釣々草子   作:上条信者

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もうすぐ古事記編纂1300年だと言う事で、いろいろ日本神話の本を読んでいる内に、あれ? こんな感じの神様と契約してこんな術式あったら面白くね? って事で書いちゃいました。
年末には資料本が発売になることだし、カワカミンを補給する意味でも始めちゃおっかなーなんて。
はい、調子こいてすいませんでした。駄作ですいません。


その男、釣り馬鹿

 ジャージを着た若い女性が、白黒の制服を着た若者達に向けて真面目に見えなくもない口調で、

 

 「よーし、三年梅組集合ー」

 

 と言った。彼女は目の前に表示枠(サインフレーム)を展開させながら続けて言う。

 

 「では、――――これより体育の授業を始めまーす」

 

 彼女は畏まった風を装いながら、

 

 「さて、ルールは簡単です。いい?――――先生、品川の端にあるヤクザの事務所までヤクザ殴りに走って行くから、みんな全力でついてくるように。その後は実技ね」

 

 何かがおかしい授業の内容を軽く笑いながら告げた。

 当然、若者達から困惑や疑問の声が上がるが、彼女は無視して笑ったままである。

 

 「遅れたら早朝か放課後の教室掃除でもしてもらおっかな。――――ハイ、返事は? Jud.(ジャッジ)?」

 「――――Jud.(ジャッジメント)

 

 返答、挨拶などに用いられる言葉を若者達は返した。

 同時に、“会計 シロジロ・ベルトーニ”という腕章をつけた男子が手を上げた。

 

 「教師オリオトライ、――――体育と品川のヤクザに何の関係が。金ですか?」

 「馬鹿ねえシロジロ、体育とは運動することよ。そして殴るといい運動になるのよね」

 「ほらシロ君、先生最近表層の一軒家割り当てられて喜んでた所を地上げで最下層行きになってビール飲んで暴れて壁抜いて教員課にマジ叱られたから」

 

 “会計補佐 ハイディ・オーゲザヴァラー”と名札を付けたロングヘアの女子が言うと、

 

 「我輩、先日武蔵さんに呼び出されて壁の補修を押し付けられたのですが。報復の為に本日徹夜三日目ですか」

 

 “書記補佐 巳綴(みつづり)・ミッフーネ”と書かれたTシャツを着た引き締まった身体の男子が不満げに言い募った。

 

 「巳綴、あんたイワナガ系とも契約してるんだから代演のある限り体調崩さないでしょ。――――それに報復じゃないわよー。先生、ただ腹が立ったんで仕返すだけだから」

 『同じだよ!!』

 

 皆の突っ込みを気にした風もなく、オリオトライは背にした長剣を脇に抱える。そして表示枠を見ながら言った。

 

 「誰か休んでるのいる? ミリアム・ポークウは仕方ないし、東は今日の昼に帰ってくるって話だけど、他は――――」

 「うむ、セージュンは我輩が“知る”限りでは今はバイトで多摩の小等部教導院に居ると思うが、馬鹿に関しては視通すのが難しいぞ」

 「んー、じゃあ、“不可能男(インポッシブル)”のトーリについて知ってる人いる?」

 

 その問いに皆の視線が一つに集まる。それに気付いた茶色のウェーブヘアーの少女は、気持ち良さそうに笑みを浮かべた。

 

 「うふふ、皆、うちの愚弟のトーリのことがそんなに聞きたいの? 聞きたいわよね? だって釣り馬鹿でさえ視通せない武蔵の総長兼生徒会長の動向ですものね。 ――――でも教えないわ!」

 『ええっ!?』

 

 皆の驚きの声を聞き益々気を良くしたのか、彼女はさらに続けて言った。

 

 「だって朝八時過ぎに私が起きたらもういなかったから」

 「この女、我輩の術式を目覚ましに使わせておきながら二度寝とは許し難い」

 「あんた寝てる時に通神してきたじゃない、そんなの夢と同じよ。それにこのベルフローレ・葵、メイクは怠ってないから問題ないわ! しかしあの愚弟、釣り馬鹿の監視すら掻い潜って何処をほっつき歩いているのかしら。私の朝食を作り忘れるなんて羽毛よりはるかに重い罪ね、地獄に落ちるといいわ! ちょうど末世で世界も終わるしね!」

