「念のため、シルヴィオ兄様達にも正規軍をいくつかこちらに回してもらっている。」
そして、万が一にと裏を取ってもらったが案の定だ。情報が意図的にリークされた可能性が浮上した。こちらが気付いていたとなれば、シュナイゼルが気付いていないという可能性はあまり高くない。むしろ……
やってくれるな、兄様。
成功すればそれでよい。失敗しても、手を打っているのだろう。
実際に、シュナイゼルもいくつかの騎士団に追撃任務を言い渡しており、それはライルが逃げられても追いつく距離で待機していた。
スリーカードと見せかけて、実はフルハウスか。
相変わらず頭が良すぎる。逆に怖いくらいだ。しかし、逆に言えばシュナイゼルはこちらにもチャンスをくれたということ。だからこそ、追撃を任せたのだ。なら、いい意味で徒労に終わらせてこちらを出し抜くチャンスだと思っている連中に手柄などくれてやらない。せいぜい残りかすを拾える程度にしてやる。
いや、残りかすもくれてやらない。
作戦はいたってシンプルだ。ロールアウトしたカールレオン級を三隻使い、出向した船を追跡。既に裏付けも取れているので、誤認のリスクも下がっている。停船命令を出すが、おそらくKMFがいることはほぼ確実。まだフロートユニットが少ないためにランスロットとブラッドフォードを軸に鹵獲したサマセットとフロートユニットを装備した親衛隊で急襲する。旗艦にはゼットランドが配備されている。
『グリンダ騎士団』での実戦データとこちらの本国軍との模擬戦で運用上の問題点はやはりおおよそ見えており、既にロールアウト間近の『ラウンズ』専用機が改善という形をとる。
ライルとしては、これらも専用にカスタマイズしたいところだ。そして、パイロットは……
「殿下、この子の色はこのままでいいですよね?ウチの色と相性良いですし。」
クリスタルだ。シミュレーション上では彼女の才能はジノ・ヴァインベルグやレオンハルト・シュタイナーに次ぐものであり、サマセットも器用に乗りこなしていた。元々戦闘機やヘリの操縦は上手であったが、要領の似た可変機は彼女にうってつけなのだろう。
「視覚的効果で言えば『フォーリン・ナイツ』に似通うが、このタイプはこれしかいないから良いだろう。」
「まあ、あたしのこれもウチの軍のカラーリングとしてはいいわね。」
ゼットランドは雛だ。既にライル軍のパーソナルカラーのダークブルーに塗られており、『黒の騎士団』追撃用に組織された『ブルーバロンズ』との視覚的な区別もしやすい。グロースターの時から火器の扱いに長けていた彼女以外にも何人かが搭乗した上で雛が選ばれた。
「でも、いくらブレイズルミナスがあると言っても近づかれたら怖いわね。ランスロットや『ハンニバルの亡霊』が相手じゃただの木偶の坊よ?」
「それは課題だな……近接防御も検討しよう。」
今回はともかく、今後次第では必要となるかもしれない。何しろ、『ミカエル騎士団』で運用されたブレイズルミナス停滞技術のシュロッタ―鋼合金で作られた装甲を持つアフラマズダさえ『ハンニバルの亡霊』に撃破されたという。しかもそれが容赦のない近接戦闘の連続攻撃だったという。
パイロット次第では殴り合いを考慮したくもなるだろう。
手はず通り、目標の船はブリタニアの領海を出る。このままいけば、ポルトガルにたどり着くだろう。彼らは決して油断していたわけではない。追撃があることを当然考慮していた。
だが……
〈こちらは第八皇子ライル・フェ・ブリタニア親衛隊のクリスタル・ウィスティリア。貴船の航路が事前通告から外れています。進路変更を。繰り返します。〉
まずい。ここで進路変更をしては、ポルトガルに行ってしまう。かといって、このまま進み続ければ結果は自ずと見えている。
「く、そうせざるを得ない状況に追い込まれたか!」
追ってきているKMFの数はそれなりだが、多いというほどではない。最悪の事態に備えて、備えもある。
「KMF隊を発進させろ!!」
「イエス・マイ・ロード!!」
流石に大型の輸送艦と護衛艦というだけあり、KMFの数もそれなり。グラスゴーとサザーランドが艦上に現れてサマセットも何機か出てきた。
「海兵騎士団は?」
〈目標に接近しつつあります。〉
