ニイガタを片づけた五日後……ライルはエリア11、より正確にはトウキョウ租界にいる名誉ブリタニア人の兵士達を集めた。特選名誉騎士団『フォーリン・ナイツ』の選抜試験である。事前に通達しており、歩兵の任務で相応の成果を挙げている者達及び訓練のシミュレーターで適性の高い人間に絞っている。
「第八皇子ライル・フェ・ブリタニアである。先日、通達したように君達を対象に我が特選名誉騎士団『フォーリン・ナイツ』の選抜試験を行う。この試験に合格した者は、准尉待遇として迎える用意がある。」
選抜された兵士達がどよめいた。当然だ、いきなり下っ端から下士官でKMFのパイロットになれるのだ。この上ない、出世のチャンスだろう。
「ただし、過去にこの試験で全員が不合格だったというケースもある。そこだけは留意して貰いたい。」
つまり、ここにいる全員が不合格になる可能性もある。とはいえ、チャンス自体はほぼ平等なのは疑いようがなかった。
「とはいえ…やはり、な。」
「ええ…指揮官を務められる者がいるかは。」
そう、『フォーリン・ナイツ』のアキレス腱は隊長の不在だ。無理ないと言えば無理ないのだが、全員が命令されて動くタイプ。命令を下せるタイプ…中級クラスの指揮官がいないのだ。
現在はライルが隊長を兼任する形を取っているが、やはり同じナンバーズ出身者の方が彼らも抵抗はないのでは?というのが全員の一致した見解だ。
「そもそも無理があった話ではありますね。」
「いっそのこと、戦術シミュレーションで試験をしますか?」
幕僚の意見にフェリクスが付け足すと、ゲイリーも「他にあるまい。」と頷いた。
こうなってしまった以上、現状の隊員達に戦術シミュレーションをやらせて、その上で鍛えるしかない。小隊規模で行動することを考えれば、戦術シミュレーションや軍学校の戦術教本の訓練を付け足した方が良さそうだ。
今のところ、全くできないというわけではないが任せるにはまだ能力面で不安が残る。最初にそうしなかった自分の見通しの甘さを痛感させられた。戦術シミュレーションなりで訓練を増やした方が良いだろう。
選抜試験には多くのブリタニア人兵士が立ち会っていた。無論、全員が『身の程知らず』と言っている。
「ブリタニアの技術の象徴たるKMFをイレヴン如きが動かせるものか。」
「あの枢木スザクとて、同じ事。我々でも出来ることだ。」
「いや、ゼロと内通しているのさ。」
等と陰口が叩かれていた。本人が近くにいるのを分かって。
「スザク君、相手にしちゃ駄目だから。」
「いえ、馴れています。」
セシル・クルーミーに窘められながらも、枢木スザクも興味はあった。
第八皇子殿下の名誉騎士団、か。もしランスロットに乗っていなかったら、僕も呼ばれたのだろうか?
政庁にある人物が訪問していた。イレヴンだが、案内の兵士も普段とは違いある程度礼節に則っている。それもそのはず。
彼は山本秋水……和平派として『極東事変』でのブリタニアへの無条件降伏を受け入れ、市民への被害を抑えようとした日本政府の文部科学省で政務官だった人物だ。現在は同じ和平派の官僚と共に植民地政策に協力し、内政省の管理下でゲットーの再開発や教育の建て直しに力を入れている。
当然、イレヴン達からの評判は最悪で彼を名前から取って『汚水』などと揶揄する声もある。しかし、彼の護衛となっている旧日本軍人、長野五竜大尉のように彼のような人物が降伏を受け入れなければ、更に多くの市民が犠牲になっていたかもしれないと考える者も少なくない。
「本日は、政庁で何かあるのですか?妙にざわついておりますが。」
「はい…現在このエリア11を訪問している第八皇子ライル殿下をご存じですか?」
案内の兵士は素っ気なくも問いに答える。
「ええ、存じ上げております。確か、『堕ちた騎士達』…『フォーリン・ナイツ』と呼ばれる名誉ブリタニア人だけのKMF隊を指揮しておられるとか。」
「その通りです。その選抜試験の模擬戦を行うのです。」
スキンヘッドが特徴的な長野五竜大尉はその選抜試験とやらに興味を抱いた。
「見学させていただくことは可能でしょうか?」
「興味がおありか?」
「ええ、戦争でグラスゴーの脅威を目の当たりにした身の上では。一介の軍人としても興味をそそられます。」
兵士は数秒の沈黙の後……
「ライル殿下に通達はしてみよう。」
リストの中に、ライルが今のところ興味を抱いているのは一人だけ。『極東事変』以前から日本軍では最高の将軍と言われた畑方源流の孫、畑方秀作だ。戦後、名誉ブリタニア人として入隊したが彼は反ブリタニア勢力への敵意が常軌を逸していて、聞いたところによれば白兵戦でテロリスト達を騙し討ちも用いて全員殺したとか。
