元々、恭順派の日本軍人がいても良いと思って考えたのです。
開始された模擬戦……長野は慎重になっていた。相手はKMFの本職パイロット、しかも歴戦のブリタニア皇族だ。対して、こちらは実戦から離れている上にKMFの騎乗は今回が初めて。
何故、私にお声がかかったかは分からぬがやるからには勝つ。
ランスを構えながらも、ゆっくりと移動させる。ランドスピナーを使わず、足を使って。
素人の分析だが、今までの試験の様子から彼は機動力を活かした接近戦が得意のようだ。機体性能も上。ならば、同じ土俵で勝負したところで勝ち目は薄い。
「ほう…流石に本職なだけある。間合いの取り方も慎重だ。」
「ですが、あのまま膠着状態が続いても勝てません。」
ダールトンとギルフォードも少し興味を抱いた。『日本解放戦線』などの反ブリタニア勢力に参加せず、和平派の派閥で植民地政策に協力している軍人。
騎乗経験が無いとはいえ、KMFでどんな戦い方をするのか興味があった。
このまま膠着状態が続けば……おそらく、これは先に動いた方が負けだ。だが………
誘いに乗ってみるか!
ライルはグロースターのライフルを撃った。サザーランドは後退し、左右に動く。こちらの射線を予測し、上手く躱している。
上手い!これで騎乗が初めてとは!
畑方修作と川村雛もだが、彼もまた…
なら、これはどうだ?
ライフルを下げ、ランスで接近戦を仕掛ける。突き出したランスを長野がランスで受けとめる。否、パワーで押し切られたのを逆に利用した。
ランスを落とされるのに合わせて手放し、トンファーで反撃する。ライルもそれに反応し、ランスを手放して機体を後退させ、ハーケンを撃つ。長野はトンファーではじき返し、しかもライルのランスを背に取って、自分のランスは拾っている。
ライルは舌を巻いた。まだぎこちなさはあるが、こちらが機体も腕も勝っているのを逆に利用している。
「うまい……相手のパワーを利用して得物を落とさせたタイミングで格闘戦を仕掛ける。その上で間合いを取らせて自分は得物を回収する。」
「ナンバーズの分際で……といいたいが、あの男の旗下ではそれも今更だしこれは文句の付けようがない。」
ライル軍の騎士や幕僚達もフェリクスとセヴィーナと同意見だ。
「ライル様……」
有紗だけは不安そうな顔をして、固唾を見守っていた。
「貴様、卑怯だぞ!殿下の得物を拾えないようにするなど!」
「なんという恥知らずか!」
外野が騒ぎ立てるが、二人の耳には入らない。ライルはこの状況を打破するためにはこのまま弾切れを待つか、或いは突っ込むの二択だ。弾切れになれば、確かに隙は見いだせる。だが、ここは!
敢えてライルは突っ込んだ。
ライフルを斉射しながら突っ込むその動きに相手は僅かに怯み、その隙を突いてハーケンを発射する。ハーケンでサザーランドはライフルを弾かれ、ライルは更にスピードを上げる。
サザーランドがランスを構えるが、ライルはランスを突き出すその瞬間を見逃さなかった。ランスを持った右腕にハーケンを発射し、構えを崩した。その隙を逃さずに背後に回り、ライフルを構える。が、サザーランドもそれに反応して左腕のトンファーを振るった。
ライフルもトンファーも、相手に当たる前に止まった。引き分けだ。
周りが沈黙する中、ライルがコクピットから出てくる。
「見事だ、長野五竜。」
「いえ、皇族の方とお手合わせいただき、光栄です。」
長野五竜がサザーランドから顔を出した。
「実際に乗って、分かります。貴族の…将兵の生存率を上げてかつ戦術的な幅を広げるこのKMFは画期的な発明です。当時、ガニメデという試作機を無意味なアピールと軽んじていた我が日本が負けたのは必至だったのでしょう。」
自国の不見識を、たかが一士官とはいえここまで堂々と認めるとは。
一部の将官はその態度には感心していた。しかも、ライルの親衛隊はともかくダールトンとギルフォードが拍手を送っていた。
「これは……殿下が惚れたな。」
「ええ…全く、我々の苦労がまた増えます。」
ゲイリーは先の展開が読めた。ライルはほぼ確実に、山本秋水やコーネリアに掛け合うだろう。あの長野五竜を軍に欲しいと。とはいえ、本職の軍人ともなれば『フォーリン・ナイツ』の運用の幅も広がるし、階級も大尉となればある程度の指揮経験もある。そちらの観点でも、欲しい人材ではある。
3日後……山本秋水の元を第八皇子ライル・フェ・ブリタニアが訪問した。
「皇室御自らこの様な場所においでになるとは。」
「いえ、我が国の政策に協力してくださっているのですからこの程度は…」
内政省から通達があったときは耳を疑ったが、本当に来るとは。直接会うのは初めてだが、随分と腰が低い。支配者なのだから、こちらを呼びつけるのが普通。まして、皇族なら多忙だろうに。
「それで、殿下はどのようなご用件で?」
「はい……単刀直入に申し上げます。貴方の護衛を務める、長野五竜大尉を我が軍に加えるため、まず貴方のご了承を頂きたいのです。」
山本は驚愕した。今、何と言った?私の護衛役の彼を、引き抜きたい?