「よし、空と海から攻撃を仕掛けて相手を精神的に追い込む。ただし、沈めるな?」
流体ではないが、サクラダイトもいくらか持っている。今この状況で爆発したら、こちらもただでは済まない。高温超伝導体であるサクラダイトは流体化すればその爆発力はすさまじい。扱いはそれだけデリケートなのだ。
たとえ流体サクラダイトがなくても、爆発させれば相打ちだ。だからこそ、距離を取って爆発させる必要があるし、相手もそれを最大限に警戒している。
ランスロットが機動力を最大限に生かした戦闘でサマセットを次々と撃墜、ハーケンで一機を捕まえて海に叩き落すか友軍機に激突させる。更に護衛艦に急降下してグラスゴーを海に叩き落す。
ブラッドフォードもフォートレスモードの機動力と機銃でサマセットを撃墜していく。同じシュタイナーコンツェルンのKMFでも、折り畳み式に飛行用の装備を付けたサマセットと完全可変型のブラッドフォードではその性能の差は歴然。ライル側のサマセットも三機一組で確実に一機ずつ撃墜し、瞬く間に艦隊は無防備になる。
母艦を叩こうとしたサマセットもいたが、今回はライルも出撃していた。ハドロン砲の試験運用を目的としたサザーランド・スナイパーだ。高い火力の砲撃とライルの的確な射撃で次々と撃墜するが……
「ハドロン砲の携行火器としての運用……理屈は分かるがサザーランドではエナジー効率が悪すぎる。」
初陣から既にグロースターではあったがこの武器を運用するとなれば、やはり固定武装型か、使用を考慮した機体で運用する方がいい。だが、武器自体は有効だ。既に艦隊は秀作達のおかげで無防備になったが……
〈殿下、ニューヨーク方面から大型機が接近!KGFです!〉
KGF…『タレイランの翼』で運用され、エリア11でも確認された大型機!?
モニターには、ウィルバー・ミルビルが搭乗したサザーランド・イカロス、その武装追加型と思しき機体がいた。サザーランドが顔を出している以上は同系統だが、相手にするとなるとあれ一機でKMF十機分は軽く補える。
「どこにあんなものを隠し持っていたんだ!?」
ハドロン砲を撃つが、やはりKGF。機動力がサマセットの比ではない。しかも、増援にはサマセットがまだいた。
「秀作、クリスタル!後ろの相手を頼む!残りは敵艦を追跡!逃げられたら、おしまいだ!!」
「艦隊の脱出に全力を注げ!さすれば、ここで我らが倒れても皇室の支配に抗う戦いは続く!」
〈は!!〉
KGF…サザーランド・アリアドネーのパイロット、バーナード・オールドリッチは男爵家の当主だったが先帝の代に大貴族の不正を押し付けられて、家は没落。許嫁も手のひらを返して、離れていった。後から知れば、先帝や政府の貴族達もこちらの潔白を知っていたが、犯人の財力と権力に屈した。それを覆すべく、軍に入隊しても実らずにオールドリッチは体制の転覆を選んだ。そして、『タレイラン』の協力者であったがそれも気付かれ、覚悟を決めて志を託せる者達を逃がす人柱になる決意をした。
「最後の闘いの相手が、我が国の暴虐に屈してその尖兵となったエリア住民とは。没落したオールドリッチ家の幕引きに相応しいか!?」
あの青いランスロットに乗るのは枢木スザクと同じエリア11の出身者だと聞く。しかも、日本軍人の血縁だそうだ。
没落した貴族と敗戦国の軍人……より正確にはその血縁。一方的な思い込みかもしれないが、オールドリッチは妙な因縁を感じながら、機体下部のハドロン砲を撃つ。
秀作はアリアドネ―の砲撃に舌打ちをする。
「っ、突貫作業にしては豪華な装備を!!」
流石にハドロン砲が相手では手ごわい。あのイカロスの系列機ならば、電磁装甲もある。これでは迂闊に近づけない。
KGF相手の戦闘なんて、そうそうない。第一、ブリタニアでも試作運用段階の兵器。だが……
『セラにちょっといいところを見せておあげなさい。』
作戦開始の数時間前にクレア・エインズワースに言われたことが妙に引っかかり、秀作をその気にさせていた。
「おい、ハドロンスピアーは撃てるのか!?」
〈ええ、でも囮になってくれる!?〉
「分かった!」
ランスロットの機動力で秀作はアリアドネ―に突っ込む。アサルトライフルは電磁装甲で阻まれ、サイドアーマーの大型ハーケンはブレイズルミナスでそらして躱すが衝撃は強い。やはりパワーが根本的に違う。