名将の孫がブリタニア軍に……首相の息子である枢木スザクに並んで興味を引かれた。そして、同じく植民地政策に協力する武石財閥の子息。彼は実家の方に呼び出されてしまい、今回の選抜には不参加だ。協力企業とのパイプも欲しかったが、今回は仕方ないだろう。
「はあ……枢木スザクは是非とも欲しかった。」
「シュナイゼル殿下の直属では手が出せませんね。」
エクトルが言うように、現在彼はシュナイゼル直属のKMF開発チーム…『特別嚮導派遣技術部』、通称『特派』が開発した第七世代KMF、Z-01ランスロットのテストパイロットだ。ランスロットのスペックも見たが、サザーランドどころかグロースターすら遙かに凌ぐスペックだ。
現在のブリタニアで匹敵する機体があるとすれば、E.U.方面に侵攻している貴族軍…『ユーロ・ブリタニア』と名乗るようになった方面軍で開発中とされる新型と、本国のシュタイナーコンツェルンが開発しているブラッドフォード、皇立KMF技研で開発しているゼットランドと言った一部の工廠で開発中の試作機の類だろう。
そして、最低限の訓練を積んでいたとはいえ初陣のシンジュクでテロリストに奪われたサザーランド部隊を単機で撃破したとは。とんでもないものを開発してくれるし、いきなりそれを乗りこなす人間も規格外だ。
「アレを量産化したら、私も一パイロットとしては乗りたいね。グロースターですら今の改良でやっとなんだから。」
そう、ライルにとってランスロットそのものとまでは行かなくてもそれに近いKMFが欲しいのだ。とにかく、ライルの反応速度は並の騎士を遙かに超えており、数字だけで言えば枢木スザクと同等だ。それ故、軍学校時代はシミュレーターの反応が遅すぎるから本物のグラスゴーと同じレベルを要求したら、『オリジナルのグラスゴーと同じレベル』と言われた。
「ランスロットの開発は、私にとっても嬉しいね。まあ…枢木スザクにも興味はあるけど。」
「そろそろ行ったらどうだ?」
セヴィーナに促され、グロースターに乗り込もうとすると…幕僚から通信が入った。
「どうした?」
〈殿下、内政省の管理下でゲットーの教育部門を担当する山本秋水政務官が訪問しておられるのはご存じですか?〉
山本秋水……確か、自治を司るNACとは別に植民エリア政策への協力を申し出た旧日本政府の官僚達の一人。
「ああ、知っているが…挨拶に伺う。」
こちらの植民地政策に協力してくれているとなれば、会わないわけには行くまい。
〈いえ、彼の護衛が見学したいと……それが、旧日本軍人なのですが。〉
旧日本軍人?確かに、NACや旧日本政府の官僚達の護衛に和平派の日本軍人がいたことは聞いているが……
「………分かった。で…監視は付けるのか?」
〈そうなります。〉
「やはり…そうなるよな。分かった…その人物の名前は?」
〈旧日本陸軍、長野五竜大尉です。〉
長野五竜大尉……か。
「長野大尉、許可が下りた。監視付きではあるが、そこは了承して頂けるな?」
「それが当然でしょう。」
案内され、長野は比較的見晴らしの良いスペースを提供された。そこへ…
「ん?あそこにいる少年…名誉ブリタニア人で………まさか、枢木スザク一等兵ですか?」
「ああ、その通りだ。」
驚いた……別に面識があるわけでは無いが、軍に復帰できたのか。それに少し違う制服を着ている。
「そろそろ始まるぞ。」
選抜試験は基本的に一対一。勝敗は問わず、戦闘内容重視とされている。ライルはグロースターで、武器はランスとライフルを模擬戦仕様にしている。相手はサザーランドで武器はライフル以外にランスとトンファーと基本武器を全て揃えさせた。基本は同じ機体を交代で乗り回すが、予備機は用意している。
「遠回しに自分は負けない、と言っているな。」
傲慢とも言われそうだが……
「でも、経験はあるんでしょう?それに、武器ならライル様は不利だから……一応ハンデが着いているのでは?」
有紗の問いに、熟練のセヴィーナが答える。
「まあ、な。だが…武器が多いからと言って油断するなとも言える。」
最初の一人…いきなりランスで突っ込んだ。ライルは構えていたが動かず、距離を詰めたところでランスを持った腕を柄で殴りつけ、体制が崩れたところでコクピットを撃った。
「…不合格。次。」
二人目はライフルで距離を取る戦い方だ。しかし…ライルは距離を詰め、スラッシュハーケンでライフルをはじいてそのまま急接近、ランスを捨て、スタントンファで殴りかかった腕を掴んで逆に投げた。そのまま、自分のランスをコクピットに突き立てた。
「不合格。次。」
三人目はフルスピードでトンファーを構えて突っ込んできた。だが、動きがまっすぐすぎた。直接腕を狙わず、ランスで足を払って終わりだ。
