釣々草子   作:上条信者

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【所属】武蔵アリアダスト教導院
【役職】書記補佐
【名前】巳綴・ミッフーネ
【読み方】みつづり・みっふーね
【種族】極東人
【字名】涜救(トッキュー)
【戦種】全方位救助師(レンジャーマスター)
【HN】釣り師
【備考】脇フェチ、貧乳好き、常時寝不足、徹夜ノリ、苦労人、釣り馬鹿、ローションマウス。


釣り馬鹿、屋根上で壊れる

 “右舷二番艦 多摩”、その石造りの町の屋根。幾重の騒音が響き、また遠ざかっていく。

 先行するオリオトライを追い、生徒達がその足を止めようと攻撃をしかけていた。

 オリオトライは後ろ向きに跳躍し、また追撃の光を鞘で弾きながら、一向に止まる気配がない。攻撃を防ぐ度に加速しているような錯覚すら感じた。

 射撃組の攻撃に混ざる様に、穂先を潰した槍で仕掛ける者、突っ込むと見せかけて射撃の囮になる者もいたが、

 

 「ほっ」

 

 鞘を回して弾かれると、あえなく蹴り飛ばされた。

 

 「ほらっ! アデーレとハッサンがリタイアしたわよ!」

 

 オリオトライの声を聞き、“会計 トゥーサン・ネシンバラ”の腕章を付けた眼鏡の少年が、

 

 「巳綴君、復帰直後で悪いけど、イトケン君達と救護して!」

 「ふっ、既に完了している。本気の我輩に抜かりはない!」

 

 オリオトライに派手に投げ飛ばされた巳綴は、健在な様子で追撃に参加している。

 あれだけ飛ばされてどうやって助かったのか、皆が疑問に思えば、

 

 「非補助降下訓練やってなかったら死んでた」

 

 ということ、らしい。それ以上は、誰も聴きだそうとはしなかった。

 必ず確保する、と息をまく巳綴は、手早くリタイアした二人の状態を確認していく。

 それを隣で覗きこむのは、精霊系夢魔族のイトケンと、ヒットポイント3くらいのスライムであるネンジだ。

 

 「アデーレ、ハッサン、共に一時的なショック状態だな。特に外傷も診られん、このまま運んでも大丈夫だろう」

 『うむ、ここは吾輩達に任せて先に行くがよい』

 「うむ、頼むぞ」

 

 我輩、疾走! と叫び、遠ざかっていく巳綴を見た二人は、

 

 「ネンジ君、相変わらず粘々しくてつやが良いけど、そんなに眉を顰めてどうしたんだい?」

 『巳綴の事なのだがな……』

 「巳綴君が?」

 『奴が吾輩に弟子入りしてから、随分と逞しくなったものだな、と』

 

 黒い感覚器を震わせて、感慨深そうにネンジが呟いた。

 イトケンは、ネンジの呟きに昔の巳綴の姿を思い浮かべる。何をするにも自信が無さ気で、常に皆より劣っていると、自分を苛んでいた巳綴を。

 ネンジは、己のしてきた事への結果に、眉を少しだけ和らげた。

 

 『吾輩の教えも、既に必要ないのかもしれんな』

 「そういえばネンジ君、巳綴君にどんなことを教えていたんだい?」

 『そうだな、例えば戦闘での構え方とか』

 「構え?」

 『だからこう……』

 

 ネンジがイトケンの正面から、構えの姿勢を見せた。

 しばらくして、膝を着いたイトケンが、ネンジの肩付近に手を置く。

 ああ、とネンジがつぶやいた。

 

 『明日があるさ……』

 

 遠く、並ぶ屋根の向こうから、音が響いてくる。

 巳綴達が、何かを仕掛けたのだ。

 

 

 ☆

 

 

 近接系の連中が仕掛けるのを視認して、巳綴は皆の意図を正確に理解していく。

 忍者点蔵、異端審問官ウルキアガ、労働者ノリキの三段構え。点蔵とウルキアガで足を止め、本命のノリキを叩きこむ気か。

 智が術式を準備する時間稼ぎとしては上々だ。あのズドン巫女なら、容赦も隙も無く、徹底的に加護を施してズドンするだろう。

 問題は自分の役割だ。追い付いたはいい物の、彼等の意図に合わせてどう動くべきか。

 これが普通の相手なら心配無いが、相手は先程自分を紐無しバンジーさせたリアルアマゾネス。油断すれば一気に引き離されるだろう。

 品川には大型の貨物庫が並ぶだけで、障害物に成りそうなものがない。ここで外せば追い付くのが難しくなる。

 巳綴は、ここは皆の攻撃を凌ぎ切られることを想定して、自分も追撃に回るべきだと判断する。

 点蔵達が時間を稼ぐ間に、巳綴は術式を使用するために表示枠を開いた。

 