そこへ、後ろから親衛隊と『フォーリン・ナイツ』がフロート装備で応援に駆け付けた。
〈殿下のご命令で援護に来た!〉
すると、電文がライルの方から届いた。なるほど……無理やり破ることができないのなら、まず動けなくしようということか。
〈予定変更みたいね?〉
「ああ。」
秀作はランスロットを引き付け続け、友軍が射程距離に近づいた。相手もそれに気づいてそちらに狙いを定めるが……
〈取った!!〉
クリスタルがハドロンスピアーを撃ち、敵のハドロン砲を破壊した。それに合わせ、ロケット砲から発射されたケイオス爆雷が上からアリアドネ―を襲う。
砲撃で体勢が崩れた上に電磁装甲の機能が落ちたKGFは雨あられの弾丸を浴びて、外装がもはや瓦解寸前。秀作はそれを逃さずに、グロースターのランスを投げつけた。
電磁攻撃もできるランスが損傷した電磁装甲を貫き、それがトドメになった。KGFが爆散して、コアユニットのサザーランドが脱出。こちらに腕を伸ばすが、ここまでくれば基本スペックで決まる。MVSを抜いてサザーランドを真っ二つにした。
しかし、今のでエナジーが殆ど尽きてしまった。
「すまんが、運んでくれ。エナジーがもうほとんどない。」
〈了解…全く、無茶をする。カミカゼじゃあるまいし。〉
親衛隊のグロースターから諫められるが…
「俺は魔物どもの一味じゃない。」
〈そういう意味で言ったんじゃない。〉
「馬鹿な!?アリアドネ―がやられただと!?」
オールドリッチ卿は親衛隊に匹敵するパイロットだ。それが、たかがイレヴンに!?
ブリタニア貴族の司令官は自分達がナンバーズより優れた能力を有していると信じて疑わなかった。が、それが通じないケースが必ず発生しうるということに考えが及ばず、航空艦からのハドロン砲に焼かれた。
雛のゼットランドがハドロンランチャーを撃ち、三隻の船を一斉に沈めた。ハドロン砲の威力にサクラダイトも引火し、巨大な爆発が巻き起こった。
その衝撃は上空の雛たちにも感じ取れた。
「ったく、これだけ離れてもこれ?」
それにしても、すごい威力だ。『グリンダ騎士団』でもその破壊力が実装されたがこれはすごい。
ただし、単独では精密性重視の長距離砲撃には向いていない。『グリンダ騎士団』にあるサザーランドの索敵型があればよいが、あれは配備数が多くない上にこちらに回ってくるかわからない。
ドルイドシステムとやらをこれに積んでくれないかしら?
とはいえ、接近戦の装備も踏まえるとはたしてやれるかどうか。
『フォーリン・ナイツ』と他の親衛隊は新兵たちと共にニューヨーク市の協力者の拿捕を務めていた。シュナイゼルとライルが個人的に集めた情報から、本国貴族がエリア制度の改正を唱えるライルの失墜或いは『フォーリン・ナイツ』を逃亡者たちを使って始末させる、最低でも平民とナンバーズの失敗をさせようと梃入れをしたが、結果は失敗。自分達も逮捕という最悪の負けに落とした。
貴族出身の新兵たちは、皇族の失墜を目論むという貴族の腐敗に驚かされるが……
「どうせなら、あのナンバーズ共の失敗で充分だろう。」
「ああ、我々の方がうまくやれるという証明になる。」
どこから、その自信が来るんだ?
ニコラ・ド・フィリドールは同輩達の自身に首をかしげたが、自分もつい先日までこれだったと気付いた。
機体が良かった?機体が良ければ誰でもできる?
違う……KMFもどきなどと言われるパンツァー・フンメルを何度も乗り直して分かった。あれはそもそもサザーランドとコンセプトが違う。そして、乗ったからこそわかる。確かにグラスゴーにも劣るが、あれはあれで悪くない。
川村雛はゼットランドを実機搭乗とシミュレーションで乗って、クリスタル・ウィスティリアと畑方秀作も同じだ。適性があるだけで止まってなかった。
あの三人と同輩達に違いがあるとすれば向上心や努力する意志か?
同輩達には平民もいる。ブリタニア人だからナンバーズよりやれる、貴族なら更に上に立つ。立って当たり前……そんな口ぶりだ。
ライルが否定しているのはこれか?
シェールは机をたたいた。息子のために、あのナンバーズ共と平民共をまとめて始末できる、できなくとも失態を演じさせて本来の姿を見せてあげようとしたのに!
