『方舟の船団』やシャイング家など、ライル個人は疑念を抱えたままですが…
エリア11では『黒の騎士団』の残党がアッシュフォード学園の占拠を行うが、ちょうど視察に訪れていた『グリンダ騎士団』が居合わせ、それを鎮圧した。しかし、ライルはある程度予想していた事態に落胆した。
「やはり、ゼロがいなければこの程度か。」
捕らえた団員たちは目的も何もなく、身代金を取るか決起を呼び掛けるかも定まっていなかったという。要は思い付きや勢い任せだ。
「ワンマンチームなのでは、という分析は当局もしておりましたがここまで酷いとは。」
「それだけ、ゼロが抜きん出ていたということだろう。実際、あれに勝てるのがいるとしたらシュナイゼル兄様くらいだよ。」
だが、その『グリンダ騎士団』も中華連邦を訪問した際に『紅巾党』と名乗る大宦官打倒派の軍人達が蜂起、鎮圧に成功はしたもののオルドリン・ジヴォンがシュナイゼル暗殺をしようとしたテロリストのKMFと交戦、竜門石窟という遺跡へ向かったが機体を残して消息を絶ってしまったという。
『ユーロ・ブリタニア』の内乱と『グリンダ騎士団』の弱体化……また世界の情勢が揺らぐ。ここまで、混迷するとは。『ブラック・リベリオン』を差し引いてもブリタニアという巨大な重しが揺らいでいる証。
シュナイゼルは『グリンダ騎士団』の活躍を受けて第七世代相当のKMFの開発をさらに推し進めるように各方面に働きかけ、現在は国内に燻る違う主義者勢力の鎮圧に駆り出されており、大なり小なり正規軍も含まれていた。
「今のエリア体制に反発しているのは私達のようなナンバーズの人達だけだと思ったけど…ブリタニア人でもこんなにいるんですね。」
「中には政争で力が衰えた貴族、貴族の制度自体に限界を感じてE.U.に亡命する貴族もいる。逆もね…君達、日本人だって恭順派と反対派がいるだろう。」
それを言われ、有紗は納得した。
「そうですね…ゼロがいれば、藤堂がいれば大丈夫と思う人や、ゼロのせいで迷惑だっていう人もゲットーにいました。」
そんな話をしている時、通信が入った。
「どうした?」
〈殿下、そちらに飯田有紗はいらっしゃいますか?〉
有紗に?何のようだ。
「いるが、どうした?」
〈実は…お伝えしにくいことで。殿下もご同席をお願いできますか?〉
「え?」
有紗は耳を疑った。いきなり呼び出されたかと思えば、有紗には『黒の騎士団』についての参考人になった。だが、それ以上に。
「でっちあげも大概にしろ!そこまで、彼女が目障りか!枢木卿や長野がだめなら、一回のメイドの彼女の方が殺しやすいからか!?」
報告した士官をライルがいきなりつかみ、そのまま襟をねじって締め上げた。
「が…!お、落ち着いてください!まだ…その娘が内通者と断定されたわけでは!」
「なら、なんだ!私を殺しに来たスパイなら、今ここでやっても良いだろうが!それとも、ここでお前たちが私と有紗を殺す魂胆か!?」
「ち、違います!本当です!」
「殿下、まず落ち着いて!順を追ってお話ししますから!!」
「……っ、すまない。」
「い、いえ…」
担当者が息を整え、改めて話を続ける。
「飯田有紗、久保カイトというイレヴンを知っているかね?」
「え?…あ、はい。知っています。一緒にハラジュクゲットーに住んでいました。…もしかして!?」
「そうだ、その久保カイトが先日のアッシュフォード学園占拠事件で逮捕された『黒の騎士団』の団員にいた。」
カイトが?アッシュフォード学園の占拠事件?それも、『黒の騎士団』?
「な、なんでカイト君が!?何かの間違いじゃ!」
「だから、君に確認を取った。逮捕時の写真が、これだ。」
有紗は息をのんだ。
「本人のようだな。」
担当官は写真を下げず、ライルの方を見る。
「殿下、いかに皇族と言えどもこれ以上は。」
「…尋問にかこつけて、何か辱めをしたと言われれば私は有紗を信じる。お前たちを即決で殺すぞ?リフレインなら、今この場でだ!」
「…しょ、承知いたしました。」
担当官は退室するライルを見て、ホッとした。あの勢いでは、本当に殺されるような気がした。
「さて、飯田有紗。君は久保カイトとどういう関係かね?」
「…戦争の後、12歳の時にハラジュクゲットーに逃げ込んでそこの人達にお世話になってました。」
担当官は久保カイトの証言を確認し、同じ証言が執れた。それ以後はゲットーで限られた勉強とさらに小さな子供達の面倒を見ていたという。
そして、ヨコハマのオークションでライルに保護されて有紗は今に至る。
「殿下にお仕えしたことを、話したのかね?」
「は、はい……私達の面倒を見てくれた福原さんもですが、仕事先が見つかったと安心させてあげたくて。」
確かに、その程度ならば機密漏洩には該当しない。第一、この娘はライルの一介のメイド。一介のメイドを戦場に同行させるのは非常識だが、ライルの方針も考えれば自分の側が一番安全だという配慮だろう。
つまり、殿下にとっては我々も敵ということか。
「…先日の反乱事件で君はバルテレミー男爵家のご子息に命を救われて今に至る。これに間違いはないかな?」
「はい……エクトル君が助けてくれなかったら、今頃私が死んでいました。」
言葉を聞く限り、嘘は言っていないようだ。念のために自白剤は用意していたが、この様子では必要もないか?