四人目、五人目もさほど変わらない。ブリタニア人達の嘲笑が響き渡る。
「6番、畑方秀作!」
「は!」
さて…どうなるか。流石に名将の孫だから、なんてことはそうそうないだろう。
相手は、ランスを構えて突進すると思われたが横へ移動した。こちらもそれに合わせてにらみ合う。
間合いを取っている……いや。
「時計回りに少しずつだが距離を詰めている。第八皇子殿下もそれに気付いておられるのでしょうか?」
「気付いているだろう…あのイレヴン、こざかしい真似を。」
長野五竜はあの六番目の候補……畑方秀作の動きを見た。こざかしいと言えばこざかしい。だが、相手が格上で自分が付け焼き刃、それも力任せでは勝てないのを分かっている証拠だ。
ライルの名誉騎士団は基本的に殆どがたたき上げだ。その部隊の一員として一体どんなのがライルの目にとまるか興味をそそられたダールトンとギルフォードも見物に来ていた。
「これまでの五人は、やはり付け焼き刃ですね。あれでは採用してもすぐに死んでいたでしょう。」
「だが、あの男は少し違うな。相手が格上なのを分かって、少しずつ距離を詰めている……まるで、獲物の隙を窺う狼だな。」
……名誉ブリタニア人でありながらイレヴンへの敵意が尋常ではなく、クロヴィス時代は『純血派』の牽制に名誉ブリタニア人制度を利用していたバトレーやその『純血派』も持て余していた男がいると聞いたが、あの畑方秀作という男がそれか。
「距離を詰めてきたか……それなら!」
相手を追う形でライルはグロースターを走らせた。相手も反応し、後退するがやはり基本スペックに加えてリミッターを外されたグロースターに追いつかれる。が、それすら利用してグロースターのランスを突き出された瞬間に左腕のトンファーでランスを受けながす。トンファーを破壊されるが、後退していたことが勢いをやや殺し、ランスを捨てて自由になった右の拳で殴りかかった。拳がグロースターの頭部をかすめ、二機はそのまますれ違う。振り向きざまにライフルを構えるが、ライルが早かった。ハーケンでライフルを弾かれ、ランスを突きつけられた。
「畑方秀作……合格だ。」
会場がどよめいた。
「殿下、その男は負けたではありませんか!」
貴族の兵士達が抗議するが、立ち会っていたギルフォードが間に入る。
「待て!この選抜の試験官はライル殿下が直々に努めておられる!」
「ギルフォード卿ともあろうお方がイレヴンの肩を持たれるのですか?」
「それはこの場では関係ない。そもそも、ライル殿下は勝敗ではなく戦闘の内容で決めると仰っていた。少なくとも、彼は不合格になった五名よりは良い戦いをしたと私も評価する。」
流石にコーネリアの騎士が言うと違うようだ。文句を言っていた兵士達もいったんは黙った。
畑方秀作は合格したことには内心で、驚いた。が、秀作にとっては渡りに船だ。復讐のためのよりよい力が手に入る。
「拝命します。」
フェリクスは驚いていた。本格的にKMFを動かすのは今回が初めてで、あそこまでやるとは。逸材かもしれない。次は川村雛というイレヴンの少女。右目を隠した特徴的な髪型だ………
今度はライフルを積極的に撃っているが、かわされ続ける。ならばと、ランスで突進した。グロースターが迎え撃とうとした瞬間、急停止してライフルを再度発射した。
ライルも反応が早く、射撃を回避した。
「フェイントをかけた……!」
その回避されると今度はその移動先にハーケンを撃った。が、ライルもハーケンで相殺…否、逆にサザーランドを攻撃した。
「移動先を読んだ……勘は良い方ですね。」
これは…ほぼ合格だな。
ライルは左右に激しく移動し、距離を詰めていく。川村雛は距離を詰められると、ランスで迎撃しようとするがライルがフルスピードで突っ込み、それによってタイミングをずらされた。結果、ランスを突きつけたライルの勝ちだ。
「川村雛……君も合格だ。」
ライル・フェ・ブリタニアの宣言を聞き、川村雛は唇をつり上げた。
ラッキーだわ、これで給料が上がって生活が良くなる。たっぷりと搾り取ってあげるわよ…殿下。
雛にとっては正に渡りに船だ。下士官それもパイロットとなれば収入は大きくなる。雛にとって大事なのはそれだ。
「光栄です。」
「あの子も合格……」
だが、スザクは先ほどの畑方秀作と川村雛は個人的に嫌いだった。さして顔を合わせたわけではないが、前者は任務を言い訳にしてテロリストへの容赦の無い殺戮…協力していたゲットーの住民も子供すら容赦なく殺している。後者は自分が生き残るため、他の名誉兵士を盾にしたなどという悪い噂があり、同じ名誉ブリタニア人の歩兵隊でさえ関わりたがらないほどだ。
もし、事実であれば二人はライルに害しかもたらさないのではないか?