 「あのー喜美ちゃん?」

 

 “第三特務 マルゴット・ナイト”という腕章の少女が葵・喜美に話しかける。呼びかけに振り向いた喜美は、浅く眉を立てた。

 

 「マルゴット、……その名前は無しよ。葵・喜美なんて、まるで“青い黄身”みたいでどんな流体反応起こしたか解らない名前。だからベルフローレって呼ぶの、良くって?」

 「ナイちゃん思うに三日前はジョセフィーヌだった気がするんだけど」

 「あれは三件隣の中村さんが犬に同じ名前を付けたから無しよ!」

 

 喜美の言葉を聞き、巳綴は何事かに気付いたのか、ああ! と声を上げた。

 

 「あのご婦人に喜美の芸名を何となく託ってしまったが、こういうことであったか」

 「私が毛がフサフサしてる幼女への敗北で身悶えした原因はあんただったのね、釣りバカ。その頭と同じくらい軽い口であんたをぶたせる方法をとっととゲロしちゃいなさい! さあ!」

 「Jud.しかし我輩の口が託るのは代演であって自分の意志ではオパーイ揉みたい」

 「説得力の欠片もないわね! そんなに揉みたいなら浅間のを揉みなさい。私のより大きいから!」

 「ちょ、なんでそこで私に振るんですか!?」

 

 騒がしくなった生徒達をしり目に、オリオトライは黙々と出席簿をチェックしていた。

 

 「じゃ、トーリは遅刻、かな? ――――生徒会長で総長なのに不真面目でいかんねー」

 

 オリオトライの言葉に生徒達は苦笑いを浮かべた。まぁ……、といった声も聞こえる。

 それに対するオリオトライも、同じように苦笑で返した。

 

 「まあ、ね。武蔵の総長は訳ありだし……。面倒よね。眼下にある神州は各国によって暫定支配され、直轄地である武蔵以外の住人は極東居留地に押し込められてる」

 

 彼女は、辺りを窺うように視線を配りながら言った。そこからさらに語られる言葉に、皆は少しだけ身体を堅くする。

 ――――重奏統合騒乱。かつて“聖譜(テスタメント)”に従い歴史をやり直し始めた人々は、世界を神州と別空間にコピーした重奏神州とに分かれて歴史を再現していた。

 しかし、南北朝争乱の歴史再現中に重奏神州を制御していた神器が失われてしまい、制御不能となった重奏神州と神州が虫食い状態で合体してしまった。

 その際、重奏神州側はこの責任を追及して攻め入り、やがて神州側は降伏。

 だが歴史上神州が他国によって支配された事はないため、重奏神州側は暫定支配として教導院を設け各地を統治したのだ。

 そして現在、極東と改められた地で統治を認められたのは三河の松平・元信と、準バハムート級航空都市艦・武蔵の武蔵アリアダスト教導院だけだった。

 

 「そんな感じに面倒で押さえ込まれたこの国だけど、君らこれからどうしたいか解ってる?」

 

 皆の胸中には、その問いへの答えがあるのかないのか、沈黙からでは解らない。

 そんな中、巳綴がポツリと呟いた。

 

 「……海賊王に、我輩はなる」

 「はーい、そこの口のチャック緩い釣り馬鹿。そういうことはハッキリ言いなさいハッキリと」

 

 その呟きを聞き逃さなかったオリオトライに指摘され、巳綴は皆からの注目に罰が悪そうに顔を顰めた。

 

 「ぐぬぬ、また託ったか。にしても貴様等、憐れむような眼でこちらを見るな!」

 「ナイちゃんが思うに、ロックって常時隙がないのに隙だらけだよね」

 「そうね、マルゴット。――――それさえなければ口調も板に着くけど、正直まぬけにしか見えないわ」

 