「その……私からも良いでしょうか?」
「なんだ?」
「カイト君のことを聞いて、私にたどり着いたってことはカイト君が私のことを?」
やはり、そこが気になるか。
「ああ、逮捕されたときに聞いたのだ。『第八皇子のメイドの飯田有紗はどこだ?』と。」
名指しで出てきたが、当時の事件を知るギルフォードのおかげですぐに裏が取れて今に至った。
「……彼は、君がライル殿下に捕らわれ、弄ばれていると主張していた。」
「違います!私は、ライル様のこと…!失礼しました。」
今ので本音が垣間見えた。全く、身の程知らずな。
「会えないんでしょうか?」
「今は無理だ。新総督のカラレス公爵が政策方針を変更している。」
「そう、ですか……処刑されるときは、できれば一目だけ会いたいです。」
「難しい話だな。それこそ、殿下に相談しろ。」
そして、いくつか取り調べを行うが有紗は先日の名誉騎士団の事件でも、『タレイラン』の事件でも裏で協力していたという証拠もなかった。気付かないうちに利用されていたという線もあるが、それもなさそうだ。
有紗を解放すると、ライルがいきなり有紗を抱きしめた。
「有紗、よかった!何かされなかったか!?」
「ライル様…はい、大丈夫です。本当にただの尋問だけでした。」
ライルがこちらをにらんだ。話には聞いていたが、実際に見てみると凄まじい。この方のブリタニア人不信は相当なものだ。正に我々はお姫様を攫った、悪い魔法使いか悪の大魔王の手下か。
我々が悪い魔法使いの手下なら、皇帝陛下が魔王?洒落にならん。
「殿下、尋問の詳細は後程こちらからもご報告をいたします。また、彼女につきましてはカラレス総督にこちらから連絡を入れます。」
「カラレスの差し金、か?」
「事実確認です。」
「……分かった。」
有紗の知り合いが『黒の騎士団』に参加していたという事実は幹部達にも情報が共有された。既に尋問は終わり、無実はある程度証明された。
クリスタルが早速有紗に歩み寄った。
「有紗、大丈夫…なわけないか。」
「…いえ、心配しなくても。」
どこがだ。数年来の友人が知らないところで『黒の騎士団』になっていたのだ。平然としていられるわけがない。
今回の尋問で、彼女の無実は証明されたがあの女や手下どもなら証拠をでっちあげて蒸し返すに違いない。
「追い打ちをかける様で申し訳ありませんが、国外脱出を企てている貴族達がおります。どうやら、第七世代やその試作機に当たるKMFのデータを盗んでおり、E.U.への亡命を図るものと。」
フェリクスの報告に全員の表情が引き締まる。
「『タレイラン』とは別か。」
「はい。少し前にキャメロットや『ラウンズ』の工廠にハッキングがあったという件はご存知ですよね?」
その話は聞いている。こちらにもハッキングがあり、トライアル、ブラッドフォード、ゼットランドのデータが一部奪われた。
「ああ、腕のいいハッカーだったよな。」
ヴェルドが相手の腕を称賛する。ヴェルドとコローレ、フェリクスはコンピュータの扱いでは士官学校では最上位の成績だった。特にヴェルドとコローレはハッキングも得意だ。
「情報部の旦那は?」
「ああ、あの人からも聞いたが『タレイラン』の協力者もいるようだ。おそらく、『シュタイナー・コンツェルン』の研究者もいるんだろう。」
士官学校に特別講師として招かれたが、母の不興を買ってその圧力で情報部に回された恩師はライルと個人的に付き合いが続き、非公式な情報をいくつか回してくれる。
「私と将軍でシュナイゼル殿下に申請したら、OKしてくれました。我々がやっていいそうです。」
「そうか……」
「あの…逮捕はできないんですか?」
有紗の問いに、ゲイリーが応えた。
「逮捕は視野に入っているが、国外脱出を企てている以上は殺害がほぼ前提だ。機密漏洩を確実に防ぐためにもだ。」
「そう…ですか、やっぱり。」
やはり、友人のことがまだ…
友人…本当に、友人なのか?