「あんな二人が加わって、大丈夫なのか?」
以降の候補者の内、何人か合格者は出た。二人には及ばないが、中島京子という女性も中々の腕だ。全員不合格を期待していたブリタニア軍兵士にとっては不快極まりない展開だ。
「気に入らぬと言いたそうだな。」
「ダ、ダールトン将軍。」
「なら、お前達が実戦で戦果を挙げれば良いだけの話。少なくとも、あの名誉騎士団はそれによって現在の立場を築いている。」
ギルフォードに続き、ダールトンにまで言われて黙るしかない。
ふむ……枢木スザク以外にも中々の逸材がいるものだ。特に、畑方秀作と川村雛……ブリタニア人であればKMF部隊に編入していたな。
聞くところにいれば、精神面で二人ともかなり危ういものがあるが…それさえ鍛えればものになる。
「人財マニアのライル殿下にとって、正に名誉ブリタニア人制度は宝箱……いや、びっくり箱かな?」
ライルは合格者にはある程度満足した。が……先ほどから見学しているという日本軍人を機体のカメラをズームにして見つけた
スキンヘッドの屈強な男だ。今は普通のスーツだが、流石に軍人と言うだけあって体格ががっしりとしている。
「長野五竜大尉……興味がおありなら、一戦いかがです?」
名指しで呼ばれ、流石に当惑するのが見えた。
〈しかし、殿下……私にKMFの騎乗経験はありませんが?〉
「分かっている…最低限の操縦方法はこちらで教える。」
興味をそそられた……陸軍の大尉となれば、小隊か中隊の部隊指揮の経験がある。しかも現在の勤め先の護衛でとはいえ政庁に来ているとは。
長野は困惑し、監視役の士官に問う。
「皇族の方はあのような冗談も窘められるのですか?」。
「さあな……だが、少なくともあの方は冗談で先ほどのようなことは口にされぬ。むしろ、酔狂であるからこそ名誉騎士団などというものを設立されたのだろう。」
が、軍人として興味はそそられる。グラスゴーをより改修したサザーランド、否KMFを実際に操縦してみたい。嘗て、日本軍の戦車部隊を蹂躙したあの兵器を。
「到らぬ身ですが……お受けいたします。」
エナジーフィラーの交換と簡単な休息を兼ねた一時間後……長野も同じ装備でライルの前に立った。
〈操縦方法は大丈夫だな?〉
〈ええ、問題ありません。〉
ゲイリーはライルの狙いがおおよそ読めた。おそらく、彼を引き抜くつもりだ。例えKMF部隊では駄目でも、名誉ブリタニア人部隊を統率する人間をライルは前々から欲していた。だが…流石に政庁という枠でそんなものはいない。いたとしても服役中だし、めぼしい人材ほど既に墓の下だ。
植民地政策に協力している軍人達もデスクワーク系が多く、前線指揮官タイプは殆どが反ブリタニア勢力に流れている。
日本が余力を残したまま降伏した分…流れる人財も別れた、ということかな?まあ、殿下のお眼鏡に適わなければ意味は無いが。
日本政府の官僚達は収容されているようですが、流石に全員はないでしょう。積極的に政策に協力を申し出た政治家は監視は厳しくても頑張っていると思う。でないと植民地政策だって立ちゆかないはず。
そんなイメージで山本秋水を出しました。しかも、教育というあの後の日本で重要なファクターの一つ。
でもって、期待を裏切らないブリタニア人共でした。コーネリアでも当てにしないでしょうね、こんなのは