 マルゴットの腕を抱いている少女、“第四特務 マルガ・ナルゼ”は言う。

 自らの失言で公開告白する羽目になった巳綴は、この時ばかりは自らの契約神を恨んだ。

 皆の視線を気恥ずかしく思いながら、巳綴は諦めて自分の心中を語り始める。

 

 「……そもそも、神州以外の世界を覆う過酷な環境がなければ、重奏統合騒乱や極東の暫定支配もなかったのではないか。我輩はそう思ったことがある」

 

 巳綴は太い眉が狭まると、重々しく口を開いてそう言い放った。

 

 「我々の先祖が降り立ってから現在に至っても、極東以外の地図は白紙のまま。ごく近い朝鮮半島までの航路すら未開拓だ。環境神郡達の住まない極東の外界がどうなっているのか、誰一人として解らない」

 

 そう言って遥か遠くを眺める巳綴はなればこそ、と拳を握った。

 

 「どれほどの物を得られるのか、そこに何があるのか、この極東ですら開拓し切れない現状に置いて意味はあるのか。我輩は、それらの理屈をかなぐり捨ててでも知りたい。この眼で、魑魅魍魎の渦巻く、聖譜にすら記されていない真の意味での世界の姿を!」

 

 いつの間にか熱が入った巳綴の宣言が止む。皆はしばらく黙っていたが、女生徒達が集まってヒソヒソと話し始めた。

 

 「こういう無謀で現実見えてない発言を堂々と宣言する男と付き合う人って大変ですわね」

 「会計補佐も総長と違った意味で頭がハッピーですしね」

 「ああいうタイプは意気揚々と出発したと同時にお陀仏さね」

 「皆! いくら巳綴くんが昔から些事投げられてる常識を弁えてないからって失礼ですよ!」

 「貴様等相変わらず他人の隙に厳しいな!? そして智、貴様が一番失礼だ!!」

 

 結局恥掻いた上に散々な評価を下され、巳綴は若干涙目で叫んだ。

 そんな巳綴に少しだけ優しい笑みを浮かべたオリオトライは、皆を注目させるように手を叩いた。

 

 「ま、そこの釣り馬鹿みたいに無駄に壮大で無くてもいいから、怪異の多発して末世が近づいてる世の中でも、進路に向かってやれることはテキトーにやっときなさい」

 「……先生もそうだったの? 抑え込まれて面倒だけど、テキトーにやってろ、って」

 

 ナルゼが首を傾げて問うと、オリオトライは空を見ながら小さく笑った。

 

 「そうねえ。まあ、自分では死ぬ思いをしたかな、昔の話だけど」

 

 言って、オリオトライは僅かに身を屈めた。

 その動きに反応し、戦闘系やその技術のある生徒達が反応した。

 

 「いいねえ、戦闘系技術があるのなら、今ので“来”ないとね。ルールは簡単、事務所に着くまでに先生に攻撃を当てれば、出席点を五点プラス。意味解る? ――――五回サボれるの」

 

 最後の言葉に皆がざわついた。

 

 「五回……、我輩、そろそろイワナガ系の術式を止めないと解除時の負担が半端ないのだが」

 「ちゃんとスケジュール建てないで、やたらめったら雑務を抱え込むからそうなるんですよ」

 「智、最近浅間神社に事務員が入って随分イイ空気吸ってるそうだな。その事務員に何か一言ないのか」

 「感謝してますよ、『これでバンドとか趣味に使える時間が増える、やったー』とか考えてないですよ?」

 「浅間君、君も大概セメントだよね」

 

 生徒達はそれぞれ皮算用を始めた。切実な状況にある生徒は気合いを入れ直す。

 そんな中、“第一特務 点蔵・クロスユナイト”という腕章の少年が手を上げて、“第二特務 キヨナリ・ウルキアガ”と共に、

 

 「先生、攻撃を“通す”ではなく“当てる”でいいで御座るな?」

 「戦闘系は細かいわね。いいわよ、――――どんな手段でも構わないわ」

 「聞いたか点蔵。拙僧、想像力を使用していいか?」

 

 異端審問官志望のウルキアガが俗っぽいことを言うと、それに合わせ点蔵もまた、

 