しかも、あの目障りなメイドは知り合いが『黒の騎士団』に入っていたというこの上ないカードを手に入れたと思いきや、当局が先に彼女を尋問して既に無関係であると判断された。
あのナンバーズ共さえいなくなれば、クラウザー家との婚約を受け入れて盤石になるというのに!!
当のクラウザー家の娘も問題があるとすれば、あの枢木スザクと学友であったこと。それつながりであのメイドとも個人的に親しくしたいと言っている。
全く、嘆かわしい。ブリタニア貴族がナンバーズごときと親しくするなど!あの平民の娘や没落貴族共と出会って、息子は狂ってしまった。ならば、母として奴らを処刑して正気に戻す。そして、この私を皇后にする。それが息子の幸せ!
そうすることで、この私を田舎貴族などと罵倒した者共に思い知らせることができる。この私こそが、真のブリタニア貴族で皇族に相応しいのだと。
ライルがニューヨークから脱出を阻止した後、別ルートでE.U.にランスロットなどのデータが持ち出されたことが発覚した。どうやら、占領が秒読み段階に入っていたスペインに進駐した『グリンダ騎士団』保有のランスロット・グレイル及びマリーベルのトライアルも狙っていたようだ。しかも筆頭騎士のオルドリンがいないこともあってか、『グリンダ騎士団』は再編及び拡大の途上にあった。その混乱に着け行ったのだろう。距離も近く、一部ながら『ユーロ・ブリタニア』にも協力者がいたのかもしれない。
フェリクスの報告を聞いて、ライルはため息をついた。
「ブリタニアの統治体制がそれだけ、内部からの反感も買っているわけだ。今に始まったことじゃないが……」
ライルは一部だが、無理もないと思った。『皇帝陛下のご情愛』や『ブリタニアが導く』などと言っているが、各国にだって文化や法律があった。それをこちらが全て壊しておいて、『文化がない』、『軽挙妄動』だなどと言う。
「自分達で彼らの文化を壊しておいて、文化がないなど。自作自演も甚だしい。」
「正論ですね……それを最初からそうであるように思いこむ。」
そう、フェリクスの言う通り人は不都合なものから目を背ける。それは本能に等しい。が、ブリタニアはそれが特にひどいとライルは見ていた。『人は平等ではない』、それは事実だろう。極端に言ってしまえば、身長一つとっても違う。
だが、その不平等をブリタニア人特に貴族が『ブリタニア人だけが上にある』と錯覚して一般人にもそれが伝染している。酷ければ最初からブリタニア人が特権階級と思い込んだ挙げ句にエリアに住ませてやっている恩を忘れている。などという貴族までいた。斬りたい衝動を我慢するのに苦労したものだ。だから、ライルは自分でその不平等のカウンターも模索して、その答えが『フォーリン・ナイツ』だ。
実際に彼らは着実に成果を挙げている。だが、ブリタニア人は自分達がやれば正当なものになるような不正をナンバーズが実力で上がれば不正扱い。
奴らの頭はそういう風にできているのだ。
「私に言わせれば、100m走でナンバーズが100mで自分達は10m。それを100m走と言い張っているようなものだ。それで、ブリタニア人が上だなどと言う。」
「……つまり、そういう条件でしか勝負する気のない臆病者集団だと?」
いつものやりとりで、フェリクスが窘めるような問いをする。
「言いたくもなる。違うのなら、やってみろって。だが…」
「どうせ、普通にやってもドーピング扱いする。ですか?」
「特に貴族共はな。実例をうんざりするほど見ている。」
無茶なことくらいは分かっている。だが、ライルはブリタニア人が必ずそう言うと決めつけていた。そうした手合いばかり見てきたからだ。
それにしても……シュナイゼルはともかく、皇帝は今回の一件に対しても特に言及しない。いや、あれはむしろ無関心と言っても良い。
「殆ど公の場に顔を出さない。いったい、何を狙っている。」
フェリクスは呆れるが、同時に危惧する。あの反乱事件……いや、処刑とレイの叙任式以来、ブリタニア人不信がより悪化している。ジュリアの事件でも露骨に交際や結婚を申し込まれたこともあり、逃げるのに苦労していた。
今回の件で、無理やり有紗の交友関係をこじつけるのは無理だけど……
この人のことだから、やるって決めつけるんだろうな。
しかも、本当にそういう手合いが出かねないのがこの国だ。そして、長野達残留組の家族にもだ。