「理由をお聞かせ願えますか?」
「最大の理由としては、私の名誉騎士団の指揮官が欲しいのです。この様な方針で、しかも今まで各エリアを回ってきても軍人は反ブリタニア勢力に回っていました。」
「それが当然でしょうな。『日本解放戦線』が分かりやすい例です。」
とはいえ、それは総じてめぼしい軍人が……と言った方が良いのだろう。
「その中で、長野大尉は貴方のお眼鏡に適ったと。」
「ええ……KMFの操縦技術という観点でも、あれは『ナイトオブラウンズ』かその直属部隊になれると私は評価しています。」
帝国最強の十二騎士『ナイトオブラウンズ』……その直属部隊ともなれば皇族の親衛隊に並ぶエリート中のエリートだ。今後の植民地政策で少しでも日本人達に損がないように計らって貰う意味でも、本国に少なくない味方がいて且つ各エリアの恭順派および植民地政策に協力している企業と接点を持つ要人とのパイプは作りたい。企業家タイプに見えるクロヴィスが山本としては最も望ましかったが、彼は暗殺された上にコーネリアは国是に厳格、かといって素人のユーフェミアは論外だ。その意味では、エリア制度の改善を唱える彼に貸しを作っておくのもありだろう。とはいえ……
「日本政府の人間としては、身に余るお言葉です。分かりました、私の方からも総督へお伝えします。ですが、本人が拒否されればそれまでですよ?」
全てのブリタニア人がそうだと言うつもりはないが、やはり皇族。下手な気紛れで処断するタイプではないだろうが、ここは譲れない。
貸しを作っておきたい、とでも考えているのだろうな。まあ、こちらとしても名誉制度の拡大やナンバーズの人権を向上させる案件を作る意見役は欲しい。
「ええ、承知しております。こう言っては何ですが、家庭の事情を初め、酷ければ私個人を信用できないという理由で辞退されたこともあります。」
「被支配層の立場で言わせてもらうと、どちらもまた当然でしょう。まして……ブリタニアのような厳しい身分制度のある国家であれば尚のこと。」
「その身分制度の恩恵に少なからずあずかっている身としては、耳が痛いですね。」
それから、30分ほど討論を交わしてライルは退室した。これで、何とか最低限のラインは作れた。後は本人と、コーネリアだ。まあ、コーネリアは恭順政策を推し進める一環にもなるというシュナイゼルや本国の官僚達の意見に耳を貸す器量も十分にある。彼女個人の考えは別になるが……
長野五竜は山本に呼ばれた。何でも、先日手合わせを申し出た第八皇子が率いる名誉騎士団の隊長として自分を欲しいと言っている。
「何かの間違いでは?」
「そう思いたいのは分かるが、事実だ………」
あまりにも急な話だ。まさか、ブリタニア軍からそれも皇族が自分を部下に欲しいなどと。まして、和平派とはいえ日本軍人を。
「ライル殿下は各エリアで名誉ブリタニア人制度の採用範囲の拡大や一般ナンバーズの人権向上、就職率や生活環境の改善を呼びかけておられる。この騎士団もモデルケースの1つと聞いている。」
なるほど……忠誠心を示せば日本軍人さえも起用するブリタニアの器量を示すアピールにも使える。あの枢木スザクも軍にいるとはいえ、技術部では流石に日の目を見るのは難しいだろう。
「昨日、政庁からも通達があり既に制服や搭乗するKMFの手配も済んでいる。君が了承してくれれば、いつでも届けられる。」
話が早い……どうやら、是が非でも自分が欲しいようだ。あの戦争で長野の陸軍部隊は主に市民の避難が主任務だった。ブリタニアの部隊とも交戦したと言えばしたが、グラスゴー三機に手も足も出ず……地雷や建物などを利用してやり過ごし、戦車を囮に歩兵部隊のバズーカで足を止めて追撃を蒔いた程度だ。しかも……部下の一部のカミカゼを止めることが出来なかった。