 「ウッキー殿、それもいいで御座るが、ここは確実性に想像力を現実にする方法を試してはいかがでござるか?」

 「成程、点蔵お主、腕を上げたな」

 「Jud.というわけで、頼むで御座るロック殿!」

 

 そう言って、巳綴の方に視線を向ける。

 ふっ、と笑った巳綴はそのまま皆の前に出て、オリオトライを目を見開いて睨みつけた。

 

 「ククク、視える……視えるぞ……! ぉぉぉおおおぉおおォォオオォオオオオオ――――――!!」

 

 突然叫び声を上げる巳綴の迫力に、生徒達は僅かに緊張した。

 

 「して、ロック殿?」

 「宣言する! 胸だ、あの暴力教師の鉄板入ってそうなオパーイを狙えい!!」

 

 おおっ! と男子が色めき立つ中、オリオトライを含めた女性陣は冷たい視線を送った。

 

 「それは真か、巳綴!?」

 「Jud.我輩の託言は女性に関しては的中率九割であるぞ」

 「あはは、授業が始まる前に死にたいのか己等わ」

 

 じゃあ、オリオトライは、皆が反応する前に背後に跳んだ。

 彼女は奥多摩右舷中央通りを抜ける為に、第二校庭の階段を下ろうとしたが、

 

 「させん――――――!」

 「へえ……!」

 

 反応は遅れたものの、そこから素早く復帰した巳綴の対応力を彼女は評価する。

 彼の突き出した腕には、細かいパーツで造られた手甲のような釣竿が覆っている。内側の手首付近の銃口から、抜き刺し切り替え可能な釣針が付いた細い白砂ブランドのワイヤーが伸びていた。常に武蔵中を駆け回って雑務をこなす巳綴が、唯一の癒しの時間である釣りのために、試行錯誤と趣味を存分に織り込んだ一品である。

 もはや釣竿の様相を呈していないが、無駄に改造を重ねた結果、監視中に飛んでいた武神を釣り上げてしまう性能を誇っている。

 巳綴にとっては、長い間苦楽を共にしてきた相棒であり、己の集大成の一つだと思っていた。

 例えリアルアマゾネスであろうと、十トン級の武神でさえ千切れぬワイヤーは外せまい。

 跳躍中で方向転換のできない今、捕らえられないまでも、その足を僅かでも止める。

 オリオトライは、その背に抱えた長剣を鞘ごとワイヤーに絡めるように軽く振った。

 やはり当てられなかった。だが大物との駆け引きは心得ている。

 まずは相手の動きに逆らわず泳がせ、力が揺るんだ瞬間に――――――ッ!?

 巳綴は驚愕した。卓越した重心移動を持って引いていた上体が、あっさりと後ろに崩れた。

 見ると、オリオトライがワイヤーの絡んだ鞘を外していた。

 バランスが崩れ、拮抗する力を失ったワイヤーが緩んでたわむ。

 その瞬間、器用にベルトを引いて鞘が戻しされた。

 曲芸のような神業を見て、巳綴は倒れ込みながら歯噛みした。

 

 「ほらほら、勝手に寝ない」

 「何ぃ!?」

 

 彼女はそれだけでは飽き足らず、不敵に笑ってワイヤーを掴んだ。

 階段下に着地する勢いを利用し、一気にワイヤーを振り回す。

 完全に倒れ込んでいた巳綴は抵抗できず、釣竿を支点に半回転して、逆立ちのまま空中へと放り投げられた。

 

 「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 「はい、一人目脱落!」

 

 奥多摩艦首方面へと消えていく叫び声を呆然と見ていた生徒達が、オリオトライの言葉に我に返った。

 オリオトライはそれを確認すると、再び品川への疾走を開始した。

 

 「……追え!!」

 

 空へと散ったクラスメイトへの意識を切り替え、橋の上から生徒達が飛び出した。




感想、お待ちしております。
酷い話が、このオリ主、脇フェチ万能系苦労釣り師という、外道達にも負けないキャラ付けを行った結果、プロットの段階で暴れまくっているという……。
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