ライルは言い聞かせているが、仕方ない。こちらも手を打とう。事後承諾という形で協力企業や政治家、その提携するブリタニア企業、内政省に要請しておくか。
特に、長野は能力的にも人格的にも欠かせない。彼の家族に何かあり、それが彼の離反につながれば『フォーリン・ナイツ』の指揮官どころか幕僚候補まで抜けて手痛いマイナスになる。
今回の成果を評価し、秀作は二階級特進で少佐。クリスタルも騎士候から正式に男爵に、雛も中尉に昇進。新兵以外の隊員たちも一階級昇進だ。
そして、今回長野は今回の貴族達の逮捕に尽力。その指揮能力を認められ、長野もまた二階級昇進で一機に准将になった。
貴族達は良い顔をしなかったが、その貴族の一部が機密漏洩とその犯人たちの国外脱出に協力し、逮捕したのだ。いわば、貴族達の恥を雪いだ。
なればこそ、相応の褒賞を与えるべきであると。植民地政策に協力する軍人さえも、働きいかんでは出世できるというアピールも含まれていた。
『タレイラン』の事件に続き、今回の成果でライルの名誉騎士団と平民達をよく思わない声はもうほとんど上がらなくなった。これ以上、文句を着ければ逆にライルの心象を悪くする。それでまた、ライルが功績を挙げさせようと動いてしまう。かといって、不用意に何か仕掛ければライルに返り討ちに遭うし、成功しても報復の恐れがある。
結局、『もう分かったから、暫く大人しくしていてくれ。』という形をとることになった。
一連の昇進を認めたシュナイゼルだが、ライルは長野については少将までの昇進を求めたが、少佐や中佐の在任期間が短すぎるのに、大佐を超えて准将だ。これ以上は逆効果になるとシュナイゼルが諫め、幕僚の空席を空ける意味でも長野は准将でも充分だと言い聞かせて、ライルを納得させた。他の幕僚達も今回の件で昇進し、長野はライル軍の幕僚達の末席に立った。末席でも皇族の軍の幕僚ともなれば、大躍進だ。
「これだけの成果を挙げたし、スレイター卿のような混血を起用するというブリタニアの姿勢を知らしめることもできた。」
「ええ、保守的な勢力も当分は大人しくされるでしょう。問題はライル殿下の母君ですわね。」
「ああ……あの方には私から言い含めておく。」
シュナイゼルが?カノンでなくても、ここは息子のライルがと思うだろう。
「ライルでは、むしろ逆効果だ。例のお嬢さん達が息子を誑かしたなどと思い込んでしまう。」
「…それで、ライル殿下に逆襲されて余計な混乱を招いてしまう。それを防止するのですね。」
確かに、シェールは田舎貴族であること以上にあの言動と態度が嫌われる要因だ。本人は田舎貴族の生まれにコンプレックスがあり、それしか見ていないようだ。
付け加えれば、これ以上やればライル殿下ご自身も暴走する備えでしょうね。
ただでさえ、まだライルは荒れているのだ。当分は公務から外すべきだろう。名目は連戦と反乱事件の長期療養だ。既に彼の部下達からの上伸もあった。
秀作達の躍進を納得しない新兵達に実力主義の意味を教えるための模擬戦では、新兵達は惨敗を喫した。当然の結果と言えば当然だ。訓練は積んでも実戦経験が圧倒的に不足している。
全ての敵がシミュレーター通りに動くとは限らないし、シミュレーションと同じ要領で勝てるわけがない。現場の感覚を限りなく実戦に近い形式で教える意図があった。
二度の彼らの働きと今回の惨敗で、新兵達の根拠のない自信は抑えられた。何より、ライルの幕僚のトップのゲイリーがこれ以上は実戦で成果を挙げろと言った。
そして、今回ライルに協力した情報部のグレイブ・ガロファーノ……ライルが学生の頃に特別講師としてKMF訓練を指導した彼がこういった。
「誰だって最初はゼロからスタート。最初から、名将だの高名な騎士じゃないんだ。コーネリア皇女殿下やシュナイゼル殿下だって、ご自分の働きで内外にその名を知らしめた。ライル殿下もその階段を上っているんだ。」
それが一番聞いたようだ。家柄で多少はペースが上がっても、実力が伴わないと意味がない。何人かの仲間が死んで、それを思い知ったのもあるだろう。
その経緯を聞いたライルは個人的に敬愛する教官の説教を『自分も聞きたかった』と羨んでいた。
貴族の欲望に振り回されていたライルですが、今回は振り切った上にリークした奴ら全員ふん捕まえました。
貴族達も今度ばかりは折れて、『もう文句言わないから、暫く大人しくしてくれ』です。