 「む、結構代演が貯まっているな。これなら態々トランスしなくとも術式使用は可能か」

 

 巳綴は、コトシロ系サンガと契約し、創作術式を常に使用した状態にある。その代演として、武蔵中の雑務や業務を請け負っているのだ。

 その際、余った内燃排気を貯蓄するように、奉納分を超えた代演は次の奉納まで貯蓄しておくことができるように設定していた。

 毎日寝不足気味で、現在に至っては徹夜三日目になるまで労働したのが報われたのか、表示された代演のストックはかなりのものだ。

 イワナガ系ヤチルとも契約してしまっているため、角が立たないよう代演の条件も結構厳しかった。今まで味わった苦労に、巳綴は思わず涙が出る。

 ただでさえ束縛された日々を送る中、あの女教師には返して貰っていない借りが多いにある。

 授業での扱いや騒ぎの後始末など、自分は何故あの女を殺さなかったのか、と不思議に思った。

 鬱憤を晴らす為、ここで本気になることに何の間違いがあろうか、いやない。

 ちょっとくらい派手にストックを消費しても、あの女の鼻を明かせるなら安いものだ。

 うん、と強く頷いた巳綴は、躊躇いなく表示枠の殴りつけた。

 

 「創作術式――――――“魂言神事の交わり”」

 

 

 ☆

 

 

 視える。揺らいでいる。世界が、動く。

 

 「――――――ッ!」

 

 点蔵達は失敗、智は……失敗。おそらく、失敗する。

 その際、リアルアマゾネスが取る動き、着地点、そこへ至る流れの誤差――――修正。

 視える限りの“事”から、今後起きるであろう物を予測し、“言”として算出。

 

 「皆の衆、宣言する!」

 

 事象を知る者だけが可能とする託言に、皆だけではなくオリオトライも反応する。

 何処を視ているのか危うい顔で、巳綴は大声で言った。

 

 「この相対、我々の勝ちだ!!」

 

 その断言に、巳綴は若干白い眼を向けられる。

 隣でその言葉を聞いた浅間が、

 

 「あのー巳綴君? どんな風に勝つのかも教えてくれると有り難いんですけど」

 「胸! とにかく胸を! オパーイ!」

 「あ、聴いた私が悪かったですね」

 

 創作術式“魂言神事の交わり”は、巳綴の契約しているコトシロ系の権能を元にしている。

 コトシロ系は、その上位神であるヒトコトヌシの神格の一部、“託言”から分離したと言われている。

 国譲りの神話などではオオクニヌシに重用され、また釣り好きであることから海神、商業神としても信仰されていた。

 コトを、言とも事とも書くのは、古代では言葉と出来事が区別されていなかった為である。

 あらゆる事を知り、託言として相手を助ける姿から、オオクニヌシの子供らからも信頼されていた。

 国政などに関わる神道奏者にはマイナーながら人気であり、縁担ぎや運勢を占って貰ったりと人々の生活に浸透している。

 巳綴は“事(言)を知り、伝える”という部分を目に着け、予測不能な事態に対する予防策として、常時予報効果を得られるようにした。

 結果として、目に視える事象や会話などから得た大量の情報を吟味し、近い未来を高確率で予測することが可能になったのだ。

 その強力な効果を得る代償も、リスキーなものになったのだが。

 

 「……普段は真面目ですのに、術式使うとどうしてあんなに壊れるんですの?」

 「エロゲー! 馬鹿! フーハハハー!」

 

 未来予測の材料となる大量の情報を取り込むが故に起こる、いわゆる情報過多である。

 空間上で起こっている些細な情報でさえ、予測の精度をあげるのに取り込んでいるので、巳綴は一気に回転速度が上がりアッパーが入る。

 脳内麻薬も処理速度を上げるためにバンバン排出されるので、言動や態度がおかしなことになってしまうのだ。

 屋根の上を高笑いを上げて突っ走る巳綴の姿は、どうみても徹夜明けのテンションそのもの。

 体調の良い時は口を滑らせるくらいなのだが、徹夜三日目の状況に、術式が止めを刺す形になったようだった。

 

 「どうした皆! 我輩、超エキサイティンッ!?」

 「あれ、絶対寝かせて上げた方が良いよね」

 「ナイちゃん思うに、今のロックには近付きたくないかな?」

 「自分の術式で自滅したロックを救うために、浅間様が笑顔でズドン。――――良いネタができたわ!」

 「授業中でもいつも通りだねガっちゃん」

 

 結局巳綴の献身は実を結ぶ事なく、舞台は品川へと移った。 




ちょいと短いですネー。はい、カレーですネー。
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