枢木首相の自決で軍と政府が混乱する中、長野の部隊には和平交渉を行う官僚の護衛任務が言い渡された。その和平交渉に参加する官僚の中に山本がいた。この混乱が長引けば、間違いなく日本中が火の海になる……そうすれば妻の君子も娘の絵里も殺される。そして、それだけ多くの市民が……
だから、長野は売国奴と罵られる道を選んだ。国の尊厳より家族や国民の生命を選んだのだ。
流石に降伏後は尋問を行われたが、和平派であったことが幸いして2ヶ月の拘留を経て釈放…日本軍と政府の計らいで保護された妻子とも再会できた。以後、娘が名誉ブリタニア人として生きられるようにするためにも今の仕事を取った。
それが……今度は……………
「私個人としては…君にこの話を受けてもらいたい。この件で皇族とのパイプを作っておけば、恭順を推し進めるモデルケースを作れる……それに…………」
「それに?」
「反ブリタニア派の間でキョウトと呼ばれる支援組織がNACであるとの噂があるのだ。十中八九、私は事実だと思っている。」
キョウト……テロリストの間でそう呼ばれる組織があるのは聞いている。旧式のグラスゴーを政庁から横流しするだけの組織力と資金力、政治力があるとすればNACもしくは山本のような恭順派政治家だ。
なるほど……ここで何らパイプを作らないまま、NACが潰れたら辛うじて生活できるレベルであるゲットーが壊滅的打撃を被る。少しでも、その保険をかけておきたいのか。そして、結果としてそれが家族の生活のために繋がるのならば……
「分かりました……その話、お受けいたします。」
「感謝する。」
『黒の騎士団』ではナリタ連山を脱出して以来、ブリタニアも行方を追っている藤堂鏡志朗とその直属『四聖剣』の消息を追っていた。
団員達の意識はナリタである程度戦争をする意識へ持っていくことは出来た。が、やはり素人なので本職の軍人である彼らは欲しいところだ。
「あの……ニュースでちょっと変わったことが出てきたんです。」
声を上げたのはブリタニア人の少年だ。ラルフ・フィオーレ……ナリタのしばし後、情報担当のディートハルト・リートに続く形で加入したブリタニアの少年だ。何でも、貴族が起こした事故で責任を全て押しつけられ、死んだ両親の保険金などの殆どを巻き上げられたそうだ。一人で生きていける額を残してくれたのは温情のつもりだろうが……その事故自体は貴族に責任がある。だが、事故で死んだ貴族が跡取りであったため、腹いせ同然にラルフの両親の保険金を奪ったのだ。
そうした搾取を覆す手段を求め、ラルフは『黒の騎士団』に来たのだという。現在は新人として研修中のようなものだが、扇に懐いているようで専ら扇が面倒を見ている。
「何かあったのか?」
「はい、第八皇子ライル・フェ・ブリタニアのニュースで……租界でもたまに聞く名誉ブリタニア人の騎士団に新しい人材が入ったみたいなんです。素性は公表されなかったんですけど…」
「ああ…その話なら俺も聞いている。」
「そのニュース、1つだけ面白い情報がありますよ。」
ディートハルト・リートだ。ナリタ連山の情報を提供した人物でもあり、先日のコーネリアと『日本解放戦線』残存勢力の事件も彼の情報で介入できた。
「特選名誉騎士団『フォーリン・ナイツ』の隊長がようやく見つかったとか?」
「隊長が…って、今までどうやって?」
「ライル自らが隊長代行を務めていたのです。問題はその正式な隊長。」
どんな人物が、隊長になったんだ?