写真は見たが、中々に整っている。あと四、五年もしたら精悍な好青年になっているだろう。有紗の清楚な雰囲気との相性も良い。
嫉妬、しているのか?僕は……
そもそも、なんで今まで有紗に恋人がいないと決めていた?これだけの美貌なら周りが放っておかないし、オークションの商品になるのもうなずける。
今更ながらに自分が彼女のことを自分に都合のいいように考えていたことをライルは嫌でも思い知らされた。
いや、今は後だ!それよりも、これだ!!
万が一のために裏を取っておこう。彼にもう一度連絡を入れねば。
連絡を済ませた後、ライルは仮眠をとると言って自室へ戻った。
レイは自室で仮眠を取っているライルの様子を見に来た。ベッドで毛布を被って静かに寝息を立てているライルの側にゆっくりと歩み寄り、顔を覗き込んだ。
最近の怒りようが嘘みたいに無防備で可愛い寝顔だ。
可愛そうな人……親から物扱いされて、汚い人間に言い寄られて………
眠っている今がもっとも安心しているのかも知れない…そう思った時、寝息を立てる唇に目が行った。クラウザー家の令嬢とは婚約はしなかったが、ライルにとって彼女は好印象のようだという。しかし、現状でライルにとっての一番は有紗だろう。その有紗と…
もう、キスとかしたのかしら?
もし、したのならば……どんな感じだったのだろう?女性としての衝動がレイを揺さぶった。相手は主君で自分は部下…しかもハーフだという抑制が今のレイからはなくなっていた。
起こさないようにゆっくりと顔を近づけていき、自分の唇を重ねようとした。
だが、ライルの眼が開いていた。
「眠っている男にキスを迫るとは………良い趣味だな?」
不機嫌なのは一目瞭然だ。「言い訳くらいは聞くが?」という声もいつもより低い。
「あ…あの……ライル様が、最近荒れていて…」
「それで寝込みを襲うのか?夜這いをするにしても、早すぎるぞ?」
もっともな指摘だ。これ以上何も言葉が浮かばず、それを見たライルも呆れてか、ため息をついた。
「とにかく出て行け……安眠妨害だぞ?」
「はい。」
いわれた通りに出て行き、レイは自室に戻った。そして、先程の事を思い出してしまった。
「わ、私…なんてことを……」
何であんな事したのかしら?……好きだから?ライル様が?
父と母以外に味方がいなかった自分を、初めて受け入れてくれた人だから?自分を騎士にしたのが人種を問わない方針のアピールなのはレイも分かる。騎士の任命も皇族の特権だし、エリア11で目に留まってからの戦いで認めたというのも分かる。
だが、ライルは女としての自分をどう思っているのだろう?
そして、自分でも何故あのようなことをしたのか、レイは分からなかった。
ニューヨーク市から三隻の船が出港していた。ポルトガルとイギリス方面の軍隊への補給という名目だが、実態は亡命を図る貴族達だ。
彼らは本国の政争に敗れた、或いは皇帝の集権体制に異議を唱える貴族、または『タレイラン』の協力者だ。飛行KMFサマセットやフロートシステム、ブレイズルミナスのデータを用意している。それを手土産にE.U.へ亡命し、そこでブリタニアとの交戦を続ける算段だった。
「今のブリタニアは歪んでいる。ブリタニアは皇帝一人のものではないのだ。」
多くの貴族、臣民の国家だ。貴族として、それをたださねばならない。それが彼らの大義であった。
「うまくいきましたな。」
「ああ、負け犬共がE.U.へのがれてくれるのならば、それでよし。」
「ライル殿下のナンバーズ共と相打ちになってくれるのならば、なおのこと良い。」
ある屋敷で貴族達は酒を片手に今後のことをつまみにしていた。あの目障りなナンバーズ共のおかげで自分達の息子達はライルの親衛隊に入れなかった。失態を演じた今こそがチャンスだったというのに、ライルは基本方針を変えずに伝統のある貴族を重視せずに士官学校の成績や初陣での成果を参考に平民出身でKMFの搭乗を認められた成り上がりどもを重用した。
「シェール様が何とかしろ、と喚かれた時には全く悩まされたものだ。」
「あのイレヴンのメイドの交友関係も浮上したが、既に当局が調査して白だと判明した。」
既に配下から飯田有紗の知り合いが『黒の騎士団』の団員だったという情報を得た彼らはそれもネタに有紗を排除しようとしたが、先に尋問が行われて無実が判明。その事実も報告書に纏め上げられていた。
ここで下手に騒ぎ立てれば、嗅ぎつけられることを恐れて彼らはそれ以上何もしなかった。
しかし、彼らは知らなかった。疑念を抱いたライルが裏を取ろうと動き、既に自分達にも手が伸びていることに。
他にもいた主義者勢力の脱走…そして、相討ちを望んで貴族達に邪魔されているライルです。
ちなみに、投降としては分割してたので一気に二つ分行きます。