

 

そして、政府と軍を機能不全に追い込んで進軍の状況を作り上げる。

 

直接見たわけではないが…これだけ大掛かりな仕掛けをする人間は、どこかで……

 

「ま、まさか…!」

 

「ライル、どうした?」

 

シルヴィオの問いにもライルは応えられなかった。

 

「どうした、顔色が悪いぞ?」

 

エルシリアの問いも聞こえない。

 

そんなことがありうるのか?いや、だがこれがもしも『ユーロ・ブリタニア』の作戦であり、仕組んだのがあの男ならば。

 

この大胆かつ巧妙な作戦……間違いない。閲覧した記録と似通っている。この作戦はあの男だ。

 

まさか、皇帝が派遣した軍師が?それならばスザクが護衛についており、皇族達にさえ名前も知られていない事実にも説明が着く。

 

だが、なぜ?なぜ彼がE.U.に、それも皇帝の軍師として!?一体、何があったというんだ!?

 




大貴族軍の若手の愛人の羽田美恵は、リフレインの代金代わりに親に捨てられた子供です。ライル軍の名誉組と同じくらいに『黒の騎士団』の論理…特に「裏切り者」は絶対に効きません。だって、先に親に裏切られたから。

そして、『方舟の船団で』の政府と軍の醜態。政府や軍の上層部はどこへ逃げるつもりだったんだろうか?見つかったら、市民に殺されるのは目に見えてるけど。

クラリスやゼラート、海棠、出てないけど池田といったメンバーは作為的すぎて疑念を抱いています。そして、ライルは騒乱を見てある人物を連想しました。
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