「旧日本政府の文部科学省政務官で和平派の重鎮山本秋水の護衛官…長野五竜旧日本軍大尉です。」
「なんだと!?日本軍人のくせに、ブリタニアに尻尾を振ったってのかよ!!」
玉城が憤慨するが、ディートハルトは続ける。
「彼は、戦時中に和平派の山本の護衛でもありました。……和平派となれば、名誉ブリタニア人達の心理的抵抗も弱いでしょう。」
「…その人、家族はいるんですか?」
「ええ、妻と娘の三人家族……おそらく、妻子の生活や山本自身の政治的思惑もあって彼はこの要請を受けたのでしょう。」
「政治的には間違っていない………植民地政策に協力する形で、ブリタニアから更に多くを引き出す。そして、他の国が植民エリアとなった場合においても協力企業とのパイプを作れるし、先達として優位に立てる。」
ゼロのおおよその分析を聞き終えると……
「ゼロ!そいつら、ぶっ潰そうぜ!!どうせ、家族とかで脅迫されてるんだ!でなきゃ催眠術でもかけられてるんだ!!名誉の奴らもそいつに操られているに決まってる!!」
「ああ、彼らを救い出せば俺達の支持も大きく上がる。」
「それに、ブリタニア軍として鍛えられた彼らがいれば戦力も上がる。」
玉城に続き、杉山や吉田も同調するが…
「ちょっと待て!相手は正規軍だ!ナリタのような作戦も無しに、正面から戦って勝てるわけがないだろう!」
扇が仲介する…だが、カレンも玉城よりだ。
「でも、扇さん。脅迫されているとしたら…何とかしないと!」
そこへ、ラルフが割って入った。
「カレンさん、日本軍人だから脅されているって言うんですか?失礼ですけど……それは根拠になってません。ただのこじつけです。」
「ああ…ラルフの言うとおりだ。それに、話が反れている。とにかく、藤堂中佐がブリタニアに寝返ったという類じゃなかった……それでも由とすべきだろう?ゼロ。」
「そうだな……少し席を外す。」
ゼロが退室し、全員が一息つく。
「ふぃー、しっかし名誉騎士団だぁ?捨て石のくせにご大層な名前付けやがって!」
「いえ…それがネットで公開されている限りの情報だとそういう考えじゃなくて、本当に彼らに実績を挙げるチャンスを与えているんです。」
「オークションの時にもゼロが言っていた…恭順政策と、名誉ブリタニア人の成功例としてのモデルケース作りか。軍を率いているのならば、確かに一番手っ取り早い。まあ…この話はここまでにしよう。」
「ああ…………つうか、ラルフ…お前随分と扇に懐いてんな。そっちじゃねえだろうな?」
「違います……というより、美人に手当たり次第手を出しそうな玉城さんに言われたくありません。」
「んだと!?」
「カレンさんから聞きましたよ?新人を飲みに誘って、挙げ句組織のお金を勝手に使ったって。会社なら横領でクビの上に逮捕ですよ?」
「ぐ…!誤魔化すんじゃねえ!そっち系じゃねえんなら、なんでべったりなんだよ!?」
ラルフは少し……目を泳がせて…
「その……扇さんが、似ているんです。」
「誰に?」
「事故で亡くなった父に……父も、会社で中間管理職で部下や上の人たちからの受けも良くって……保険金や家の維持とかも上司の人たちが計らってくれたんです。」
「それだけ恵まれて『黒の騎士団』かよ……」
「結局、父と母の名誉までは守られなかったんです。こういう事を無くすには、一度全部壊しでもしないと駄目なんじゃないかって思って。」
「そうか……ただ、カレンもだが本業は学生なんだ。基本的にはそっちをやってて欲しいね。」
「……本当に、扇さんってお父さんみたいですね。」
「っ……ぶふっ!!だっははははははは!!良かったな、扇!息子が出来たぞ!」
「結婚してないのに…いきなりこんな大きな息子が出来るとは。先を越されたわね。」
玉城が馬鹿笑いし、井上や杉山までが悪乗りする。
「って、俺はそこまで老けてない!!」
長野は隊長に抜擢されました。
そして、上司の山本秋水も植民地政策に協力する日本の政治家もいると思って考えて、出しました。只、立場上山本の出番は余りないです。